お斎(おとき)とは?精進落としとの意味の違いやマナーについて解説
葬儀や法要の後に振る舞われる「お斎」とは、どのようなものなのかご存知でしょうか。本記事では、お斎の意味や由来、精進落としとの違いを解説します。当日の流れや会食のマナーも詳しく紹介しますので、初めてお斎を実施する予定の方もぜひ参考になさってください。
お斎(おとき)とは
お斎とは、葬儀や法要の後に喪主・施主が参列者や僧侶に振る舞う食事の総称です。法要では僧侶による読経で故人を供養した後、参列者や僧侶へのおもてなしとしてお斎を執り行います。お斎とは単なる会食ではなく、参列者や僧侶へ感謝の気持ちを示し、故人を偲ぶ大切な行事なのです。
まずは、お斎の言葉の由来や似た言葉との違いについて解説します。
お斎の由来
お斎の由来は、仏教用語の「斎食(さいじき、さいしょく)」だとされています。斎食とは、僧侶が定刻にいただく食事という意味です。仏教では斎食をいただいたら、正午以降に食事をしないという戒律があり、次第に仏事の食事全般をお斎と呼ぶようになったといわれています。
お斎の別の言い方
お斎には「御斎(おとき)」「おとぎ」「お清め」という言い方もあります。「御斎」と「お斎」は表記による違い、「おとぎ」と「おとき」は読み方による違いがありますが、いずれも意味は変わりません。
一方、「お清め」とは関東地方で使われるお斎の別名で、特に通夜後や葬儀後の会食を意味します。
精進落としとの違いとは
お斎に似た言葉として、「精進落とし」があります。精進落としとは四十九日後の最初の食事を意味し、厳密にいえば「お斎」の一種ですが、何のためにいつ食べる食事なのかという点でお斎と区別されます。
仏教ではかつて、四十九日までは精進料理を食べ、四十九日後に精進料理以外の普段の食事に戻すということが行われていました。精進落としには、四十九日後に通常の生活に戻るという節目の意味が込められているのです。
一方、お斎は法要後に食べる食事の総称であり、喪主・施主が参列者や僧侶をもてなすために用意されます。このように、お斎と精進落としは目的とタイミングに違いがあるのです。
ただし、昨今では四十九日だけでなく、火葬や初七日法要の後に出される食事のことも「精進落とし」と呼ぶことがあり、お斎とあまり区別されない場合もあります。
お斎(おとき)の食事内容
お斎の言葉の意味や由来が分かったところで、お斎では具体的にどのようなものを食べるのかを紹介します。
従来のお斎で振る舞われた料理
四十九日法要までは殺生が禁じられていたため、お斎の本来の食事内容は、肉や魚を使わない精進料理です。例えば、山菜の天ぷらやごま豆腐、豆腐の味噌汁といったメニューがあります。
昨今のお斎で提供される料理
近年のお斎では、メイン料理でなければ魚や肉を出すことが許容されています。時代の変化により、かつての習わしにとらわれることが少なくなっています。ただし、厳密な精進料理のルールを守る地域もあるため、年長者やお斎の実施経験のある地域の方に確認しておくとよいでしょう。
避けるべき料理
お斎では、伊勢海老や鯛などを使った慶事向きの華やかな料理は避けましょう。メイン料理でなければ肉や魚も許容されるとはいえ、葬儀や法要の場でお祝いを連想させる食事は故人や参列者に対して失礼にあたります。
お斎(おとき)の流れ
お斎は法事中に行われる食事であり、ある程度流れが決まっています。
①始まりの挨拶
参列者一同が着席したら、故人のお位牌にお酒を捧げた後、喪主・施主または式場のスタッフが献杯のための飲み物を参列者の杯に注ぎ、喪主・施主が始まりの挨拶を行います。参列へのお礼や故人への思いを盛り込み、お斎が始まることを全体に知らせます。
喪主・施主による始まりの挨拶の例
- お礼:本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。
- 報告:おかげさまで、母の一周忌法要を無事終えることができました。
