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【世界の葬祭文化19】安楽死先進国スイス発 ~「死の自由」という生き方~

【世界の葬祭文化19】安楽死先進国スイス発 ~「死の自由」という生き方~

世界では今、安楽死という選択肢が広がりつつあります。特にスイスでは、国外からの希望者も受け入れる独自の制度が根付き、多くの人々が「もしもの時」の選択肢として考えるようになりました。世界初の合法化国オランダでも、厳格なルールのもとで安楽死は医療の一つの形として定着しています。 死生観が大きく異なる日本に住む私たちは、この現実をどう受け止めればよいのでしょうか。

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「安楽死」という選択肢が世界で広がっている

世界の広がり イメージ

終活を行う中で「安楽死」を選択肢の一つとして考える人はどのくらいいるでしょうか? その数は国ごとの社会環境・宗教・医療倫理などによって大きく異なると思いますが、一般的に安楽死とは、終末期の患者が苦しまずに死ねる手段として解釈されています。近年、世界の先進各国において、病気やけがによって生活するのが不自由になった場合、そして、治癒する可能性がなく、将来に希望が持てない場合は、安楽死という選択肢を選ぶ人が増えているという現状があります。

2024年末の時点で安楽死が合法化されている国は、2002年に世界で初めて安楽死を合法化したオランダを筆頭に、ベルギー、ルクセンブルク、カナダ、ニュージーランド、スペイン、オーストラリアの7カ国。加えて、スイスとアメリカ合衆国の10の州では、医師による自殺幇助(Medical Aid in Dying:MAID)が認められています。

スイスの安楽死制度=医師による自殺幇助

医師による自殺幇助 イメージ

スイスの場合、合法化しているのは「医師による自殺幇助」ですが、これも広い意味では安楽死と捉えられるでしょう。具体的にはスイスの刑法において「利己的な動機でなければ自殺幇助は罰せられない」とされており、これに基づいて医師が患者の自殺を助けることが許可されているのです。ただし、死が患者自らの意思であること(本人が判断能力を持っていること)、そして医師がその意思を十分に確認する必要があります。

手続きはけっして簡単ではありません。それにも関わらず、世界的な高齢社会の進展を背景に、この手段を選び取る人が増えていることは、まぎれもない事実です。日本では2019年と2024年、難病で治る見込みのない日本人患者が、スイスに渡航し、自殺幇助によって死を遂げるまでを取材したドキュメンタリー番組が放送されました。これらの番組は人々に静かな衝撃を与え、美しいアルプスのイメージに加え、安楽死ができる国というイメージがスイスに付加されました。

国外在住者でも安楽死(自殺幇助)を受け入れるのは今のところ、世界でスイスだけです。日本をはじめ、安楽死が違法とされている国の人々が自死を求めてスイスを訪れる「デスツーリズム」もなかば公然と行われており、国境を超えた社会問題として、この数年、法規制や生命倫理に関する議論の争点にもなっています。

20年で9倍! 急増する希望者

スイス国内に目を向けると、安楽死(自殺幇助)を求める人はやはり年々増加しており、2022年には自殺幇助の件数が1,594件に達しました。2003年の統計では187件でしたから、約20年の間に9倍に増加したことになります。自殺幇助団体に登録する人の数も増え続けており、最も長い活動歴(1982年設立)があり、最も大規模な団体「エグジット」によると、2023年の会員数は16万7000人に上っています。この国では人々が「もしもの時」に備え、まるで生命保険に入るかのように、こうした団体に登録するとも言われます。

また近年では、業務の一部を担う「自殺幇助ヘルパー」という職業も生まれ、自死する人に致死薬を届けたり、遺族の心のケアに当たったりする仕事を行っています。エグジットでこの職に就く人の多くは、看護・介護分野で働いていた退職者です。これらのことを考え合わせると、スイス社会において、安楽死(自殺幇助)はもはや特別なものではなく、医療インフラの一種として機能し、広く浸透していると言えるでしょう。

