高齢者が筋肉をつけるための食事|食事のポイントやおすすめのレシピをご紹介
高齢になると体力が落ち、筋肉もつきにくくなります。しかし、高齢者の筋力低下は要介護や寝たきり状態になるリスクを高めます。本記事では、高齢者が筋肉をつけるための食事について解説します。おすすめの食材や食事のポイントも紹介しますので、運動と合わせて生活習慣の改善の参考にしてみてください。
武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科卒業。
管理栄養士として病院に勤務し、患者様の栄養管理及び栄養指導に従事。
糖尿病患者や腎臓病患者を中心に、病状の進行を防ぐための食事指導を行う。食事と健康、美容に関する記事を中心に管理栄養士ライターとして活動中。
高齢者が筋肉をつけた方がよい理由
高齢者は筋肉量が増えることにより基礎代謝の向上、血流の改善、活動エネルギー量の増加などが期待できます。また、強い筋肉をつけておくことで転倒を予防したり、生活の質を維持したりすることができます。そのような点から、高齢者も筋肉をつけた方がよいと考えられます。
筋力低下が生活の質を下げる
加齢などにより全身の筋肉量や筋力の低下が原因で身体機能が低下する状態を「サルコペニア」といいます。サルコペニアになると、歩く・立ち上がるなどの日常生活の動作が難しくなったり、介護が必要になるなど、生活の質が下がるだけでなく病気に近い状態となることもあります。
サルコペニアにならないためには、適度に筋肉をつけて活動量を保つことが大切です。高齢者になると体力の低下から身体を動かすことを敬遠しがちですが、生活の質を保ち健康を維持するためにも適度な運動と適切な食事を心がけて筋肉をつけましょう。
生活習慣病の予防にも役立つ
高齢者が筋肉をつけるために運動や食事改善を行うことは、糖代謝や脂質代謝を改善することにも効果があります。さらに、筋肉に適度な負荷をかけることは血圧低下や柔軟性のある血管の維持にも効果的です。筋力をつけることは、体力の維持だけでなく、糖尿病や脂質異常症、動脈硬化など生活習慣病の予防や健康増進につながります。
高齢者が筋肉をつけるための食事のポイント
高齢者が筋肉をつけるためには、日常の食事から筋肉を意識した内容にすることが大切です。ここでは、高齢者が筋肉をつけるための食事のポイントを紹介します。
良質なたんぱく質をしっかり摂る
たんぱく質は、筋肉をつける上で最も大切な栄養素です。筋肉以外に血液や骨などの構成成分でもあるため、食事から良質なたんぱく質を摂ることが重要です。
体内で合成できない「必須アミノ酸」
たんぱく質は、20種類以上のアミノ酸から合成されています。その中でも、体内で合成できないアミノ酸のことを「必須アミノ酸」と呼び、9種類あります。
必須アミノ酸の中でも、強い筋肉の維持に重要な役割を果たしているのがバリン、ロイシン、イソロイシンの3種類のアミノ酸です。とくに、ロイシンには運動後の筋肉を成長、修復させたり、強化する作用があります。
ロイシンを多く含む食べ物
- 動物性たんぱく質:牛肉、鶏肉、レバー、マグロ赤身、アジ、サケ、カツオ
- 乳製品
- 卵
- 大豆製品
ロイシンを多く含む食べ物は動物性たんぱく質の食品に多いため、これらを摂ることで他のアミノ酸も同時にバランスよく摂取することが可能です。食事量の少ない高齢者は、量より質を意識し、良質なたんぱく質が含まれている食べ物を選んで摂るようにしましょう。
エネルギーが不足しないようにする
私たちの身体は、活動に必要なエネルギーが不足すると筋肉や脂肪を壊してエネルギーを作り出します。これは生きるために必要な機能ですが、筋肉量を減少させる原因にもなります。そのため、エネルギーが不足しないように注意しましょう。
高齢者でエネルギーが不足するのは、食事量の減少が大きな原因です。食事だけで必要なエネルギーが満たせない場合には、食事以外に補食を取り入れるなどの方法でエネルギーが不足しないように補給しましょう。