- お斎の案内:ささやかではありますが、お膳をご用意いたしました。
- 一言:お時間の許す限り、ごゆっくりお過ごしくださいませ。
②献杯の挨拶
献杯の挨拶は、喪主・施主や遺族ではなく故人の友人など親しい間柄の参列者にお願いするのが通例ですが、参列者が遺族のみの法要では喪主・施主がそのまま献杯の挨拶まで行う場合もあります。喪主・施主の始まりの挨拶の最後に献杯の挨拶をする方が紹介され、その方が献杯の挨拶を行います。
献杯とは、杯を捧げて故人への敬意を示すことです。「乾杯」に似ていますが、お斎は故人を偲ぶ場ですので、乾杯のように楽しく盛り上げないよう注意しましょう。
献杯の挨拶の仕方は話し手によって異なります。遺族が行う場合は参列者へのお礼を伝えますが、友人の場合はお悔やみを伝える内容が含まれます。どちらにも共通していることは、あまり長くなりすぎないように注意する点です。
遺族が献杯の挨拶を行う場合の例
- 名乗り:故人の兄の◯◯でございます。
- お礼:本日はお集まりいただきありがとうございます。
- 一言:今日は皆様と思い出を語らい、亡き弟を偲びたいと思います。
③献杯・合掌・黙祷
献杯の挨拶が済んだら「それでは献杯させていただきます。献杯」といった言葉を静かに発声して献杯の音頭を取り、杯を軽く捧げたら中身を飲み干さずに合掌、黙祷を行って食事を開始します。献杯・合掌・黙祷を行うことで故人へ敬意を示し、参列者に会食の開始を告げましょう。
献杯の際、杯を高く持ち上げたり打ち合わせて音を出したりといった乾杯のような振る舞いはマナー違反となります。献杯と乾杯を混同しないように注意しましょう。
④会食
会食が始まったら、喪主・施主や遺族は参列者の席を回ってお酌をしながらお礼を伝え、故人の思い出を語り合いましょう。喪主・施主や遺族は話しやすい雰囲気になるように配慮することが大切です。くれぐれもお酒の飲み過ぎには注意しましょう。
⑤返礼品のお渡し
食事がほぼ終わってお開きの時刻が近付いたら、返礼品のお渡しです。返礼品は参列者の席の横に置いていきますが、まずは僧侶にお渡ししましょう。故人の供養をしてくださった僧侶は、故人に近しい存在とみなされるためです。
法事の前に僧侶へお布施を渡すときは、返礼品とお布施を一緒にお渡ししても失礼にあたりません。また、参列者が多い場合、予め返礼品を各席に配っておいても問題ありません。
⑥終わりの挨拶
お斎の最後に、喪主・施主が終わりの挨拶を行います。最後までお付き合いいただいたことのお礼を伝え、法事の終わりを告げて締めくくりましょう。
喪主・施主による終わりの挨拶の例
- お礼:お忙しい中、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
- 終わりを告げる:本日はこれにてお開きとさせていただきます。
- お願い:どうか、今後とも変わらぬご支援のほどをお願い申し上げます。
- 再度のお礼:本日は誠にありがとうございました。
お斎(おとき)にまつわるマナー
お斎は葬儀や法要と比べると堅苦しくなく、故人と関係のあった人々が思い出話に花を咲かせる場です。とはいえ故人を供養するために行うものでもあるため、節度のある行動が求められます。特に下記の四つのマナーは正しく把握しておきましょう。
基本的に法要の服装のまま参加する
お斎ではわざわざ別の服装に着替える必要はなく、法要の服装のまま始めるのが一般的です。食事の邪魔になるのであれば、上着は脱いでも構いません。お斎はおもてなしの場であるため、主催者側の喪主・施主や遺族は率先して上着を脱ぐなどの配慮を行い、参列者がリラックスして故人の思い出を話せるようにしましょう。
席順は僧侶を中心に考える
お斎の席には上座と下座があり、僧侶が出席される場合、席を決めるときはまず僧侶を上座にします。先述した通り、故人を供養してくれた僧侶は故人に近い存在であると考えられているためです。
