閉じる メニュー
特集

【ひとたび編集部が選ぶエンディング映画10選 01】楢山節考 〜生への執着の理由〜

【ひとたび編集部が選ぶエンディング映画10選 01】楢山節考 〜生への執着の理由〜

今や日本は、超高齢化社会に突入し、誰もが身近な人との別れや自らの人生のエンディングを考える必要がある世の中になっています。 そこでひとたびでは「編集部が選ぶエンディング映画10選」と題し、エンディングを題材とした映画を紹介していきます。映画を見ながら、これまでの人生を振り返りつつ家族や自分のエンディング、生きるということについて考えてみませんか?

※商品PRを含む記事です。当メディアはAmazonアソシエイトを始めとした各種アフィリエイトプログラムに参加しています。当サービスの記事で紹介している商品を購入すると、売上の一部が弊社に還元されます。
東京博善のお葬式 0120-506-044 24時間365日・通話無料 お気軽にお問い合わせください 事前相談・お急ぎの方もこちらから!

第1回は、邦画界の巨匠 今村昌平監督の映画「楢山節考」(ならやまぶしこう)です。原作は、1957年発表の深沢七郎の姥捨て伝説を題材とした同名小説です。
この映画は1983年に公開された40年前の作品ですが、あのカンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞し、今村昌平監督の代表作の一つとして挙げられることの多い作品です。いま観ると古さをかなり感じてしまいますが、現代映画では表現することの出来ないような衝撃度のかなり高い作品と言えるでしょう。
それでも、何故この映画が今なお語り継がれる映画なのかを掘り下げていきたいと思います。

あらすじ

※本記事にはネタバレ内容を含みます。あらかじめご了承の上、お読みください。

山奥に存在する寒村では食糧不足のために「結婚し、子孫を残せるのは長男だけ」「食料を盗むのは重罪」「70歳を迎えた老人は『楢山参り』に出なければならない」という厳しい掟が定められていました。

来年70歳を迎える老婆おりんの家族はそれぞれ問題を抱えており、長男の辰平は事故で亡くなり、次男の利助は村の人から罵られている状況。おりん自身も旦那が生まれたばかりの女の子を売った上に、自身の母親の楢山参りから逃げた村の恥さらしとされていました。

見どころ

死を受け入れるか否か

この村の掟の一つである『楢山参り』とは、息子の背中に70歳を迎えた親がおぶられて山頂を目指し、そこで置き去りにすることです。この話は歩けなくなった老人を奥山に捨てる慣習「姥捨山伝説」がモチーフになっています。

今まで育ててくれた親を70歳になったら捨てなければならないというのは過酷な掟ですが、それ以上に村の食糧問題は厳しく、皆が少ない食事を食べられるように年老いた者を見捨てる社会です。70歳を迎えた者でも、その行動を名誉と捉えている者、恐怖で泣き出す者と分かれています。また、息子も親を捨てたくない者、捨ててしまいたい者と分かれており、どちらの立場だろうとこの村にいることで、常に「死」の選択に迫られることになります。

こういった「死」が身近にあることで、生への執着が生まれているのでしょう。今まで述べてきた「生への執着」は死ぬ期限が分かっているからこそ、必死で生き抜こうとする様なのかもしれません。そして、この映画は公開から40年経っていても、現代社会にも通ずるものがあります。

今の日本はまさに高齢化社会で、65歳以上の人口割合は28%、2065年には38%に達すると言われています。また、今後も人口増が続く世界情勢からも食料難に陥る可能性もあります。そうなった時、まさに映画の村のような状態が待ち受けているかもしれません。その時、あなたならば近親者の死を受け入れて生きる事を楽しむでしょうか。それとも、死を選択することが怖くて生きることを楽しめなくなってしまうのでしょうか。そういった点でも自分の死生観を確認できる映画だと思います。

動物としての生への執着

映画的な盛り上がりは存在せずに、とにかくリアリティある生活がそこに映し出されていました。ポルノ映画とも思えるほど、村人の性交渉のシーンが何回も出てきます。しかし、そこにはエロさやいやらしさは一切ありません。ビックリするくらい野性的です。荒々しく痛々しい。そして、画面から伝わってくるのは汗臭さでした。こんな性交渉シーンは見たことが有りません

そして、シーン間で動物や昆虫の交尾シーンが映されていきます。人間の交尾も動物や昆虫の交尾も同等として扱われている気がするほどです。

合間合間にこういったシーンが挟まれており、心がどんどんと擦り減らされていく感覚でした。こういった野生生物の交尾シーンによって作品のテーマである「死生観」の”生”が強く描かれています。野性的な生をまざまざと見せつけられるのは、まさに人も含めて動物としてごく自然な生への執着を強く想起させます。

観客自身の生への執着心を問いている

先程も述べましたが、映画として見ると前半1時間程は大きな出来事はありません。その後の1時間でそれなりに話は進み、見せ場もあるので十分楽しめますが、それでも導入部が楽しくないと飽きてしまうものです。しかし、この作品はドキュメンタリーと捉えると前半部も非常に見応えが出てきます。

それこそ、現代社会ではあまり見ることのない格好や文化、そして聞き取れない方言にどこか日本ではない異世界を見ている感覚になります。異文化が舞台の映画で、その村ならではの掟に縛られて自由がなさそうに感じますが、村人は貧しいながらも、生き生きとしています。そんな違和感が最初の1時間で視聴者には刷り込まれていきます。

前半の1時間は共感を拒否し、村の異常性を強調させます。その後の1時間はドラマ性のある展開もありますが、そこは本来共感し、登場人物の感情が自分のことのように感じられ、泣いたり辛くなったりするものでしょう。

本作ではそういった感情は湧かず、淡々とクライマックスを見せられた気がします。きっと、感情を持たせないように緻密に脚本を練られているのでしょう。それが監督の狙いでもあり、「生きることに執着した村」をドキュメンタリー風に見せることで、村の異常性を感じてもらおうとしていたのではないでしょうか。

人の異常なまでの「食べること」「性」への執着は観客の心のどこかに嫌悪感を抱かせるようなものですが、それは普段の我々も自然と求めていることです。「自分とは違う人たち」と軽蔑している観客の姿を見て、監督は笑っていたのではないでしょうか。

まとめ

パルム・ドールを受賞した作品ということで、きっと心に残る映画だろうと考えていましたが、インパクトが強すぎて、一生忘れることのない映画になったと思います。生に対しての強い渇望が伝わるとともに、その真逆にある死についてもしっかり描かれていました。

公開時から時がたち、超高齢化社会に達した今だからこそ、映画の題材がこの時代に突き刺さります。不快で誰もが突かれたくない場所を、思い切り押してきたような映画でパルム・ドールを受賞したのも納得です。

決して気軽に人に薦められる映画でも、気楽に見る映画でもありませんが、この映画体験は強烈で、他のどの映画を見ても経験出来ないとも思えます。人生観を見直す経験をしたいという方は是非見るべき映画と言えます。

作品情報

公開年

1983年

監督

今村昌平

キャスト

緒方拳

坂本スミ子

左とん平

あき竹城

倍賞美津子
清川虹子
辰巳柳太郎

楢山節考 [DVD]
SHARE この記事をSNSでシェアする