司法書士に相続手続きを依頼した際の費用相場は?メリット・デメリットも解説
相続手続きを自分で進めることは可能ですが、実際は入手しなくてはいけない書類が多く、専門知識も必要になるためかなり大変です。限られた時間で正確、かつストレスなく手続きを終えるためにも、司法書士への依頼を検討しましょう。本記事では、依頼にあたっての費用相場とメリット・デメリットを解説します。
司法書士に相続手続きを依頼した際の費用相場は?
まずは、司法書士に相続手続きを依頼した際の費用について解説します。
何をどれだけ頼むかで金額が異なる
結論からいうと、何をどれだけ頼むかによって金額は異なります。2024年現在、相続手続きを含め、司法書士に業務を依頼する場合の標準報酬は存在しません。2003年に報酬基準が廃止され、現在は各司法書士が独自に報酬を決められるようになっています。ただし、司法書士はその報酬額や算定方法・諸費用を明示し、それを依頼者に説明する義務があります。
司法書士に所有権移転登記を依頼した場合の費用例
相続手続きを司法書士に依頼する場合の相場として、不動産の所有権が移ったことを公示する「所有権移転登記」を依頼した場合の費用例を紹介します。
日本司法書士連合会では、2014年に加盟する司法書士に対し「報酬に関するアンケート」を行いました。その中で、相続を原因とする土地1筆及び建物1棟(固定資産評価額の合計1,000万円)の所有権移転登記手続を受任した場合の相場(報酬の平均値)が示されています。
相続を原因とする土地1筆及び建物1棟(固定資産評価額の合計1,000万円)の所有権移転登記手続を受任した場合の報酬の平均値 | |||
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地区 | 低額者10%の平均 | 全体の平均値 | 高額者10%の平均 |
北海道地区 | 28,320円 | 60,983円 | 97,843円 |
東北地区 | 35,457円 | 60,667円 | 99,733円 |
関東地区 | 39,212円 | 65,800円 | 103,350円 |
中部地区 | 37,949円 | 63,470円 | 116,580円 |
近畿地区 | 45,842円 | 78,326円 | 118,734円 |
中国地区 | 37,037円 | 65,670円 | 111,096円 |
四国地区 | 40,683円 | 65,578円 | 99,947円 |
九州地区 | 38,021円 | 62,281円 | 96,892円 |
※法定相続人は3名で,うち1名が単独相続した場合
具体的な費用は個々の状況により異なりますが、アンケートの前提と近い事例だとしたら、安ければ3万円程度、高くても12万円程度といったところです。
司法書士に依頼できる相続手続き
一口に相続手続きといっても、生前の遺言書の作成から相続発生後の相続税納税、不動産の名義変更、遺産分割へのアドバイスやトラブルの相談・解決に至るまでさまざまな種類の手続きが含まれます。
ただし、すべての種類の相続手続きを司法書士に依頼できるわけではない点に注意が必要です。ここでは、司法書士に依頼できる相続手続きの例を紹介します。
①相続人調査
相続人調査とは、亡くなった人(被相続人)にどのような相続人がいるかを戸籍で確認することです。被相続人が所有していた財産のことを相続財産といいますが、相続が発生すると相続人全員の共有財産になります。
そして、共有財産をどのように分けるかは遺産分割協議を通じて話し合って決めますが、相続人になる人が全員で話し合いをしないと法的に無効になり、協議をやり直さないといけません。
つまり、有効な遺産分割協議にするためには相続人調査が必要になりますが、具体的には以下の手順で行われます。
相続人調査の手順
- 被相続人の戸籍謄本等、情報がわかる証明書を本籍地の役場で取得する
- 取得した戸籍の情報を元に、前本籍地の戸籍や、関係者の戸籍等を入手する
- 相続人全員を確認できたら、入手した情報を元に相続人の関係図を作る
これらの手続きは自分で行うこともできますが、入手しなくてはいけない書類が多く、煩雑になりがちであるため、司法書士に依頼するほうが現実的です。
②相続財産の選択、相続財産調査
