年金から引かれるものとは?差し引かれる理由や手取り額などを詳しくご紹介
老後の年金は、受給額と実際に振り込まれる額が異なることをご存知ですか?本記事では、年金から引かれるものの種類や差し引かれる理由、年金の手取り額について解説します。天引き後の年金がどれくらいになるか計算して、老後の資金準備の参考にしてください。
神戸大学法学部卒業。鉄鋼メーカー、特許事務所、法律事務所で勤務した後、2012年に行政書士ゆらこ事務所を設立し独立。メインは離婚業務。離婚を考える人に手続きの仕方やお金のことまで幅広いサポートを提供。法律・マネー系サイトでの執筆・監修業務も幅広く担当。
年金の受給額と実際の振込額が違う理由
公的年金が、老後の生活を支える柱となっている人も多いでしょう。年金支給が決定したときには年金決定通知書が届きますが、実際の振込額は決定額よりも少なくなります。これは、年金から引かれるものがあるためです。
まずは、年金の受給額と振込額が異なる理由について解説します。
税金が引かれるから
年金からは、所得税及び住民税が差し引かれます。所得税と住民税は、所得に対してかかる税金です。所得税は国に、住民税は市町村に納める必要があります。年金収入は「雑所得」となり、所得税と住民税の課税対象となるのです。
社会保険料が引かれるから
年金から引かれるものには、社会保険料も含まれます。この場合の社会保険料には、公的医療保険(国民健康保険または後期高齢者医療制度)の保険料及び介護保険料が該当します。
年金受給者の社会保険料は、年金からの「特別徴収」が基本です。特別徴収は一定の金額以上の年金を受け取っている人が対象で、保険制度ごとに金額の基準が異なっています。
公的年金の仕組みとは
公的年金の仕組みについて解説します。日本の公的年金制度は、2階建て構造になっています。1階部分が20歳以上60歳未満の全員が加入する国民年金、2階部分が会社員や公務員が加入する厚生年金です。
65歳になると、国民年金から老齢基礎年金が支給され、厚生年金からは老齢厚生年金が支給されます。国民年金のみに加入していた人は老齢基礎年金のみを、厚生年金にも加入していた人は老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受け取れます。
年金の種類 | 概要 | 支給額 | |
老齢基礎年金 | 国民年金に加入していた人が支給される年金 | 令和5年度の満額は、79万5,000円 保険料納付月数が少なければその分減る 保険料納付月数が少なければその分減る |
|
老齢厚生年金 | 厚生年金に加入していた人が、老齢基礎年金に上乗せして支給される年金 | 現役時代の給料の額によって変動する |
公的年金の受給開始は、原則65歳からになります。ただし、受給者の希望により、受給開始を60歳~64歳に早める「繰上げ受給」や、66歳~75歳に遅らせる「繰下げ受給」も可能です。なお、厚生年金に加入していた一部の人は、60歳~64歳の間に「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れます。
年金は65歳になったら自動的に振り込まれるものではなく、請求手続きが必要です。65歳の誕生日前に届く「年金請求書」に必要事項を記入して提出すれば、年金の支給が開始されます。年金は、1年分を6回に分けて入金され、振込日は偶数月の15日となっています。
年金の支給対象月と振込月は、下記のとおりです。
支給対象月 | 振込月 | ||
12月、1月 | 2月 | ||
2月、3月 | 4月 | ||
4月、5月 | 6月 | ||
6月、7月 | 8月 | ||
8月、9月 | 10月 | ||
10月、11月 | 12月 |
年金から引かれるもの
ここからは、年金から引かれるものと、それぞれがどれくらい引かれるのかを具体的に説明していきます。
所得税
公的年金にかかる所得税は、年金から源泉徴収される仕組みになっています。ただし、年金額が一定額以下なら所得税は非課税となり、源泉徴収の対象にはなりません。
所得税が源泉徴収されるのは、下記の人が該当します。
年齢 | 源泉徴収の対象になる人 | ||
65歳未満 | 年金額が108万円を超える人 | ||
