一人暮らし高齢者の認知症対応方法とは?起こりうる問題や予防法、サービスについてご解説
別居している親が認知症になると、一人暮らしさせることが難しいと感じる場面が増えます。しかし、生活環境をいきなり変えることは認知症にとって好ましくありません。そこで今回は、認知症になっても一人暮らしを続けるための対応策についてご紹介します。ぜひ最後までご覧ください。
東北公益文科大学卒業。その後、介護保険や障害者総合支援法に関する様々な在宅サービスや資格講座の講師を担当した。現在は社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームの生活相談員として、入居に関する相談に対応している。在宅・施設双方の業務に加えて実際に家族を介護した経験もある。高齢者介護分野のみならず、障がい者支援に関する制度にも明るい。
一人暮らしの障害となる認知症は、どんな病気?
認知症になると、物忘れや日常生活能力の低下によって一人暮らしでいることが困難になってしまう場合があります。
そもそも、なぜ老人は認知症になりやすいのでしょうか?
また、一人暮らしの人が認知症になると、どのようなリスクがあるのでしょうか。 まずは、認知症の概要についてご紹介します。
認知症とは、脳の機能が低下することによって起こる病気である
厚生労働省では、認知症を
脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態
引用元 | 厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト
と定義しています。認知症は、脳の異変によって生じる機能障害の総称です。認知症というと老人を思い浮かべる人が多いのは、老化によって発症リスクが上がっていくからです。若い人でも事故で脳を損傷したり、脳に障害をもたらす病気にかかったりすれば認知症になる恐れがあります。
認知症は、厳密にいえば病名ではなく認知機能障害という症状を表す言葉です。一人暮らしで周囲の目に触れる機会が少ないと発見が遅れがちです。しかし、一人暮らしや老人だからといって認知症になるわけではありません。病気や外傷などによる脳の障害が原因で、単なる加齢による物忘れとは異なるため注意しましょう。
4大認知症の原因と主な症状
認知症の類型は100以上あると言われていますが、全体の90%は以下の「4大認知症」が占めています。
4大認知症
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
ここでは、認知症の大半を占める4大認知症の原因や主な症状をご紹介します。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβという特殊なたんぱく質が脳に蓄積することで発症する認知症です。認知症の中では、もっとも割合が高くなっています。
脳の神経細胞が破壊されて萎縮し、主に記憶障害や見当識障害(日時・場所・人物に関する情報を処理できなくなる症状)が起き、徐々に日常生活能力の低下が進行します。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳卒中(脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血等)が原因の認知症です。出血や梗塞によって脳細胞が酸欠を起こすため、病変の部位によって現れる症状が異なります。一人暮らしだと食生活が単調になりがちで、塩分過多による高血圧は脳卒中の原因となります。
記憶障害や見当識障害に加え、感情のコントロールが難しくなったり、片側への注意力(多くは左側)が低下したりします。日によって脳の血流が活発な時間帯は症状が出ないときもあり、「まだら認知症」とも呼ばれます。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳の中でも特に大脳皮質と呼ばれる部分にレビー小体というたんぱく質が蓄積することで発症します。パーキンソン病と原因が同じなため、症状も類似しています。
手の震えや歩き出しの1歩目が出にくくなるなどの身体症状に加え、例えば、洗濯物を指さして一人暮らしなのに同居人だと訴えるなどの幻視があります。また認知機能については、時間帯によって受け答えがハッキリしないときと問題がないときがある「日内変動」が特徴です。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、脳の中でも「人格・社会性・言語」を司る前頭葉と「記憶・聴覚・言語」を司る側頭葉が集中的に障害が起きる認知症です。他の認知症とは異なる症状があり、若年層に多いところも特徴です。