相続財産調査とは、被相続人の財産の有無を精査し、評価額を確定させることを指します。相続財産調査を行う目的は以下の通りです。
相続財産調査の目的
- 遺産分割協議の参考にする
- 名義変更、解約手続きのもれを防止する
- 相続税の申告を忘れないようにする
- 相続放棄を検討する際の参考にする
なお、具体的な調査方法は財産の種類によっても異なります。たとえば、預貯金の場合は通帳やキャッシュカードをもとに金融機関を調べ、残高証明書を取得するのが一般的です。
③不動産の相続登記に関する手続き
相続登記とは、持ち家など被相続人が所有していた不動産を引き継いだ場合に、名義変更を行うことを指します。たとえば、親が住んでいた家を子供が引き継ぐことになった場合、名義も子供に変更しなくてはいけません。
相続登記の手続きは自分でもできますが煩雑になりがちなため、司法書士に依頼するのが一般的です。なお、基本的な流れは以下の通りです。
相続登記の基本的な流れ
- 相続する不動産を確認する
- 遺言書または遺産分割協議で承継者を決める
- 必要な書類を入手・作成する
- 管轄の法務局で申請する
④遺言に関する手続き
司法書士に遺言に関する手続きを依頼することも可能です。特に、生前から遺言書の作成について相談しておけば、いざ相続が発生したときにも、遺族は落ち着いて手続きを進められるというメリットがあります。
遺言書の作成の他、司法書士に依頼できる遺言に関する手続きの種類は以下の通りです。
司法書士に依頼できる遺言に関する手続きの種類
- 遺言執行者への就任・業務遂行
- 遺言書の検認申立書類作成
- 公正証書遺言を作成する際の証人としての依頼
⑤家族信託、成年後見
家族信託や成年後見など、生前からの相続対策および必要な手続きについても司法書士に相談できます。
家族信託 | 認知症を発症したなどの理由で本人の判断力が低下したときに備え、事前に家族など信頼できる第三者に財産の管理・運用・処分を任せる契約を結ぶ制度 | ||
成年後見 | 認知症を発症したなどの理由で本人の判断力が低下した場合に備え、事前に任意後見契約を結び、指定された任意後見人が本人の生活を援助する制度 |
なお、契約を結ぶにあたっては、契約書の作成や不動産登記など一連の手続きを行わなくてはいけません。司法書士はこれらの手続きにも対応できるため、興味がある方は一度相談してみましょう。
司法書士に相続手続きを依頼するメリット
司法書士に相続手続きを依頼することにはさまざまなメリットがあります。ここでは具体的なメリットとして、以下の三つを解説します。
忙しくても手続きをスピーディに進められる
一つ目のメリットは「相続人が忙しくても手続きをスピーディに進められる」ことです。たとえば、相続人調査にあたっては戸籍謄本を用意しなくてはいけません。しかし、誰の戸籍謄本を用意すべきか、そもそも戸籍謄本をどうやって取得するのか分からないこともあります。
また、戸籍謄本は市区町村役場で取得しますがほぼ平日しか開庁していないため、自分で揃えようとすると仕事を休まなくてはならない場合もあるでしょう。しかし、司法書士にこれらの手続きを依頼すれば、自分は仕事を休む必要がない上に、必要な書類を的確に入手してくれます。
誰かひとりに負担が集中しない
二つ目のメリットは「相続人の誰かひとりに負担が集中しない」ことです。司法書士などの専門家に依頼しなくても、相続人が全員で手続きを進めることは理論上可能です。ただし、実際には誰かひとりが先導して動くことになりがちであるため、負担が集中して不満を抱くことでトラブルが起きる可能性も出てきます。
司法書士に依頼すれば自分たちで進めなくてはいけない手続きを大幅に減らせるため、相続人の負担と不満を軽減できるでしょう。
中立の第三者として相談できる
三つ目のメリットは「中立の第三者として相談できる」ことです。たとえば、遺産分割協議を進めるにしても、相続人が複数人いる場合は互いが自分の利益を主張し、話し合いがなかなかまとまらないことが考えられます。
司法書士に依頼すれば中立の第三者としてアドバイスを求められることから、話し合いがまとまりやすくなるはずです。
司法書士に相続手続きを依頼するデメリット
司法書士に相続手続きを依頼することにはメリットがある一方、デメリットもあることに注意しなくてはいけません。具体的なデメリットとして以下の二つを解説します。