65歳以上 | 年金額が158万円を超える人 |
上の表の金額はあくまでも目安です。
実際には受けられる各種控除によって、非課税となる年金額は変わります。なお、所得税について各種控除を受けるには、「扶養親族等申告書」を提出する必要があります。扶養親族等申告書を提出した場合、年金から源泉徴収される所得税(復興特別所得税含む)は、以下の通りです。
年金から源泉徴収される所得税(復興特別所得税含む)
- 源泉徴収税額=(年金支給額-社会保険料-各種控除額)×合計税率(5.105%)
なお、所得税は年間の合計所得に対して課税されるものであるため、1年の期間が終わらないと税額が確定しません。源泉徴収額は仮の税額であるため、本来なら確定申告が必要です。しかし、年金受給者については、確定申告不要制度が設けられています。
下記の条件をいずれも満たす人は確定申告不要ですが、それ以外の人は確定申告が必要であることも知っておきましょう。
確定申告不要制度の対象者
- 公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下
住民税
住民税の納税方法は、納税者が納付書等で直接納税する「普通納税」と、給料などから差し引いて納税する「特別徴収」の二つに分かれます。年金受給者の場合には、年金額が18万円以上あれば、特別徴収の対象となります。
住民税は、前年の収入に応じて金額が変わるのが特徴です。住民税を計算するときには、全員に均等に課される「均等割」と、所得に応じて課される「所得割」を合計します。均等割は5,000円、所得割の税率は10%です。1年分の住民税を6回に分けて徴収しますが、毎回金額は同じではありません。
住民税は前年の年収を基準に計算し、6月頃に年税額が決まります。そのため、4月、6月、8月には仮の金額が徴収されることになっています。また、初年度については、特別徴収の準備ができていないため、4月の特別徴収はありません。
以上の事情から、年金から特別徴収される住民税額は下記の表の通りです。
初年度の特別徴収額 | |||
---|---|---|---|
年金振込月 | 1回あたりの特別徴収額 | ||
6月、8月 | (年税額×1/2)÷2 | ||
10月、12月、2月 | (年税額×1/2)÷3 |
2年目以降の特別徴収額 | |||
---|---|---|---|
年金振込月 | 1回あたりの特別徴収額 | ||
4月、6月、8月 | (前年度の税額×1/2)÷3 ※ | ||
10月、12月、2月 | (今年度の税額ー仮徴収額)÷3 |
※仮徴収額
公的医療保険の保険料
年金の年額が18万円以上の人は、年金から公的医療保険の保険料が引かれます。年金受給者の加入している公的医療保険は、原則的に下記のとおりです。
年齢 | 公的医療保険の種類 | ||
65歳以上75歳未満 | 国民健康保険 | ||
75歳以上 | 後期高齢者医療制度 |
65歳以上で会社に勤務している人の場合、75歳まで会社の健康保険に加入できます。会社の健康保険に入っている人は、給与から健康保険料が徴収されます。
なお、公的医療保険料と介護保険料の合計額が年金額の2分の1を超える場合、公的医療保険料の特別徴収はありません。
公的医療保険料は住民税と同様、4月、6月、8月に仮徴収が行われて10月、12月、2月に本徴収が行われます。なお、初年度は普通徴収により直接納付するため、年金からは引かれません。
国民健康保険料は、所得割、均等割、平等割、資産割の四つの賦課基準から算出しますが、自治体によって税率や選択する基準は異なります。また、国民健康保険料には、医療分のほか、後期高齢者制度を支援する支援金の負担も含まれています。後期高齢者医療制度の保険料は、均等割と所得割の合計額です。
介護保険料
年金の年額が18万円以上の場合、年金から介護保険料が引かれます。65歳以上75歳未満で会社の健康保険に入っている人は健康保険料は給料から引かれますが、介護保険料は年金から引かれます。
65歳以上の人の介護保険料は条例によって定められているため、具体的な算出方法は自治体によって異なります。所得のほか、住民税の賦課状況によって段階分けされているのが一般的です。
年金の手取りはどれくらい?
