神社でお葬式をしない理由とは?神葬祭の流れやマナーについても解説
お葬式の方式の一つに神式が挙げられますが、そもそも神社でお葬式がほとんど行われない点に疑問を持つ人は多いのではないでしょうか。本記事では、神社でお葬式をしない理由を紹介します。神式のお葬式の一般的な流れやマナーも解説しているため、ぜひ参考にしてください。
2006年に葬儀の仕事をスタート。「安定している業界だから」と飛び込んだが、働くうちに、お客さまの大切なセレモニーをサポートする仕事へのやりがいを強く感じるように。以来、年間100件以上の葬儀に携わる。長年の経験を活かし、「東京博善のお葬式」葬祭プランナーに着任。2023年2月代表取締役へ就任。
神社ではお葬式をしない
自然をはじめ、万物に神が宿るという考え方の「神道」に基づいて行われる神式のお葬式ですが、お寺でお葬式や告別式を行う「寺院葬」がある仏教に対して、神道では神社でお葬式を行いません。
神社でお葬式をしない理由
お寺は各宗派の教えを学び修行をするとともに、故人の冥福を祈るための場所です。対して神社は神様を祀る場所であり、いわゆる「神が住む家」にあたります。お寺と神社ではそもそも建物の意味や役割が違っており、神様が住む神聖な場所にはお葬式はふさわしくないという考えがあるのです。
また、神社へ穢れを持ち込まないためというのが、神社でお葬式を行わない大きな理由です。神道において「死」は「穢れ」に通じるものとされています。
同様の理由から忌明けまでは神社へのお参りも避けるのがよいとされています。
神道と仏教でのお葬式の考え方の違い
神道と仏教では、お葬式について具体的にどのような違いがあるのでしょうか? ここからは、神道と仏教におけるお葬式の考え方の違いについて解説します。
お葬式を執り行う目的
神道と仏教ではそもそも、お葬式を執り行う目的が異なります。神道の場合、故人は一家の守り神として子孫を守り続けるという考え方から、お葬式には「故人の魂を守り神として、ご先祖と一緒に奉る」という目的があります。
対して仏教の場合は、故人の魂が無事に極楽浄土へ行けるよう送り出すためにお葬式が行われます。宗派によって多少の違いこそありますが、故人は仏となってお釈迦様がいる極楽浄土へ旅立つという一般的な考え方に基づいています。
お葬式を行う場所
お葬式や告別式を行う場所も、神道と仏教では大きく異なります。前述した通り、神道のお葬式では神社ではなく自宅か斎場で行います。対する仏教では、自宅や斎場に加えて「寺院葬」というスタイルでお寺でお葬式を行う場合もあります。
戒名の有無
神道と仏教のお葬式では、戒名の有無も大きな違いでしょう。そもそも「戒名」とは仏門に入りお釈迦様の弟子になった証として授かるものであり、ほかの宗教にはない仏教ならではの考え方の一つです。ゆえに、神道のお葬式では故人に戒名が付けられることはありません。
神道において、生前の名前は「両親と神様からもらった大切なもの」という考え方があり、逝去後も引き継がれることが一般的です。なお、仏教における戒名と似たものに「諡(おくりな)」があります。諡は一家の守り神となった故人を称えるために、決められた形式に基づいて全ての人に平等に授けられます。仏教では一般的に僧侶に依頼して戒名を付けてもらいますが、諡は神社の宮司に依頼して付けてもらうものではありません。
神式のお葬式(神葬祭)の流れ
神式のお葬式のことを神葬祭(しんそうさい)といいます。神社ではなく、自宅や斎場で執り行われる神葬祭は、以下のような流れで行われます。
逝去当日
- 帰幽奉告(きゆうほうこく)
- 枕直しの儀
- 納棺の儀
神葬祭1日目
- 通夜祭・遷霊祭(せんれいさい)
神葬祭2日目
- 葬場祭・玉串奉奠
- 火葬祭・埋葬祭
- 帰家祭
- 直会
それでは、神式のお葬式の流れを一つひとつ見ていきましょう。
①帰幽奉告(きゆうほうこく)
家族が亡くなったら、まずは「帰幽奉告」を行います。神道では死去を「帰幽(=幽世という神域へ帰ること)」と表し、帰幽奉告では自宅にある神棚やご先祖の霊を祀る祖霊舎(みたまや)に、家族が亡くなったことを奉告します。
神棚や祖霊舎に祀られている神様・ご先祖の霊へ「〇〇が帰幽いたしました」と奉告をしたら、神棚と祖霊舎の扉を閉め、白い紙を貼って封をします。白い紙を貼るのは、神様やご先祖の霊が死の穢れに触れないようにするためです。
