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特集

【世界の葬祭文化23】「老後の住まい」最新事情 ~日本の住宅技術は国境を越えられるか?~

【世界の葬祭文化23】「老後の住まい」最新事情 ~日本の住宅技術は国境を越えられるか?~

高齢化の波が世界を席巻する中、各国の「老後の住まい」事情には驚くほど大きな違いがあります。日本の特養ホームから、アメリカの高額な自己負担制度、そして北欧発祥の革新的な「コ・ハウジング」まで、国によって高齢者の暮らし方は実にさまざまです。 日本の住宅メーカーは、国内市場の縮小に伴い、海外への進出を加速させています。今回は世界各国の高齢者住宅の現状と、そこに挑む日本企業の戦略を探ってみましょう。

「老後の住まい」の世界地図

地球儀

世界中で高齢化が進行する中、高齢者専用住宅に関する事情は、国によってさまざまです。

高齢化先進国である日本の場合、高齢者住宅の選択肢はいくつもありまが、一般的には「特別養護老人ホーム」「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」の3つに分類されます。特別養護老人ホームは主に介護保険によって運営される公的施設。これに対して有料老人ホームは主に民間企業が運営し、より充実したサービスが提供されます。ただし、その分、入居費用は高額になります。また、サービス付き高齢者向け住宅は自宅の延長的な役割を果たし、入居時の初期投資も比較的低く設定されています。

〈アメリカ〉

介護サービスは通常、自己負担です。高齢者用アパートや介護付き住宅など、複数の選択肢がありますが、介護保険制度が整っていないため、個人の経済的負担はかなり重くなるのです。そのためか、多くの高齢者が訪問介護を利用し、そのまま自宅で生活し続けることを選ぶ傾向があります。

〈イギリス〉

高齢者向け住宅が一般的で、介護サービスは地域の自治体が提供します。医療サービスは基本的に無料ですが、介護施設は民営化が進んでおり、入居するには原則的に自己負担になります。高齢者は自宅でのケアを受けつつ、必要に応じて介護住宅に移るケースが多いようです。

〈オーストラリア〉

税金によって高齢者福祉が賄われており、リタイアメントハウスやナーシングホームなど様々な形態の住宅が用意されています。自己負担が少なく済むため、高齢者がより多様なサービスを受けることが可能です。

北欧発「コ・ハウジング」という新発想

デンマークの住宅 イメージ

最近、日本では高齢者の一人暮らしと、それに伴う孤独死が社会問題化していますが、これは高齢化が進む国々の共通の課題でもあります。そうした中、北欧諸国では、「コ・ハウジング」という住環境が、この課題に対する1つの解決策として注目されています。

コ・ハウジングとは、プライベートな生活空間と共有スペースを組み合わせ、近隣同士の交流を奨励する暮らし方で、個々の部屋とは別に、共同のキッチンやダイニングなどで生活の一部をシェアします。それによって、一般的な住宅と比べて深い関係を築きやすくなります。
こうしたコミュニティでの暮らしは、孤独感の解消、交流の楽しみ、何かあったときに助け合えるといったメリットが期待できます。コ・ハウジングには、子どもや若者との異世代交流ができるものから、シニア世代に限定したものまでバリエーションがあり、個人の嗜好によって選ぶことができます。

その先駆け的な存在であるデンマークでは、1970年代からコ・ハウジングによるコミュニティが生まれ始め、半世紀以上の歴史がありますが、ここ数年で新規の設立が増えてきており、改めてメリットを見直されているのです。背景には日本同様に高齢化が進むなか、家族や近隣とのつながりが弱まっていることが挙げられるでしょう。デンマークは、高齢者と子ども世帯の同居が非常に少ないことから、ひとり暮らしによる孤立・不安感の防止のためにコ・ハウジングが選ばれるケースが多いようです。

海外市場の動向(アメリカ)

アメリカの住宅

少子高齢化によって国内市場が縮小する中、日本の大手住宅メーカーは、積極的に海外へ進出。なかでもアメリカ市場への進出を強化しています。アメリカは新築住宅の需要が高く、供給不足が問題になっているため、住宅メーカーにとっては、大きなビジネスチャンスが生まれているからです。

