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特集

【世界の葬祭文化24】アジアで高まる「日本の介護力」評価 ~韓国からインドまでつながる、おもてなしの輪~

【世界の葬祭文化24】アジアで高まる「日本の介護力」評価 ~韓国からインドまでつながる、おもてなしの輪~

日本式の介護技術と運営ノウハウは、高齢化に直面するアジア諸国で期待が高まっています。日本の介護事業者は現地法人の設立などを通じて、積極的に海外展開を進めています。 それも、現地スタッフ育成による持続可能な介護システムの構築を目指すという価値の高い取り組みです。日本式の「おもてなし」精神を基盤とした介護技術が、各国の文化や制度と融合しながら、新たな価値を生み出している状況を詳しく見ていきましょう。

規制の壁を越えて広がる可能性〈韓国〉

韓国国旗

韓国は出生率0.72という極めて深刻な少子化に直面しており、将来的には世界で最も高齢化が進んだ社会になることが予想されています。このような状況下で、質の高い介護サービスへの需要は確実に増大していくことが予測されますが、事業展開には特有の課題があります。大手介護事業者であるSOMPOケアグループによると、韓国では土地を所有していなければ事業を行えないという規制が存在し、さらに日本と比較して家族の意向がより重要視される傾向があるため、事業参入のハードルは決して低くありません。

一方で、日本が得意とする「個別ケア」や「自立支援介護」については、まだ十分なノウハウが蓄積されていないのが現状で、これらの分野において日本企業が持つ技術や経験は、韓国の介護業界にとって大きな価値をもたらす可能性を秘めています。特に、利用者一人ひとりの状態に合わせたきめ細やかなケアプランの作成や、残存機能を活かした自立支援の手法は、韓国でも強く求められている技術領域です。

「まごころプロジェクト」が示す持続可能な介護モデル〈フィリピン〉

フィリピン国旗

フィリピンは平均年齢25歳という若い国でありながら、同国統計局によると高齢者人口は2025年までに1,160万人に達すると予想されており、介護の需要は急速に増加しています。

そこに進出し、画期的な取り組みを展開しているのが、介護サービスの事業運営・経営指導とIoTを活用した高齢者見守りシステムの開発を手がけるインフィック株式会社です。2025年3月、同社はマニラ近郊のパシグ市に海外初拠点となる日本式高齢者介護施設を開設。この施設はフィリピンで初めて日本の「小規模多機能型居宅介護」の考え方を導入したもので、「通い」「訪問」「宿泊」の3つのサービスを柔軟に組み合わせ、さらに現地のニーズに応じて長期滞在サービスも提供する予定です。

この取り組みは、パシグ 市が敷地と建物(延床面積約200㎡)を提供し、インフィックが専門的な介護サービスと人材育成プログラムを提供するという共同事業です。運営には、インフィックの研修を受けた現地スタッフ8名と日本人専門家3名からなる専門チームが当たり、利用者への直接的な介護サービスに加えて、家族の介護に関する助言や説明も行っています。

特に注目されるのは、最新のICT技術を活用した「LASHIC(ラシク)」システムの導入です。このデジタル・センシング・ケア・システムは、利用者の心拍や動き、さらには部屋の室温・照度などの身体および環境データを24時間体制でモニタリングし、異常の兆候を早期に検知・通知します。これにより、介護スタッフの巡回などの日常的な負担が軽減され、より本質的で専門的な介護に集中できる環境が実現されています。

また、同社が提唱する「飲んで歩く」というアプローチも興味深い取り組みで、これは水分補給と歩行を重視することで、排泄機能や運動機能の低下を防ぐという実践的な手法で、日常生活動作を重視した自立支援型のケアを目指しています。

技能実習生受け入れと現地法人設立による新展開〈ベトナム〉

ベトナム国旗

日本各地で訪問介護や通所介護などの事業を展開するツクイは、2022年にベトナムのホーチミンに現地法人を設立し、毎年20名の技能実習生を受け入れる体制の構築を目指しています。同社は現在、インドやスリランカなどにもビジネス対象を拡大しており、東南アジア全域での人材確保ネットワークを強化しています。

実際に日本で働くベトナム人介護者からは、訪問介護に対する希望が多く寄せられています。これは、訪問介護で学んだ技術や知識が、母国に帰国した後により実践的に活用しやすいためと考えられています。一対一のケアや家庭環境での介護技術は、どの国においても基本的なニーズがあり、習得した技能の汎用性が高いことが理由でしょう。

さらには、外国人介護人材が訪問介護事業においても就労できるように推進しようという方針を国が示したことからも、今後は日本での就労を希望する外国人材がさらに増加する見込みで、ベトナムをはじめとする東南アジア諸国との連携強化がより重要になってくると予想されています。

