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【世界の葬祭文化09】究極のグリーフケア!? 欧米では「AI故人」が身近な存在に

【世界の葬祭文化09】究極のグリーフケア!? 欧米では「AI故人」が身近な存在に

2023年はまさしく〈AI革命元年〉と記憶される年になるのかもしれません。公開から1年足らずの間にAIは社会に広く普及し、生活にビジネスにと活用頻度も高まりました。 エンディング業界もその例外ではなく、活用事例は欧米を中心に急増しています。中でも注目は、最先端技術を使ったサービスで遺族らの心を癒し、グリーフケアの役割も果たす〈AI故人〉です。今回はそんなAIをめぐる、欧米の最先端事情を紹介します。

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前回の記事はこちらからご覧いただけます。ぜひ合わせてご一読ください。

AIでよみがえる死者

2019年9月に放送された『NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり』を憶えている人も多いでしょう。昭和の大歌手・美空ひばりがAIによる音声+映像となって新曲『あれから』を披露。番組内では今、世界中でこうしたAIによるミュージシャン再生の試みがされていると語られていました。

また、韓国で2020年3月に放送された『MBCスペシャル特集 VRヒューマンドキュメンタリー“あなたに会えた”」では、AIを使って、亡き娘がバーチャル映像になってよみがえり、母親と楽しそうに遊ぶ姿が紹介されました。これはSNSや動画サイトにもアップロードされ、世界中に大きな反響を呼び起こしました。

多くの人はこんなSF的なことがすでに可能となっていることに驚いた反面、あくまで膨大なデータがある有名人に限った例、あるいはテレビ局の特別なプロジェクトの例に過ぎず、自分には関係ない話、社会に普及するのはまだまだ遠い未来のことだと思っていた、あるいは、そう信じたかったのではないでしょうか?

けれども欧米ではすでに、これらの特別な事例のように、AI技術を使って故人をよみがえらせる技術「AI故人(バーチャル故人、デジタル故人とも言われます)」が一般向けのサービスとして提供されているのです。

グリーフケアのための「バーチャルな故人」

アメリカ・カリフォルニア州のスタートアップ企業であるHereAfter(ヒアアフター)は、「テクノロジーによる遺族のグリーフケア」をテーマにした事業を展開しています。故人が生前に録音した音声やデバイス上のメール、テキストメッセージなどをAI処理することによって「バーチャルな故人」を生成するのです。

同社が提供するAI故人は、多くのSF映画などに出てくる“よみがえった死者”ほど完全なものではありません。また、美空ひばりの番組や韓国のドキュメンタリー番組のようにバーチャル映像もありませんが、それでも遺族らにとって故人を思い出させるもの、愛する人と死別した悲しみを癒すものとしては必要十分な効力を持っています。

ちなみに、HereAfter(ヒアアフター)という社名には「今後、これから、死後」という意味があり、2011年には同名の映画も公開されました。巨匠クリント・イーストウッドが監督したこの作品は、死後の世界にとらわれた3人の男女の苦悩する姿、そこから解放され、より前向きに生きていこうとする姿を描いたヒューマンファンタジーですが、HereAfterの設立者はこの映画の世界観をイメージしていたのかもしれません。

故人の思い出をより鮮やかに

HereAfter(ヒアアフター)設立者のひとりで、作家でもあるジェームズ・ブラホスCEOは、末期がんで余命わずかと宣告された自分の父親が生前に残したインタビュー音声と書き残したメモから、簡単な文字メッセージのやりとりができるチャットプログラムをつくりました。

そのときの経験から「AI故人」の事業化を思い立ち、2019年に会社を設立。事前に収録したクライアントのインタビューの音声を、音声認識AIで処理することで、文字ではなく故人と「声で会話」できるクラウドサービスを始めました。サービスの料金は、収録するデータ量やアクセス可能な人数に応じて変わりますが、およそ1か月あたり20ドル(約3000円)前後とけっして高額ではありません。

最初のサービスはアメリカやイギリスをはじめとする英語圏を対象としたもので、1500人ほどが会員登録しており、自分の存在をのちの時代にも残したいと考える高齢者、さらには両親のAIを希望する40~50代の子供世代からの問い合わせが多いようです。

ブラホス氏は自分の哲学・思想をこの事業に反映させ、「死は終わりではありません。愛する人が自分の心に生き続けると考えることは人に前を向く力を与えます。HereAfter(ヒアアフター)は、心の中の故人の思い出をより鮮やかで細やかにとどめる手助けをします」と訴えています。

インタビューによる自伝録音

遺族に自分のAI音声を遺す利用者は、自分史(自伝)を語り、それを録音しておく必要があります。当然、出身校や仕事の業績、生活史などが主体になりますが、死後、遺族と会話する際、自分らしい言葉で慰めたり、励ましたりするために様々な感情のこもった声を、インタビューの質問に答える形で遺します。

インタビューでは、必要な思い出を呼び起こすために「感情」「アドバイス」「祖先」「子供時代」「ジョーク」「お祝い」など、会話のテーマごとに多数のプロンプト(サンプル質問)が用意されています。最も興味深いのは「ワイルドカード」というテーマかもしれません。大きなトラブルに見舞われた時はどんな行動をとったか、別れを告げなければならなかった時はどうしたかなど、その人の生き方・人柄が鮮明に現れる質問が待っています。

これらの膨大な数の質問に応えていくことで、人間関係、経験、性格などについての話が出来上がっていくというわけです。

膨大な音声データを編集することによってAI故人が形成されると、遺族はアプリを通して死後もその人と話すことができるようになります。遺族は折に触れ、遺された写真や遺品などを眺めながら、故人との思い出のひと時を過ごし、明日を生きる勇気・元気を養う――。HereAfter(ヒアアフター)をはじめとするAIを活用したエンディング事業には、アメリカの有力メディアも注目しており、「不死を求める人類の次のステップ」(ワシントンポスト)、「レガシーを保存するための最良のツール」(ウォールストリート・ジャーナル)、「愛する人の物語を生き続けるための最良の方法」(CBSニュース)など、いずれもかなりセンセーショナルな見出しで紹介しています。

倫理的問題を克服できるのか?

今後、さらに高齢化・多死社会が進展することを考えると、AI故人の需要はいっそう高まることが見込まれています。また、AIが社会全体に普及するにつれて、人々の警戒心は薄れ、事業者にとっては新規参入のチャンスがますます増えるでしょう。しかし、メリットばかりのようなAI故人ですが、亡くなった人のデータをAIで処理するという行為には、つねに倫理的な問題を伴うことを忘れてはいけません。

つまり、サービスを提供する側と、亡くなった家族や友人に会いたいという利用者の側の双方がしっかりした倫理観を持ってAI故人に接する必要があるということです。どんな目的で故人に再会することを望むのか、そのためにどういう場面を設定して、どんな会話をするのかということを、AIの技術面だけでなく、グリーフケアの専門家や利用者の意思を交えてよく話し合っておく必要があるでしょう。

スウェーデンのある葬儀社は2017年に同様の事業を立ち上げましたが、国内において倫理面のことが壁になったのか、開発を中断してしまいました。やはり、こうした倫理面での課題を一つひとつ解決できるかどうかが、究極のグリーフケアとも言えるAI故人の拡大の鍵になりそうです。

参考資料・サイト

朝日新聞GLOBE+(2021.01.12)

MTテクノロジーレビュー(2023.05.02)

HereAfter AI

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