お坊さんの袈裟の色にはどんな意味がある?法衣による階級の違いや種類を知ろう
普段お坊さんが着用している「袈裟(けさ)」ですが、同じ宗派でも違う色の袈裟を着用しているお坊さんを見かけたことがあるのではないでしょうか。本記事では、お坊さんの袈裟の色の意味を解説します。色の決まり方や袈裟の種類も説明しますので、ぜひご覧ください。
お坊さんによって袈裟の色が違うのはなぜ?
お寺やお葬式、法事などでお坊さんと会う機会はありますが、お坊さんによって着用している袈裟の色に違いがあります。ここでは、お坊さんによって袈裟の色が違う理由を解説します。
色によって僧侶の階級に違いがある
袈裟の色によって、僧階や僧位などといった各僧侶の階級に違いがあります。お坊さんが着用できる法衣の色は、各宗派にて定められた「法服規定」などのルールによって決められています。
僧侶の階級に年齢は関係なく、僧階の高さによって序列が決まります。色によっては、僧階に関係なく着用できるものや、仏道の修行に入る得度式を迎える人や修行僧のみが着用するものも存在します。
色が違うのは袈裟の中でも法衣の部分
お坊さんによって色が違う部分は、装いの中でも「法衣(ほうえ)」と呼ばれる袈裟の下に着用する着物の部分です。
一般的に「袈裟」と聞くと僧侶の装い全体を指すことが多いですが、実際には僧侶が左肩から右脇にかけて斜めに着用している布の部分を「袈裟」といい、その下に着用している着物の部分を「法衣」といいます。厳密にいうと「袈裟」の部分については、宗派によって法衣と同じように変化したり、法衣の色に合わせて僧侶が選んだりすることがあるのです。
お坊さんの袈裟・法衣の色と階級の違い一覧
階級ごとに決められている僧侶の袈裟・法衣の色ですが、それぞれの色はどのような階級を表すのでしょうか。ここからは真言宗を一例として、お坊さんの袈裟・法衣の色ごとに示す階級の違いを紹介します。
「緋色」は大僧正の色
袈裟の中でも緋色(赤色)のものは、大僧正(だいそうじょう)の僧階を表しています。大僧正とは、僧侶の中で最高位にあたる人物のことです。宗派の教義を学び厳しい修行を重ね、自身の功績が本山に認められた人のみが就任し、宗派の管長を兼任する大僧正もいます。
「紫色」は僧正の色
紫色の袈裟は「僧正(そうじょう)」と呼ばれる階級の僧侶が着用します。真言宗では、僧正は上位から順に権大僧正・中僧正・権中僧正・少僧正・権少僧正と5種類の階級があります。大僧正と同様、主に住職として長年の経験と修行を重ねた後、叙任式を経た僧侶に与えられる階級です。
「緑色」は僧都の色
緑色(萌黄色)は、「僧都(そうづ)」と呼ばれる階級を表す袈裟です。真言宗の場合、僧都の階級は上位から順に大僧都・権大僧都・中僧都・権中僧都・少僧都・権少僧都の5種類に分かれています。
主に宗派の僧侶資格を取得できる大学および大学院において、必要な科目を修得した上で卒業し、修行を重ねた僧侶に与えられる階級です。
「水色」は律師の色
水色(浅葱色)の袈裟は、「律師(りっし)」の階級を与えられた僧侶が着用します。真言宗では上位から大律師・律師・権律師と階級は3種類です。なお、真言宗では律師と呼ばれますが、日蓮宗では同じ水色の法衣を着用する僧侶は「講師」と呼ばれるなど、宗派によって同じ色でも呼び名が違うことがあります。
「茶色」は階級に関係なく着用できる
真言宗において、茶色の袈裟は僧侶の階級と関係なく着用できます。同じ茶色でも曹洞宗では鈍色といったように、宗派によって色合いや呼び名が異なることがあります。
「黒色」は修行僧または得度式の色
黒色の袈裟は、主に修行僧や得度式を迎える人に授けられるものであり、真言宗では数ある階級の中では最下位にあたります。僧侶の普段着として着用されることもあるため、お寺やお葬式などで見かける機会もあるでしょう。
宗派によっても色に違いがある
それぞれの僧侶の階級によって決められている袈裟の色ですが、宗派によって色のルールは異なります。たとえば真言宗において紫色の袈裟は2番目に高い階級を表すものですが、曹洞宗だと「大教正(だいきょうせい)」と呼ばれる最も高い階級の僧侶を表します。
他にも浄土真宗の一派である真宗大谷派では、僧都にあたる「本座五等」の僧侶は薄木蘭色(うすもくらんいろ)と呼ばれる淡いピンクのような袈裟を着用します。
お坊さんの袈裟の色はどうやって決まる?