運動後のタイミングでたんぱく質を摂る
高齢者が筋肉をつけるためにたんぱく質を摂取する際、運動後のタイミングで摂取するのが効果的な方法です。筋肉は運動によって疲労し、回復する際にアミノ酸を必要とします。このタイミングでたんぱく質を補給することで、筋肉の回復がスムーズに行われます。
筋肉を回復させて強い筋肉を作るには、運動後45分以内のたんぱく質摂取が理想的とされています。高齢者が筋肉を作るためには、ただたんぱく質を摂るだけでなくタイミングも意識して摂るようにしましょう。
食事は1日3食食べる
食事を抜くと必要なエネルギーや栄養素が不足し、身体はたんぱく質を壊してエネルギーを作り出そうとします。せっかく運動をして身体を鍛えても、食事量が不足することで運動の効果を筋肉に反映させることができません。
加えて、高齢者は、エネルギー不足と低栄養が健康を害する原因となりやすいため、注意しましょう。食事はできる限り欠食せずに、1日3食食べましょう。3食が無理な場合は食事と食事の間に補食を取り入れ、不足する栄養素を補う方法もおすすめです。
栄養バランスの整った食事を摂る
高齢者が筋肉をつけるには、主食、主菜、副菜の揃ったバランスのよい食事を摂ることも大切です。ご飯やパンなどの主食は、活動のエネルギー源になる食べ物です。主菜は肉や魚などたんぱく質を多く含む食べ物で、筋肉をつけるために欠かせません。さらに、副菜には体の機能を調整するビタミンやミネラルが含まれています。
栄養バランスのよい食事を摂ることは、強い筋肉を作り維持するための基本です。運動だけに限らず、食事でも筋肉を意識して健康的な食生活を送りましょう。
高齢者が筋肉をつけるためにおすすめのレシピ
豆腐を加えて柔らかくした高齢者でも食べやすいハンバーグです。鶏ひき肉、豆腐、卵とたんぱく質源となる食べ物が入り、筋肉作りに効果的なメニューです。
柔らか豆腐ハンバーグ
豆腐を加えて高齢者でも食べやすい柔らかなハンバーグです。鶏ひき肉、豆腐、卵とたんぱく質源となる食べ物が入り、筋肉作りに効果的なメニューです。
材料(2人分)
- 豆腐 160g
- 鶏ひき肉 120g
- 玉ねぎ 1/2個
- (A)片栗粉 大さじ1/2
- (A)卵 1個
- (A)塩 1g
- 油 小さじ1
- 大根おろし 適量
- ポン酢 適量
レシピ
- 豆腐をキッチンペーパーで包み、水切りする
- 玉ねぎはみじん切りし、茶色くなるまでフライパンで炒めたら粗熱をとる
- 鶏ひき肉に豆腐、玉ねぎを合わせ(A)の材料も加えて混ぜ合わせる
- 3を成形し、油を敷いたフライパンで焼き目を付けた後、ふたをして5分ほど蒸し焼きにする
- 大根おろしにポン酢を合わせた和風ソースをかけたら完成
鶏むね肉とキャベツの蒸し煮
低脂質で高たんぱくな鶏むね肉は、筋肉を成長させるのに非常に適した食品です。蒸し煮にすることで柔らかくなるため、高齢者でも食べやすいメニューです。食物繊維が豊富なキャベツも蒸すことでカサが減り、たくさん食べることができます。
材料(2人分)
- 鶏むね肉 1枚
- キャベツ 200g
- 酒 大さじ1
- 片栗粉 適量
- オリーブオイル 大さじ1
- 白だし 大さじ1
- (A)梅干し 1個
- (A)はちみつ 大さじ1
- (A)白だし 大さじ1
- (A)酢 大さじ1
レシピ
- 鶏肉は一口大、キャベツはざく切りにする
- 鶏肉に片栗粉をまぶす
- フライパンにオリーブオイルを敷き、その上にキャベツと鶏むね肉をのせる
- 酒を振りかけて蓋をし、弱火で火を通す
- 火が通ったら白だしを回しかけて味をなじませる
- (A)を混ぜ合わせてタレを作ったら完成
揚げないサーモンフライ
鮭には、強い抗酸化作用のある「アスタキサンチン」が豊富に含まれています。アスタキサンチンは筋肉の疲労回復にも効果的で、食事から取り入れることで筋肉が疲れにくくなり、疲労からの回復も早くなると言われています。このレシピは揚げ焼きにすることでカロリーを抑えているため、高齢者にもおすすめです。
