真言宗のお経の種類や意味は?葬儀の特徴や流れ、法事のマナーまで解説
葬儀で唱えられるお経の種類は、宗派によって異なります。葬儀に参列する際には、あらかじめ相手方の宗派について知っておきたいと考える方も多いでしょう。本記事では、仏教式葬儀において多数派である「真言宗」の葬儀で唱えられるお経の種類や式の流れなどを解説します。
真言宗とは
真言宗とは、平安時代の初期に空海が広めた仏教の宗派です。空海は中国にて恵果和尚(けいかしょう)という師匠のもとで密教を学び、日本へ帰国したのち真言宗を開きました。以来、全国に多数の信者を持つ宗派へと発展しました。
まずは、真言宗について特徴や代表的な宗派について解説します。
真言宗の特徴
真言宗では「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」という考え方があります。これは生きている間であっても仏と同じように行動し、修行を積むことで悟りを開いて仏になれるという考え方です。極楽浄土で仏になるという他の宗派とは考え方が異なります。
また、真言宗は誰にでも教えを説くわけではなく、入信した信者のみに教えが説かれる密教です。真言宗の経典は、般若理趣経(はんにゃりしゅきょう)や大日経(だいにちきょう)、金剛頂経(こんごうちょうぎょう)などが挙げられます。
真言宗の代表的な宗派
真言宗には16の宗派があるといわれており、その中でも「古義真言宗」と「新義真言宗」に分かれています。古義真言宗は空海が広めた初期の教えを守る宗派で、その中でも高野山真言宗や真言宗御室派、真言宗善通寺派などに細分化されます。
一方、新義真言宗は覚鑁(かくばん)を派祖とし、新しい教義を打ち立てたため新義と呼ばれ、真言宗豊山派や真言宗智山派などが存在します。同じ真言宗ではありますが、宗派によって作法が若干異なる場合があります。
真言宗の葬儀で唱えるお経の種類
真言宗の葬儀では、どのようなお経が唱えられるのかあまり知らない方も多いでしょう。ここからは、真言宗で唱えられるお経の種類について解説します。
般若心経
般若心経(はんにゃしんきょう)は真言宗だけでなく浄土宗や曹洞宗など、さまざまな宗派で唱えられているお経です。仏教における代表的なお経なので、ご存じの方も多いでしょう。
般若心経は般若経典と呼ばれる経典の神髄を300字程度で表したもので、彼岸に辿り着くための教えが説かれています。仏教において、現在私たちが存在している世界は此岸と呼ばれていますが、彼岸に辿り着くことで苦しみのない世界で安らかな気持ちでいられると示されています。
理趣経
理趣経(りしゅきょう)は、真言宗でよく唱えられるお経の一つです。般若心経と同じく般若経典がもとになったお経で、声に出して読むことでご利益があるといわれています。
理趣経は他のお経とは異なり、煩悩を否定していないことが特徴です。煩悩を持つ人間が穢れていると考えるのではなく、欲望を抱いていたとしても道を違えることなく歩むことが大切であると説かれています。
遺教経
遺教経(ゆいきょうぎょう)は、真言宗の中でも智山派などで唱えられるお経です。正式名称は「仏垂般涅槃略説教誡教(ぶっしはつねはんりゃくせっきょうかいきょう)」といわれており、曹洞宗をはじめとした禅宗でも唱えられています。
遺教経は仏様が最後に残した説法といわれており、般若心経の10倍のボリュームがあります。8種の訓戒を守ることで悟りを開けるという「八大人覚(はちだいにんがく)」の考え方を持つお経です。
法華経
法華経(ほけきょう)は日蓮宗でおもに唱えられるお経で、真言宗でもしばしば唱えられることがあります。正式名称は「妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)」で、仏様が晩年に弟子たちに説いた教えといわれています。
法華経は28章にも及ぶ壮大なお経ですが、葬儀では主要な部分だけが唱えられます。法華経は参列者も僧侶と一緒に読経するため、唱え方を予習しておくとよいでしょう。
十三仏真言
真言宗の中でも、宗派によって唱えられることがあるのが十三仏真言(じゅうさんぶつしんごん)です。十三仏真言は、極楽浄土に導く十三の仏様の真実の言葉を唱えるお経です。十三仏真言は他のお経と比べて短いので、比較的覚えやすいでしょう。
なお、十三仏とは釈迦如来・不動明王・文殊菩薩・弥勒菩薩などの仏様を指します。それぞれの仏様の真言を唱えることで、追善供養ができると考えられています。
真言宗の葬儀の特徴
真言宗の葬儀にはどのような特徴があるのか気になる方も多いでしょう。ここからは真言宗ならではの儀式について解説します。
枕経
枕経(まくらぎょう)とは、亡くなった直後に故人の枕元で唱えられるお経のことです。自宅で死を迎えることが一般的だった時代では、亡くなる直前からお経を唱え始めていました。しかし、自宅以外で亡くなることが多い現代では、葬儀会場に到着した夜に枕経を唱えるのが主流になりました。
真言宗の枕経では、般若理趣経や慈救呪(じくじゅ)を読まれることが多いです。ただし、真言宗の宗派によっては枕経を省略する場合もあります。
灌頂
灌頂(かんじょう)とは、真言宗を含む密教系特有の儀式です。故人の頭頂部から数滴水をかけて、悟りの境地に進んだことを証明します。
灌頂にはいくつか種類があり、それぞれ意味が異なります。たとえば、結縁灌頂(けちえんかんじょう)は仏様と縁を結ぶための儀式で、受明灌頂(じゅみょうかんじょう)は密教の神髄を学ぼうとする弟子に行われる儀式です。
