年金から引かれる税金と保険料|特別徴収の仕組み・時期と手取りの考え方
老後に受け取る年金は、支給額がそのまま振り込まれるわけではなく、税金や保険料が差し引かれる場合があります。年金の手取り額は、受給額や年齢、加入している保険制度などによって異なるため、事前に仕組みを理解しておくことが大切です。 本記事では、年金から引かれる税金・社会保険料の内容や特別徴収の仕組み、手取り額の考え方について解説します。実際の年金額を確認する際の参考にしてみてください。
年金から引かれるもの
年金から差し引かれるものは、大きく分けて「税金」と「社会保険料」の二つがあります。社会保険料については、受給者の年齢や加入している医療保険制度によって、差し引かれる項目が異なります。
ここからは、実際にどのような項目が天引き(特別徴収)されるのか、主な内訳や仕組みについて解説します。
税金:所得税・住民税
年金から天引きされる税金には「所得税」と「住民税」の2種類があります。それぞれの課税の仕組みについて解説します。
所得税
公的年金には「老齢年金」「遺族年金」「障害年金」がありますが、このうち遺族年金と障害年金は、法律により全額非課税と定められています。
一方、老齢年金は「雑所得」として所得税の課税対象となります。ただし、年金受給額のすべてに税金がかかるわけではありません。年金額から「公的年金等控除」や「基礎控除」などを差し引き、課税対象となる所得がある場合にのみ、所得税が発生します。
そのため、年金の受給額が控除額の合計を下回る場合、所得税はかかりません。
注意点として、税制改正にともなう「所得税の基礎控除の見直し等」により、2026年分から公的年金の源泉徴収基準(源泉徴収を要しない年金額のライン)が「65歳未満:155万円」「65歳以上:205万円」に引き上げられます。
| 所得税が源泉徴収される年金額の目安(2026年以後の新基準) | |||
|---|---|---|---|
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年齢 |
改正前の基準(2025年分まで) |
改正後の基準(2026年分以降) |
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65歳未満 |
108万円以上 |
155万円以上 |
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65歳以上 |
158万円以上 |
205万円以上 |
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2026年分の公的年金については、11月支給分までは従来の基準で源泉徴収が行われます。その後、12月の年金支払い時に、1年間(1月〜12月)の合計収入に対して新しい基準が適用され、税額が再計算(精算や還付など)される仕組みとなっています。
住民税
住民税は、前年度の所得をもとに計算され、一定以上の所得がある場合に課税対象となります。年金も収入の一つとして扱われ、公的年金等控除や各種控除を差し引いた後の所得額によって、課税か非課税かが決まります。
所得割・均等割
- 所得割:前年の所得金額に応じて負担額が決まるもの
- 均等割:所得の多寡にかかわらず、一定以上の所得がある方に定額の負担を求めるもの
住民税は、所得割と均等割を合計して算出されます。ただし、非課税基準や税額は自治体や個人の状況によって異なるため、一般的な仕組みとして理解しておくとよいでしょう。
社会保険料:介護保険料・後期高齢者医療保険料
年金からは「介護保険料」や「後期高齢者医療保険料」などの社会保険料が差し引かれることがあります。対象となる保険の種類は、年齢や加入している医療保険によって異なるため、自身の加入状況を確認しておきましょう。
年金受給者の社会保険料の納付方法は、原則として以下の2種類です。
特別徴収・普通徴収
- 特別徴収:年金からあらかじめ天引きされる方法
- 普通徴収:納付書や口座振替によって自身で納付する方法
以下の条件に該当する場合、特別徴収の対象者となり、年金から天引きされます。
介護保険料
介護保険料が年金から天引きされることがあるのは、65歳以上で年金受給額が年間18万円以上の方です。この条件に該当しない方は、天引きではなく納付書や口座振替での支払いになるため、確認してみてください。
介護保険料の金額は、所得や住んでいる自治体によって異なります。
後期高齢者医療保険料
75歳以上の方、または後期高齢者医療保険制度に加入している65歳以上75歳未満の方で、年金受給額が年間18万円以上ある場合、後期高齢者医療保険料が年金から天引きされることがあります。
ただし、介護保険料と後期高齢者医療保険料の合計額が年金受給額の半分を超える場合は、後期高齢者医療保険料は天引きではなく、納付書や口座振替での支払いになるため注意してください。
後期高齢者医療保険料についても、保険料率や計算方法は自治体によって異なります。
その他
国民健康保険に加入している65歳以上75歳未満の方で、年金受給額が年間18万円以上ある場合、保険料が天引きされることがあります。
ただし、介護保険料と国民健康保険料の合計額が年金受給額の半分を超える場合や、世帯構成によっては、納付方法が異なる場合があるため注意が必要です。
