訪問介護で受けられるサービスとは?費用や選び方、老人ホームとの比較まで紹介
訪問介護とは、自宅などに住む要介護者を「訪問介護員(ホームヘルパー)」が訪問して日常生活に必要な支援を提供する、介護保険制度上の専門的なサービスです。本記事では、訪問介護のサービス内容や費用、老人ホームに入所した場合の支援との違いについて紹介していきます。
東北公益文科大学卒業。その後、介護保険や障害者総合支援法に関する様々な在宅サービスや資格講座の講師を担当した。現在は社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームの生活相談員として、入居に関する相談に対応している。在宅・施設双方の業務に加えて実際に家族を介護した経験もある。高齢者介護分野のみならず、障がい者支援に関する制度にも明るい。
訪問介護とは
訪問介護とは、介護保険制度上の「居宅サービス」に分類されるサービスです。利用者の自宅を訪問し、日常生活に必要な支援を提供します。まずは、訪問介護の基本情報について紹介します。
訪問介護の対象者
訪問介護の対象者は、以下の条件全てに当てはまる方です。
訪問介護の対象者
- 要介護1以上の認定を受けている
- 一軒家か集合住宅かを問わず、住んでいる場所が「自宅」である
- ケアマネジャーが必要性を認めている
以前は要支援も利用対象でしたが、現在は法律改正により要介護1以上の方が対象となっています。また、老人ホームに入所している人でも利用対象になる場合があります。有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅などの民間老人ホームのうち、「介護付」でない施設に入居している方も利用が可能です。
なお、訪問介護を利用するときは、ケアプランに位置付ける必要があります。ケアプランとは、主に居宅介護支援事業所に依頼して利用者の状態や希望にあわせてケアマネジャーが作成する介護サービスの計画書です。要介護1以上の認定を受けたら、まずケアマネジャーに相談しましょう。
訪問介護事業所のスタッフ
訪問介護事業所に配置が義務付けられているスタッフは、以下の3職種です。
訪問介護事業所のスタッフ
- 事業所管理者
- サービス提供責任者
- 訪問介護員
こちらでは、厚生労働省が示している運営基準をもとに紹介していきます。なお、自治体によっては厳格な要件を求めている場合もあります。
事業所管理者
資格要件:なし
配置人数:常勤専従1名(他職種との兼務可)
業務内容:事業所のサービスの質・人材・経営等に関する管理業務
サービス提供責任者
資格要件:実務者研修修了者、(旧)ホームヘルパー1級課程修了者
配置人数:利用者40名ごとに1名(原則兼務不可)
業務内容:業務管理・計画書等の書類作成・職員への指導・家族や関係機関との連絡調整等
訪問介護員
資格要件:介護職員初任者研修修了者、(旧)ホームヘルパー2級過程以上修了者
配置人数:常勤換算※で2.5人以上
業務内容:後述する実際の訪問介護業務
※常勤換算とは、常勤の人数+(非常勤職員全員の4週間の合計勤務時間÷週の所定労働時間)で導かれる数を指します
訪問介護の費用
訪問介護利用時の主な費用は、以下の通りです。
サービス内容 |
提供時間 |
自己負担が1割の場合の負担額 |
---|---|---|
身体介護 |
30分未満1時間未満 |
396円 |
生活援助 |
45分以上 |
225円 |
通院等乗降介助 |
1回あたり |
99円 |
※1単位=10円の場合
身体介護はヘルパーの滞在時間が30分ごとに料金が増えていき、生活援助は1回あたり45分程度が一般的です。通院等乗降介助はかかった時間を問わず1回あたりの料金ですが、それ以外に各社が独自に設定する運行費がかかります。
なお、実際の利用内容や事業所の体制によって具体的な費用は変わります。また、利用者の自己負担割合や居住する地域によっても、1回あたりの料金が異なる場合があります。詳細な料金は、利用開始前に必ず担当のケアマネジャーや事業所に確認しましょう。
訪問介護の利用方法
訪問介護を利用するためには、要介護認定を受けた後にケアプランを作る必要があります。具体的な利用手順は、以下の通りです。
訪問介護の利用手順
- 要介護認定を受ける
- 居宅介護支援事業所と契約する
- ケアプラン原案を作成してもらう
- サービス担当者会議を開催してもらう(事業所選定・契約)
- 各事業所と具体的に打ち合わせする(個別支援計画・手順書の作成)
