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特集

【齋藤弘道さん特別インタビュー】 遺贈寄付という選択肢

【齋藤弘道さん特別インタビュー】 遺贈寄付という選択肢

相続業界で幅広く活動する齋藤弘道さんは、遺言信託業務や相続トラブル解決に長年携わりながら、遺贈寄付推進に関する団体を立ち上げ、遺贈寄付を日本に根付かせるために尽力しています。今回は、齋藤さんに遺贈寄付の意義、寄付を通じた社会貢献の方法、そして寄付を通じて心の平安を得ることについて語っていただきました。

遺贈寄付という選択肢

——遺贈寄付を行う人の割合はどのように推移していますか。

相続人がいない場合に財産が国庫に帰属するケースは年々増加傾向にあります。生前に遺言を書くことで、国ではなく希望する団体に寄付することができますが、その「遺言による寄付」は、まだまだ少ないのが現状です。一方で、数種類ある遺贈寄付の方法の中でも、故人の相続財産の中から相続人が寄付する「相続財産の寄付」の割合は、比較的高くなっています。

認定NPO法人や公益財団法人などへ相続財産を寄付した場合、その財産に対する相続税は非課税となります。そのため、通常の寄付よりも減税効果は高く、さらに寄付した相続人は所得税の寄付金控除も受けられます。相続でまとまった財産を得た際に「故人の生きた証を残したい」と、寄付する人が多いと思います。

——遺言がなくても、故人の意志を尊重して寄付が行われることはあるのでしょうか?

故人が遺言を残していなかった場合でも、生前に「どこかに寄付したい」と話していたことや、エンディングノートに寄付先が記されていたことなどが、相続人にとって寄付を決断する際の一つの指針となることもあります。故人から受け取った想いを社会に還元することで実現する、ということですね。

寄付をした方の中には、寄付先を記したメモがなかったとしても、故人が好きだったことに寄付する方は意外に多いです。それは相続人の気持ちを落ち着かせる、グリーフケアにもつながりますよね。相続財産の寄付には、故人の想いを受け継ぐという側面と、相続人自身の自発的な想いの両方が込められているのでしょう。

——その他にも、遺贈寄付を行うメリットを教えてください。

お金の使い方には、主に二つの方法があります。一つは、商品やサービスを受け取る対価としてお金を使う消費や投資です。もう一つは、寄付という形でお金を出し、非営利団体等の活動を通じて社会が良くなることによって、間接的に寄付者も恩恵を受ける方法です。

寄付を通じて感じる利他的な喜びは、「ユーダイモニア(幸福主義)」と呼ばれ、消費などによる利己的な喜び「ヘドニア(快楽主義)」とは異なり、より持続的で深い幸せをもたらすとされています。

もちろん、寄付は強制するものではありませんが、相続を機にもし心に響くものがあれば、遺贈寄付という選択肢をぜひご一考いただけるとうれしく思います。

ともに遺贈寄付を語り合う場

齋藤弘道さん

——齋藤さんが遺贈寄付について考えるようになったきっかけを教えてください。

全国レガシーギフト協会の前身の勉強会を立ち上げたことがきっかけになります。遺言の受託審査の対応をする際に感じた、お客さまからの先選定の相談や法律・税金等に関する課題を整理・解決するために、勉強会を始めました。そこで2年間ほど検討を重ねるうちに、公益活動や社会的課題が自然と入ってくるわけです。私にとって、全然知らない世界がそこにあったのです。そうするうちに、いつの間にか軸足が遺贈寄付のほうへシフトしていきました。

——活動を進める中で、何か印象的なことはありましたか?

遺贈寄付は、ここ10年で少しずつ伸びてきました。それ以前は、遺言による寄付はほとんどない状況でした。それが今では毎日のように相談を受けます。先日は、各非営利団体の遺贈寄付の担当者が自発的に集まる懇親会が開かれました。こうした、ともに遺贈寄付を語り合う場が自然に生まれていることを、私はとてもうれしく感じています。

全国レガシーギフト協会が主催ではなく、各団体から自発的に生まれている。そうした横のつながりが広がることにより、寄付をしたい方の想いがこれまでより受け止められていると感じています。各団体の担当者は、遺贈寄付のパイを奪い合うのではなく、皆で協力して遺贈寄付のパイ全体を大きくするという、共通認識も持っています。このような、とてもいい普及の土壌ができあがってきていると思います。

自分の想いとともに社会に恩送り

齋藤弘道さん

——最後にメッセージをお願いします。

海外では、遺贈寄付には「気持ちの不死」という考え方があります。つまり、「自分の想いを絶やさずに社会に残す」という意味です。遺贈寄付を通じて、自分の想いを込めたお金を残すことで、たとえば困難な子どもたちの支援につながったり、殺処分される動物の数を減らすことができたりと、自分が理想とする社会づくりに貢献することができます。

この記事を読んでいただいた方の中には、大切な方を亡くされた経験がある方もいらっしゃるかもしれません。そして同時に、「自分が亡くなるとき、どうしたいか」と考えるきっかけにもなるのではないでしょうか。

遺贈寄付について事前に考え、準備をしておくことで、「これで安心できた」「私は正しい判断をした」「これから一層前向きに生きていける」といった声が寄せられています。自分が築いてきた財産を、自分の想いとともに社会に恩送りすることができる。それが遺贈寄付の大きな意義です。

特に、おひとり様や身寄りのない方にとっては、「自分の財産がどう使われるかわからない」という不安を、「自分の想いどおりに活かしてもらえる」という安心に変える手段にもなります。私は日々のご相談を通じて、遺贈寄付した人はそうした心の平安や希望が得られると感じています。

プロフィール

齋藤 弘道(さいとう・ひろみち)
全国レガシーギフト協会理事
遺贈寄附推進機構株式会社代表取締役。2007年より、みずほ信託銀行の本部にて営業部店からの特殊案件や1500件以上の相続トラブルと10,000件以上の遺言の受託審査に対応。遺贈寄附の希望者の意志が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士・NPO関係者らとともに勉強会を立ち上げる(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村證券に転職、野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。

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