介護うつの症状・原因・特徴とは?ストレスや疲れへの対処法も解説
介護うつは、文字通り介護によってうつ状態になることをいいます。介護うつになると介護を続けることが難しくなるだけでなく、介護者自身の将来にも暗い影を落としてしまうことになりかねません。本記事では、介護うつの概要や、介護うつにならないための対処法を紹介します。
介護うつとは
介護うつとは、日常的な介護によるストレスが原因のうつ状態をいいます。介護は心身に負担がかかるだけでなく、いつ終わるか分からない状況で続けなければなりません。そのため、現在では社会問題の一つとして認識されています。
介護うつの症状は、一般的なうつ病と概ね同じです。違いはうつの原因が「介護に関連するストレス」と明らかなことです。介護うつは介護生活の初期から意識的に対策すれば予防できることが特徴でもあります。
介護うつの主な症状6つ
介護うつの症状は、大きく以下の6種類です(個人差あり)。
介護うつの症状
- 睡眠障害
- 思考障害
- 疲労感
- 焦燥感
- 食欲不振
- 自殺願望
介護うつの症状について、確認しておきましょう。
①睡眠障害
睡眠障害は「疲れているのに眠れない」「トイレでもないのに、夜中何度も目が覚めてしまう」など、不眠症の症状が出ることです。眠れないという症状が続くと介護の疲れが取れず、精神的にも疲弊してしまいます。
②思考障害
思考障害は、気持ちが晴れず理由なく落ち込んでしまったり、身の回りのことに関心を持てなくなってしまったりします。どんどんネガティブな精神状態に陥る恐れがあるため、注意したい症状の一つです。
③疲労感
特に重労働をしたわけでもないのに疲労感を覚える状態になるのも、介護うつの症状の一つです。体のだるさや肩こり・頭痛にもつながります。精神的にも疲れを感じて意欲が低下し、生活が不活発となる悪循環につながりやすい状態に陥ってしまいます。
④焦燥感
焦燥感とは、特に理由もないのに焦ったり不安になったりする状態です。何かトラブルが起きたときに自分が原因でもないのに責任を感じて、心が張り詰めてしまうこともあります。集中力が低下してミスが増える原因にもなり、周囲から見ても通常の精神状態とは明らかに異なる場合もあります。
⑤食欲不振
食欲不振も、介護うつが招く症状です。食が細くなると摂取すべき栄養を摂れなくなり、症状が進むと低栄養状態となり体重も減少します。水分も摂れないと脱水症状に陥るリスクがあります。最悪の場合はメンタルだけでなく体の健康も害する恐れがある症状です。
⑥自殺願望
介護うつの初期にはあまりみられませんが、症状が進行して複数の症状が合併・悪化すると、最悪の場合、自殺願望が芽生えることもあります。本来、親の介護は生きるための重要な支援です。その介護が原因で自らの命そのものを否定するようなことは、絶対に避けなければなりません。
介護うつの主な原因
介護うつになってしまう原因は、以下3種類の介護ストレスです。
介護うつの主な原因
- 身体的負担
- 精神的負担
- 経済的負担
介護うつにならないようにするためには、原因を正しく理解して具体的な対処法をとることが重要です。
身体的負担
介護は重労働です。特に入浴・排泄・移乗など、要介護者の体を支えたり持ち上げたりする介護は、介護者の身体的負担となります。介護によって腰・肩・膝などの関節痛に悩まされる方も多く、要介護度が上がれば上がるほど介護による身体的負担が増えるでしょう。それによって疲れがたまり、介護うつの原因になる可能性があります。
精神的負担
長期に渡る介護は、介護者のメンタルにも大きな負担がかかるのが特徴です。特に在宅介護の場合は、片時も要介護者の世話のことが頭から離れず、精神的な疲れの原因となる場合があります。メンタルを休めるためにも、意識して介護から離れて休憩する時間をとるなどの対処法が必要です。
経済的負担
物価高騰や介護人材の処遇改善のため、公的介護サービスの単価も上がっている状況です。介護依存度が高まれば高まるほど費用がかさんでくるため、時には親の年金では足りずに補填が必要となることもあるでしょう。いつまで続くか分からない費用負担による将来の不安やストレスも、介護うつの原因となります。
介護うつになりやすい人の特徴6つ
介護うつになりやすい人には、以下のような特徴があります。
介護うつになりやすい人の特徴
- 責任感が強い・頑張りすぎる
- 完璧主義
- 体が弱い・体力がない
- 精神的にもろい・心配性
- 経済的な不安を抱えている
- 相談できる人がいない
詳しく見ていきましょう。
