【ひとたび編集部が選ぶシニアが活躍する映画10選 01】ドライビング・MISS・デイジー〜無関心という問題〜
ひとたびの「シニアが活躍する映画10選」では、シニア世代が主役として活躍する映画を紹介します。今回は、人種差別に負けずに友情を育んだアメリカの老人2人を描いた映画です。ベテラン俳優2人の至高の演技や心温まるエピソードの数々、一度聞いたら忘れられないキャッチーな音楽など印象的な部分が多い名作です。
第一回は1989年公開の「ドライビング・MISS・デイジー」です。
こちらの映画は、名優モーガン・フリーマンの代表作のひとつです。映画公開当時、既に50歳を超えていた彼の熟練されていながらフレッシュでもある演技は一見の価値があります。この作品で彼が輝いた後に、「ショーシャンクの空に」や「セブン」といった名作が出来上がったのかと思うと感慨深いものがあります。
また、主演のジェシカ・タンディはこの作品でアカデミー賞主演女優賞を受賞しており、アカデミー賞史上最高齢の80歳での受賞と未だに歴史に名を残しています。そんな2人の最高の演技で描かれた25年にも及ぶ友情が、この作品の見どころの一つです。
ちなみに、この作品はアカデミー賞で主演女優賞以外にも8部門ノミネート4部門受賞という快挙を達成しています。惜しくも受賞を逃しましたが、モーガン・フリーマンも助演男優賞でノミネートされていました。ヒットしにくいジャンルでありながらも1989年全米年間興収では9位を記録し、名実ともにその年を代表する映画です。
早速、いつまでも語り継がれる永遠の名作を紹介していきます。
あらすじ
※本記事にはネタバレ内容を含みます。あらかじめご了承の上、お読みください。
元教師であるユダヤ人のデイジー(ジェシカ・タンディ)は運転が下手で、その日も高級車を壊してしまいました。それを見かねた息子のブーリー(ダン・エイクロイド)は、初老の黒人ホーク(モーガン・フリーマン)を運転手として雇いました。
最初は息子のおせっかいに嫌気が差してホークを相手にしていなかったのですが、実直でユーモラスなホークの誘いに折れ、車に乗ることに。結局、その日以来どこに行くにもホークの運転する車で移動することになりました。
ある日、他の州に住む90歳の兄の誕生日パーティーに参加するため2人は出かけましたが、その道中警官2人に職務質問されます。その対応にデイジーは未だ地方に残る黒人差別を感じるとともに、ユダヤ人である自分も偏見の目で見られたことにショックを受けてしまいます。
また別のある日、いつもの習慣で礼拝に向かおうとしましたが、道路が大渋滞でたどり着けません。しかし、話を聞くとシナゴーク(ユダヤ教の礼拝堂)が爆破されたことがわかりました。ユダヤ人への差別に心痛めたデイジーを慰めるべく、ホークが自らの過去を語ります。友人の父親が黒人というだけで無実の罪で吊るし首になったという幼少期の話でした。デイジーはホークの悲惨な過去を知り、涙しました。
デイジーはキング牧師の集会に行くためにブーリーを誘いますが、地元の有権者たちの目を恐れて断られます。仕方なく当日ホークを誘いましたがそれも断られたため、一人でキング牧師の集会に出向いて、「良心ある人々が差別に対して無関心でいることこそが問題だ」というスピーチを聞きました。
月日は経ち、デイジーは認知症となって我を忘れてしまいましたが、ホークが介抱していると「あなたが一番の友達だ」とデイジーは伝えます。
結局デイジーは老人ホームで暮らし始め、疎遠だったホークもブーリーに連れられ久しぶりにデイジーに会いました。2人は初めて会った時と同じような会話をして、そのやり取りを楽しむところで映画は幕を閉じます。
みどころ
25年に及ぶ友情
あらすじではいくつかのエピソードを並べましたが、劇中ではもっと多くのエピソードが描かれています。例えば、字が読めないホークにデイジーが字の読み方を教えたり、ホークが旅行の運転中に小便をしたいと伝え「さっきのガソリンスタンドですればいいじゃないか」と怒ると、「黒人はトイレが使えない」と差別を感じさせるシーンがあったりと、様々なエピソードが淡々と描かれています。
どれも映画的な見せ場にすることなく、あくまで2人の日常の一部を切り取ったように演出されています。
最初はホークを拒んでいたデイジーも、途中からホーク無しでは生活が出来ないようになっていき、最後には息子にホークを認める発言をしていました。ホークの裏表ない人柄のおかげで、頑固者で有名だったデイジーも心を開いたのでしょう。人との出会い方は様々ですが、その後の対応や人となりで関係性は変えることができると謳っているように感じました。また自分自身もこれから出会う人に対してホークのように実直な接し方をすれば、深い関係になれるかもしれないとポジティブな気持ちになれる映画です。
無関心をアップデート
先述したように、本作は25年間に及ぶ様々なエピソードが積み重なった話となっています。そのエピソードの裏には、必ずといっていいほど人種差別を受けた側の悲しい歴史が見え隠れしています。
例えば、ホークが十分な教育を受けられなかったことや、何かあれば疑われるのはいつも黒人であることなどがエピソードの中で明かされます。
ほのぼのした雰囲気の中で急に悲しい過去を打ち明けられることが多く、非常に巧みな演出だと感じました。常に緊張感をもたすのではなく、緩急をつけることでより伝えたいメッセージが受け取りやすくなっています。
その中でもキング牧師のエピソードが特に優れており、「良心ある人々が差別に対して無関心でいることこそが問題だ」というスピーチが印象的です。デイジーもホークに対して無意識に差別する描写があったり、人種差別に無知な発言をしたりなど、差別に無関心な人間だったことがここで理解できます。そのスピーチを我関せずとした雰囲気で聞くデイジーの姿も印象的でした。
インターネットや報道で多くの情報が飛び回っていますが、自分には関係がないと思っている人がほとんどだと思います。全ての情報に関心を持つことは難しいものの、身近な問題には関心を持って自分なりの知識を得ることが大事なのではないでしょうか。それはいくつになってもできることであり、常に自分をアップデートする気持ちで日々生きていこうと思わせてくれたシーンでした。
アカデミー賞を受賞した匠な技術
本作では、アカデミー賞に受賞・ノミネートされた2人の演技はもちろん、息子や家政婦などメインキャラクター以外の演技も楽しめます。
また、25年の時間を表すために歩き方や髪型、歳をとった際のヘアメイクも工夫がされていて、その技術が非常に素晴らしいです。その証拠に、本作はアカデミー賞メイクアップ賞も受賞しています。
些細ですがしっかりと年齢により変わる部分は変わっており、そういった細かな技術が映画のリアルさを裏で支えていたのだと感じました。劇中では時代背景や年齢がセリフで説明的に明かされるのではなく、演者のメイクなどで明示されており、非常に難易度の高い演出に挑戦しているのが分かります。
演技が素晴らしい点はもちろん、細かな部分での魅せ方も凝っており芸術性も非常に高い作品です。
まとめ
険悪だった老人2人が友情を深めるといった温かな映画でありながら、その裏には痛烈なメッセージが込められており、見た人全員に差別について考えてもらおうとする制作陣の意図が強く感じられます。
映画としてとても巧い作品で、完成度も高い作品です。30年ほど前の映画ですが、今の日本にも通じる部分は多くあり見やすい作品だと思います。この機会にぜひご鑑賞ください。
公開年 |
1989年 |
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監督 |
ブルース・ベレスフォード |
キャスト |
モーガン・フリーマン |