【いとうあさこさん特別インタビュー】死を見つめ、今を生きる

お笑いタレントとして、テレビやラジオを中心に活躍するいとうあさこさん。今回は自身の遺影や葬儀、そして生きることついて、語ってくれました。
私らしい遺影を

——遺影の撮影をしたことがあると伺いました。そのきっかけを教えてください。
映画『エンディングノート』(2011年公開)を見てから、死ぬときのことを考えるようになりました。その後、テレビ番組の企画がきっかけで、一度だけ遺影の撮影をしたんです。
カメラマンさんに「他にどういう⽅が遺影の撮影をなさるんですか?」と伺うと、以前に若い看護師の⽅がいらしたそうで。その⽅は⽣と死と向き合うことが多い分、いろいろ考え、10年ごとに遺影の撮影をしようと思った、と。すばらしいなと感じましたね。
——遺影の撮影を経験してみていかがでしたか?
脚を上げちゃったり、日本酒の一升瓶を片手に持ったり、遺影らしくない写真を撮りました。でも、当時のマネージャーが「あさこさんらしくていいですね」と言って泣いちゃってね(笑)。きっと葬儀に参列した人も、みんな泣いちゃいますよ、と話していました。
そうした遺影らしくない、でも私らしい写真も素敵ですよね。仕事柄、多くの写真が残っているので、番組で撮影した写真を遺影にするのもいいかもしれないです。
——仕事の写真だと、どのような写真を遺影にしたいですか?
以前、テレビ番組の撮影でオーストラリアに行ったとき、体重94キロの男性が私の肩の上で立つ、という企画がありまして……。誰も出来るわけない、って思っていたのですが、なぜかできちゃって(笑)。そのときの私の顔が、目パッチリで、みんな「キレイな顔だった」と。私の場合、こういう“撮ろうとしていない瞬間”とかがよいかもしれませんね。
「また逢う日まで」

——印象に残っているお別れについて教えてください。
数年前に伯⺟を亡くしました。歌を詠み、お琴も弾く、本当に素敵な伯⺟でした。そんな伯⺟の遺影は、亡くなるだいぶ前に撮影されたものでした。そして驚いたことに、お通夜の時点で、すでに火葬を済ませ、お骨の状態だったんです。
生前の伯⺟の望みだったようで、亡くなった顔を見られたくなかったのかもしれません。でも、私としては、いまだにきちんとお別れができていない気がしています。それでも、それが伯⺟の美学なんだな、と。家族や親戚らと「伯⺟さんらしいね」と言って、泣いたり、笑ったり。すこし不思議なお通夜でした。
——ご自身の葬儀については、どのように考えていますか?
出棺の際、尾崎紀世彦さんの「また逢う日まで」を流すことだけは決めています。イントロや歌い出し、そして「また逢う日まで 逢える時まで」という歌詞も含めて、ぴったりだなって。この曲は、私がずっとやっている劇団(⼭⽥ジャパン)の公演で使われたことがあって。もちろん、幼少期から知る曲ですが、舞台袖で聴いたとき、なんか胸にダーンと⼊ってきちゃいまして。それ以来、私の大好きな曲ですね。
生きるしかない

——その他にも、忘れられないお別れはありますか?
これまでに多くの別れを経験しました。病気や⽼衰だけでなく、いろんな形で急にいなくなってしまったことも。また、コロナ禍では葬儀に参列できず、家族でさえ最後の時間を共にすることができないという現実もありました。
そのようにお別れがかなわなかったときは、後日、お墓をたずねます。お墓に行って、何かを感じて落ち着くこともあれば、「どうして最後の挨拶がお墓なんだよ」と思うこともあります。さまざまな気持ちが湧いてきますね。
ただ、残された私たちは、とにもかくにも“今を生きる”しかない、と思います。
——「生きるしかない」とは、どういう意味でしょうか?
以前、フィリピンのカオハガン島という⼩さな島を訪れたときのことです。ちょうど島⺠の⽅の結婚式の準備をしていて。豚の丸焼きを作っていたんです。正直いつもだとそういう光景はちょっと苦⼿なのですが、なぜかとても神聖なものを感じました。
島民の⽅に伺うと、豚の丸焼きは特別なときに作る料理で、結婚式以外だと⼦どもの1歳の誕⽣⽇でもふるまわれるそう。それは1歳を迎えることが奇跡ですごいことだから、と。動物は生まれたら自ら立ち上がるけれど、人間の赤ちゃんはそうもいかない。話を聞きながら、あらためて命の尊さ、そして生きることのたいへんさを感じました。
以後、私は新年の抱負をたずねられたら、「生きる」と答えることにしています。
——その経験が「生きるしかない」につながったのですね。
いろんなきっかけで、死について考えるようになりました。⼈はいつ死ぬかわからない。当然、私も。こういう話をすると「あさこさんなんてまだまだ」と⾔われます。そう⾔ってくださる気持ちはもちろんわかります。でもやっぱり、⼈間の命の⻑さはわからないんです。だからこそ私は、⼀⽇⼀⽇を噛みしめながら、できうるかぎり“今”を⼤切に⽣きようと思っています。
プロフィール
いとうあさこ
お笑いタレント。東京都出身。1997年にお笑いコンビ「ネギねこ調査隊」を結成し、2003年まで活動。その後はピン芸人としての活動を本格化させ、独特なキャラクターとユーモアで注目を集める。日本テレビ系の『世界の果てまでイッテQ !』をはじめ、多くのバラエティ番組に出演。現在はテレビやラジオを中心に活躍し、幅広い世代から支持を得ている。