【世界の葬祭文化02】SDGs・DX・ミニマリズムの葬儀・供養 ~「新しい生き方」が「新しい死に方」に~
「21世紀の葬儀・供養」と聞いて、どんな形のお葬式やお墓をイメージするでしょうか?そのイメージの鍵となるのは、SDGs・DX(デジタル・トランスフォーメーション)・ミニマリズムです。近年、盛んに提唱されているライフスタイルやビジネスのテーマは、エンディングにおいても重視され、欧米各国ではこれまでの歴史・伝統とは離れた新しい葬儀・供養の在り方が提案されています。
連載第1回の記事はこちらからご覧いただけます。ぜひ合わせてご一読ください。
【世界の葬祭文化01】世界のあの世との架け橋だった伝統的「葬祭」が いま世界中で変わってゆく
作家の想像力よりもビジネスの創造力
20世紀には科学の発達に伴い、SF(サイエンス・フィクション)という新たなカルチャーが盛り上がりました。小説・マンガ・映画などで夢の未来社会・未来生活がいろいろな形で描かれ、それらは最近のアニメやゲームに引き継がれています。
しかし、そうした作品世界のなかでもお葬式やお墓などの描写は、当時(および現在)の様式ほぼそのままでした。この分野においてはSF作家たちの想像力よりも、現実の問題に応じて新しいエンディングビジネスに取り組む人たちの創造力のほうが勝っているようです。それを生み出すのがSDGs・DX・ミニマリズムといった新しい生き方のテーマです。
歴史を遡ること200年、産業革命以来、化石燃料をはじめとする地球の資源を大量消費することで人間社会は19~20世紀に大きな発展を遂げました。その在り方を見直そうと、これらのテーマに基づき、葬儀・供養の在り方もまた根本から考え直されています。
映画で描かれる“自然に還る”葬儀
2012年に公開された高倉健主演・降旗康雄監督の映画「あなたへ」は海洋散骨を描いた作品として話題になりました。当時はまだ亡くなった人の遺骨(遺灰)を海にまくということは珍しかったのですが、それから10年余りが経ち、散骨はかなりポピュラーになってきた感じがあります。
映画のなかで描かれる散骨でさらに衝撃的なのは、「はじまりへの旅」(原題:Captain Fantastic/マット・ロス監督/2016年アメリカ)です。こちらは自然回帰を身上とする、ちょっと変わった家族を描いたコメディですが、物語の終盤で父と子供たちが、死後、埋葬(キリスト教の伝統で土葬)された母親の遺体を掘り起こし、自分たちの手で火葬した後、遺灰を空港のトイレに流してしまうというシーンがあります。
ギョッとするような展開ですが、これは母の遺言にあった「希望の死」で、この一連のシークエンスは心温まる神聖な場面という印象を与えます。ちなみにこの作品は第69回カンヌ国際映画祭で高く評価され、部門賞も受けています。
これはフィクションで、現実的にはどこの国でも遺灰をトイレに流すというのは違法行為ですが、“死んだら自然に還る”ことを意識し、それに沿った葬儀・供養の形を希望する現代人は少なくないのでないでしょう。近年の海洋散骨や樹木葬の増加はその現われで、これらもSDGsをテーマとする葬儀の一つとして挙げていいでしょう。
世界で進む火葬普及の流れ
SDGs(持続可能な開発目標)は、経済と社会と地球環境のバランスを保ち、これからの未来を築く指針として、社会に浸透してきています。そして、葬儀・供養という分野においてもこの考え方が取り入れられるようになっています。先に挙げた海洋散骨や樹木葬はその代表例ですが、この方法の場合、まず遺体を火葬し、遺骨を遺灰にすることが大前提となっています。
日本は遺体処理の方法として世界で最も火葬率が高い国で全体の99%を占めています。そのため、先に挙げた海洋散骨や樹木葬は取り入れやすい形だと言えるでしょう。韓国・タイ・台湾など、日本以外のアジア諸国でも火葬率は高くなっています。
