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葬儀のあと

孤独死が発覚した部屋はどう再生される? 専門業者が行う清掃の流れと技術とは

孤独死が発覚した部屋はどう再生される? 専門業者が行う清掃の流れと技術とは

高齢化の進んだ現代社会において孤独死は珍しいことではありません。孤独死が発覚した部屋では、時間の経過とともに臭気や汚染が進み、一般的な清掃では対応できない状況になることも少なくありません。そこで求められるのが、特殊な技術と知識を持つ専門業者の存在です。

本記事では、孤独死発覚後の清掃を専門とする業者が、どのように空間を再生していくのかを工程ごとに解説します。作業の流れや技術、信頼できる業者を選ぶためのポイントまで、依頼を検討している方に役立つ情報をまとめました。

孤独死が発覚した部屋で何が起こるのか? 専門業者が対応すべき理由

孤独死に対応する専門業者のイメージ
Photo by b-clean.jp

孤独死後に見られる汚染と臭気の特徴

孤独死が発覚した部屋では、時間の経過や気温によって室内の状態が大きく変化します。例えば、室温が20度前後と比較的低く、発見までの時間が24時間以内であれば、汚染や臭気の影響はほとんど見られません。しかし、夏場など25度を超える高温環境で72時間以上経過すると、ご遺体から体液が流出し、床材や壁面へ浸透するケースが多く見られます。さらに、腐敗に伴いハエやウジといった衛生害虫も発生し、汚染が急速に進行します。
こうした環境では、腐敗により発生する臭気成分が室内全体に広がります。代表的なものには以下のような物質が含まれています。

  • アンモニア(尿のような刺激臭)
  • メチルメルカプタンや硫化メチル(二硫化メチル)などの硫黄化合物(腐った玉ねぎやキャベツのような臭い)
  • インドールやスカトール(排泄物に近い強い臭気)
  • 吉草酸やプロピオン酸(むれた衣類や酸っぱい臭い)

これらの成分が混ざり合うことで、一般生活では感じることのない独特の「死臭」と呼ばれる悪臭になります。芳香剤や一時的なマスキングでは抑えきれず、臭いの元そのものを除去する「脱臭」作業が必要となります。

参考:一般財団法人化学物質評価研究機構|悪臭防止法・特定物質

一般清掃では対応できない衛生・感染リスク

孤独死が発覚した部屋では、臭気の問題に加えて衛生・感染リスクが深刻に残ります。亡くなられた方の病歴は通常把握できませんが、もしB型肝炎やHIVなどの感染症を患っていた場合、流出した血液や体液にはウイルスが含まれている可能性があります。
また、腐敗の過程で発生する腸内細菌やカビ類が空気中に拡散することもあり、適切な除菌や防疫措置を行わないと、二次感染や健康被害を引き起こすおそれがあります。
さらに、体液や有機物に引き寄せられたハエ・ゴキブリなどの害虫が媒介源となり、近隣への汚染を広げるケースも報告されています。

参考:厚生労働省|B型肝炎について(一般的なQ&A)

専門業者が必要とされる法的・技術的な根拠

孤独死が発覚した部屋では、血液や体液などを伴う汚染が生じることがあります。このような「感染性を伴う汚染環境」においては、医療現場と同等の衛生管理が求められます。医療機関では「医療法」に基づき、清掃・廃棄物処理・防疫措置などに厳格な基準が設けられています。例えば、感染性廃棄物の分別や防護具の着用、消毒薬の使用基準などが法的に定められており、清掃業務も専門の資格を持つ業者のみが実施できます。一方、一般住宅内での孤独死清掃はこの医療法の直接の適用外です。つまり、日本国内においては法で義務づけられた統一基準が存在しないため、対応する業者の技術や管理体制によって品質に大きな差が生じます。そのため、信頼できる専門業者は、医療機関の清掃基準やバイオリスク管理の指針を自主的に導入し、防護具の使用・感染性廃棄物の処理・作業区域のゾーニング(区分)などを医療レベルに近い安全基準で運用しています。

孤独死清掃の基本プロセス! 再生へ向けた具体的な工程

孤独死清掃のイメージ

初動対応と現地調査(リスク評価・安全確保)

孤独死清掃における最初の工程は、初動対応と現地調査です。専門業者は依頼を受けると、まず現地へ赴き、室内の状況を目視で確認します。ここでの目的は、必要な作業工程や費用を正確に見積もるための情報収集と、衛生リスクの評価です。現地調査では、臭気の強さや汚染範囲、害虫の発生状況、建材への浸透具合などを確認します。また、室内の安全が確保されていない場合は、依頼主の許可を得たうえで簡易的な応急処置を行うこともあります。例えば、害虫の拡散防止や臭気漏れを防ぐための窓・換気口の目張りなどです。こうした初動対応によって、二次被害の拡大を防ぎつつ、次の工程である「汚染物の撤去」へと安全に進むことができます。

汚染物・家財の撤去と除菌・消臭処理

孤独死清掃では、まず汚染物の除去と除菌・消臭処理を優先的に行います。腐敗した体液や糞便が残っている状態では、細菌の繁殖や臭気の拡散が進み、家財を動かすこと自体が新たなリスクになるためです。そのため、専門業者は最初に汚染箇所を特定し、感染性のある物質を安全に回収・処理します。同時に、薬剤による除菌と臭気の中和を並行して進め、空間全体の衛生環境を安定させます。この段階で使用される薬剤は、主に医療現場でも使用される塩素系・第四級アンモニウム塩系の消毒剤や、臭気成分を分解する酸化系脱臭剤などです。汚染物の処理と除菌・消臭が完了してはじめて、残された家財の撤去作業へ移ります。この順序を守ることで、二次汚染の防止と再生後の空間品質を確実に保つことができます。