「介護道」ブランドで目指す質の高いリハビリテーション〈タイ〉

タイ国旗

タイでは医療・介護分野の大手コンサルティング企業である日本経営グループが、現地の病院運営大手プリンス・グループと合弁会社「プリンシパルNKG」を設立し、「KAIGO-DO(介護道)」ブランドでリハビリテーション・介護サービスを展開しています。

日本経営グループは、国内で病院500施設、介護施設100施設、医科クリニック1200施設、歯科クリニック300施設をクライアントに持つ、医療・介護分野では国内最大級のコンサルティング企業で、関連グループとして調剤薬局76店舗、介護施設14か所を直接運営するなど、実業面でも豊富な経験を有しています。

同グループがタイを海外展開の第一歩として選んだ理由は、同国の医療技術の高さにありました。シンガポール、マレーシア、タイという3つの候補国の中で、タイは人口が最も多く、医療ツーリズムが盛んで、医療技術も世界トップクラスとされている一方で、急性期(病気発症直後の集中治療が必要な時期)の病院は充実しているものの、回復期のリハビリテーション施設が不足しているという課題がありました。この市場の空白が、日本の介護技術が活かせる大きなチャンスと判断されたのです。

現在、タイには約1000カ所の介護施設が登録されていますが、実際には4000~6000カ所の施設が存在するとされています。しかし、リカバリーセンターを名乗る施設はバンコクで30カ所程度あるものの、理学療法士や作業療法士といった専門セラピストが1~2人しかいない施設が多く、真の意味でのリハビリテーション・サービスを提供している施設は10施設に満たないのが実情です。

KAIGO-DOが提供するサービスの特徴は、患者一人ひとりの身体機能や疾患の経過を詳細に分析し、「予後予測」に基づいた個別のリハビリテーション・プログラムを提供すること。

一例として、どの筋肉が麻痺して動かないのかを患者ごとに詳細に把握し、麻痺側・非麻痺側の各部位を狙った効果的なトレーニングを実施しています。同社では将来的には、タイの外国人労働者の約7割を占めるミャンマー人材の教育・育成にも取り組む計画です。現在約100万人のミャンマー人がタイで働いていますが、多くは最低賃金での労働に従事しているため、介護分野でプロフェッショナルとしての技術を身につけてもらい、より良い待遇と働く環境を提供することで、タイの介護業界全体の質の向上を図っていくということです。

政府系機関との協業で人材育成の新たなモデルを構築〈インド〉

インド国旗

SOMPOケアグループは韓国ともに人口14億人を抱えるインドにも進出を始めており、2024年8月にインド政府系機関NSDCIとの協業を開始しました。この取り組みは、単なる人材の送り出しではなく、現地での教育体制の構築に重点を置いた画期的なプロジェクトです。

協業の内容は多岐にわたっており、NSDCIが実施する日本語教育に加えて、同社が日本国内で培った豊富な知見と経験に基づいた専門的な教育プログラムを開発し、オンライン研修やeラーニングシステムを通じて提供。さらに現地に介護専用の研修室を設置し、日本から派遣された講師が直接、介護実技や理論を指導しています。

このプログラムで日本式の介護技術と日本の文化的背景を学んだインド人の人材は、特定技能生の資格を取得後、SOMPOケアグループの介護施設に即戦力として配属されます。日本の深刻な介護人材不足問題の解消に貢献しつつ、インド人材にとっても高い技術力と安定した雇用機会を提供するという、双方にとって有益な関係を構築しています。

各国文化と融合した介護技術は新たな国際貢献

国際貢献イメージ

アジア各国で展開される日本の介護技術。成功の鍵となっているのは、各国の文化や制度、価値観を深く理解した上でのローカル化にあります。これらの取り組みは、日本が長年にわたって培ってきた「おもてなし」の精神と、2000年の介護保険制度導入以降に蓄積された豊富な実践経験が、国境を越えて人々の生活の質向上に貢献していることを示しています。

少子高齢化という課題に真正面から向き合ってきた日本だからこそ提供できる価値が、アジア各国で確実に根を張り、花を咲かせ始めているのです。

今後、さらに多くの国々で高齢化が進む中で、日本の介護技術がそれぞれの国の文化と融合しつつ、より良い高齢社会の実現=新たな国際貢献の可能性を拓いていくことでしょう。

〈参考資料・サイト〉

JICA「【事例紹介】フィリピン初の日本式介護システム「小規模多機能型及び入所型サービス」を実践する介護施設がパシグ市で開所 インフィック株式会社(静岡県)」

みらい経営者オンライン「在宅介護サービスのツクイ、高齢化が進むベトナムで現地法人を設立」

THAIBIZ「タイの介護ビジネスに挑む日系ベンチャー企業 ~KAIGO-DO」

SOMPOケア「インド政府系機関 NSDCIとの協業によるインドでの教育研修施設開設 ~インド人介護人材向け教育プログラムの提供と、日本への受入推進~(2024年8月)」

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