亡くなる前に名義変更した方がよい財産とは?生前贈与の必要性や手続きなどを解説
相続を円滑に進めるには、生前贈与を活用するのも有効です。亡くなる前に名義変更したほうがよい財産には、どのようなものがあるのでしょうか。今回は、生前贈与の必要性や税金、メリット・デメリット、手続きの流れについて解説します。
亡くなる前の名義変更(生前贈与)とは
生前贈与とは、生きているうちに財産を第三者である個人に無償で譲り渡すことです。亡くなる前に財産の名義変更を行うことで、配偶者や子、孫などの家族に財産を引き継ぐことができます。
しかし、生前贈与を行うことで贈与税がかかり、かえって税負担が増える恐れもあります。生前贈与を行う場合は、仕組みを理解した上で手続きを進めることが大切です。
生前贈与でかかる税金の種類
生前贈与を行うと、「贈与税」や「相続税」がかかる可能性があります。ここでは、贈与税と相続税の特徴や税率について確認していきましょう。
贈与税
贈与税とは、個人から贈与により財産を取得した場合にかかる税金です。贈与税の課税方法は、「暦年課税」と「相続時精算課税」の二つがあります。受贈者(贈与を受けた人)は、贈与者(贈与をした人)ごとに課税方法を選択できます。
暦年課税は、1年間に贈与を受けた財産の合計額をもとに贈与税を計算する方法です。年110万円の基礎控除額があるため、贈与財産の合計額が年110万円以内であれば贈与税はかかりません。
相続時精算課税は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、子・孫の選択により利用できる制度です。この制度を利用した場合、贈与額が2,500万円までであれば贈与税はかかりませんが、相続税の課税対象となります。贈与を受けた財産額を相続財産の額に加算して相続税を計算し、すでに納税した贈与税額がある場合は、その相続税額から控除されるという仕組みです。
贈与税の税率
贈与税(暦年課税)の税率は、基礎控除後の課税価格に応じて10~55%の8段階に区分されています。父母や祖父母などからの贈与は「特例贈与財産」に該当し、一般の贈与財産よりも税負担が軽減されます。特例贈与財産の贈与税の速算表は以下の通りです。
特例贈与財産の贈与税の速算表 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
基礎控除後の課税価格 |
200万円以下 |
400万円以下 |
600万円以下 |
1,000万円以下 |
1,500万円以下 |
3,000万円以下 |
4,500万円以下 |
4,500万円超 |
特例税率 |
10% |
15% |
20% |
30% |
40% |
45% |
50% |
55% |
控除額 |
- |
10万円 |
30万円 |
90万円 |
190万円 |
265万円 |
415万円 |
640万円 |
贈与税額は「基礎控除後の課税価格×税率-控除額」で計算します。特例贈与財産を500万円取得した場合、基礎控除後の課税価格は390万円(500万円-110万円(基礎控除額))、贈与税額は48万5,000円(390万円×15%-10万円)となります。
一方、相続時精算課税を選択し、贈与財産の合計額が特別控除額2,500万円を超える場合は、その超える部分の金額に一律20%の税率を乗じて贈与税額を計算します。
相続税
相続税は、相続によって取得した財産や相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産に課税される税金です。相続財産の合計額が基礎控除額を超える場合に、その超える部分に対して課税されます。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。法定相続人が配偶者と子2人の場合、基礎控除額は4,800万円(3,000万円+600万円×3人)となります。このケースでは、相続財産の額が4,800万円以内なら相続税はかかりません。
被相続人(亡くなった人)が所有していた預貯金や有価証券、不動産などの財産が相続税の課税対象です。また、被相続人の死亡により支払われる生命保険金、退職金なども相続財産に含まれます。
相続税の税率
相続税の税率は、財産を取得した人それぞれの課税価格に応じて、10〜55%の8段階に区分されています。ただし、配偶者には税額軽減の特例があり、課税対象の合計価格が「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」までであれば、相続税はかかりません。
配偶者の法定相続分は、相続人が配偶者のみの場合はすべて、配偶者と子供の場合は2分の1、配偶者と亡くなった方の親が相続人である場合は3分の2、配偶者と亡くなった方の兄弟姉妹が相続人である場合は4分の3となります。
亡くなる前に名義変更したほうがよい財産
生前贈与をしたほうがよいかどうかは、財産の種類によって異なります。亡くなる前の名義変更を検討すべき財産は以下の五つです。
1. 預貯金
預貯金は、他の財産に比べると相続で分割しやすい財産といえます。ただし、相続手続きが完了するまで口座は凍結され、お金を引き出せないため、名義変更しておくと安心です。
銀行口座は、原則として生前の名義変更ができないため、正確には名義変更ではなく、家族名義の口座へ預け替えることになります。預け替えた預貯金は、贈与税の課税対象です。
また、贈与者本人が家族名義の口座に預金をすると「名義預金」とみなされ、相続税の課税対象となる恐れがあるため要注意です。
2. 不動産