なお、自身でケアプランを作ってサービス利用することも可能ですが、自己作成は一般の方にとって相当な労力となります。居宅介護支援事業所を利用すれば、専門職であるケアマネジャーにプラン作成や関係機関との連絡調整を依頼でき、料金も全額介護保険から給付されるため気軽に相談してみましょう。
要介護1に満たない方に対する訪問サービスについて
2017年4月以降、要介護以外の方が利用する訪問介護は「総合事業」という制度に基づく訪問型サービスに移行しました。
総合事業とは、自治体単位で実施される独自サービスのことを指します。要支援や介護認定が非該当になる高齢者に向けた介護予防サービスの一種で、条件を満たせば訪問介護と同じようなサービスを利用できます。
総合事業に基づく訪問型サービスを利用する条件は、要支援認定を受けるか「基本チェックリスト」に該当することです。ただし、訪問介護事業所によっては総合事業による訪問型サービスに対応していない場合があります。総合事業は最寄りの地域包括支援センターが窓口になっているため、気になる方は問い合わせてみましょう。
訪問介護のサービス内容
基本的に、訪問介護で利用できるサービスは自宅で受ける支援に限られており、具体的に目的を定めて法律に基づいた支援内容でないといけません。
ここからは、訪問介護で利用できるサービスの内容について紹介します。
訪問介護で受けられるサービス
訪問介護で受けられるサービスは、以下の3種類です。
サービス分類
- 身体介護
- 生活援助
- 通院等乗降介助
身体介護
身体介護とは、入浴・食事・排泄・更衣・移動などの日常生活で必要な身体の動作を介助することで、要介護者の体を支えたり動作の一部を補助したりします。
方法は、要介護者の体に直接触れて支援することだけでなく、本人の自立を促すために近くで見守りや声がけをすることも含まれます。
具体的には、入浴介助やオムツ交換、着替え、洗顔・整髪などの整容更衣、動作の自立のために声がけをしながら本人と一緒に掃除や洗濯を行うことなどが該当します。
生活援助
生活援助とは、調理・掃除・洗濯・買物など身体介護以外で日常生活上必要な家事のうち、要介護者自身ができないことを本人に代わって行う介助を指します。生活援助のサービスは、原則的に要介護者が一人暮らしの場合のみ利用できます。
具体的には、調理・掃除・洗濯・買物の代行(日常的なものや生活必需品に限る)、ゴミ出し、処方された薬の受け取り(配薬は医療行為のため不可)、衣服の整理などが該当します。
通院等乗降介助
通院等乗降介助とは、通称「介護タクシー」とも呼ばれています。こちらは、要介護者が外出する際、車への乗り降りや外出先での受診等の手続きなどを介助をします。
ただし、利用目的としては、外出先での身体介護を含まず、通院や銀行、選挙、行政手続きなどと必要最低限に限られるため、注意しましょう。
訪問介護で受けられないサービスとは
訪問介護で受けられないサービスとは、「提供が認められていないサービス」と「介護保険対象の内容でもルール上算定できない場合」の2パターンがあります。
提供が認められていないサービスとは
提供が認められていないサービスとは、以下のような内容です。特に、医療行為に該当するものや生活に直接影響しない家事などが該当します。
提供が認められていないサービス(一部例外あり)
- 通院先や外出先での身体介護
- 痰吸引や経管栄養などの医療行為
- 薬を分けたり、服薬カレンダーに入れたりする行為
- 草むしりや窓ふき、換気扇掃除、ワックスがけ、本人が使用しない部屋の掃除など
- ペットの世話
- 来客対応
ただし、上記で挙げたサービス内容でも特別な手続きをすれば認められるものもあります。トラブルや誤解を招かないよう、事前に担当のケアマネジャーや訪問介護事業所のサービス提供責任者と相談するようにしましょう。
介護保険の対象でもルール上算定できない場合とは
訪問介護は公的な介護保険制度に基づいているため、利用時にさまざまなルールがあります。中でも、以下の場合は介護保険の給付対象外になるため、注意が必要です。
ルール上算定できない場合(一部例外あり)
- 必要性がなく、利用者の単なる希望による依頼
- ケアプランに記載されていないサービス提供
- 利用者以外の同居家族に対する支援
- 同居家族がいる場合の生活援助
- 訪問と訪問の間が2時間以上開いていない場合
ただし、中には例外的に認められる場合もあります。もし、上記に該当しそうな依頼をしたい場合は、訪問介護事業所のサービス提供責任者やケアマネジャーに相談してみましょう。
訪問介護事業所の選び方
訪問介護の事業所は、それぞれの自治体ごとに多数存在しています。ここからは訪問介護事業所の選び方を紹介します。