特徴的な症状は、社会性の欠如(軽犯罪を起こす)・抑制が効かなくなる(感情を抑えられず暴力をふるう)・同じ動作を何度も繰り返す・言葉が出なくなるなどがありますが、一人暮らしの場合は特に気付くのが難しいです。
一人暮らしの認知症高齢者に起こりやすいトラブルと予防法
一人暮らしの高齢者が認知症になると、生活が困難になるさまざまな問題に直面します。特に多いトラブルには、以下のようなものがあります。
認知症高齢者に起こりやすいトラブル
- 閉じこもりによる心身機能の低下
- 薬の飲み忘れ・過剰摂取
- 熱中症・低体温症
- ご近所トラブル
- 金銭トラブル
- 事故・転倒・行方不明
- 火事
例え認知症になったとしても、事前にこれらのトラブルの予防策を取ることで、ある程度一人暮らしを続けられます。
この章では、一人暮らしの認知症高齢者に起きやすいトラブルの解決方法についてご紹介します。
閉じこもりによる心身機能の低下
認知症になると物忘れや周囲の状況への対応が難しくなるため、外出を億劫に感じることが増えます。外出の機会が減ると、閉じこもりがちになり運動の機会が減るため、足腰が衰えて体力も低下します。脳への刺激も低下して認知症が進行する悪循環に陥ってしまいます。
一人暮らしの人の閉じこもりを予防するために大切なことは、本人が認知症状を理解し受け入れられるよう、周囲から働きかけることです。また、後述する通所系の介護保険サービスを利用して外出の機会を確保すると共に、新たな出会いを楽しんだりリハビリに取り組んだりすることも効果的です。
薬の飲み忘れ・過剰摂取
認知症で物忘れや時間の感覚が曖昧になると、確実な服薬ができなくなります。一人暮らしの場合、服薬ミスにも気付きにくくなります。これらを放置すると持病悪化の恐れがあるのはもちろん、逆に飲んだことを忘れて同じ薬を過剰に摂取することで体調を崩すリスクも高まります。
一人暮らしのお薬トラブル予防には、曜日や日付が大きく表示される時計とお薬カレンダーの併用が有効です。服薬時間に合わせて電話したり、訪問系の介護保険サービスを利用したりするのもよいでしょう。また、薬の種類や量が多くて混乱する場合は、かかりつけ医や薬剤師に薬を減らせないか相談することもおすすめです。
熱中症・低体温症
一人暮らしをしている高齢者の場合、熱中症や低体温症リスクがあります。高齢者は加齢の影響で熱中症や低体温症に陥りやすいうえ、高齢者特有の我慢強さや節約意識が災いとなりリスク上昇に拍車をかけてしまう場合があります。
まずは一人暮らしだと我慢しがちな水分補給や冷暖房の使用に気をつけましょう。危険な時期はショートステイを利用したり、こまめに安否確認したりします。遠隔地からでも安否確認や操作ができるWebカメラや各種生活家電・冷暖房などのICT機器を活用するのもよいでしょう。
ご近所トラブル
一人暮らしの方が近隣住民との関わり方で起こりがちなトラブルに、ゴミ問題があります。ゴミの分別方法や収集日が分からなくなってうまくゴミ出しができなくなり、ゴミがどんどん溜まってしまいうことがあります。また、認知症状のひとつである被害妄想や作り話で近所の住民を悪く言ってしまう等、人間関係がこじれることもあります。
ゴミ出しが問題になった場合は最寄りの地域包括支援センターに相談し、一人暮らしであることを伝えて地域のボランティアやホームヘルパーから協力してもらいましょう。物忘れで頻繁に物を置き忘れるようになると、盗難にあったといった被害妄想に発展するリスクがあります。
金銭トラブル
電話勧誘や特殊詐欺は記憶力や判断力が鈍っている一人暮らし認知症の方にとって大きな問題です。「久しぶりに一人暮らしをしている親のところに行ったら知らない置物や絵が増えていた」「通帳を見たら大金が消えていた」などの金銭トラブルに発展しないよう、注意が必要でしょう。
一人暮らしで判断能力や金銭管理に不安を感じたら、放置せずに専門機関へ相談しましょう。公的に金銭管理を支援する「日常生活自立支援事業」や、「成年後見制度」の利用が選択肢に挙がるでしょう。身近なところでは、特殊詐欺対策機能がついた電話機に変えるのも有効です。
転倒・事故・行方不明
