【世界の葬祭文化21】「終活旅行」最新事情! ~世界をめぐる旅で、人生の締めくくりを考える~

人生の集大成を祝福する「終活旅行」という新しい旅が、高齢化先進国・日本で広がりつつあります。これは自らの生き方を見つめ直し、人生の意味を再発見する深い体験への渇望から生まれてきた潮流で、豊かな経験を持つ現代の60代・70代にとって、残りの人生をより豊かに生きるための知恵と勇気を授けてくれるでしょう。世界各地の哲学や死生観に触れながら、自身の人生を俯瞰し、感謝する―そんな旅の魅力と可能性を探ります。
シニア世代の「終活旅行」は海外志向!?

65歳以上の人口が3割以上を占める日本では、シニア世代の心理に関心が寄せられています。彼らがこれからの人生において何を考え、何を求めて活動していくのかが、今後の市場の動向、および社会全体のデザインに大きな影響を及ぼすからです。
そのため、多くの企業や団体が、彼ら・彼女らの動向を知るために調査を行っていますが、その中で「海外旅行」はつねに関心の中心的位置に挙げられています。年齢や健康状態、経済的な要因などによって、積極性や実際の行動には個人差が大きくなりますが、以前から行ってみたかったという場所や憧れの地への旅、あるいは、かつて訪れた地を再訪する旅を「終活」の一つと考える人も一定数います。
一般にシニアにおすすめの旅行先としては、日本から近い台湾・香港・韓国、昭和の時代には誰もが憧れたハワイ、清潔・安全で、観光とリゾートを兼ね備えたシンガポールなどが挙げられます。経済面や安全面を考慮すると、これらの国の人気も頷けます。
しかし、シニアの海外旅行を、人生の振り返りや精神的な整理を目的とした「終活旅行」として考えた場合、娯楽やショッピング中心の一般的な観光地ではない、精神性や文化的深みに価値を置いたプラン・行先が考えられます。また、自分の人生や価値観を相対化するために、異なる文化や哲学に触れられる旅づくりも可能でしょう。
終活をテーマに異国をめぐる旅は、人生の締めくくりを前向きに考え、自分自身を祝福し、心の整理をするための貴重な機会であり、新たな視点を得ながら人生を振り返る素晴らしい方法です。こうした人たちに向けて、いくつかのプランを挙げてみましょう。
芸術と人生とのつながりを体感:イタリア

豊かな歴史、芸術、食文化で知られるイタリアは、人生の美しさを再確認するのに最適な国です。多くの魅力的な都市・地域がありますが、あえて訪問地を4つに絞ってご紹介しましょう。
〈ローマ〉首都であり、永遠の都。古代の知恵に学び、サンピエトロ大聖堂で瞑想をします。
〈フィレンツェ〉世界的に有名な美術作品を通して、人生の美と教訓を学びます。
〈ベネツィア〉世界中の人々を魅了する水の都で、静かな内省の時間を過ごします。
〈トスカーナ地方〉田園の中に身を置き、シンプルな暮らしの価値を再認識します。
幸福と平和について考える:ブータン

「国民総幸福量(GNH)」で知られるブータンは、物質的な豊かさよりも心の豊かさを大切にする国で、幸福の意味を再考するのに最適な旅行地です。大部分が山岳地帯で、面積は九州とほぼ同じという小さな国ですが、見どころはたくさんあります。
〈ティンプー〉首都。ブータン独自の文化に触れ、次世代へのメッセージを考えます。
〈プナカ〉「ブータンの京都」ともいえる古都の美しい僧院と田園風景を味わいます。
〈パロ〉岩壁に建てられているチベット仏教信仰の聖地・タクツァン僧院へ巡礼します。
〈ブムタン〉ブータンに最初に仏教が伝わった地方で古い僧院を巡り歩きます。
地球と対話する:ニュージーランド

