相続放棄すると代襲相続は発生しない?制度の仕組みや相続の範囲を徹底解説
本来相続人になる人が既に亡くなっている場合、代襲相続として次の世代が代わりに相続する制度があります。では、本来相続人になる人が相続放棄をした場合にも、次の世代が代襲相続するのでしょうか?本記事では、相続放棄と代襲相続の関係について説明します。
神戸大学法学部卒業。鉄鋼メーカー、特許事務所、法律事務所で勤務した後、2012年に行政書士ゆらこ事務所を設立し独立。メインは離婚業務。離婚を考える人に手続きの仕方やお金のことまで幅広いサポートを提供。法律・マネー系サイトでの執筆・監修業務も幅広く担当。
代襲相続とは
代襲相続とは、本来の相続人が亡くなっている場合に、次の世代の人が相続権を引き継ぐ制度のことです。相続が発生したときの相続人の範囲や代襲相続の仕組みを理解しておきましょう。
相続の基本的なルール
相続人の範囲は民法に定められています。相続人は、配偶者と血族の一部の人(子、直系尊属、兄弟姉妹)です。配偶者と血族はどちらかが優先されるわけではなく、両方いれば両方相続人になります。ただし、血族には次のような優先順位があり、先順位がいない場合に次順位に相続権が回ってきます。
第1順位 | 子 | ||
第2順位 | 直系尊属 | ||
第3順位 | 兄弟姉妹 |
亡くなった人(被相続人)に子がいる場合、子は必ず相続人になります。被相続人に子がいない場合は、父母や祖父母など直系尊属が生きていれば最も世代の近い人が相続人です。被相続人に子も直系尊属もいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。
各相続人が相続できる財産の割合(法定相続分)は、相続人の組み合わせによって以下のように定められています。
相続人 | 法定相続分 | ||
配偶者のみ | 配偶者がすべて相続 | ||
配偶者と子(第1順位) | 配偶者1/2、子1/2 | ||
配偶者と直系尊属(第2順位) | 配偶者2/3、直系尊属1/3 | ||
配偶者と兄弟姉妹(第3順位) | 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 | ||
血族(第1~第3順位のいずれか)のみ | 相続人が複数いれば均等に分ける |
代襲相続が発生するケース
代襲相続が発生するのは、血族の第1順位と第3順位の相続人です。被相続人よりも先に子が亡くなっている場合、子の子である孫が代襲相続により相続人となります。同様に、被相続人よりも先に兄弟姉妹が亡くなっていれば、その子である甥・姪が代襲相続します。
代襲相続人は、代襲された人の法定相続分を引き継ぎます。たとえば、被相続人に配偶者がおらず子が2人いる場合、子の相続分はひとりにつき2分の1です。もし子のひとりが亡くなっていてその子(被相続人の孫)が2人いれば、孫の相続分はひとりにつき4分の1となります。
代襲相続の対象となる人の範囲
第1順位と第3順位では、代襲相続の対象となる人の範囲が違います。
第1順位については、被相続人に最も世代の近い直系卑属が代襲相続します。孫も亡くなっていればひ孫が代襲相続することになります。第1順位では、直系卑属が現れるまでどこまでも代襲相続が続きます。
第3順位については代襲相続は一代限りです。兄弟姉妹の子である甥・姪が亡くなっている場合、その子には代襲相続されない点には注意しましょう。
相続放棄とは
相続人は必ず相続しないといけないわけではなく、相続放棄ができます。相続放棄とは、相続人としての立場を放棄することです。
相続人は、負の財産である借金も引き継ぎます。借金を相続すれば、借金を返す責任を負うことになりますが、相続放棄をすれば、被相続人の借金を返す責任はなくなります。
相続放棄をした場合代襲相続は発生しない
本来相続人になる人が亡くなっていれば、その子が代襲相続します。そのため、本来相続人になる人が相続放棄をした場合にも、代襲相続が起こると思う方も多いでしょう。しかし、相続放棄の場合は代襲相続されないことになっています。
相続放棄をした人は、その相続に関してははじめから相続人でなかったものとみなされます。そもそも相続権が発生しないことになるため、次の世代に引き継がれることもありません。
相続放棄により相続順位が変わる
相続放棄をしても代襲相続はされないため、相続放棄をした人の子は相続人になりません。その代わり、血族相続人に関しては、相続放棄により相続権が次順位に移ります。
第1順位の子が相続放棄をした場合、第2順位である直系尊属(父母など)がいれば、直系尊属が相続人になります。第2順位の直系尊属も相続放棄をした場合には、相続権は第3順位の兄弟姉妹に移ります。第3順位の兄弟姉妹も相続放棄をした場合には、相続人不存在となります。
代襲相続の発生原因
相続放棄では代襲相続されないことになっていますが、死亡以外でも代襲相続が発生する場合があります。代襲相続の発生原因は次の3つです。
代襲相続の発生原因
- 相続開始以前の相続人の死亡
- 相続人の相続欠格
- 相続人の相続廃除
相続欠格とは、相続人としての資格がないことです。被相続人を殺害しようとした人や遺言を偽造した人などは、欠格事由に該当するとされ、相続人にはなれません。もし子が欠格事由に該当すれば、孫が代襲相続します。
相続廃除とは、生前の手続きあるいは遺言により、被相続人が特定の相続人の相続権をはく奪できる制度です。たとえば、将来相続人になる人の中に自らを虐待した場合がいる場合、生前に家庭裁判所に申立てて廃除ができます。被相続人が子を廃除した場合、孫は代襲相続できます。
【ケース別】相続放棄をした場合の代襲相続の考え方
相続放棄と代襲相続の関係について、具体的なケースで説明します。
ケース①祖父の相続発生時に父が生存している
まずは祖父が亡くなった時点で祖父の子である父が生存しているケースにおいて、相続放棄と代襲相続の関係を考えてみましょう。