ケアマネジャーに相談する
最も簡単なのは、担当のケアマネジャーに相談する方法です。ヘルパーを依頼する目的や希望するサービス内容などを伝えれば、数ある事業所の中から条件に当てはまる事業所を紹介してくれます。
「介護サービス情報公表システム」を利用する
厚生労働省は、一般の方でも簡単に介護サービス事業所を探すことができる「介護サービス情報公表システム」をインターネット上で公開しています。登録されている情報は、それぞれのサービス事業所が都道府県を通じて申告した内容になります。
厚生労働省 介護サービスの情報公表制度
引用元 | 厚生労働省WEBサイト
すでに利用しているサービスと同じ母体の事業所から選ぶ
現時点で、デイサービスやショートステイ、有料老人ホームなどを利用している場合、同系列の訪問介護事業所に依頼する方法もあります。同法人であれば情報交換や連携も行いやすいため、効率的なサービスが期待できるでしょう。
地域の評判を参考にする
訪問介護は一対一のサービスですので、ヘルパーの方との相性も考慮する必要があります。実際に利用している方の話を聞くことも、非常に参考になるでしょう。近所にいる高齢者を介護している方や介護経験者、口コミサイトなどの情報も参考にしてみましょう。
紹介率の高い事業所から選ぶ
2023年現在、ケアマネジャーは利用者に対し、訪問・通所・福祉用具貸与事業所の紹介率上位3ヶ所を、契約時に説明するよう義務付けられています。紹介率の高い事業所は人気があるとも考えられるため、参考にすれば安心して依頼できるでしょう。
訪問介護と老人ホームの違いとは
最後に、訪問介護と老人ホームの違いについて解説します。どちらがよいのか悩んでいる方は、参考にしてみてください。
対象者の違い
訪問介護は自宅にいながらサービスを受けられますが、一回あたりのサービスは短時間です。一方、老人ホームは24時間支援を受けられるメリットがありますが、それまでとは異なる環境で過ごすことになります。
比較的軽度で自宅で過ごせる方や在宅の生活を強く希望している場合は、訪問介護を選ぶとよいでしょう。
費用の違い
訪問介護は、回数や1回当たりの利用時間によって1ヶ月あたりの料金が前後します。利用し過ぎると上限額を超えて多額の自己負担が発生する場合もあるため、ニーズが増える重度の方の場合は特に注意が必要です。
一方、老人ホームは毎月の料金が概ね変わらないため、必要な経費が分かりやすい点がメリットです。
訪問介護員と介護職員の違い
訪問介護員になるためには、公的な介護資格が必要です。一方、老人ホームの介護職員は無資格でも要介護者を介護できます。
訪問介護員は利用者宅に訪問して1対1で支援することになるため、より知識や経験がある人材が配置されることが多いでしょう。
訪問介護で受けられるサービスや選び方を押さえて利用しましょう
この記事のまとめ
- 訪問介護とは、介護保険制度上の「居宅サービス」に分類されるサービスである
- 訪問介護の対象者は、①要介護1以上の認定を受けている②住んでいる場所が「自宅」である③ケアマネジャーが必要性を認めていることが必要
- 訪問介護を利用するためには、要介護認定を受けた後にケアプランを作る必要がある
- 訪問介護で受けられるサービスは、①入浴・食事・排泄などの身体介護②調理・掃除・洗濯などの生活援助③通院・銀行・選挙など最低限目的で利用可能な通院等乗降介助である
- 訪問介護で受けられないサービスは、①通院先や外出先での身体介護など提供が認められていないサービス②必要性がなく、利用者の単なる希望である場合など介護保険対象の内容でもルール上算定できない場合が該当する
- 訪問介護事業所の選び方は、①ケアマネジャーに相談する②「介護サービス情報公表システム」を利用する③すでに利用しているサービスと同じ母体の事業所から選ぶ④地域の評判を参考にする⑤紹介率の高い事業所から選ぶことが大切
- 訪問介護と老人ホームの違いとして、対象者の違いや費用の違いなどがあげられるため、本人に合った場所を選択することが大切
訪問介護は事業所の数が多く、身体介護から家事・外出の支援までサービス内容も多岐にわたります。その分、利用に関するルールや注意事項があり、利用者側が正しく理解していないと誤解やトラブルに発展する恐れもあります。
訪問介護を利用するときは、希望や必要性、提供方法を担当のケアマネジャーや訪問介護事業所のサービス提供責任者としっかり話し合いましょう。事前に制度を正しく理解し、気持ちよくサービスを利用できるようにしておくことが大切です。