仕上げ清掃から空間再生までの工程と確認

除菌・消臭が完了したあとは、仕上げ清掃と空間の再生工程に移ります。床や壁、建具などの拭き上げを行い、残留した汚れや薬剤成分を除去したうえで、室内全体の最終脱臭処理を実施します。作業後は、依頼主の要望に沿って仕上がりを確認し、臭気の残留や衛生状態に問題がないかをチェックします。一部の専門業者では、次章で解説するATP検査(生物汚染度の測定)やサンプリングによる臭気分析を行い、清掃効果を科学的に評価することもあります。こうした工程を経て、衛生面と臭気面の両方で安全性が確認された段階で、ようやく「空間の再生」が完了します。さらに対応範囲の広い業者であれば、そのまま内装の原状回復工事まで一気通貫で対応することも可能です。

専門業者が駆使する“再生技術”の正体

特殊清掃専門業者のイメージ
Photo by b-clean.jp

これまで紹介した清掃工程の背景には、目に見えない専門的な技術と科学的根拠が存在します。孤独死清掃は、ただ汚れを落とす作業ではなく、臭気や微生物を分解・除去し、空間を安全な状態へと“再生”させる高度なプロセスです。ここからは、専門業者が実際に駆使している再生技術の仕組みと特徴について詳しく解説します。

臭気分析・ATP検査による汚染範囲の科学的特定

孤独死清掃では、臭気や汚染の範囲を目視だけで正確に判断することは困難です。そのため、専門業者は数値やデータによって現状を可視化するための科学的な検査を行います。代表的なのが、臭気分析とATP検査です。臭気分析では、室内の空気や建材の一部を採取し、専用機器で臭気成分を解析します。これにより、臭いの原因となる化学物質や発生源の特定が可能になります。一方、ATP検査は「アデノシン三リン酸」という生物由来の物質を測定し、汚染度合いや微生物の残存レベルを数値で評価する手法です。これらのデータを組み合わせることで、施工範囲や汚染の深度を科学的に特定できるほか、清掃後の再生効果の検証にも役立ちます。こうした検査結果に基づく作業管理こそが、専門業者による「根拠ある再生」を支えています。

参考:国立健康危機管理研究機構|ATP測定による入浴施設の衛生管理・レジオネラ汚染リスク評価

薬剤選定・清掃手法の根拠と工程管理

調査結果をもとに、部屋の状態に合った薬剤を選ぶのが専門業者の基本です。分析を行わない場合でも、これまでの施工データを参考に、実際に効果があった方法を選定します。使用する薬剤は、汚染の種類や素材に応じて使い分けられます。例えば、細菌の繁殖を抑える塩素系消毒剤、臭いの原因物質を分解する酸化系脱臭剤、素材を傷めにくい中性洗浄剤などです。作業中は、薬剤の濃度や反応時間を厳密に管理し、作業エリアを区分(ゾーニング)して二次汚染を防ぎます。こうした工程管理が徹底された業者ほど、安定した再生品質と安全な仕上がりを実現できます。

安全・衛生を守る教育とマネジメント体制

再生品質を安定して維持するためには、作業者個人の技術だけでなく、教育とマネジメント体制が重要です。孤独死清掃は、感染症や化学薬剤の取り扱いなど高いリスクを伴うため、社員一人ひとりが安全基準を正しく理解している必要があります。信頼できる専門業者では、定期的な安全教育や技術研修を実施し、防護具の使用方法や消毒剤の取扱手順を統一しています。また、作業の品質を社内で二重チェックする体制を整え、現場責任者が最終確認を行う仕組みを設けている企業もあります。こうした教育と管理体制が整っていることで、再生作業の安全性が保たれ、常に一定水準以上の品質を提供することができます。

まとめ|孤独死清掃の専門業者が目指す“再生”というかたち

孤独死清掃の専門業者による“再生”のイメージ

孤独死の清掃は、汚れや臭いを取り除くだけの作業ではありません。そこには、故人への敬意と、残された人の心に寄り添いながら空間を再び“安心して過ごせる場所”へと戻すという使命があります。専門業者は、科学的な分析や適切な薬剤選定、徹底した安全管理を通じて、衛生面と精神面の両方から空間を再生します。重視されるのは「見た目のきれいさ」ではなく、安心して暮らせる状態に戻すことです。高齢化や単身化が進む現代社会において、孤独死清掃はもはや特殊な仕事ではなく、人々の生活と尊厳を支える社会的な役割を担う仕事といえます。再生という行為は、単なる清掃ではなく、安心を取り戻すための行為そのものです。「孤独死の現場を再生する専門業者の姿勢」それは、技術と倫理の両輪で社会の安心を支えることにあります。

監修者 SUPERVISOR
特殊清掃 藤田 隆次

ブルークリーン株式会社 代表取締役
1992年 東京生まれ。奄美諸島出身の父とメキシコ人の母の間に生まれる。都立雪谷高校を卒業後、IT企業(東証グロース上場企業)やリフォーム業を経て起業。米国バイオリカバリー協会から認定を受けた、日本人唯一のバイオリカバリー技術者。

[資格&修了]
・米国バイオリカバリー協会 公認バイオリカバリー技術者
・全米防疫技術研究所(NIDS)マスターズコース修了認定
・公益社団法人日本ペストコントロール協会 1級技術者

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