費用がかかる
一つ目のデメリットは「費用がかかる」ことです。司法書士に依頼するにあたっては、相応の費用がかかります。できるだけ安く抑えるに越したことはありませんが、司法書士との相性も大切なポイントとなるため、しっかりと見極めましょう。
また、司法書士の報酬基準は廃止されている以上、費用の公的な相場は存在しないに等しいです。依頼する際は数名の司法書士から見積もりを取り、あまりに高い・安い場合は理由を確認しておきましょう。
依頼できない業務もある
二つ目のデメリットは「依頼できない業務もある」ことです。前述したように、すべての種類の相続手続きを司法書士に依頼できるわけではありません。
弁護士、税理士、行政書士など他の士業の独占業務となっている業務は、司法書士には依頼できないことから、別途相談が必要になることがデメリットです。
相続に限っていえば、以下の行為は司法書士に依頼することができないため、注意してください。
依頼できない業務 |
理由 |
---|---|
相続トラブルの仲裁 |
弁護士法上、弁護士以外が行ってはいけない行為(非弁行為)にあたるため(弁護士法第72条) |
相続税の申告 |
税理士法上、申告書を含めた税務書類の作成は税理士以外できないことになっているため(税理士法第2条第1項第2号) |
なお、他の士業の独占業務となっている相続手続きを依頼したい場合、司法書士に相談すれば提携先の専門家を紹介してくれることがあります。
司法書士を選ぶ際の四つのポイント
相続手続きを依頼する司法書士を選ぶ際のポイントとして、以下の四つを解説します。
①相続分野での実績があるか
まず、相続分野での実績があるかを確認しましょう。司法書士といっても、手掛ける分野はさまざまです。債務整理、外国人帰化申請手続きなど相続手続き以外の業務をメインとしている司法書士の場合、依頼自体を断られる場合があります。
また、引き受けてくれたとしても、思うように手続きを進めてもらえずに、満足できない結果に終わるかもしれません。相続手続きを頼みたい場合は、相続分野での実績がある司法書士であることを確認してから相談しましょう。
②対応は丁寧か
対応の丁寧さも、相続手続きを依頼する司法書士を選ぶ際のポイントになります。コミュニケーション上のストレスを減らすためにも、特に以下の点についてはしっかりと確認しておきましょう。
司法書士の対応でチェックすべきポイント
- 電話やメールの応対が丁寧かつ迅速か
- 質問したことに的確に答えてくれるか
③自宅や職場からアクセスしやすいか
司法書士の事務所が、自宅や職場からアクセスしやすい場所にあるかも確認しておきましょう。相続手続きにあたって必要になる打ち合わせや、書類を渡す際の利便性を考えると、アクセスのしやすさは重要になります。
ただし、近隣に司法書士の事務所がない場合や自分や家族の都合で外出が難しい場合は、オンライン相談や郵送での書類のやり取りに対応してくれることもあるため相談してみましょう。
④他の士業と連携しているか
司法書士を選ぶ際は、他の士業と連携しているかも重要です。前述したように、相続手続きの中には、司法書士に依頼できないものもあります。
相続税の申告のような司法書士に依頼できない業務を依頼したい場合、他の士業と連携していれば専門家を探しやすくなるため、事前に確認しておきましょう。
司法書士への依頼は費用も含めて総合的に検討しましょう
この記事のまとめ
- 司法書士に相続手続きを依頼した場合の費用は依頼内容により異なる
- 司法書士には相続人調査などさまざまな手続きを依頼できる
- 司法書士に相続手続きを依頼するメリットは迅速な手続きと負担の軽減ができること
- 司法書士に相続手続きを依頼する際は、相応の費用がかかる上に依頼できない業務もあることに注意
- 選ぶ際は、実績、対応の丁寧さ、アクセスの良さに着目する
司法書士に依頼するのは、手間が省け、ミスがなくなるという点で明らかにプラスになります。ただし、相応の費用はかかる上に、コミュニケーションが取りづらい司法書士だった場合、かえってストレスが溜まりかねないため注意が必要です。
費用も含め「この人になら頼んでも大丈夫そう」と思える司法書士を厳選し依頼することが重要になります。