不動産は評価額が110万円を超えることが多いため、贈与税がかかるのが一般的です。加えて、名義変更を行うと、登記申請の登録免許税や不動産取得税がかかります。相続による名義変更の登録免許税は不動産価格の0.4%ですが、生前贈与の場合は不動産価格の2%です。
しかし、不動産は複数の相続人で分割するのが難しく、相続トラブルが発生しやすい財産です。亡くなる前に名義変更することで、相続を円滑に進められます。
3. 有価証券
上場株式などの有価証券は、生前のうちに名義変更が可能です。
有価証券は価格が変動するため、値上がりしたタイミングで相続が発生すると、相続税の負担が重くなる恐れがあります。有価証券の価格推移は予測できませんが、値上がりする前に生前贈与を行うことで、税負担の軽減が期待できます。
有価証券の名義変更では、その有価証券を受贈者の取引口座へ移管します。基本的に、贈与者と同じ金融機関で受贈者の証券口座を開設しなくてはなりません。名義変更した有価証券は贈与税の課税対象で、贈与時の価格で評価されます。
4. 生命保険
生命保険の死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。死亡保険金は、「法定相続人の数×500万円」まで相続税がかかりません。そのため、生命保険を活用すれば、相続税の節税が可能です。
ただし、ひとりの相続人が受け取った死亡保険金を他の相続人に分けると、贈与税がかかる恐れがあります。生命保険で相続税対策を行うなら、生前のうちに生命保険の受取人を確認し、必要に応じて名義変更を行いましょう。
5. 自動車
1台の自動車を複数の相続人で分けるのは難しいため、亡くなる前に名義変更をしておくと相続トラブルを避けられます。
自動車の名義変更は、受贈者が陸運局などで手続きを行います。自動車販売店やディーラー、行政書士などに手続きを依頼することも可能です。
自動車の名義変更では、その自動車の評価額が110万円を超えると贈与税がかかります。贈与前に買取店などで査定を行い、買取価格(評価額)を確認しておきましょう。評価額を証明するために、査定結果を書類で残しておくと安心です。
亡くなる前に名義変更するメリット
亡くなる前に名義変更するメリットは以下の通りです。
生前のうちに財産の整理・処分ができる
生前贈与を行えば、まだ元気なうちに財産の整理・処分が可能です。自分の意志で、どの財産を誰に引き継いでもらうかを決めることができます。所有財産の額や種類が明確になり、相続について考えるきっかけになるでしょう。
相続より手続きが簡単
生前贈与は、相続よりも手続きが簡単です。本人と受贈者の間で贈与契約を締結し、名義変更を行えば手続きは完了します。一方、相続は遺言書がなければ、遺産分割協議で相続人全員の同意を得なければなりません。
相続トラブルの防止につながる
亡くなる前の名義変更は、相続トラブルの防止にもなります。遺産分割協議がうまくいかなければ、裁判に発展することもあります。生前のうちに財産を整理しておけば、相続を円滑に進められるでしょう。
亡くなる前に名義変更するデメリット
一方で、亡くなる前の名義変更には以下のようなデメリットもあります。
相続より税負担が増える可能性がある
亡くなる前に名義変更を行うと、その財産は贈与税の課税対象となります。贈与税は相続税よりも基礎控除額が少なく、税率が高いため、相続を待つより税負担が増えるかもしれません。生前贈与をする場合は、贈与税の仕組みを理解した上で、なるべく税負担が増えないようにすることが大切です。
タイミングによっては相続税がかかる
亡くなる前の名義変更は、タイミングによっては相続税がかかります。被相続人が亡くなる前3年以内に贈与を受けた場合、その贈与財産は相続税の課税対象となるためです。生前贈与をする場合はなるべく早く手続きを進めましょう。
生前贈与の手続きの流れ
生前贈与の手続きの流れは以下の通りです。
生前贈与の手続きの流れ
- 誰にどのような財産を贈与するか決める
- 贈与契約書を作成する
- 名義変更する
- 贈与税の申告をする
まずは、誰にそのような財産を贈与するかを決定します。受贈者の合意を得た上で、贈与契約書を作成しましょう。受贈者の合意や贈与の事実を証明できるように、書面で契約内容を残しておくことが大切です。
その後は、契約内容に基づいて財産の名義変更を行います。贈与財産の評価額が基礎控除額を超える場合は、贈与税の申告を忘れないようにしましょう。
専門家に依頼することも可能
自分だけで生前贈与を行うことが難しい場合は、専門家に依頼することも可能です。贈与契約書の作成は、司法書士や行政書士に依頼することができます。贈与税がかかるか不安な場合は、税理士に相談しましょう。
亡くなる前に名義変更をして相続に備えよう
この記事のまとめ
- 生前贈与でかかる可能性のある税金は、贈与税と相続税
- 生前贈与は、相続よりも税負担が増える場合もある
- 贈与額や相続額、被相続人との関係などによって控除を受けることができる
- 亡くなる前の名義変更を検討したほうがよい財産は「預貯金」「不動産」「有価証券」「生命保険」「自動車」の五つ
- 亡くなる前の名義変更は、相続よりも手続きが簡単な上、「相続トラブルの防止」にもつながる
- 生前贈与は口約束ではなく、贈与契約書を作成して書面で手続きを行う
亡くなる前に名義変更をすると、誰にどのような財産を渡すかを自分で決められるため、その後の相続トラブルを予防できるというメリットがあります。ただし、生前贈与は贈与税、場合によっては相続税もかかるため、不安な場合は専門家と相談しながら手続きを進めましょう。