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特集

【世界の葬祭文化11】自分らしく生きて、死ぬために。いま終活が世界中で新しい文化になる。

【世界の葬祭文化11】自分らしく生きて、死ぬために。いま終活が世界中で新しい文化になる。

終活というと遺言書や相続、お葬式やお墓の準備などをイメージするかもしれません。しかし、人生を締めくくる活動はもっと多様な形で広がっています。世界では第2次世界大戦後に生まれた世代がエンディングを意識するようになり、終活は一種のカルチャーになりつつあるのです。 この連載では社会現象やユニークなサービスを通して、今必要とされる終活について考察します。今回は「デスカフェ」と終活映画の代表作を紹介します。

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「人生100年」が終活の時間をつくった

イギリス ロンドン・ビジネススールのリンダ・グラットン教授が『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(同スクールのアンドリュー・スコット教授との共著)を発表し、世界的なベストセラーになったのが2016年のこと。

この本はそれまでの一般的な人生設計のイメージ―60~65歳で仕事を辞めて10年ほどの余生を過ごす―を大きく覆しました。「人生100年」という概念が、世界中の先進諸国の人々の頭にインプットされたのです。

それはまた、20世紀から21世紀の序盤を生きてきた人々の多くが「終活」を始める動機にもなりました。漠然と100年をイメージした場合、還暦を過ぎたシニア世代は仕事の第一線を退いたあとの数十年、単なる余生ではなく、人生について考え、充実させるための終活の時間になったのです。

次世代の社会をリデザインするための終活

終活という概念は『LIFE SHIFT』以前から日本の社会に浸透し始めていました。それは言うまでもなく、日本が世界に先駆けて超高齢社会を迎えていたからです。しかし欧米諸国や中国・韓国など、一定の豊かさを実現した世界の先進国もおしなべて超高齢社会・多死社会に移行してきています。

人生の最期をどう迎えるか、そしてどのように見送るかはあくまでも個人とその家族の問題ですが、生き続ける限り、誰もが直面する、普遍的な問題でもあります。さらに高齢化した人口の多さ=需要の大きさもあって、民間の企業・組織がさまざまなサービスを提供したり、自治体や政府も対策を立て始めたりしています。

つまり今、終活は世界の多くの国や地域にとって、社会全体で取り組むべき課題であり、次世代の社会をリデザインしていく上で欠かせないテーマになっているのです。

死についてオープンに語れる「デスカフェ」

相続についての相談、遺書の作成、葬儀やお墓の手続きなどはあくまで家族をはじめとする周囲の人々のための終活ですが、同時に多くの人は自分の心を救済するための終活を求めています。

その一例として、近年注目を集めているのが「デスカフェ」です。お茶とお菓子を嗜みながら、初めて出会う人たちと死を話題にして語らう場で、希望すれば誰でも自由に参加できるイベントです。

どこの国でも死について話すことは忌み嫌われ、避けられています。しかし、デスカフェはそうしたタブーにとらわれず、近親者ではない人同士が、死についてオープンに話せる場を提供することを趣旨としています。

スイス、イギリスから世界70カ国へ

この試みは、スイスの社会学者で「死生学研究会」を主宰していたベルナルド・クレッターズ氏が、妻との死別をきっかけにして2004年に立ち上げた「cafe mortel(カフェ・モルテル)」がスタートと言われています。mortelとはフランス語で「死」、そこから派生して「(死すべき運命にある)人間」を表す言葉で、当初は死別の悲しみを癒すグリーフケアの側面があったようです。

クレッターズ氏の活動に触発されたイギリス人の社会起業家ジョン・アンダーウッド氏は「限られた生を有意義なものにするために死について考えよう」というコンセプトのもと、2011年に非営利組織「デスカフェ」を創設。ウェブサイトを開いて、この考え方を世界中に広めました。そして実際にロンドンのカフェの一角を借りてデスカフェを開催するようになったのです。

互いに初対面の人たちが死について語り合うというこのイベントが、のちのデスカフェの基本モデルになりました。そしてデスカフェはヨーロッパ各国、アジア各国、アメリカの各地へ広がり、世界70カ国以上で開かれています。

各国で社会的ムーブメントに発展

「誰もが安心して死について話せる環境」「議論を誘導しない」「おいしいお菓子や飲み物を用意する」といったカジュアルなスタイル、未知の人と出会える機会、そして参加費無料で気軽に参加できる――。そうした特徴が広く受け入れられた理由でしょう。

現在のデスカフェは、「カウンセリングをする場ではない」「結論を出す場ではない」といったガイドラインも設けられ、さらに多くの人たちの間で浸透し続けています。

もちろん、日本でも興味を抱く人は多く、各地のカフェやお寺、地域の集会所など、さまざまな場所で開催されており、老若男女幅広い層の参加者が集まっています。いまやデスカフェは一種の社会的ムーブメントになっていると言っていいかもしれません。

半世紀を経てリメイクされた終活映画の原典

こうした現象と並行して、終活は今、先進諸国において映画や演劇、テレビドラマなどの主要なテーマのひとつになっています。

映画はシリアスなドラマからコメディー、ドキュメンタリータッチのもの、文芸・芸術的要素が強いものから純粋なエンターテインメントものまで、多彩な作品が作られており、こうした「終活映画」の影響力も無視できません。

その原典とも言える『生きる』は名匠 黒澤明監督が手掛けた1952年の作品ですが、これをリメイクしたイギリス映画『生きる―LIVING―』が2022年に公開され、話題を呼びました。

脚本はノーベル賞作家で日系英国人のカズオ・イシグロ氏。本作でアカデミー賞脚色賞にノミネートされています。ガンで余命宣告された地方公務員が、命を懸けて人生最後の仕事を達成する物語を、1953年のロンドンを舞台によみがえらせ、シニアのみならず、ミドル世代、さらに若い世代に向けても生きがいの追究と終活の重要性を訴えました。主演のビル・ナイもアカデミー賞主演男優賞にノミネートされる熱演をみせてくれました。

その他、近年、世界各国で見ごたえのあるさまざまな終活映画が公開されています。この連載でも、各回のテーマに合わせた映画を紹介していきたいと思います。

「人間として生きる」を追求するための終活

各国の終活のかたちは、その国の社会の特性、人々の人生観・死生観、家族の在り方、衣食住のライフスタイル、文化的・歴史的背景などを反映しています。しかし、グローバル化が進み、世界の情報が容易に手に入るようになった昨今、興味深いものは積極的に取り入れようと、終活の文化交流も起こりつつあります。

老いても楽しく、最期まで生き生きと暮らしたい。おいしいものを食べたい。あの思い出の土地をもう一度旅したい。子供たち、若い世代の人たちに何かを伝えたい。自分が生きた証を遺したい。そしてできれば苦しむことなく、安心して満足して眠りにつきたい……。そうした思いに国や民族の違いはあまり関係ないでしょう。

現代社会において終活とは、人生を締めくくるための活動であるとともに、より自分らしく、人間らしくて生きるための表現活動としても認識されているようです。

参考資料・サイト

cafe mortel

映画『生きる―LIVING――』

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