①責任感が強い・頑張りすぎる
人一倍責任感があり、何事もつい頑張って熱が入りすぎてしまう人は、介護うつになりやすいといわれています。人に頼るのが苦手でつい自分だけで抱え込んでしまったり、自身も体調が悪いのに無理をしすぎてしまったりするためです。
「何が何でも自分で成し遂げよう」という強い思いが、逆に大きなストレスにつながってしまう可能性があるのです。
②完璧主義
介護に完璧を求めすぎる人も、介護うつになりやすい傾向にあります。実際に介護をしていると次々に新しい問題やトラブルに直面するため、常に完璧を求めていると気が休まらなくなってしまうことが理由です。
また、「介護には正解がない」という言葉もあるように、介護する人の考え方が十人十色であれば、介護を受ける方の考え方や捉え方も十人十色です。介護者が「こうするべきだ」と考えても、うまくいかずにストレスを感じることが増えるでしょう。
③体が弱い・体力がない
介護者自身に体調不安があったり、体が弱かったりするのも、介護うつの原因になる可能性があります。なぜなら、介護は先の見えない長期的な肉体労働だからです。体に無理をして介護を続けると、介護者自身が体を壊して共倒れになるリスクもあります。体に不調や不安を感じながらの介護は、精神的にもよくありません。
④精神的にもろい・心配性
精神的に打たれ弱い方や、心配性の方も、介護うつにならないように気をつけなければなりません。「自分が目を離した隙に転んだらどうしよう」など、常に要介護者の心配ばかりしていると心が休まりません。また、精神的にもろいと周囲の目やちょっとした言葉・出来事などが気になってしまい、自信がなくなってしまいます。
うつは心の病気です。精神的な弱さは介護うつに直結するため、無理をしないように気をつけましょう。
⑤経済的な不安感を抱えている
経済的な不安を抱えている場合も、介護うつの引き金となる可能性があるため注意しましょう。介護にはお金がかかります。親の介護費用は親の財産から捻出するのが一般的ですが、どうしても足りない場合は近親者が補填を迫られる場合もあるでしょう。
また、お金を節約しようと思って介護サービスを利用せず、自分ひとりで頑張ろうとしてしまうこともあるかもしれません。経済的な余裕のなさは精神的にも追い詰められてしまうため、減免制度を活用するなどの対処法が重要になります。
⑥相談できる人がいない
困ったとき、周囲に相談相手がいない場合も、介護うつになる危険性が高いでしょう。なぜなら、自分ひとりで最後まで介護をすることは、非常に困難だからです。専門家や介護経験者、近親者・地域の知人などに相談して協力を得ながら行うことが重要です。
相談相手がいないと、身体的負担・精神的負担・経済的負担の全てを自分ひとりで解決しなければならなくなります。つまり、完全に介護を抱え込むことになってしまうため、うつ状態に陥る可能性が高くなります。
介護うつになったらすること
介護うつになってしまったときの対処法は、医学的な治療とレスパイト(休養)の二つです。治療だけでなく、介護から離れて心身の休暇をとることも非常に重要です。
医学的な治療
介護うつの医学的な治療法は、一般的なうつ病と同じです。専門医に通院して、治療しましょう。具体的な治療は、精神療法や薬物療法が主体です。うつ病は完治を目指せる病気ですが、再発するリスクもあるといわれています。長期的な視点で症状と付き合いながら、専門医と二人三脚で立ち向かう姿勢で治療に臨みましょう。
レスパイト(休養)
レスパイトとは、一時的に介護から離れて休暇をとり、心身のリフレッシュを図ることです。レスパイトを支援するサービス(レスパイトケア)は、さまざまな事業者・施設から提供されています。例えば要介護者が短期間介護施設に入所する「ショートステイ」が一般的ですが、地域の中には介護者の負担軽減のために「レスパイト入院」を受け入れている病院もあります。
定期的にリフレッシュできるよう、介護の初期段階からレスパイトを意識するとよいでしょう。
介護のストレスや介護疲れへの対処法
最後に、具体的な介護うつ予防の対処法を五つ紹介します。
介護の専門家に相談する
近親者に介護が必要になったとき、まずは専門家に相談しましょう。特におすすめな相談先は、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所です。
地域包括支援センターとは、地域の高齢者福祉に関する総合相談窓口です。社会福祉士・保健師・主任ケアマネジャーなどの専門家が在籍し、該当地域に住んでいる65歳以上の高齢者全員の介護・保健医療・閉じこもり防止・権利擁護などの課題に対して各専門職が連携して対応してくれます。