ここからは、年金が平均額程度の人を想定した年金の手取り額を紹介します。
公的年金の平均額
厚生労働省が公表している「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、会社員であった人の年金平均月額は14万3,965円(老齢厚生年金、老齢基礎年金含む)です。年間の受給額にすると、172万7,580円となります。
手取り額シミュレーション
ここからは、年金を平均額程度もらっている人の手取り額を紹介します。あくまで一例ですので、こちらの計算方法を参考に自身の手取り額を計算してみましょう。
Aさん(67歳) 東京都港区在住 単身世帯(配偶者なし) 年金月額14万4,000円 年金年額172万8,000万円(公的年金等控除後の所得62万8,000円) 年金以外の収入はなし |
この場合の年金の手取り額は、年金支給額から所得税と住民税、社会保険料(国民健康保険料と介護保険料を合わせたもの)を引いた額になります。
国民健康保険料は、公的年金等控除後の所得から基礎控除43万円を差し引きした賦課基準額19万8,000円をもとに計算します。国民健康保険料は基礎賦課分と後期高齢者支援金等賦課分に分かれ、次のようになります。
国民健康保険料の計算方法
- 基礎賦課分 均等割(4万5,000円)+所得割(19万8,000円×7.17%)=5万9,196円
- 後期高齢者支援金等賦課分 均等割(1万5,100円)+所得割(19万8,000円×2.42%)=1万9,891円
- 国民健康保険料合計(年額)=①+②=7万9,087円
次に、介護保険料を計算します。介護保険料は住民税の課税状況によって変わりますが、本人が住民税課税で合計所得金額が125万円未満の場合、年額7万8,687円です。なお、国民健康保険料と介護保険料を合わせた社会保険料の年額は、15万7,774円となります。
住民税は、公的年金等控除後の所得62万8,000円から基礎控除43万円、社会保険料控除(社会保険料の全額)15万7,774円を差し引きした4万226円をもとに計算します。
計算式は下記のとおりです。
住民税の計算方法
- 住民税(年額)=均等割(5,000円)+所得割(4万226円×10%)=9,022円
最後に所得税です。
公的年金等控除後の所得である62万8,000円から基礎控除48万円と、社会保険料控除15万7,774円を差し引きした課税所得をもとに計算します。Aさんの場合、課税所得が−9,774円とマイナスとなるため所得税は非課税となり、源泉徴収はありません。
以上より、年金の手取り額は年間で次のようになります。
年金の手取り額の計算方法
- 172万8,000円(年金支給額)−15万7,774円(社会保険料)−9,022円(住民税) =156万1,204円
1ヶ月あたりにすると、約13万100円が年金の手取り金額となります。
なお、住民税は前年度の収入が基準となり、会社を退職してすぐに年金受給者となった場合は会社員時代の給与をもとに住民税が計算されることになります。前年の収入が多かった人は、初年度の年金の手取りが少なくなることに注意が必要です。
天引き後の年金を計算して老後に備えよう
この記事のまとめ
- 年金は引かれるものがあるため、振込額は決定額よりも少なくなる
- 年金は国民年金のみに加入していた人は老齢基礎年金のみを、厚生年金にも加入していた人は老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受け取れる
- 年金から引かれる税金は所得税及び住民税がある
- 年金から引かれる社会保険料は公的医療保険料(国民健康保険料または後期高齢者医療保険料)と介護保険料がある
- 年金の月当たり平均額は約14.4万円で、手取り額にすると約13万円となる
年金からは税金や社会保険料が控除されるため、年金の手取りは通知された額より少なくなります。本記事で紹介した年金から引かれるものや手取り額のシミュレーションを参考に、どのくらい年金が振り込まれるのか計算してみましょう。