認知症の予防におすすめの趣味は?効果がある理由や続けるコツも紹介
認知症の予防には、趣味活動がおすすめです。認知症になると日常生活にさまざまな影響を及ぼすため、いかに予防するかが非常に重要となります。本記事では、実際の研究でも認知症予防効果が認められている趣味活動について、続けるコツとともに紹介します。
東北公益文科大学卒業。その後、介護保険や障害者総合支援法に関する様々な在宅サービスや資格講座の講師を担当した。現在は社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームの生活相談員として、入居に関する相談に対応している。在宅・施設双方の業務に加えて実際に家族を介護した経験もある。高齢者介護分野のみならず、障がい者支援に関する制度にも明るい。
認知症とは
認知症とは疾病や傷害によって脳の認知機能が低下した状態のことで、原因疾患は100以上あるといわれています。機能不全となった脳の部位によって「記憶障害」「見当識障害」「失行・失認」「行動・心理症状」などが出現し、進行すると介護が必要になります。特に有名な認知症が、以下の4種類です。
4大認知症
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
内閣府の資料によると、2022年の65歳以上の高齢者のうち認知症の有病率は12.3%(443.2万人)、認知症予備軍と呼ばれるMCI(軽度認知障害)の有病率は15.5%(558.5万人)であると公表されています。つまり、高齢者全体の約72.2%は認知症にならずに過ごしているのです。
また、別の資料によればMCIから認知症に移行する人は年間10%~30%で、正常な状態から認知症になる人は年間1%~2%であると示されています。その一方で、5年後に38.5%がMCIから回復したことも分かっています。
つまり、できるだけ認知症予防に努めるとMCIから認知症に移行せず、脳の機能が回復する可能性があるのです。
趣味活動が認知症予防に効果がある理由
一般的に認知症を予防するためには、趣味を持つことが重要といわれており、介護現場でもレクリエーションの一環として取り入れられています。実は趣味活動が認知症予防に効果があることは、さまざまな研究によって実証されているのです。
例えば国立研究開発法人 国立医療長寿研究センターの「NILS-LSA」という研究では、余暇時間に趣味活動を選択した高齢者の「考える」「記憶する」「判断する」などの認知機能低下のリスクが下がっているという結果が出ました。つまり、趣味活動をすると、認知症予防につながる可能性があることが分かったのです。
趣味活動は認知症予防だけでなく、ストレス解消や「生活の質(QOL)」の向上も期待できます。特に仕事を退職して社会との交流が薄れ、自宅にいる時間が増えてしまっている人におすすめです。趣味によって楽しく認知症予防に取り組むことが、充実した生活につながるといえるでしょう。
認知症予防に有効な趣味活動|1人でもできる
ここからは、1人でもできる認知症予防におすすめの趣味を紹介します。
料理
料理は、1人でもできる認知症予防におすすめな趣味の一つです。料理を完成させるためには以下のように複雑な手順があり、頭も体も使う趣味であるためです。
料理をするための主な手順
- メニューを考える
- 食材や材料を決め、準備する(必要に応じて買い物も)
- 調理の段取りを考える
- 調理する(味を調える)
- 盛り付ける
- 片づける
食材を切る、混ぜる・こねる、加熱、調味などの複雑で細かい工程が脳に多くの刺激を与えるだけではありません。例えば友人や家族にふるまうことによって新たな交流の場となったりと、料理にはさまざまなメリットがあります。
パソコン
意外に感じられるかもしれませんが、パソコンを楽しむことも認知症予防としておすすめな趣味の一つです。アメリカ神経学会発行の医学専門誌「Neurology」オンライン版に、その研究成果が掲載されたことで話題になりました。
この調査は、思考や記憶力に問題のない平均年齢87歳の256名を対象に、各自さまざまな趣味活動に参加していただき、4年後の認知機能を検査するというものでした。その結果、週に5回~6回以上パソコンを楽しむことでMCI発症リスクが下がることが分かったのです。
例えば友人とメールで交流したり、デジカメで撮った家族写真をプリントアウトしたりと、パソコンは複雑な操作が求められます。キーボードやマウスの操作で頻繁に手先を動かす要素もあるため、脳の刺激となる効果が考えられます。
写真撮影
写真撮影も、1人でできる認知症予防におすすめの趣味です。写真を撮るために目的地まで移動したり、撮影するための段取りを考えたりすることは、体や脳の刺激となります。また、撮影した写真を思い出と共に振り返ることも「回想法」としての認知症予防効果があると考えられています。
有名な撮影スポットまで足を運ぶことは体力を使うため、ストレス解消や筋力低下抑制による介護予防効果も期待できるでしょう。写真を通じて新たな友人と出会ったり、家族と昔の写真について語り合ったりするのもおすすめです。
園芸・ガーデニング
園芸やガーデニングは長期的に段取りを考えて作業をするため、頭も体も使う認知症予防の趣味として人気です。1人でもできるため、気軽に始められます。きれいな花や野菜などが趣味の成果として実を結ぶため、強い達成感を得られるのも魅力です。
