【高齢者向け】食べてるのに体重減少してしまう原因は?必要な対策も4つご紹介
高齢の方の中には、食事はしっかり食べてるのに体重が減ることがあります。そのような体重減少の背景には、さまざまな病気が潜んでいる恐れがあります。本記事では、高齢者に起こる体重減少の原因や対策について紹介します。
武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科卒業。
管理栄養士として病院に勤務し、患者様の栄養管理及び栄養指導に従事。
糖尿病患者や腎臓病患者を中心に、病状の進行を防ぐための食事指導を行う。食事と健康、美容に関する記事を中心に管理栄養士ライターとして活動中。
注意が必要な高齢者の体重減少とは
体重減少とは、目安として6ヶ月の間にもともとの体重の5%以上減った状態または、4.5㎏以上の減少がある場合を指します。食事から摂取したエネルギーより、体が消費したエネルギーの方が多くなったときに体重は減少します。
ダイエットや病気の治療のため、意図的に行う体重管理は問題ありません。しかし、食べ物を食べてるのに意図せず体重減少が起こっている場合は注意が必要です。そのような体重減少は危険な病気が原因の場合があります。自分の体重は常に把握しておくようにしましょう。
体重減少とともに気をつける症状
短期間に急激な体重減少、あるいは継続的に体重が減り続けるような場合には、体重減少の他にも体に変化がないかを確認しましょう。特に、以下にまとめた症状には注意が必要です。
体重減少に加えて注意が必要な症状
- 発熱
- 頭痛
- 息切れ
- 食欲不振
- 喉の渇き、多飲、多尿
- 胸やけ、げっぷがよく出る
- 甲状腺の腫れ
- 吐血、血痰
- 咳が続く
このような症状がある場合には、何か病気が潜んでいる可能性があります。念のため、医療機関を受診しましょう。
高齢者が食べ物を食べてるのに体重減少する原因
高齢者が食べ物を食べてるのに体重が減少してしまうのは、いくつかの原因が考えられます。加齢そのものが影響している他、病気の影響、薬、ストレスなど多岐にわたります。ここでは、高齢者の体重減少の原因について解説します。
食べてるのに体重減少する原因①加齢による筋肉量の低下
高齢者は、歳を重ねるとともに筋肉を構成する筋繊維の数が減り、筋繊維自体も委縮するため筋肉量が低下します。成人では体重の約40%が筋肉であるのに対し、70歳を超えた高齢者では30%以下になります。
筋肉量が減るということは、消費エネルギーが減るため空腹を感じにくくなったり、食事を多く摂らなくても活動できるようになります。自分では食べてるつもりでも実際には食べる量が減り、体重減少の原因になっていることがあります。
食べてるのに体重減少する原因②病気の影響
急激な体重減少の原因としては、病気の影響も考えられます。特に、下記に示す病気がある場合、体重減少が引き起こされる恐れがありますので注意しましょう。
消化器系の病気
十二指腸潰瘍、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎などの消化器系の病気があると、体重減少が起こります。これらの病気では、高頻度で食欲低下や下痢の症状がみられます。食べているのに実際は量が足りていなかったり、下痢によって必要な栄養素が吸収されずに排泄されている恐れがあります。
消化器系の病気を放置すると、体重が減るだけに限らず必要な栄養素が不足し、栄養状態が悪くなる恐れもあります。栄養状態の悪化は高齢者にとって健康を害する危険因子であるため、早めに医療機関を受診しましょう。
糖尿病
糖尿病というと太っているイメージがあるかもしれませんが、糖尿病が進行すると急激な体重減少が起こります。糖尿病は、食事から摂取した糖分をエネルギーとして上手く使うことができなくなります。その結果、体はたんぱく質や脂肪を分解してエネルギーを作り出すようになるため、急激に体重が減少するのです。
糖尿病は生活習慣に起因する場合が多く、生活習慣を改善することでその発症や進行を遅らせることができます。普段から規則正しい生活を心がけ、糖尿病による体重減少を防ぎましょう。
悪性腫瘍
悪性腫瘍がある場合も体重減少が起こります。特に、胃がん、大腸がん、肺がん、すい臓がんでは体重減少が顕著に現れます。炎症によって代謝のバランスが崩れることで筋肉量が減り、体重減少を引き起こします。
食べてるのに体重減少する原因③精神的ストレス
精神的ストレスも体重減少の原因となります。特に、ひとり暮らしの高齢者は食事もひとりで摂る場合が多く、食べてるのに実際の食事量は少なくなり体重減少につながることもあります。また、孤独により精神的に強いストレスを感じて食事量が減る場合もあります。
高齢者の体重減少が体に及ぼす悪影響
高齢者の体重減少は、身体にさまざまな悪影響を及ぼします。高齢者が特に注意したいのが「フレイル」です。これは、加齢により心身ともに弱って日常生活に支障をきたすようになり、寝たきりなど要介護に移行する恐れのある状態を指します。
短期間での急激な体重減少は身体機能に与える影響が大きく、フレイルになるリスクが高くなります。ここでは、高齢者の体重減少により身体に生じる悪影響について詳しく解説します。
体力の低下
体重が減少すると筋力も低下するため、体力が低下し疲れやすくなります。活動量が減ると食欲も低下し、さらに体重が減少するという負のループに陥ることになります。体重減少を防ぐことで、それに伴う体力低下も防ぐことができます。
体力の低下と聞くだけでは、高齢者なら当たり前という印象もあるかもしれません。しかし、体重減少による体力低下は高齢者にとって寝たきりの状態になる危険性もあります。そのため、普段から自分の体力は衰えていないかを少し意識してみるようにしましょう。