条件に該当する場合は年金から天引きされますが、具体的な保険料率や計算方法は自治体によって異なります。自治体から届く通知を確認しておきましょう。
いつ引かれる?(特別徴収の時期と回数)
公的年金は、原則として偶数月に前2ヵ月分がまとめて支給されます。しかし、振込時にどのような項目が差し引かれているのか、正確に把握できていない方も少なくありません。
ここでは、年金の支給時に天引きされる所得税や社会保険料のほか、住民税の特別徴収と普通徴収の違いについて解説します。
偶数月の支給と同時に引かれる項目
公的年金は、原則として「2月・4月・6月・8月・10月・12月」の偶数月に支給されます。特別徴収の対象となっている方は、年金支給と同時に「所得税」「住民税」「社会保険料」が天引きされることがあります。
どの項目が差し引かれるかは、年齢や加入している保険の種類、前年の所得によって異なります。例えば、65歳や75歳など、年齢の節目によって、天引きされる保険料の種類が変わる場合があります。振込通知書を確認し、内訳を把握しておくとよいでしょう。
住民税の年6回特別徴収
住民税は前年の所得をもとに税額が決定されるため、年金からの天引き(特別徴収)額は1年を通じて一定ではありません。
年度の前半(4月・6月・8月)は、前年の税額が確定する前であるため、前年度の2月分と同じ金額を差し引く「仮徴収」が行われます。その後、6月に確定した最新の所得情報に基づき、年間の住民税額から仮徴収分を差し引いた残りの額を、年度の後半(10月・12月・翌2月)の3回に分けて調整する「本徴収」が行われます。
このように、前年の所得の変化が10月以降の振込額に反映される仕組みになっているため、時期によって天引き額が変動します。振込のたびに通知書の内訳を確認しておくことが大切です。
普通徴収に切り替わる場合(初年度・低年金 等)
年金は、すべての方が天引き(特別徴収)されるわけでなく、条件や状況によっては普通徴収に切り替わることがあります。
普通徴収に切り替わる条件・状況
- 年金を受け取り始めた初年度である場合
- 年金の受給額が、年額18万円未満の場合
- 年の途中で制度が切り替わった場合
- 他の自治体への転居、税額の更正、年金の支給停止などが発生した場合
上記のような状況に該当する際は、自治体から届く通知に従って納付方法を確認しましょう。
手取り額の考え方と計算手順
年金の手取り額とは、支給された年金から税金や社会保険料が引かれた後の金額です。ただし、支給された年金のすべてが課税対象となるわけではなく、各種控除を差し引いた上で税額が計算されます。
ここでは、手取り額の考え方や計算手順について解説します。
公的年金等控除の考え方
公的年金の受給者には、税負担を軽減するための「公的年金等控除」が適用されます。年金収入から一定額を差し引き、残った金額(所得)をもとに税金を計算する仕組みです。
控除額は、受給者の年齢(65歳未満か65歳以上か)や年金収入に応じて段階的に決まります。そのため、同じ年金受給額であっても、年齢によって控除額が変わり、税額が変動する場合があります。
基本的な税額計算の土台となるのは、以下の流れです。
基本的な税額計算の土台
- 年金収入 - 公的年金等控除 = 雑所得
この仕組みを理解しておくことで、将来の年金手取り額の目安を把握しやすくなります。詳細な控除額については、国税庁の最新の算出表を確認してみてください。
所得税・住民税の概算フロー
年金にかかる税金がどのように決まり、納付されるのか、基本的な流れを解説します。自身の状況とあわせて確認してみてください。
所得税・住民税の概算フロー
- 年間の年金受給額を確認する:1月1日から12月31日までに受け取る年金収入の合計額を確認します。
- 所得額を算出する:年金収入から「公的年金等控除」を差し引き、さらに「社会保険料控除」や「基礎控除」などの各種控除を差し引いて、課税対象となる所得額を算出します。
- 税額が決定する:決定した税額は、以下の方法で納付されます。
所得税・住民税
- 所得税…年金の支給ごとに、あらかじめ源泉徴収(天引き)されます。
- 住民税…原則として特別徴収の対象となり、年6回の年金支給時に天引きされます。
正確な税額は、日本年金機構から届く「公的年金等の源泉徴収票」や、各自治体から送付される「住民税決定通知書」などで確認しましょう。
控除申告で見直せるポイント
年金収入が中心の場合でも、控除を申告することで税負担が軽くなる場合があります。税額の見直しにつながる主な控除は、以下のとおりです。
控除一覧
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 医療費控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
「年金収入のみだから関係ない」と思われがちですが、医療費が多かった年や家族構成に変化があった場合は、控除を申告することで税負担が軽くなる場合があります。
控除の内容によっては、確定申告や自治体での手続きが必要になるため、条件に該当しそうな場合は確認してみてください。
年金の仕組みに関するよくある質問(FAQ)
年金の仕組みについて、よくある疑問への回答を分かりやすくまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