積水ハウスは、2023年にアメリカの大手ハウスビルダーを買収。この分野で全米第5位の規模の起業となり、現在、年間15,000戸の住宅供給を目指して活動しています。

大和ハウス工業もゼネコンやデベロッパーの買収を通じて事業を多角化。土地の取得から商品企画、設計、施工、運営、売却まで一貫して手掛け、競争力を強化しています。

住友林業も高齢者向け住宅の需要に応えるための戦略を展開し、高付加価値の住宅を提供することで競争力を高めています。

アメリカの高齢者住宅市場は、今後10年から15年で約1兆ドルに達すると予測されています。この「シルバー・ツナミ」と呼ばれる現象は、高齢者向け住宅の需要をさらに押し上げる要因となるでしょう。日本の住宅メーカーは、これらの市場動向を踏まえ、技術力やデザイン性を活かしてアメリカ市場での競争を強化していくと考えられます。

海外市場の動向(中国)

中国の住宅 イメージ

アメリカ以上に日本の住宅メーカーが注目するのが中国市場です。中国でも急速に進む高齢化に伴って高齢者専用住宅の需要が急増しています。政府の政策も、福祉や高齢者支援を強化する方向へシフトしており、特に都市部では高齢者向けの住環境整備が喫緊の課題になっています。

こうした背景のもと、日本の住宅メーカーは、ただ単に住宅を建設するだけでなく、関連するサービスや商品を提供することで付加価値を高めています。例えば、高品質な介護サービスを提供するために、地元の事業者と提携し、住宅施設内に医療機関やリハビリ施設を併設し、入居者が医療や福祉サービスを受けながら安心して生活できる環境の整備が進行中です。

こうした住まいづくりを提案し、大規模な実践によって成果を上げている住宅メーカーのひとつがパナソニックです。同社は「ウェルネススマートタウン」をコンセプトに、中国の江蘇省宜興市(こうそしょうぎこうし)に「雅達・松下社区(がたつ・まつしたコミュニティ)」という高齢者向けの居住区を開発しています。入居者の受け入れは2023年から始まっていますが、ここで提供している1170戸の住宅には最新の設備が導入されています。健康状態を確認できるトイレ、睡眠時のデータに基づいて照明や空調を自動調整するシステム、座ったままでシャワーを使用できるシステムなど、テクノロジーを駆使し、高齢者の健康や安全に配慮した設計・実装は高く評価されています。

世界の高齢者住宅を変える「日本品質」

高齢者が住む住宅 イメージ

それぞれの国では、住宅とライフスタイルに関する歴史や文化、国民性などに応じて特有の法律や規則が設けられており、日本とは異なる商慣習が根付いています。住宅メーカーが海外市場に進出する場合は、そうした現地の文化的背景や生活のあり方・住まいに対する考え方をしっかり理解し、「郷に入れば郷に従え」の精神が求められます。

こうした住宅の規制は国ごとに大きな差があり、コンプライアンスを怠ると重大な経済的損失や信頼の失を招くことにつながります。そのため、事業展開する前に徹底したリサーチと専門家の意見を求める姿勢が不可欠です。

このようにして日本の各住宅メーカーは、IoTやAIなどのテクノロジーを駆使した住宅ソリューションを含め、高齢者が安心して快適に生活でき、心豊かに人生最後の日々を送れる環境を作ろうと、高齢者住宅の世界市場に果敢にチャレンジしています。高齢化社会の先達として、今後、住まいにおける「日本品質」をどのように提供し、それぞれの国に浸透させていくのか、世界から寄せられる関心は高まるばかりです。

参考資料・サイト

高齢者住宅は「シルバー・ツナミ」に直面

日本の住宅事業者の海外進出活発化 積水ハウスはM&Aで全米5位に

Jetro「急速に拡大する中国高齢者産業、日系企業に求められる事業戦略とは」

産経新聞「パナが中国で高齢者住宅 富裕層の健康需要開拓」

日経新聞「パナソニックHD、中国で高齢者向け居住区を開業」

松下健康智能生活館

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