免疫力の低下
体重減少は、免疫機能も低下させます。免疫力が落ちるとウイルスや細菌に感染しやすくなります。さらに、免疫力が低下した状態で感染症にかかると重症化しやすく、命に関わる危険性もあります。
高齢者にとって、感染症の重症化はとても恐ろしいことです。体重減少を防ぐ対策だけでなく、免疫力を高めるためにも適度な運動や休養、ストレスのない生活を心がけましょう。
骨折のリスクを高める
体重が減ることで筋肉量も減ってしまった場合、骨を支える骨格筋も減少しています。また、脚の筋肉や体感を支える筋肉も減ることで、転倒しやすくなります。高齢になると骨そのものが弱くなっていることも多く、転倒するとすぐに骨折する危険性があります。
高齢者の骨折は、そのまま寝たきりの状態になってしまうという危険性もあるため、特に注意しなければなりません。骨折のリスクを減らすためにも、筋力の維持を心がけ体重減少を防ぎましょう。
腹水や浮腫を起こしやすくなる
腹水や浮腫も、高齢者によくみられる症状です。その原因の一つに低栄養があります。食事量が足りていないとエネルギーが不足するため、体のたんぱく質が分解されて低アルブミン血症になり、体の浸透圧のバランスが崩れることで、腹水や浮腫が起こるのです。
腹水や浮腫の対策としては、食事が重要です。栄養不足にならないよう、さまざまな食品を取り入れたバランスのよい食事を摂ることが望ましいです。特に、肉や魚、卵や大豆製品などのたんぱく質源はしっかり摂りましょう。
口や舌の筋力の衰えによる嚥下障害
体重が減少すると、食べるのに必要な口や舌の筋力も低下します。分かりやすい例をあげると、顎の筋肉が衰えて嚙み合わせが悪くなるのも体重減少の影響です。つまり、体重減少が食べるのに必要な嚥下機能に影響を与えるということです。
体重減少によって嚥下機能が衰えると、食べ物を噛んだり飲み込んだりすることが難しくなります。思うように食べられないと、全身の栄養状態を悪化させて寝たきりの状態につながることもあるため、高齢者は注意が必要です。
高齢者の体重減少を防ぐ4つの対策
高齢者の体重減少は、生活習慣を見直して健康的な生活を送ることで防ぐことができます。ここからは、高齢者の体重減少を防ぐ4つの対策を紹介します。
①適度な運動をする
高齢者の体重減少を防ぐ対策として、適度な運動は効果的です。生活の中に適度な運動を取り入れることで体力や筋肉を保ち、活動量を維持できます。活動量を維持することで代謝がよくなり、糖尿病の予防にもつながります。さらに、運動は大腸がんの発症リスクを低下させるといわれています。
運動量の目安は、30分以上の運動を週2回以上行うのが理想的です。ウォーキングや軽いジョギングなど、無理のない範囲で行いましょう。一方、筋トレや長距離マラソンなど激しすぎる運動は、筋肉を疲労させ体重減少を促してしまう場合もあるため、おすすめできません。自分に合った適度な範囲で運動を取り入れましょう。
②栄養バランスのよい食事を心がける
体重減少を防ぐ対策としては、栄養バランスのよい食事も大切です。高齢者が食べ物を食べているのに体重が減っている原因には、知らず知らずのうちに栄養不良になっていることもあります。食事量が減った中でも、必要な栄養素はバランスよくしっかりと摂ることが大切です。
栄養バランスのよい食事の目安は、主食・主菜・副菜を揃えた一汁三菜の食事です。特に、エネルギー源となる炭水化物や体を作るもととなる肉や魚などのたんぱく質は、意識して摂るようにしましょう。
毎食バランスよく食べるのが難しい場合は、1日の中で不足しないよう調整することもポイントです。
③食べたいときに食べられるようにする
規則正しい食生活が大切なことは確かですが、食欲がないときや食べたくないときに無理して食べる必要はありません。無理をすることで体の負担になったり、食べることがストレスになってしまうこともあります。
体重減少が起こっている場合は、食べたいときに食べられるようにしましょう。例えば、食事の時間に食べられなかったご飯をおにぎりにして保管したり、冷凍食をストックしておくなど食べたいときに食べられる工夫をしておきましょう。
④楽しく食べられる環境を作る
高齢者では、孤食による食欲低下も問題になります。食事の際には楽しく食べられる環境を作ることも重要です。たまには外食で好きな物を食べたり、家族や友人と食卓を囲む機会を作るなど食欲のわく工夫をしてみてください。
高齢者が食べてるのに体重が減少する原因を理解して、適切な対応をとりましょう
この記事のまとめ
- 高齢者は食べ物を食べてるのに体重が減ることがあり注意が必要な場合がある
- 高齢者の体重減少の原因は、加齢によるもの、病気や薬の影響、ストレスなど多岐にわたる
- 高齢者の体重減少が体に及ぼす悪影響としては、体力や免疫力の低下、骨折、腹水や浮腫、嚥下障害などがある
- 高齢者が体重減少を防ぐ対策として、適度な運動を取り入れたりバランスのよい食事を心がけることが大切
- 食事は、食べられるときに食べたり食事を楽しめる環境づくりを行い、ストレスをためないようにすることが大切
高齢者における食べているのに体重が減少してしまう原因は、加齢によるものから病気の影響までさまざまあります。骨折や腹水、浮腫などのリスクや、口と舌の筋力が衰えて嚥下障害の症状にまでつながる恐れもあるため、高齢者の体重減少には十分注意する必要があります。
本記事で紹介した体重減少の原因や対処法を参考に、高齢者でも食事が楽しめるような環境作りを行って体重を上手く管理しましょう。