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特集

【世界の葬祭文化03】欧米で話題の水火葬「アクアメーション」とSDGs

【世界の葬祭文化03】欧米で話題の水火葬「アクアメーション」とSDGs

今世紀に入ってから欧米の人々の間でいわゆる「エコ葬」への指向が強まっています。エコ葬にもさまざまな種類がありますが、「アクアメーション(日本では「水火葬」と訳されることが多い)」もその一つ。特に2015年、国連サミットでSDGsが採択されて以来、認知度が上がり、合法的な葬法として認める国・地域が増えているのです。今回は水火葬とはどういう葬法なのか、その背景や発展の経緯を含めて紹介していきます。

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連載第1回・2回の記事はこちらからご覧いただけます。ぜひ合わせてご一読ください。

世界的人権活動家の最期の選択

1984年、かのネルソン・マンデラ氏より9年早くノーベル平和賞を受賞。反アパルトヘイトの人権活動家であり、黒人として初めて南アフリカ共和国・ケープタウン大主教を務めたデズモンド・ムピロ・ツツ氏が、2021年12月、90歳で死去しました。

南アフリカ共和国は土葬が主流で、火葬率は10%程度とされていますが、かねてから地球温暖化に強い懸念を抱いていたツツ氏の遺体は本人の明確な遺志によって、土葬でなく、火葬でもなく「アクアメーション」で付されました。これは2019年に同国で合法化されたばかりの新しい葬法です。

2022年1月1日、ケープタウンの聖ジョージ大聖堂で国葬が行われ、残された遺灰は大聖堂の祭壇の下に埋葬されました。

アルカリ加水分解葬

アクアメーションは日本語では「水葬」という名で紹介されることもありますが、水葬は元来、遺体や遺骨を川に流したり、海に沈めたりする葬法です。インドのガンジス川流域における水葬は、ヒンズー教の儀式として今も行っていますが、大半の国では禁じられています。

もちろん日本でも刑法190条の死体遺棄罪に該当するため禁止です。ただし例外として船舶の航行中に船内で死亡者が出た時に、船長の権限で行える場合もあります。

「水葬」以外では「水火葬」「水中火葬」「無炎火葬」などと呼ばれる場合もありますが、“火ではなく水を使う火葬”という表現に頭を悩ませる人は多いでしょう。やや難解な印象を与えますが「アルカリ加水分解葬」というのが、「アクアメーション」の原理を正確に言い表す訳語ではないかと思います。

火ではなく“水”で遺体を分解

これはアルカリ溶液(一般的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはこれらの混合物)を満たした専用の機械に遺体を入れて、その中で人体のタンパク質や血液、脂肪を分解する化学的技術です。

分解後、機械にはミネラルや塩、アミノ酸、脂肪酸などが水に溶けだした無菌状態の茶色い液体と、分解された骨、さらに体内に入っていた金属類(歯の詰め物など)が残ります。 つまり遺体を燃焼によって分解するか、アルカリ溶液で分解するかが火葬との違いで、最後に残る遺骨は通常、火葬の場合よりも細かく、粉末状に近くなり、色も白っぽくなります。

SDG'sの浸透が普及の追い風に

アクアメーションは1990年代から人間やペットの遺体処理に利用され、さらに2000年代後半からは処理用の機械が一般にも広まり始めました。

しかし、「遺体を溶かす」「溶けた人体を排水溝に流す」という、ネガティブなイメージが先行して伝わったため、感情的に強い抵抗を覚える人も多いようです。故人の尊厳の冒涜・道徳に反すると批判する人も少なくありません。

他のエコ葬も同様ですが、こうした新しい技術を普及させていくには、長年培われてきた、伝統的な葬儀のスタイル、正しい遺体を処理する手法は道義的にこうあるべき、というイメージの壁を壊していく必要があります。

その点、地球環境に対する意識の高まり、そして、SDGsの思想の浸透は、アクアメーションの普及の追い風になっていると言えるでしょう。

先駆的事業者のポジティブなイメージづくり

“私たちはあなたやあなたの愛する人に、環境に優しいグリーン火葬のオプションを提供します。”

“アクアメーションは化石燃料に依存せず、風力、水力、太陽エネルギーなどのよりクリーンなエネルギー源のインフラ改善とともに未来に向かっていきます。”