園芸やガーデニングは足元が不安定な屋外での作業になるため自然と運動効果があり、屋外で作業することで太陽の光を浴びて体内時計を整える健康効果も期待できます。また、時期や作物によって育て方や手入れの仕方が異なるため、計画的に作業を進めることが脳の刺激にもなるでしょう。
実際に、園芸活動をすることで睡眠の質の向上やストレス低減・注意機能の回復などの効果があるとする研究もあります。つまり、園芸やガーデニングは介護予防に効果があると考えられるのです。
ゲーム
実は、ゲームも1人でできる認知症予防に効果がある趣味として知られています。なぜなら、ゲームには以下のような具体的認知症予防効果が期待できるからです。
ゲームの趣味に期待できる認知症予防効果
- 脳が活性化される
- 手足を動かし、身体的な刺激となる
- オンライン対戦で他者との交流もできる
- 楽しみや刺激が増え、生活の活性化つながる
近頃はオンライン対戦が可能なゲームも増え、中にはeスポーツとしてゲームを楽しんでいる高齢者もいます。実証実験も全国で行われているため、特に注目されていることが分かります。
認知症予防に有効な趣味活動|グループで楽しむ
続いて、グループで楽しむ認知症予防の趣味を紹介します。グループでの趣味は、友人や家族と共に楽しむことで社会とのつながりができるきっかけとなるため、特におすすめです。
スポーツ全般
スポーツは体を動かすだけでなく、脳にたくさんの刺激を与えます。体の健康や体力の維持に効果的なのはもちろん、認知症予防にもっとも効果がある趣味の一つといってもよいでしょう。グループで楽しめるスポーツには、以下のようなものがあります。
高齢者におすすめのスポーツ
- ウォーキング
- ゴルフやゲートボール
- テニス
- 水泳
- ヨガ
ただし、スポーツをする際は、自分の体力や筋力と相談しながら無理のない範囲で行いましょう。
旅行・観光
友人や家族とグループ旅行に出かけるのもおすすめです。旅行は、訪問先の選定や移動方法の確認・宿の予約・旅行先でのアクティビティや食事と、頭も体もつかう認知症予防に適した趣味となっています。旅行先でよく歩き、普段暮らしている土地とは違った場所での活動は新たな刺激を与えてくれるでしょう。
旅行や観光は、単に楽しいだけの趣味ではありません。非日常の中でひとときを過ごすからこそ刺激があり、認知症予防の効果が期待できるはずです。
麻雀・囲碁・将棋
高齢者の趣味といえば、麻雀・囲碁・将棋を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。手先を動かしたり相手に勝つために脳をフル回転させて考えたりするため、認知症予防に有効です。
また、対戦後は対局を振り返ったりお互いの健闘をたたえ合ったりすることで、グループでの交流を楽しむきっかけにもなるでしょう。
グラウンド・ゴルフ
グラウンド・ゴルフは、スポーツの中でも体への負担が少ないため、認知症予防の趣味としておすすめです。友人や家族と楽しめるところが魅力で、運動が苦手な人でも気軽に参加できるでしょう。同年代の仲間ができやすい点も特徴で、地域のグループに参加すれば社会参加のきっかけともなります。
グラウンド・ゴルフは、まさに認知症予防にうってつけの趣味といえるでしょう。
ボランティア活動
ボランティア活動は認知症予防効果が期待できるだけでなく、社会とつながって誰かの役に立つことができるという達成感が魅力的な趣味です。自身の就労経験や趣味を活かした活動を見つけられれば自分の強みが誰かのためになって喜んでもらえるため、モチベーションの維持にもつながります。
認知症の人が趣味を続けるコツ
趣味を楽しむことは認知症予防に有効ですが、せっかく始めた趣味も続けなければ予防効果が薄れてしまいます。特に、すでに認知症の症状が出ている方の場合はもの忘れがあるため、趣味活動を続けられなくなることが心配です。できるだけ趣味を続けて楽しく認知症の悪化を予防できるよう、周囲の方に支援してもらいましょう。
認知症の人が趣味活動を続けるポイントは、以下のとおりです。
認知症の人の趣味活動を続けるポイント
- グループ活動に参加し、共通の趣味をもつ仲間と誘い合う
- 複数の趣味を持ち、その時の気分によって内容を変える
- 他者に教える役割を担う・成果物を飾るなど達成感が持てるように工夫する
趣味活動の第一優先が「認知症予防」になっては長続きしないでしょう。認知症はもの忘れが進行する病気ですが、感情は長期間保持されるともいわれています。そのため、趣味を通じて楽しい時間を過ごせたという体験が何よりも大切です。認知症予防よりも、まずは楽しむことが重要なのではないでしょうか。
趣味を持つことは認知症予防や毎日の充実につながる
この記事のまとめ
- 認知症とは、病気や傷害で脳の認知機能が低下した状態を指す
- 認知症は趣味を楽しむことで予防できる可能性がある
- 1人の趣味は自分のペースで手軽にできるところがメリット
- グループでの趣味は社会とつながりができるところがメリット
- 認知症の人の場合は、認知症予防よりも楽しむことを重視する
趣味活動は、認知症の予防効果があることが各種研究で明らかになっています。ただ、趣味とは本来好きなことを楽しむことで生活の質を高める活動です。自分の興味が湧いたものをやってみましょう。事故やトラブルを防ぐため、認知機能や身体機能に応じた活動を選択するのもポイントです。
「有意義な時間を過ごした副産物が認知症予防である」ぐらいの心構えで、まずは趣味を楽しむことを一番に考えるのがよいでしょう。