「安心と信頼のサービス」は社会に定着するか

安心と信頼のサービス イメージ

住民投票や世論調査の結果によると、スイスでは成人の過半数が安楽死(自殺幇助)を支持しているようです。チューリヒ州では2011年、保守政党が提起した州外・国外居住者の自殺幇助を原則禁止する「自殺幇助ツーリズム禁止イニシアチブ(住民発議)」の住民投票が行われました。しかし、結果的には大多数の反対を受けて否決。それから間もなく、スイス連邦政府は「国としては自殺幇助団体を規制しない」と発表しました。

こうした事実を踏まえ、ジュネーブ大学のサミア・ハースト・マジノ教授(倫理学)は、自殺幇助が国民の間で広く受け入れられている理由について「スイスでは生死の選択肢と一つとしてこのサービスが存在しており、必要であれば自分も使うことができると、多くの人が認識しています。たとえ死を選ばなくても、この選択肢があることで安心感を得られるからです」と説明しています。また、議論・合法化の歴史も半世紀以上に及んでおり、大きな問題が起こっていないこともあって、「乱用されることはないだろう」という信頼感が、国民の間で十分に育っているからではないか、とも語っています。

外国人の安楽死もサポート?

これらの団体には外国人を受け入れるところもあり、特によく知られているのが「ディグニタス」や「ライフサークル」です。特に「ディグニタス」では登録者数の9割近くが外国人で、不謹慎な言い方が許されれば、”需要に応える”“外国人御用達の”団体として活動しています。

外国人に課されるサポートサービスの条件は、国内の登録者に対するそれよりもさらに厳しいのですが、それでも年間100~200人ほどの外国人が、これらの団体のサポートを受けてスイスに渡り、自死を遂げています。

ディグニタスやライフサークルは、議員への働きかけ、インターネットにおける宣伝・広報活動を通して、国外での自殺幇助の合法化を後押ししています。ライフサークルの代表で医師のエリカ・プライシヒ氏はあるインタビューのなかで「幇助による自死は人権の1つです。いかなる人も、いつ、どこで、どのように死にたいかを決めることができます」と語っています。

日本人がスイスを目指す現実

パスポートと地球 日本人の渡航 イメージ

先にご紹介した通り、日本では安楽死は合法化どころか、話題にすることもタブーとされる傾向があり、医療者の終末期の患者に対する処遇が、安楽死を行ったのではないかと、社会問題(殺人事件=犯罪)として取り上げられることもあります。スイス、および、オランダなどの、安楽死が合法化されている国々と比べると、歴史や文化・宗教・死生観が異なる日本では、議論を進めることすら難しいようです。そのため、難病を抱えて苦しんでいる人のなかには、前述の団体に登録する人が年々増えています。彼らも多くのスイス人と同様、いざという時の選択肢を持つことで安心感を得たいのでしょうか?

外国人でも、医師とのコミュニケーションに必要な語学力(英語)が十分にあれば、サービスを受けることができるスイスの安楽死(自殺幇助)制度。サポート団体に支払う料金は約1万フラン(約110万円)で、渡航費、滞在費などを含めて費用はトータルで200万円ほどと言われています。

終活映画『PLAN75』

映画 イメージ

安楽死に関する映画と言えば、世界に衝撃を与えた日本映画『PLAN75』(2022年公開・フランス、フィリピン、カタールとの合同制作)が挙げられます。これは2018年公開のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(是枝裕和監督が総合監修)の一編だった短編を、作者の早川千絵監督が自ら長編化した作品です

舞台は少子高齢化が一層進んだ近未来の日本。国民は75歳以上になると、自ら生死を選択できる制度が施行されているという設定のもと、主人公の女性をはじめ、その制度に翻弄されたり、疑問を抱いたりする人々の行動・心理を描いています。

年齢によって命の線引きをするという刺激的な題材を、繊細な演出で描き出した早川監督は、この作品を第75回カンヌ国際映画祭『ある視点』部門に出品。初長編作品に与えられるカメラドールのスペシャルメンション(次点)に選ばれました。

参考サイト

SWISSinfoチャンネル(2024/09/27)

TBS NEWS DIG【報道特集】

Yahoo! Japanニュース「スイスで生涯を終えた母 夫と娘2人の1年」

プレジデント・オンライン「『海外での安楽死』は200万円で十分可能」

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