ニュージーランドでは、太古の氷河が削られて生まれたミルフォードサウンドのクルーズなど、地球の生命力を感じる壮大な自然風景を体感できます。また、マオリ文化体験で先住民の知恵・自然観・死生観に触れ合うこともできます。さらに映画「ロード・オブ・ザ・リング」のロケ地となったホビット村では、人間が大自然にインスパイアされて想像力を研ぎ澄ましたこと、そして、そこから物語をつくる能力を発展させたことも発見できるでしょう。
哲学と人間の知恵に触れる:ギリシャ・エーゲ海の島々

ギリシャは西洋文明の発祥地であり、今日の社会にも通じる、人間の哲学や思想が育まれた土地です。アテネのアクロポリスでそうした古代の賢人たちの知恵について学ぶとともに、エーゲ海クルーズに参加して島に滞在。青と白の風景のなか、ゆったりとした時間を過ごし、本来の自分の生きるペースを取り戻します。また、全粒穀物やオリーブオイルを主体とした健康長寿食「地中海式食事法」を体験。健康と食の関係を考えます。
文明の移り変わりを実感:カンボジア・アンコールワット

東南アジア有数の文化遺産アンコールワットで、時の流れと文明の移り変わりを実感するとともに、日本人が修復に貢献した場所を訪れ、国際貢献の意義を考えます。また、トンレサップ湖の水上生活者を訪問し、異なる暮らしの形を知ること、朝日を浴びて瞑想することも意義深い体験になるでしょう。
祈りと出会い:スペイン・サンティアゴ巡礼路

世界中の巡礼者が何世紀にもわたって歩いてきた巡礼路。その最後の100キロである、サリアからサンティエゴに至る短縮コースを1週間あまりかけて歩き通し、自分の人生を振り返ります。巡礼手帳「クレデンシャル」にスタンプを集め、到着点サンティアゴ大聖堂で巡礼者ミサに参加する体験は、かけがえのない思い出として心に刻まれるでしょう。
終活旅行を意義あるものにするために

これらの旅行先では、いずれもその土地ならではの文化や自然、異なる価値観、人々との出会いを通じて、残りの人生をより豊かに生きるためのヒントを得られるでしょう。成功のポイントは、目的を明確にすること。ゆったりとしたスケジュールを組むこと。グループツアーの場合でも自分だけの時間を確保すること。後から読み返せるよう、感じたこと・考えたことを旅日記につけること。現地の人々と交流し、自分の人生を新たな視点で見つめ直すことなどが挙げられます。人生の締めくくりを考えると同時に、新たな気づきや喜びをもたらす旅にしていきましょう。
終活旅行は単なる観光旅行とは異なり、自分の人生を俯瞰し、感謝し、残りの人生をどう生きるかを考えるための旅です。この記事では心に深い印象を残し、帰国後も長く自分の中で熟成していくような体験ができる場所を取り上げましたが、人気旅行先でもアプローチ次第ですばらしい終活旅行にできるでしょう。
コロナ禍で大きなダメージを被った旅行会社も、2023年以降は息を吹き返し、需要が高まるシニア世代向けの旅行プラン開発に力を注いでいます。冒険性と経済性・安全性を両立させる旅の相談にも乗ってくれるので、この記事を参考に、自分で行先の候補を選び、信頼のおける会社に問い合わせてみてはいかがでしょうか?
世界の終活と日本の終活とのリンケージ

さて今回は、海外への終活旅行についてご案内しましたが、世界で最も早く高齢化が進んだ日本は、終活カルチャー&ビジネスにおける先進国でもあります。多くの事業者がエンディングをテーマにした新事業に取り組み、メイドインジャパンの新しいサービス・ノウハウが海外に輸出され、経済効果を生み出すケース、反対に海外発の事業が輸入され、日本の社会のなかで活用されるケースも増えています。
「ひとたび」では、葬祭や終活関連のサービス・アイテムをテーマに、世界各国の先進事例と、日本の事業者の活動状況とをあわせてご紹介します。高齢社会の進展に応じて、世界のエンディング事情が、どのように動いているのかを探ってみたいと思います。