土砂加持
土砂加持(どしゃかじ)とは、密教修行の一種で祈祷した土砂を故人に振りかける儀式です。土砂をかけることで生前に行った罪を消滅させ、成仏させることを意味します。儀式で使用する土砂は、光明真言(こうみょうしんごん)と呼ばれるお経で清められていることも特徴です。
土砂加持は納棺時に行われるのが一般的で、お墓や卒塔婆に振りかけることもあります。
真言宗の葬儀の流れ
これから葬儀に参加する方は、儀式がどのような順番で進むのか気になる方も多いでしょう。ここからは、真言宗における葬儀の流れを解説します。
僧侶の入堂
葬儀会場に到着したら、スタッフの指示に従いながら着席してください。時間になると司会者から開式の言葉が告げられ、僧侶が入堂します。僧侶が入堂する際には静粛にして、姿勢を正した状態でお迎えするようにしましょう。
準備
僧侶が入堂した後は、塗香(ずこう)・三密観(さんみつかん)・護身法(ごしんほう)・加持香水(かじこうずい)と呼ばれる儀式が行われます。準備のようなもので、故人を清める意味を持っています。故人の身体に香を塗ったり印を結んだりすることで、穢れを取り除き心と体を整えていきます。
三礼・表白・神分
次に、三礼(さんらい)・表白(ひょうびゃく)・神分(じんぶん)と呼ばれる儀式が行われます。これらは、大日如来に祈りを捧げるための儀式です。故人を導いていただくことを祈りつつ、降臨してくださることへの感謝の気持ちを伝えます。
声明
声明(しょうみょう)とは、お経に節をつけた仏教音楽です。僧侶が声明を唱えて、仏教を賛美します。
授戒作法
授戒作法は、僧侶が剃刀を使って故人の髪を剃り落とす儀式です。これは、故人が大日如来の弟子になることを意味しています。お経を唱えながら髪を剃り終えた後は、戒名が授けられます。
引導の儀式
破地獄(はじごく)の儀式は、故人が地獄に落ちるのを防ぐために真言を与える儀式です。この儀式を終えることで、即身成仏されると考えられています。ただし、近年では真言宗の葬儀であっても、破地獄の儀式が省略されることも珍しくありません。
破地獄の儀式
破地獄の儀式は、故人が地獄に落ちるのを防ぐために真言を与える儀式です。この儀式を終えることで、即身成仏されると考えられています。ただし、近年では真言宗の葬儀であっても、破地獄の儀式が省略されることも珍しくありません。
焼香
焼香は、故人との関わりが深い人から順番に行うのがマナーです。自分の順番が来るまでは席で待機しましょう。
真言宗では、焼香の回数は3回です。真言宗において「3」は大日如来・空海・先祖を意味しています。従って、線香も3本立てるようにしましょう。
読経
参列者が焼香をしている間、僧侶は諷誦文(ふじゅもん)と呼ばれるお経を唱えます。このお経には、生前の功績を称える意味が込められています。諷誦文はかつては遺族が作成するものでしたが、現在は寺院に作成を依頼する場合がほとんどです。
出棺
焼香が終わると、僧侶は指を3回鳴らして導師最極秘印(どうしさいごくひいん)を結びます。これは魂を抜く儀式といわれており、棺の上に花を添えたら出棺の合図となります。出棺は故人の顔を見られる最後のタイミングなので、心残りのないように別れの言葉を伝えましょう。
真言宗の法事のマナー
最後に、真言宗の法事に関するマナーを解説します。他の宗派と共通する点もありますが、あらためて確認をしておきましょう。
数珠の種類や使い方
真言宗の葬儀では、振分数珠と呼ばれる種類の数珠を使用します。これは108の主玉が連なった長い数珠になっています。その他にも、片手数珠と呼ばれる略式の数珠を使用しても問題ありません。
数珠は両手の中指に真っすぐかけ、房が手の甲に触れるようにして使います。手を合わせていない時は、数珠が垂れないように二重にして持ちましょう。
香典のマナー
真言宗の香典は、表書きに「御霊前」もしくは「御香典」と書くのがマナーです。香典の相場は、他の宗派と大きな違いはありません。血縁関係のない友人や会社関係者であれば3千円~1万円、血縁関係があれば3万円~10万円となります。
故人との関係性や自身の年齢によっても金額は変わってくるので、あらかじめ相場を確認しておきましょう。
お墓参りのマナー
真言宗の墓参りのマナーは、他の宗派と大きな違いはありません。ただし、お線香の本数は真言宗の考え方に倣って3本立てるのが望ましいです。
一般的な墓参りの作法
- 墓石に一礼して合掌する
- 柄杓を使って墓石に水をかける
- 墓前で手を合わせて冥福を祈る
真言宗のお経や葬儀の流れを把握して葬儀に臨みましょう
この記事のまとめ
- 真言宗は空海によって広められた仏教の宗派
- 真言宗で唱えるお経の種類は、般若心経・理趣経・遺教経・法華経・十三仏真言など
- 真言宗では枕経・灌頂・土砂加持と呼ばれる儀式を行うのが特徴
- 焼香の回数は3回が基本。お線香も3本立てる
- 香典の表書きには「御霊前」もしくは「御香典」と書く
- お墓参りのマナーは基本的には他の宗派と変わらない
真言宗で唱えるお経にはいくつか種類がありますが、それぞれのお経に込められた意味を把握しておくことでスムーズに葬儀に臨めます。
また、真言宗の葬儀には他の宗派で見られない儀式も存在します。葬儀に対する理解を深めるためにも、お経や儀式の内容についておさえておくとよいでしょう。