日蓮宗のお経とは?意味や特徴、葬儀でのマナーについても解説
日蓮宗ではどういったお経が読まれるのか、知らない方も多いのではないでしょうか。同じ仏教でも、宗派によって読まれるお経は異なります。本記事では、日蓮宗のお経の意味や特徴、日蓮宗の葬儀におけるマナーなどを詳しく解説していきます。
日蓮宗とは
日蓮宗とは、日蓮によって開かれた仏教宗派です。鎌倉時代、噴火や地震といった天変地異に人々は苦しめられていました。そのような中、日蓮は比叡山での修行の中で「法華経がお釈迦様の唯一の教えである」と確信します。その後、日蓮は日蓮宗を開いて山梨県の身延山久遠寺に総本山を置きました。現在、日蓮宗の寺院は全国に5千ヵ所以上あるとされています。
仏教には13もの宗派がありますが、宗祖の名前が宗派名になっているのは日蓮宗のみです。それほど、日蓮の説いた教えが多大な影響を与えたことがわかります。
日蓮宗で読まれるお経の特徴
同じ仏教であっても、宗派によってお経の特徴が異なります。日蓮宗で読まれるお経には、いったいどのような特徴があるのでしょうか。ここからは、日蓮宗で読まれるお経の特徴や教えについて紹介します。
存在する生き物全てに仏があるという教え
日蓮宗で読まれる「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)」には、存在する生き物全てに仏が宿るという意味があります。「南無妙法蓮華経」の題目を唱えながら手を合わせることが、日蓮宗における何より大切な修行と考えられているのです。
南無は「命をかけて信仰する」、妙は「正しさ」、法は「釈迦の教え」、蓮華は「花」、経は「お釈迦様の教えが書かれた書物」という意味があります。日蓮聖人は、この「南無妙法蓮華経」という言葉に法華経の功徳が全てこもっていると教えました。この題目を唱えることにより、「成仏した後に霊山浄土でお釈迦様に会って成仏できる」とされています。
当時、ほかの宗派では「武士や女性など一部の人々は成仏できない」と説かれていました。そんな中、題目を唱えればどのような人でも成仏できるとした日蓮宗は、全く新しい仏教として注目されたのです。
朝夕の2回で法華経を唱える
日蓮宗のお経の特徴として、朝と夕方の2回で法華経を唱えることが挙げられます。午前中に1回、日付が変わる前に1回、法華経を唱えることが信仰につながると考えられています。しかし、法華経は28品28巻で構成されていることから全てを唱えていると時間がかかるため、朝と夕方に分けて半分ずつ読んでも構わないとされています。
四箇格言という考え
四箇格言とは、日蓮聖人がほかの宗派を「邪宗である」と非難した際に用いた四つの句です。四箇格言は、念仏無間(念仏は無限地獄に誘うものである)、禅天魔(禅は天魔が行うものである)、真言亡国(真言を唱えていると国が滅びる)、律国賊(律は国賊である)の四つを指しています。ほかの邪宗を退けて正しい教えを世の中に広めるという意味があり、「破邪顕正(はじゃけんしょう)」と呼ばれることもあります。
日蓮宗で読まれるお経とは
日蓮宗では、法華経、自我偈といったお経が読まれます。ここからは、それぞれのお経の特徴や意味合いなどを解説していきます。日蓮宗の教えに対する理解を深めるためにも、お経が持つ意味を押さえておきましょう。
法華経
日蓮宗で読まれるお経として、法華経(ほけきょう)が挙げられます。法華経は経典の一種であり、日蓮宗をはじめさまざまな宗派に影響を与えています。日蓮宗では法華経の教えを独自に解釈し、「題目を繰り返し唱えることで成仏できる」と説きました。
自我偈
日蓮宗では、自我偈(じがげ)が読まれることもあります。自我偈とは、仏様の命は永遠に続くという久遠実成の釈尊についてまとめられているものです。これは、「如来寿量品第十六」の後半部分に書かれています。
日蓮宗の葬儀の流れ
葬儀の規模や形式にもよりますが、日蓮宗の葬儀は以下のような流れで行われます。日蓮宗の葬儀にはほかの宗派にはない特徴があるため、事前に葬儀の流れを押さえておくとよいでしょう。
①道場偈
まず、道場偈(どうじょうげ)を唱えます。道場偈とは、葬儀を執り行う場に仏様をお呼びするためのものです。道場偈のほか、「切散華(きりさんげ)」という曲も流されます。道場偈を唱える前に、遺族や参列者で題目を3回唱える「総礼(そうらい)」を行うこともあります。
②三宝礼
道場偈に続き、三宝礼(さんぽうらい)を行います。三宝とは、仏(お釈迦様)、僧(日蓮宗)、法(法華経)の三つの要素です。一節ごとに起立して三宝へ礼拝を行うことから、「起居礼(ききょらい)」と呼ばれることもあります。
③勧請
勧請(かんじょう)とは、ご先祖や日蓮聖人、お釈迦様を葬儀の場に招くための儀式です。勧請を行うことで、救済や説法を請うという意味があります。
④開経偈・読経・咒讃鐃鈸
次に、開経偈(かいきょうげ)が読み上げられます。開経偈には、何回生まれ変わっても法華経に出会いたいという願いや、法華経という教えに出会えた喜びなどが込められています。開経偈の後には、法華経の中でも重要とされているお経が読み上げられます。読経が終了したら、咒讃鐃鈸(しゅさんにゅうはち)が始まります。これは、故人の魂が浄土へ行けるように銅鑼や木柾、妙鉢を使って演奏することです。