祖父の相続人にはならない
祖父が亡くなったとき、父は必ず相続人になります。父が生きている限り、代襲相続はされないため、孫である自分が相続人になることはありません。
なお、祖父が亡くなったとき、祖母(祖父の配偶者)が生きていれば祖母も相続人になります。また、父の兄弟姉妹(祖父の子)も全員相続人です。もし兄弟姉妹のうち亡くなっている人がいれば、その子(祖父の甥または姪)が代襲相続します。
父が相続放棄しても代襲相続は起こらない
祖父が亡くなったとき、父が相続放棄をした場合を考えてみましょう。父が相続放棄をしても、代襲相続はありません。父が生きている限り、たとえ父が相続放棄をしても、自分に相続権が回ってくることはありません。
ケース②祖父の相続発生時に父が既に死亡している
続いて、祖父が亡くなった時点で祖父の子である父が既に亡くなっているケースにおいて、相続放棄と代襲相続の関係を考えてみましょう。
代襲相続により祖父の相続人になる
祖父が亡くなった時点で父は亡くなっているため、孫である自分が代襲相続します。もし自分に兄弟姉妹(父の子)がいれば、兄弟姉妹全員が代襲相続人となります。
代襲相続を放棄することも可能
代襲相続により相続人になる場合、必ず相続しなければならないわけではありません。相続したくなければ、相続放棄ができます。
ケース③父の死亡時に相続放棄をし、その後に祖父の相続が発生した
最後に、祖父が亡くなった時点で父が既に亡くなっており、父の死亡時に自分が相続放棄をしている場合で考えてみましょう。
父の相続放棄をしていても祖父の代襲相続人になれる
祖父が亡くなった時点で父が亡くなっているため、代襲相続が発生します。相続放棄は相続ごとに考えます。父の相続と祖父の相続は別なため、父の相続を放棄していても、祖父の代襲相続は可能です。
祖父の代襲相続を放棄するには改めて手続きが必要
祖父の相続もしたくない場合には、相続放棄ができます。祖父の相続に関しては、祖父が亡くなってから3ヶ月以内に、家庭裁判所で相続放棄の手続きをする必要があります。
相続放棄に関する注意点
相続放棄は口頭でできるものではなく、裁判所で手続きをしなければなりません。相続放棄の手続きには、気を付けなければならない点が複数あります。
ここからは、相続放棄の注意点を説明します。
相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きが必要
相続放棄をするには、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所で相続放棄の申述の手続きを行う必要があります。身近な親族ならすぐに死亡を把握しているはずですから、死亡日から3ヶ月以内と考えておきましょう。
相続放棄の期限は、原則、延長できません。どうしても期限に間に合わない事情がある場合、3ヶ月の期限が経過する前に延長の申請ができます。
なお、相続を承認する意思表示をした場合や、相続財産を処分するなど一定の事由に該当する場合には、たとえ3ヶ月の期限内であっても相続放棄ができません。
相続放棄後は次順位の相続人に連絡する必要がある
相続放棄をすれば、相続権が次順位に移ります。たとえば、第1順位の子が相続放棄した場合で、第2順位の親が既に亡くなっていれば、第3順位の兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹が第1順位の子の相続放棄の事実を知らなければ、自分が相続人になったことが分かりません。
相続放棄をする場合は相続人の範囲がどこまでかを確認し、次順位の相続人に連絡しましょう。次順位の相続人の所在が分からない場合や関係が良好でない場合には、弁護士に依頼して連絡をとってもらうのがおすすめです。
なお、相続放棄によって新たに相続人になった人は、自らが相続人になったことを知った日から3ヶ月以内であれば相続放棄ができます。
再転相続の場合には制限がある
再転相続とは、一次相続の相続人が相続の承認や放棄をしないまま亡くなり、二次相続が発生する場合をいいます。再転相続の場合、二次相続の財産を相続する権利とともに、一次相続の承認・放棄をする権利も引き継ぐことになります。
たとえば、祖父が亡くなった後、父が相続の承認・放棄をせずに亡くなった場合を考えてみましょう。祖父の相続(一次相続)と父の相続(二次相続)の両方について相続の承認・放棄をしなければなりませんが、次のような制限があります。
一次相続 | 二次相続 | 可否 | |
承認 | 承認 | できる | |
放棄 | 放棄 | できる | |
放棄 | 承認 | できる | |
承認 | 放棄 | できない |
上の表から分かるとおり、一次相続である祖父の相続を承認して、父の相続のみを放棄することはできません。父親の相続を放棄すれば、相続人でない扱いになるため、祖父の相続の承認・放棄の権利もなくなるためです。
代襲相続や再転相続が起こる場合では、どのようにすればよいか悩むことも多くなります。特に、相続放棄には期限があるため注意が必要です。相続関係の問題で悩んだときには、弁護士などの専門家に速やかに相談しましょう。
相続のルールを知っておき、手続きを忘れないようにしよう
この記事のまとめ
- 代襲相続は本来の相続人が被相続人より先に亡くなっているときに発生する
- 第1順位と第3順位の相続人には代襲相続がある
- 相続人が相続放棄をした場合代襲相続はされない
- 代襲相続でも相続放棄は可能
- 相続放棄は相続ごとに行う必要がある
- 再転相続の場合は相続の承認・放棄に制限がある
相続放棄をして自分が相続人でなくなっても、自分の子に代襲相続はされません。代襲相続されるのは、主に本来相続人になる人が亡くなっているケースです。相続放棄と代襲相続の関係は複雑であるため、手続きに不安がある場合は弁護士などの専門家に相談しましょう。