“火葬よりも大幅に少ないエネルギー消費、大幅に少ない温室効果ガス排出を実現する、新しく革新的でありながら威厳のあるアプローチを提供します。”

これらのキャッチコピーは、上からアクアグリーンディスポジション社(米国イリノイ州)、バイオレスポンスソリューション社(同インディアナ州)、リゾメーション社(英国グラスゴー市)のホームページから抜粋したフレーズです。この3社は今、この葬法の普及を推進する代表的・先駆的事業者です。

どこもそれぞれのサイトにおいて、環境面、経済面、本人・遺族の心情面、そして葬儀社のメリットやブランディング面など、さまざまな角度からこの技術について詳細に解説しています。加えて専用機械などの公開可能な画像も合わせて、自社のサービスがもたらす意味・価値を熱心に訴え、ポジティブなイメージを作ろうと力を注いでいます。

これらの事業者によれば、環境面では火葬と比較した場合のアクアメーションのエネルギー消費量は約5分の1未満。温室効果ガスの排出量は約35%まで削減可能とし、また、遺族の経済的負担は他の葬法よりも割安としています。

中でも英国(スコットランド)に本拠地を置くリゾメーション社は、この技術をアクアメーションより一歩進んだ「リゾメーション(=人体の再生の意)」と名付け、将来性を見越してグローバル規模で事業を展開。「このプロセスが世界のすべての地域で許可されるのは時間の問題であると私たちは考えています」と明言しています。

ハワイ先住民の伝統葬法だったという一説も

ちなみにこのアルカリ加水分解の技術は「死体や排泄物の処理方法」として、すでに1888年にアメリカで特許が認められていました。それから100年後、医科大学のふたりの博士が技術の近代化に成功したと言います。しかし実は、こうした科学文明が発達するはるか以前の時代から、この葬法が行われていたという説もあるのです。

それがハワイの先住民が数千年前から行っていた風習で、彼らは高熱の火山水を使い、アクアメーションと同じ原理で遺体を分解していました。そうして最後に得られる遺骨には故人の魂が凝縮されているとし、土に埋めて慰霊していたと言い伝えられています。

いつの頃からかこうした伝統的な風習は途絶えていましたが、2022年7月にハワイ州がアクアメーションを合法化したことによって、古代の習慣が復活する機会が巡ってきたのです。

合法化された国・地域

2023年1月現在、このアクアメーション(およびリゾメーション)が合法化され、専用機械の設置および運用ができるのはアメリカで28州。カナダで4州。そしてメキシコと南アフリカです。英国・ヨーロッパ各国では正式な認可はまだされていませんが、かなり認知度が上がり、積極的に検討されているようです。

一方、日本では認可どころか、まだ一般的な認知さえされておらず、この記事で初めて知った方も多いのではないでしょうか。あなたはどんな感想をお持ちですか?

冒頭のデズモンド・ムピロ・ツツ氏のアクアメーションによる葬儀は、欧米メディアで大きな話題になったようです。南アフリカのノーベル平和賞受賞者・元大主教が、SDGsを慮り、自らを葬った遺志が今後の普及、そして世界の葬祭全体にどんな影響を及ぼしていくのか、そして日本でもいずれ実現されるのかどうか。今後注目される分野であることは間違いなさそうです。

参考資料・サイト

NHCCLATINXBOOKREVIEW「アクアマメーション:水中版火葬法」

REUTERS「ツツ元大主教死去、南アの人種隔離撤廃に尽力 84年ノーベル平和賞」

そのまま ジャーナリスト雑記帳「アクア葬」

クーリエ・ジャポン「米国で人気急上昇!死後の第3の選択肢「水葬」とは 遺体をアルカリ溶液に浸してドロドロに、そして…」

クォーツ・ジャパン「Climate:グリーンなお葬式(ビジネス)」

日本経済新聞「「死後もエコ」が広まる米国 水溶液で水火葬、堆肥葬も ナショナルジオグラフィック」

Bio-Response Solutions, Inc. 「Aquamation」

AquaGreen Dispositions LLC 「火葬を選択できるようになりました フレームレス火葬」

Resomation Ltd.

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