【市川望美さん・小野梨奈さん特別インタビュー 】安心して語れる場の存在
誰もが直面するはずの「死」を、もっと自分ごととして語り合える場をつくろう——そんな思いから生まれた「Deathフェス」。トークや展示、体験型企画を通して死生観をひらき、世代を超えた対話を育んできました。 その立ち上げを担うのが、一般社団法人デスフェスの共同代表である、市川望美さんと小野梨奈さんです。今回は、Deathフェスを通じて、また自身の経験から「死」について語ってくれました。
死を日常の延長線に
——Deathフェスが始まったきっかけを教えてください。
(小野) 私はお墓に入りたくないとずっと思っていて、お墓に入らない方法を探していたんです。そんなときに、2019年、にアメリカで有機還元葬が合法化されたというニュースを目にしました。
火葬をせず、自然の原理に従って肉体が分解され、やがて植物の栄養分となり、循環の一部になっていく。その考え方が、自分の感覚にフィットしたんです。実際にアメリカのスタートアップ企業に見学へ行き、そして日本でも実現したいと思ったんですよね。そんなことを、望美さんと飲んでいたときにポロッと話したのが、そもそもの発端です。
(市川) 梨奈ちゃんが「土になって、この先の地球を見届けたい」と話していたのが印象的でしたね。私も「海に還りたい」と話し、どの方法が正しいというよりも、「選択肢があること自体が面白いよね」というところで意気投合しました。自分の最期を自分で選べる社会っていいよね、と。
(小野) 誰にでも訪れる死について、もっと自分ごととして考えたり、安心して話したりできる土壌をつくることが大切なのではないか——そう話しているうちに、Deathフェスのアイデアがその場で生まれました。
死を特別なものとして遠ざけるのではなく、日常の延長線上で語れるようにすること。その文化的な土台づくりから始めよう、というのが私たちの出発点でした。
死をもっとポップに、終活を再定義する
——Deathフェスの活動から、何か気づきはありましたか?
(市川) 3年前、父が突然亡くなりました。看取りという形ではなく、母が身体の冷たくなり始めた父を見つけるという、急な別れでした。当時、私たちはすでにDeathフェスの構想を持ち、父の死を前にしても「踏み込んではいけない」という空気はなく、家族で率直に話し合うことができました。
葬儀についても、動転する母を支えながら、比較的落ち着いて対応できたのは、これまで死や葬儀に関わる人たちと出会ってきた経験があったからだと思います。
——葬儀後のご家族の様子はいかがでしたか?
(市川) 父の死後、母は日常に不安を抱えるようになりました。父が突然いなくなってしまったことで、「眠るのが怖い」と感じたり、あるいは、自身が長く病んで周囲に迷惑をかける側になってしまったら・・・と漠然とした恐れを感じたりしていたようです。
娘たちには直接言わなくても、周囲の人がいる場で、ぽつりと本音を語ることがありました。死について否定せずに受け止める人たちがいる空間だったからこそ、母も「怖い」という気持ちを言葉にできたのだと思います。
活動を重ねるなかで、母が少しずつ癒やされ、表情が和らいでいくのを感じましたね。
(小野) 死についてごく自然に語り合える場は、とても大切だと感じています。たまたま隣り合った人だからこそ、打ち明けられることもあります。家族にはなかなか話せない想いを、見知らぬ誰かには素直に言葉にできる。そんな瞬間も少なくありません。
Deathフェスをはじめとする活動を通して、私はあらためて、死をめぐる思いを安心して語れる「開かれた場」の重要性を強く実感しています。
(市川) Deathフェスでは、「死をもっとポップに、終活を再定義する」というキャッチコピーがあります。「ポップ」という言葉に違和感を覚える方もいるかもしれません。けれど、開かれた場であることが、深い悲しみの中にいる人にとって支えになることもある。そのことを、私は自分の家族の経験から実感しました。
必要だと感じたときに
——Deathフェスの役割はどのような点にあると思いますか?
(市川) たとえ、今は立ち止まって考える余裕がなくても、時間の経過とともに新たな想いが込み上げてくることがあります。しかし、その気持ちをあらためて言葉にする機会がないまま、悲しみが日常に埋もれてしまうことも少なくありません。
デスフェスで出会った方々の中にも、数年前に親を看取った経験や、数十年前の別れを抱えたまま生きている方が少なくありません。しかし、その出来事をあらためて掘り起こし、言葉にする機会がこれまでなかったり、悲しみが日常に溶け込んだままになっていたりすることもあると思います。そうした思いは、法事や葬儀の場だけでは整理しきれないことも多く、時間が経ったからこそ感じる感情もあります。
だからこそ、安心して語れる場の存在には意味があります。異なる背景を持つ人々が集い、偶然の出会いの中で想いを分かち合える。そうした開かれた場をつくることが、私たちの大切な役割の一つだと考えています。
——その役割は、グリーフケアに直結していますね。
(市川) 「良き隣人を増やす」と言うと少し大げさかもしれませんが、当事者ではない人が、悲しみを抱える人と出会うことには大きな意味があると思っています。そうした出会いを通して、「もしかしたら自分の母も同じような思いを抱えているかもしれない」「いつか自分にも起こり得ることかもしれない」と想像するきっかけになるかもしれません。
死や悲しみを当事者だけのものとして閉じてしまうと、寄り添える人はなかなか増えていきません。かつては、町に花が飾られ、霊柩車が通り、家で葬儀が営まれるなど、日常の中で自然と「隣人としての死」に触れる機会がありました。しかし、今はそうした体験が少なくなっています。
私たち自身、友人の子どもが病気や事故で突然亡くなるという出来事を経験しました。深い悲しみの中にいる友人に、どのように声をかければよかったのか。今でも考え続けています。だからこそ、悲しみを当事者だけで抱え込むのではなく、異なる立場の人がつながり、寄り添う人が少しずつ増えていくことが大切だと感じています。
——深い悲しみの中にいる方に対して、どのような言葉をかけることができると思いますか?
(小野) 直接的に励ますのではなく、「こうした場がありますよ」と静かに選択肢を伝えることならできると思います。もっとも、ご本人がその時点で必要だと感じていなければ、情報を届けること自体が難しいと思います。
それでも、そうした場の存在をほんの少しでも心に留めておいていただけたなら——。今はその気分でなくても、いつか「行ってみようかな」と思える瞬間が訪れるかもしれません。Deathフェスもまた、そのようにそっと心に残る存在になれたらと願っています。
【プロフィール】
市川望美・小野梨奈
一般社団法人デスフェス共同代表
死をタブーにせず、人生や社会を問い直す文化共創プロジェクト「Deathフェス」を主催。2023年にプロジェクト始動、2024年に初開催。世代や立場を超えた対話と体験の場を創出。多様な死生観を分かち合い、新たな選択肢とつながりを育むプラットフォームを提供する。