一方、キリスト教の教義があり、伝統的に土葬が主流だった欧米でも海洋散骨や樹木葬などの「自然葬」に対する関心の高まりから土葬よりも火葬を選ぶ人が増えています。
火葬比率はイギリスやカナダではすでに70%を超えており、ドイツで60%超、アメリカで50%超。アメリカの場合、北米火葬協会(CANA)の調べによると、1970年の火葬比率は全米でたった約5%だったのが、40年後の2010年になると40%に。2016年には初めて50%を超えました。地域差も大きく、2020年の調査ではネバダ州など高い地域は80%超。南部の州は保守的で低い地域が多いのですが、それでも最も低いケンタッキー州でも30%近くが火葬になっており、この半世紀でいかに火葬率が上がったかがわかります。
地球環境に配慮したSDGsな葬儀の数々
欧米で火葬を選ぶ人は最終的には遺灰となって「はじまりへの旅」の登場人物のように“自然に還る”ことを希望しているようです。イギリスでは1990年代以降、300以上の自然葬霊園が出来、アメリカでは自然葬が認定されている 葬儀社・樹木葬霊園・製品会社が300以上に上っています。
そして21世紀以降、地球環境問題に関する議論が深まるにつれ、葬儀におけるエコ志向はますます高まっています。火葬自体も化石燃料を消費し、二酸化炭素を排出するという観点から見ると環境に悪影響を及ぼすという声が大きくなり、それに代わるSDGs時代の新しいエコ葬として幾つもの方法が提案されるようになりました。
たとえばアメリカで開発された、アルカリ性の液体を使って遺体を溶かす「液体火葬」。これは「水火葬」「バイオ火葬」などなどとも呼ばれています。また、キノコの胞子を植え付けた死装束を着て、遺体をキノコの苗床にする「キノコ葬」や、栄養豊富な土に生まれ変わらせる「堆肥葬(有機還元葬)」なども“自然に還る” “リサイクル(再生)”という意味で最も望ましいエコ葬ではないかと注目を浴びています。
ヨーロッパに目を向けると、オランダでも同様に遺体を堆肥化する葬送方法が提案されたり、スウェーデンの企業が普及を進める、液体窒素を使った「フリーズドライ葬」も注目されています。また、カトリックの戒律が厳しく、ヨーロッパの中でも保守的で火葬率が低いイタリアでも土葬の新しい形を追求し、遺体を栄養にして木を育て、森を作るというるというプロジェクトがスタートしています。
20世紀を生きた人々のエンディングが変貌する
このように世界各地で地球環境に配慮したエコ葬が次々と考案される背景には、SDGsの思想に基づく自然回帰志向がある一方で、経済面の負担も考慮されています。これまでの葬儀やお墓・供養にはお金が掛かり過ぎていた——そうした思いはどうやら世界中の人たちに共通しているようです。
日本と同じくこれから多死時代を迎える先進各国では、伝統にこだわる保守的な葬儀・供養業界に対し、最新のテクノロジーを駆使して業務を合理化し、より安価で簡便な葬儀を提供していこう——いわばDXによる業界改革の動きも進んでいます。その主な担い手は、デジタル技術やインターネットが普及した時代に育ち、昔ながらの宗教観から自由になった若い世代です。
さらに人口が密集する各国の都市部では、埋葬(土葬)したくても土地が不足する問題が多数発生しています。国や自治体もこうした現状に対処する必要から、伝統的な習慣を改めざるを得ず、お墓のミニマリズム化が進んでいることも近年の世界的な葬儀・供養の傾向と言えるでしょう。
科学技術の発達で生まれた20世紀の繁栄。その繁栄がもたらした人口増加や土地開発といった社会的現象は、半世紀あまりの時を経て、生みの親・育ての親である“20世紀を生きた人々”の人生のエンディングを大きく変貌させようとしています。
そうした観点から次回以降はこれらSDGs・DX・ミニリズムをテーマとした葬儀や供養の新しい姿を一つ一つクロ―ズアップして紹介していきます。