②枕直しの儀
神様やご先祖への奉告を終えたら「枕直しの儀」を行います。故人のご遺体を清めたら、白の小袖・足袋を身に着けさせます。小袖の色は白が伝統的ですが、近年は故人が生前に好きだった衣服を着せ、白の小袖をかける場合もあります。
身支度が終わったら、ご遺体を安置する部屋に移して北枕にした白地の布団に寝かせ、顔に白い布をかけます。枕元には白無地の逆さ屏風を立て、ご遺体の前に枕飾りを施します。枕飾りは白木の平台に米や塩、酒や故人の好きな食べ物をお供えし、榊の枝葉を捧げます。
また、枕元には故人の魂を悪霊から守るために「守り刀」を置きます。守り刀を置く際には盆の上に乗せ、ご遺体に刃が向かないように注意します。
③納棺の儀
続いて行われる儀式が、納棺の儀です。故人が生前に愛用したもの等とともにご遺体を棺へ納め、しめ縄・紙垂で棺を装飾します。また納棺の際、故人に死装束を身に着けさせます。男性には白丁を着させて烏帽子を被せ笏を持たせ、女性は小袿を着させて扇を持たせるのが神式の死装束です。
納棺の儀は各地域の神社の宮司を招いて行うことが伝統的な方法ですが、現代では葬儀社のサポートのもと、ご遺族が自分で行うことが一般的です。
④通夜祭・遷霊祭(せんれいさい)
次に、通夜祭・遷霊祭を行います。「通夜祭」は仏式のお葬式におけるお通夜にあたるものです。通夜祭では、故人が守護神となって遺族を守ってくれるように願い、神社にて祭祀を行う斎主(神主)が祝詞を読み上げます。続いて「遷霊祭」を行います。遷霊祭は「御霊移し(みたまうつし)」ともいい、故人の魂を依り代となる霊璽(れいじ)に移す儀式のことです。これによって仏教でいうところの位牌に魂が移った状態になります。
⑤葬場祭・玉串奉奠
続いて、葬場祭・玉串奉奠(たまぐしほうてん)を行います。葬場祭は仏式のお葬式における告別式のことです。仏式の告別式と同様に故人との最後の別れを告げ、弔辞や弔電をささげるとともに、神主が祭詞奏上を行います。
玉串奉奠とは、仏式のお葬式でいうお焼香であり、神式では榊などの木の枝に紙垂・楮をつけたもの(=玉串)を祭壇に捧げる儀式です。玉串はお供え物としての役割だけでなく、神様へ敬意を表すためのものでもあります。尚、玉串奉奠は葬場祭だけでなく、通夜祭でも行います。
⑥火葬祭・埋葬祭
葬場祭を終えたら、火葬祭・埋葬祭を行います。火葬祭は火葬場へ移動後、ご遺体を荼毘に伏す前に神主が祭詞を奏上し、参列者が玉串をささげる儀式です。
玉串奉奠とは、仏式のお葬式でいうお焼香であり、神式では榊などの木の枝に紙垂・楮をつけたもの(=玉串)を祭壇に捧げる儀式です。玉串はお供え物としての役割だけでなく、神様へ敬意を表すためのものでもあります。尚、玉串奉奠は葬場祭だけでなく、通夜祭でも行います。
⑦帰家祭
火葬場から故人の遺骨を持ち帰ってきたら「帰家祭(きかさい)」を行います。自宅に祀っている神様へ無事にお葬式を終えたことを奉告しましょう。神社と同様に自宅へ穢れを持ち込まないように、家に入る前には手を塩や水で清めます。
⑧直会
通夜祭・葬場祭の全てを終えたら、最後に神主や参列者をねぎらうために「直会(なおらい)」を行います。直会では、神様へお供えしたものを分け合っていただく宴会の席であり、仏式における通夜振る舞い・精進落としにあたります。お供え物を食べることには、神様の力を分けていただく・身を清めるといった意味があるとされています。
神式のお葬式(神葬祭)にかかる費用
神式のお葬式では、宮司を招いたり、神式ならではの飾りをしたりすることから、仏式とはかかってくる費用が異なります。ここからは、神式のお葬式にかかる費用はいくらか解説していきましょう。
お葬式全体にかかる費用は80万円~140万円が相場
規模や地域によって多少の違いはありますが、神式のお葬式全体にかかる費用は80万円~140万円が相場です。費用の内訳としては、斎場を借りるための費用やご遺体の搬送にかかる費用、宮司へ渡す祭祀のお礼である祭祀料、祭壇費用などが挙げられます。
神式のお葬式にかかる費用の内訳・相場(一例) | |||
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斎場の費用 | 10万円~20万円 | ||