Q. 年金が非課税になることはありますか?
A. 年金額やその他の所得、扶養の有無などによっては、所得税や住民税がかからない場合もあります。また、公的年金には「公的年金等控除」があり、一定の条件内であれば課税対象となる所得が発生せず、年金から税金が差し引かれない場合があります。
ただし、非課税となる基準額は、自治体や年度によっても異なるため、住んでいる自治体からの通知などを確認しておきましょう。
Q. 75歳以上になると医療保険料の納付方法は変わりますか?
A. はい、変わります。75歳になると全員が「後期高齢者医療制度」に移行するため、保険料の区分や納付方法が切り替わります。原則として、年金から天引き(特別徴収)となりますが、年金受給額が「年額18万円未満」の場合や、介護保険料との合計額が年金額の半分を超える場合は、納付書や口座振替による「普通徴収」となります。
また、75歳になったばかりの時期は天引きの手続きが間に合わないため、一時的に全員が普通徴収からスタートする点にも注意が必要です。
自分がどちらに該当するかは、75歳の誕生月以降に自治体から届く「後期高齢者医療保険料 決定通知書」で確認できます。
Q. 受給開始の初年度と翌年度で納付方法が変わるのはなぜですか?
A. 年金を受け取り始めた初年度は前年の年金受給実績がないため、住民税などは納付書で支払う「普通徴収」となります。その後、年金収入が確定すると、翌年度の10月などのタイミングで年金からの天引き(特別徴収)に切り替わることがあります。
納付方法に迷った場合は、自治体から届く通知書の内容を確認しましょう。
年金の税金・保険料で注意しておきたいポイント
ここまでは、年金から引かれる税金や保険料の一般的な仕組みについて解説しました。ただし、実際の金額や計算方法、対象となる条件は年度によって変更される場合があります。ここでは、事前に確認しておきたいポイントを紹介します。
最新情報の確認先
税金や保険料を計算する際は、税率や控除額、徴収方法などのさまざまな制度が関わります。しかし、制度は改正・更新されることがあるため、最新情報を確認することが大切です。
最新情報の確認先
- 日本年金機構:年金の税金・保険料の情報
- 国税庁:所得税・住民税など
- 各自治体(市区町村):住民税・保険料の納付について
年金の課税や控除の仕組みは年度ごとに変わったり、自治体によって異なったりするため、公式サイトや自治体からの通知を必ず確認しましょう。
確定申告・年末調整との関係
年金受給者でも、状況によって確定申告が必要になる場合があります。確定申告とは、税金を納めるだけでなく、控除を適用して払いすぎた税金の還付を受けるためにも必要な手続きです。
確定申告が必要になる条件
- 年金以外に一定の所得がある(不動産所得)
- 医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除などを受けたい
- 勤労収入がある(パート、アルバイト等)
以上のような状況に該当する際は、確定申告を検討しましょう。
なお、公的年金等の収入額が400万円以下で、かつそれ以外の所得が20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要となる制度(確定申告不要制度)があります。ただし、その場合でも住民税の申告が必要な場面や、還付を受けるためにあえて確定申告を行う場面があるため、自身の状況を確認しましょう。
老齢/遺族/障害年金の課税・非課税
公的年金には「老齢年金」「遺族年金」「障害年金」などの種類があり、課税・非課税の扱いが異なります。
課税・非課税の扱い
- 老齢年金:所得税や住民税の課税対象
- 遺族年金、障害年金:非課税
老齢年金は、原則として所得税や住民税の課税対象です。ただし、実際に税金がかかるかどうかは、年金額や控除の状況によって異なります。遺族年金や障害年金は非課税として扱われるため、原則として所得税や住民税がかかりません。
自身が受給している年金の種類や内訳については、日本年金機構から届く「年金振込通知書」や「公的年金等の源泉徴収票」で確認できます。
年金の手取り額を把握して老後の生活設計に役立てよう
この記事のまとめ
- 年金の手取り額は年金額から税金や社会保険料を差し引いて計算される
- 公的年金は原則として偶数月に支給される
- 所得税や住民税、介護保険料などが年金から特別徴収される場合がある
- 住民税は前年の所得をもとに、年6回にわけて年金から引かれるのが一般的
- 控除の適用や確定申告の有無によって、税負担が変わる場合がある
- 税率や保険料、徴収方法は改正されることがあるため、日本年金機構や国税庁、自治体の最新情報を必ず確認する
年金の手取り額は、税金や社会保険料の仕組みを理解することで把握しやすくなります。制度内容や支給額は、個人の状況や自治体によって異なるため、本記事を参考にしながら最新情報を確認し、生活設計や資金計画に役立ててください。
神戸大学法学部卒業。鉄鋼メーカー、特許事務所、法律事務所で勤務した後、2012年に行政書士ゆらこ事務所を設立し独立。メインは離婚業務。離婚を考える人に手続きの仕方やお金のことまで幅広いサポートを提供。法律・マネー系サイトでの執筆・監修業務も幅広く担当。