一方、居宅介護支援事業所とは、ケアプランの専門家であるケアマネジャーがいる相談窓口です。主に要介護1~5の認定を受けた高齢者が居宅で介護サービスなどを利用しながら生活できるよう支援してくれます。事業所によっては要支援1・2の方や「事業対象者」という認定を受けている方も利用できます。
どちらの窓口も、要介護認定の代行申請から認定後のケアプラン作成まで一つの窓口で完結します。ただし、要介護認定の結果によっては別の窓口に引き継がれる場合もあるので覚えておきましょう。
介護サービスを利用する
公的介護保険を利用して介護サービスを受けることができます。介護保険制度のサービスは、大きく以下の3種類に分けられています。1割〜3割の自己負担で、さまざまなサービスを利用できます。ニーズに合わせて積極的に利用していきましょう。
居宅サービス
主に在宅の高齢者を対象としたサービスです。介護福祉士や看護師などの専門職が自宅を訪れる訪問系サービス、施設に通って介護やリハビリを受ける通所系サービス、レスパイトに利用できる短期入所サービスがあります。他にも、福祉用具のレンタルや購入、バリアフリー化工事の助成金制度などもあります。
施設サービス
介護保険制度に対応した老人ホームのことを、「介護保険施設」といいます。以下の3種類があります。
介護保険施設の概要 | |||
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施設種別 |
施設の概要や特徴 |
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特別養護老人ホーム |
原則として要介護3以上が対象で、常に介護が必要な方の生活介護が中心。 安価であり、看取りにも対応している。 専門的な医療ケアの対応については施設ごとに異なる。 |
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介護老人保健施設 |
要介護1以上が対象で、介護やリハビリテーションが中心。 医療ケアにも対応している、在宅復帰を目的としたリハビリを行う施設。昨今は在宅復帰困難者を対象に看取りまで行う施設もある。 |
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介護医療院 |
要介護1以上が対象で、医療と介護の複合ニーズに対応。 重度の認知症や専門的な医療ケアにも対応した、長期療養を目的とした医療系の入所施設。 上記二つの施設と比較として、数が少ないのが課題。 |
地域密着型サービス
住み慣れた地域で最期まで安心して暮らせるよう、臨機応変で地域色の強いサービスが特徴です。認知症に特化したデイサービスやグループホーム、24時間対応可能な巡回型の訪問介護、訪問・通い・宿泊と複数のニーズに1ヵ所で対応する複合サービスなどがあります。
減免制度などを活用して費用負担軽減を図る
介護の経済的負担を軽減するには、減免制度を活用しましょう。各自治体では、主に低所得者層を対象に減免制度を用意しています。例えば、ショートステイや介護保険施設利用時の介護保険外費用を減免する「負担限度額認定制度」や、介護保険サービス利用料が一定の上限を超えると差額を還付する「高額介護サービス費制度」などがあります。
これらは支給要件に合致していても申請しないと利用できませんし、原則的に過去に遡ることもできません。経済的に不安がある場合は、すぐに担当のケアマネジャーに相談しましょう。
ストレスを自覚して積極的に休養を取る
介護うつにならないためには、疲れやストレスをためないことが重要です。上記で紹介したようなサービスを使いながら、積極的に休養を取るようにしましょう。
困ったときは早めに専門家に相談し、介護うつを予防しましょう
この記事のまとめ
- 介護うつとは、介護による心身の負担が原因でうつ病になった状態
- 介護うつの症状は、基本的に一般のうつ病と同様
- 介護うつにならないためには、心身の疲れをとることが重要
- 介護うつの原因の一つである経済的負担には、介護保険制度や減免制度を活用する
疲れを感じながら無理に介護を続けると、介護うつの原因になります。介護をする人・受ける人双方が無理なく過ごせるようにすることが、予防のポイントです。決してひとりで抱え込まないでください。まずは専門家に相談してみることが、解決の近道となるでしょう。