⑤開棺
続いて開棺が行われます。開棺は、導師が焼香を行った後に「中啓」という仏具で棺の蓋を打ち鳴らしつつお経を唱える儀式です。
⑥引導
開館の後は導師が祭壇の前に立ち、「払子」と呼ばれる仏具を3回振ったのち、3回焼香を行ってから引導文が読まれます。引導には、現世での穢れや煩悩を打ち払うという意味が込められています。
⑦焼香・祖訓・唱題
続いて、焼香・祖訓・唱題に移ります。祖訓とは日蓮聖人の言葉を読む儀式で、唱題は題目を繰り返し唱えることです。唱題を行っている間、焼香が行われます。
⑧宝塔偈・回向
参列者全員の焼香が終わったら、宝塔偈(ほうとうげ)・回向(えこう)を行います。宝塔偈には法華経の素晴らしさを讃えるという意味が、回向には故人が無事に浄土へ行けますようにという願いが込められています。
⑨四誓・三帰・奉送
次に、四誓・三帰・奉送を行います。四誓とは信者を救うとされている言葉を唱えることで、三帰とは三宝に帰依して精進を誓うことです。最後に、奉送で仏様を見送ります。
⑩閉式
全ての儀式が終了したら、閉式となります。僧侶が退場したら、葬儀終了です。
日蓮宗の葬儀に関するマナー
日蓮宗の葬儀に参列する場合、どのような作法があるのか事前に押さえておきましょう。ここからは、数珠や焼香、服装、お布施など日蓮宗の葬儀に関するマナーを紹介します。
数珠に関するマナー
日蓮宗の葬儀では、108個の珠がついている勤行数珠を持参するのが一般的です。菊房が片方に3本、もう片方に3本ついている数珠が正式なものとされています。合掌する際は、右手の指に房が2本、左手に3本かかるように持つようにしましょう。ただし、日蓮宗以外に信仰している宗派がある場合は、信仰宗派の数珠を持参しても構いません。
万が一、葬儀に数珠を忘れてしまっても、他人と貸し借りするのは避けてください。仏教においては、数珠は自分の分身だと考えられています。数珠を使用できるのは本人のみなため、誰かに貸したり借りたりするのはやめましょう。
焼香に関するマナー
日蓮宗の葬儀では、導師が3回、ほかの信者や遺族、参列者は1回おしいただくのが作法です。「おしいただく」とは、親指と人差し指で香を摘んで額まで持ち上げ、香炉に落とす動作のことを指します。詳しい焼香の流れは、以下の通りです。
日蓮宗における焼香のやり方
- 焼香を行う順番が来たら、スタッフの案内に従って祭壇まで進む
- ご遺族と参列者に一礼し、焼香台の前に立つ
- 故人の遺影に対して合掌と一礼をした後、焼香を1回額に押しいただいて香炉にくべる
- 数珠を左手にかけて再び合掌する
- 遺影の方を向いたまま3歩ほど下がり、ご遺族と参列者に一礼してから席に戻る
服装に関するマナー
日蓮宗の葬儀においては、喪服を着用するのが一般的です。男性はブラックスーツに白いワイシャツを着用し、黒のネクタイを締めます。足元は黒無地の靴下、光沢感のない黒の革靴を選びましょう。ピアスやネックレスといったアクセサリー類は外しますが、結婚指輪だけは着用していても構わないとされています。
女性は、黒のワンピースやアンサンブル、スーツを着用します。スカートの場合、露出が多くならないよう丈が長めのものを選んでください。足元には黒のストッキングを履き、黒でマットな質感のパンプスを着用します。髪の毛が長い場合は、耳よりも低い位置で一つにまとめましょう。メイクは派手になりすぎないよう、ラメの入ったアイシャドウや鮮やかな色味のリップなどは使わないのがマナーです。
また、女性の場合は結婚指輪のほか、一連のパールのネックレスであれば着用して問題ありません。
お布施に関するマナー
葬儀では、導師にさまざまな儀式や読経を行っていただく必要があります。お布施は、儀式や読経を行ってくれた寺院や導師に対する感謝の気持ちです。お布施の相場は寺院や地域によって異なるため、前もって確認しておくことをおすすめします。
日蓮宗で読まれるお経の意味や葬儀のマナーを押さえておきましょう
この記事のまとめ
- 日蓮宗とは、鎌倉時代に日蓮によって開かれた仏教宗派であり、身延山久遠寺に総本山が置かれている
- 日蓮宗のお経は、存在する生き物全てに仏があると教えている
- 日蓮宗では、朝と夕方の2回に分けて法華経を唱える
- 日蓮宗の葬儀は、ほかの宗派と流れが異なり、道場偈や三宝礼、勧請、開経偈・読経・咒讃鐃鈸、引導といった儀式が行われる
- 日蓮宗の葬儀の場合、108個の珠がついており、房が片方に3本、もう片方に2本ついている勤行数珠を使用する
- 日蓮宗の葬儀で行う焼香では、導師が3回、遺族や参列者は1回おしいただく
日蓮宗では法華経が経典とされており、題目を唱えることで浄土へ行けると考えられています。お経にはさまざまな意味があり、日蓮宗ならではの教えや考え方なども多くあります。また、葬儀ではほかの宗派にはない儀式が行われます。本記事で紹介したお経の意味や、葬儀に関するマナーを押さえておきましょう。