材料(2人分)
- 鮭 2切れ(サーモンの刺身でも可)
- 塩コショウ 少々
- パン粉 適量
- 油 適量
- (A)小麦粉 大さじ3
- (A)水 大さじ4
レシピ
- 鮭に塩コショウを振り、5分ほど置いてキッチンペーパーで水気をふき取る
- (A)を混ぜ合わせてバッター液を作る
- 1の鮭をバッター液に浸し、パン粉をまぶす
- フライパンに少し多めの油を熱し、揚げ焼きにしてきつね色になったら完成
簡単ローストビーフ
高たんぱく質でミネラル豊富な牛肉も、筋肉をつけるのに有効な食材です。高齢者には、特に脂質の少ない赤身やヒレなどの部位がおすすめです。サーロイン、カルビなどの脂質の多い部位は避けましょう。今回のローストビーフは赤身肉を使ったレシピで、作り置きも可能なので、ぜひ試してみてください。
材料(2人分)
- 牛かたまり肉 200g
- にんにく 2片
- 塩コショウ 少々
- (A)しょうゆ 100ml
- (A)みりん 100ml
- (A)酒 100ml
レシピ
- にんにくをすり下ろしておく
- 広げたラップの上に牛肉を置き、全体にまんべんなく塩コショウを振りニンニクを刷り込む
- 2の牛肉をラップに包んで10分ほど置き、味を染み込ませる
- フライパンに油を熱し、牛肉の6面全てを焼いていく(この時、中心まで火を通すのではなく、表面に焼き色がつく程度にする)
- 全面に焼き色がついたら、ラップで包み、さらにアルミホイルで包んだ状態で30分以上置く
- 牛肉を焼いたフライパンで(A)を煮立たせてソースを作ったら完成
高齢者が筋肉をつけるための注意点
高齢者が筋肉をつけるためには食事と運動が大切ですが、これらを生活にとり入れる上で注意点もあります。無理な食事制限や激しい運動は健康を害することもあるため、正しい方法でとり入れるようにしましょう。
空腹の状態で運動しない
空腹時は体内のアミノ酸が不足した状態です。この状態で運動をすると、筋肉を増やすよりも筋肉を分解してエネルギーを作り出す働きの方が大きくなります。これでは筋肉をつけるどころか逆効果となり、筋肉を減らしてしまいます。運動は食後30分~1時間後くらいのタイミングで行うようにしましょう。
腎機能の低下した方はたんぱく質の摂り過ぎに注意
たんぱく質は筋肉をつけるために重要な栄養素であるため、適量の摂取が必要となります。しかし、腎機能の低下した方は、たんぱく質の摂り過ぎに注意が必要です。食事から摂取したたんぱく質は代謝されて筋肉やエネルギーになりますが、その際にできる代謝産物は腎臓から排出されます。
腎機能が低下している場合、過剰なたんぱく質摂取は腎臓の負担となり持病を悪化させる可能性もあるため、摂り過ぎに注意しましょう。
激しすぎる運動をしない
筋肉をつけるための運動習慣は大切ですが、激しすぎる運動は身体に負担をかけ、場合によっては狭心症や心筋梗塞の引き金となる場合もあります。高齢者におすすめの運動は、1日20分程度の散歩やウォーキング、ストレッチや自宅でできる体操などです。無理せずに楽しめる方法で身体を動かすようにしましょう。
筋肉をつけるために栄養バランスのよい食事を摂りましょう
この記事のまとめ
- 高齢者は筋肉が減少すると生活の質が低下し、病気のリスクも上がるため筋肉をつける必要がある
- たんぱく質は筋肉を作るために最も大切な栄養素で、特に必須アミノ酸を含む食品が効果的
- 高齢者が筋肉をつけるためには、たんぱく質だけでなく栄養バランスの整った食事を摂ることが大切
- 運動後のタイミングでたんぱく質を摂ると、筋肉の回復や成長に役立つ
- 運動は空腹時を避け、高齢者にも無理のない有酸素運動やストレッチなどで軽く身体を動かす程度が好ましい
高齢者は身体機能の低下や食事量の減少によって、筋肉量が減るリスクがあります。しかし、適度な運動を行い、食事を工夫することで、筋肉を維持し成長させることができます。今回紹介したメニューや食事のポイント、注意点を参考に、筋肉をつける生活習慣を取り入れてみてください。