真言宗や曹洞宗などの宗派によって僧階は多種多様です。各階級によってそれぞれ違った色の袈裟を着用していますが、僧侶が着用する袈裟の色は一体どのように決まるのでしょうか。ここからは、お坊さんの袈裟の色が決まる条件や判断基準について解説します。
学歴
僧侶の階級において重要な要素が「学歴」です。僧侶を目指す際に、進路として選ぶ宗派の大学や大学院、専修学院などに入学するという方法があります。入学した学校で指定の科目を修得し、得度や受戒などの儀式を経ることで、修得単位や内容に対して僧階が与えられます。
僧侶になってからの業績
僧侶になった後でも、檀家数を増やすなどの業績によっては、より上位の色の袈裟を着用できるようになります。宗派の発展にどれだけ貢献してきたかを評価されると、叙任式で辞令が手渡され、上位の僧階の色の袈裟が着用できるようになるのです。
出家後の修行年数
出家後の修行年数を重ねることも、より上位の色の袈裟を着用するために必要です。僧侶は悟りを開くことが最大の目的であるため、出家した後には厳しい修行が待っています。
作法を覚えたり朝の勤行をしたりなどはもちろん、中には7年間山中を歩き続けるという天台宗の「千日回峰行」をはじめ、宗派ごとに厳しい修行が用意されていることも少なくありません。
さまざまな修行を続けて修行年数を重ねていくことも、僧侶の袈裟の色がより上位になるための判断基準にされる場合があります。
各宗派の独自規定
高い階級の色の袈裟が着用できるかどうかは、各宗派の規定も重要です。僧階の種類や授与される条件については、各宗派で独自の規定が用意されていることがあります。たとえ僧侶になったとしても、独自規定の条件を満たしていないと昇階されないことも少なくありません。
お坊さんの袈裟が持つ意味
お寺やお葬式でお坊さんが着用している「袈裟」には、どのような意味が込められているのでしょうか。ここからは、お坊さんの袈裟が持つ意味について解説します。
仏教徒の証である
僧侶が袈裟を着用する大きな意味の一つは、仏教徒の証であることを示すことです。一説には、袈裟を着用することで仏教徒を一目で判別できるようにしたといわれています。
「執着しない」という仏の教えが込められている
袈裟には「執着しない」という仏の教えが込められているといわれています。本来の袈裟は、大衣・中衣・小衣の布を集めて縫い合わせたものでした。汚物を拭う程度の使い道しかない布を使って作られていたため「糞掃衣(ふんぞうえ)」とも呼ばれていたこともあります。
ボロボロの布を使って作られた袈裟を着用することで、着飾る・見栄を張るといったような執着からの離脱を表しています。袈裟に使われる色も「壊色(えしき)」と呼ばれており、少しくすんだ色が特徴的です。濁った色味の袈裟を使うことで、派手に飾り付けることなく修練に励むことを表しているといえるでしょう。
僧侶に対するさまざまなご利益があるとされている
袈裟は仏教徒としての象徴だけでなく、着用している僧侶を守る役割とともに、さまざまなご利益があるとされています。たとえば「寒さや暑さ・虫から守る」といった物理的なものから「罪は取り除かれ、十の善を生じさせる」「壊色が貪欲を生じさせない」といった説もあります。
お坊さんの袈裟の種類
お坊さんが着用する袈裟は色だけでなく、縫い合わせた布の枚数で呼び名や着用用途が違います。ここからは、お坊さんの袈裟の種類について解説します。
五条袈裟(ごじょうけさ)
五条袈裟は、横に五枚の布を縫い合わせて作った袈裟のことで、他の袈裟に比べて短くて動きやすい点が特徴です。威儀と呼ばれる肩紐が付いており、左肩から掛けて着用します。僧侶の普段着として、お寺の掃除や雑行の際などで使用されることが多い袈裟です。正装としてお葬式や法要などで着用されることもあります。
七条袈裟(しちじょうけさ)
七条袈裟は、七枚の布で仕立てられた袈裟のことで「鬱多羅僧(うったらそう)」とも呼ばれています。膝下まであるロングサイズが特徴です。礼装として法要や聴講などで人前に出るときや、礼仏・儀式の際などに上衣として着用されます。
九条袈裟(きゅうじょうけさ)
九条袈裟は、九枚の布で作られた袈裟のことで、大衣として使われています。かつては王宮へ招待された際に正装として着用されてきましたが、現代では特別な法要や説法、檀徒の大きな集まりなどで着用されることが多いです。同じく大衣として使われている袈裟に、二十五条袈裟というものもあります。
半袈裟(はんげさ)
半袈裟は、作務や移動時などに僧侶が首に掛ける袈裟のことです。細い布を輪っか状にして使われることから、半袈裟は「輪袈裟(わげさ)」とも呼ばれています。信者がお参りの際に正装をする場合にも着用されることがあります。
袈裟や袈裟の色にはさまざまな意味が込められている
この記事のまとめ
- 一般的に袈裟の色が違うのは「法衣」と呼ばれる着物の部分
- 袈裟の色によって、僧侶の階級が分かる
- 袈裟の色とそれぞれに対応する階級は、各宗派で異なる
- 袈裟の色は学歴・僧侶の業績・修行年数・各宗派の規定で決まる
- 袈裟は仏教徒の証であり、着用用途によって形状・種類が異なる
袈裟は各宗派における階級を示すだけでなく、仏の教えを守り修練に励んでいることを表すものでもあります。そのため、僧侶にとっては特別な意味を持つ装いといえるでしょう。ぜひお寺や法要などでお坊さんを見かけた際には、袈裟の色や形に注目してみてくださいね。