僧侶の席が決まったら、僧侶をもてなす喪主・施主の席を僧侶の隣にし、友人など遺族以外の年長者から僧侶の周りの上座に座ってもらいます。遺族は主催者側のため下座です。僧侶が出席しない場合であっても、上座は「おもてなしを受ける方の席」「故人と血縁が遠い方の席」、下座は「身内の席」と覚えておきましょう。
レストランやホテルなどでお斎を行う場合には、スタッフの方がセッティングや席順の案内をしてくれることも多いため、スタッフの指示に従えば問題ありません。一方、自宅で執り行う場合は自分で準備や案内をすることになります。自宅でお斎を執り行うときは、参列者や僧侶に失礼がないように席順の事前確認を徹底しましょう。
僧侶が出席しないときは御膳料を渡す
僧侶がお斎に出席しない場合、御膳料として5千円~1万円をお渡ししましょう。御膳料とはお斎の代わりに渡すお礼のことです。おもてなしをしない代わりに渡すものであり、読経の謝礼であるお布施や交通費であるお車代とは別物です。
御膳料・お布施・お車代は一緒に渡すことができますが、分かりやすいように封筒を分けることをおすすめします。封筒の表書きを「御膳料」「お布施(御布施)」「お車代(御車代)」とし、お布施の下に御膳料とお車代の封筒が来るようにセットして渡しましょう。
献杯の挨拶は事前に依頼しておく
献杯の挨拶を誰かにお願いする場合は、当日ではなく事前に連絡して依頼しましょう。当日急に依頼するのは相手への失礼にあたります。献杯の挨拶は長いものではありませんが、人前で話すのが苦手な方や準備が必要な方もいますので、予め本人の了承を得ておくことが大切です。
お斎(おとき)の費用
お斎は法要への参列に感謝を示す席ですので、費用は喪主・施主が負担します。実際の費用は地域によっても異なりますが、相場はひとり当たり3千円~1万円です。費用は食事の提供方法によっても変わりますので、下記を参考にして検討しましょう。
仕出し弁当を振る舞う場合の費用
自宅や寺院でお斎を行って仕出し弁当を用意する場合、ひとり当たりの費用は3千円~5千円です。参列者はお斎があることを想定して多めに香典を用意するため、気を遣わせないように高すぎない価格帯のお弁当にしましょう。
レストランや料亭を利用する場合の費用
レストランや料亭などでお斎を執り行う場合、ひとり当たりの費用は5千円~1万円です。飲み物代が費用に含まれるかどうかはお店によって変わるため、事前に確認しておきましょう。
お斎(おとき)に関してよくある質問
最後に、お斎についてのよくある質問をでご紹介します。
Q.お斎は絶対に必要?
お斎は必ず行わなければならないものではなく、行わない場合もあります。社会情勢や家庭の状況によっては、お斎が不要になることもあるためです。お斎を行わない場合は葬儀や法要のお知らせの際にお伝えし、可能であれば持ち帰り可能な弁当をお渡ししてもよいでしょう。
Q.お斎の会場選びのポイントとは?
利便性を考えると、法要を執り行った会場と同じ施設内の会場にするか、近い会場を選ぶのがおすすめです。喪主・施主としてスムーズに準備でき、参列者も移動の手間が少なくなります。
例えば、寺院であれば同じ敷地内の部屋でお斎を行える可能性があります。自宅法要の後にレストランや料亭へ移動する場合は、できるだけ近隣の店を探してみましょう。
お斎(おとき)の意味や由来を理解しておきましょう
この記事のまとめ
- お斎とは、喪主・施主が参列者と僧侶に感謝して振る舞う食事のこと
- お斎は仏教用語が由来だといわれている
- お斎と精進落としは、食べるタイミングや目的が異なる
- 現代のお斎では、メイン料理でなければ肉や魚が許容されることがある
- お斎の費用は、地域や提供方法によって異なる
お斎は、参列者や僧侶へ感謝を示し、故人を偲ぶ大切な場です。葬儀や法要のような儀式の場ではないとはいえ、手順やマナーを理解することが重要です。施主としてお斎を実施する場合は、言葉の意味や由来まで理解を深め、心を込めておもてなしできるように準備しておきましょう。