祭壇費用 | 10万円~25万円 | ||
搬送費用 | 3万円~4万円(距離により異なる) | ||
神饌料(しんせんりょう) | 2万5千円~4万5千円 |
尚、神饌料(しんせんりょう)とは神様へのお供えする食べ物(=神饌)に代わるお金のことで、通夜祭・葬場際の際に神主へ渡します。
喪主が神主へ渡す玉串料は一般葬で20万円~50万円が相場
通夜祭や遷霊祭などのお礼として、神社の神主へ渡す玉串料(祭祀料)は一般葬の場合で20万円~30万円が相場です。一部の儀式を省いて行う一日葬の場合だと、10万円程度と少し安くなる傾向にあります。
また、神社から招く神主の人数によっても、金額が変わってくる点には注意が必要です。神社によっては明確に玉串料が決められている場合もあるため、神式のお葬式を行う際にはあらかじめお世話になっている神社へ相談してみましょう。
神式の葬式(神葬祭)に参列するときのマナー
自然崇拝や「故人の魂が守護神となる」といった考え方など、仏教とは違う点が多いからこそ、神式のお葬式では参列時のマナーも異なります。ここからは、神式のお葬式に参列するときのマナーについて解説していきます。
神道ならではの言葉遣いに注意する
神道では仏教とは異なる死生観・考え方があるため、お葬式の際には神道特有の言葉遣いに注意しましょう。特に「他界」や「成仏」などの言葉は、神道における「故人の魂は守護神となる」という考え方から相応しくないとされています。
以下に、神道で避けるべき主な言葉遣いをまとめました。お葬式を執り行うときや参列の際に、うっかり使わないようにしましょう。
神式のお葬式で避けるべき言葉遣い・言い換え例一覧(一例) | |||
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避けるべき言葉遣い | 言い換え例 | ||
他界・往生 | 逝去 | ||
冥福 | 御霊のご平安、ご永眠 | ||
成仏 | ご永眠 |
順番が来たら正しい作法で玉串奉奠を行う
仏式のお焼香にあたる「玉串奉奠」は、順番が来たら正しい作法で行いましょう。お焼香と同様に、喪主から始まり血縁の濃い人から順番に行います。葬式の規模や喪主の方針によって、参列者については礼拝だけでよい場合もあります。
玉串奉奠は葬式だけでなく、神社での結婚式や七五三などでも行うことがあるため、ぜひ以下の手順を確認しておきましょう。
玉串奉奠の手順
- 玉串台の前まで進み、玉串を両手で受け取ったらご遺族へ一礼する。
- 玉串を正面に立てるように持ち、時計回りに回転させる。
- 玉串の根元が祭壇側へ向くように置く。
- 玉串を捧げたら、しのび手(=音を立てない拍手)を二回打ち、一礼をする。
- 数歩下がり、ご遺族に一礼したら席へ戻る。
香典の表書きは「御玉串料」や「御霊前」などと記載する
神式のお葬式における香典の表書きには「御霊前」「御玉串料」「御榊料」「御神饌料」などと記載します。また、「御香典」は仏教特有の書き方のため注意してください。不祝儀袋のデザインは白色のシンプルなものにし、水引は黒と白の結び切りを選ぶとよいでしょう。
服装は仏式と同様でよいが、数珠は持たない
服装について、神式と仏式ではほとんど違いはありませんが、数珠については仏教特有のものであるため、神式のお葬式では身に付けません。服装は一般的な喪服を着用します。男性であればダークスーツ、女性なら黒や紺などの落ち着いた色のワンピースやスーツを着用することが一般的です。
神式では神社でお葬式をせず神葬祭を行う
この記事のまとめ
- 神を祀る聖域へ穢れを持ち込まないように、神式では神社でお葬式をしない
- 神式のお葬式は神社ではなく、一般的には自宅や斎場で行う
- お葬式では帰幽奉告や玉串奉奠など、神式特有の儀式がある
- 神式のお葬式全体にかかる費用は80万円~140万円が相場
- 神社の神主へ渡す玉串料は20万円~50万円が相場
- 参列の際には神道ならではの言葉遣い・玉串奉奠の所作に注意する
神道では、死に関する儀式であるお葬式は「穢れ」とされることから、神様が祀られている神社ではお葬式を行いません。神式のお葬式を執り行ったり参列したりする際には、ぜひ今回紹介したお葬式の流れやマナーを参考にしてください。