転倒して動けなくなったり、車を運転して事故を起こしたり、徘徊して行方不明になったりするのも認知症の大きな問題です。一人暮らしだと発見が遅れ、放置すると他者や本人の命に危険が及ぶ場合もあります。危険性がある場合は最優先で対処しなければなりません。
転倒予防のためには、「つまづきそうな敷居に小さなスロープを敷く」「動線上の足元に物を置かない」「階段等の段差が多い場所には手すりを付ける」などが有効です。特に一人暮らしで運転をしている場合は、家族や知人などとしっかり話し合って免許返納と廃車を行うだけでなく、代わりの移動手段も一緒に考えましょう。
道に迷って徘徊してしまう恐れがある場合は、近所の方に協力を依頼したり、普段使用する靴にGPSをつけたりすることも検討しましょう。最寄りの地域包括支援センターに一人暮らしであることを相談し、各市町村が実施している認知症高齢者見守りサービスなどへの登録することもおすすめです。
火事
料理の途中で他に気を取られて鍋を焦がすのは、一人暮らしの認知症高齢者によくある問題です。仏壇のロウソクや石油ストーブも、一人暮らしの場合は火事のリスクがあります。自身だけでなく他人にも多大な被害を与えてしまうことになるため、必ず予防しなければなりません。
コンロを安全装置付きやIHに変え、仏壇のロウソクも電球タイプに交換すると安心です。また、石油ストーブよりもエアコンなど火を使わない暖房器具の方が安全でしょう。一人暮らしだと火災が起きても気付きにくいため、家庭用火災報知器(2011年に全戸設置義務化)の電池切れも点検し、万が一にも備えましょう。
一人暮らしの認知症高齢者が利用できる主な介護保険サービス
公的な介護保険サービスは、一人暮らしの認知症高齢者をサポートする強い味方です。利用するためには、住所のある市区町村から要介護認定を受け、ケアマネジャー等からケアプランを作ってもらう必要があります。数あるサービスの中でも特に一人暮らしの方におすすめなのが、以下の四つのサービスです。
1.訪問介護(ホームヘルパー)
訪問介護は、資格を持ったホームヘルパーが訪問して入浴や排泄などの身体介護や、掃除・調理・買物などの家事援助を提供してくれるサービスです。家事援助は、基本的に一人暮らしの要介護者しか利用できません。
通常の訪問介護は真夜中の対応は難しいため、「夜間対応型訪問介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」という特殊なヘルパーを利用すれば、よりきめ細やかな支援を受けられ、一人暮らしでも安心です。
特に認知症になると家事が苦手になります。定期的に訪問してもらい安否を確認してもらうと共に、掃除・調理・買物やゴミ出しを支援してもらうことで一人暮らしを支えましょう。
2.通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)
通所介護や通所リハビリテーションは、どちらも日帰りで介護施設に通うタイプのサービスです。どちらも非常に人気があり、基本的に送迎付きのため、一人暮らしで移動手段がない人でも大丈夫です。
通所介護は、主に他者との交流や閉じこもり防止が重視されたサービスです。社交性がある人や外出が好きな人、食事会やおしゃべりが好きな人に向いています。中には小規模で家庭的な雰囲気の施設や、認知症患者に特化したデイサービスもあります。
一方、通所リハビリテーションは、その名の通りリハビリを重視した施設です。利用には主治医の許可が必要で、理学療法士や作業療法士などの専門職がリハビリを実施します。
3.短期入所(ショートステイ)
短期入所とは、一時的に介護施設に入所して24時間連続した介護やリハビリを受けるサービスです。一人暮らしで熱中症や凍死の恐れがある場合は避暑や越冬目的で比較的長期間利用するケースもあります。なお、デイサービス等とは違い、送迎は付帯サービスになっています。
4.小規模多機能型居宅介護
小規模多機能型居宅介護とは、「通い・訪問・宿泊・ケアマネジャー」の四つのサービスを一ヶ所にまとめたサービスです。通い慣れた施設にショートステイしたり、顔なじみの職員が自宅に訪問してくれたりするため、一人暮らしの認知症の方に向いています。定額制のため、料金が分かりやすい点も特徴です。
一人暮らしの場合は、介護保険サービス以外の行政サービスも活用しよう
一人暮らしの認知症高齢者を支えるサービスは、介護保険サービス以外にも多数あります。無料または安価で利用できるものが多いため、介護保険サービスと併用するなどして工夫しながら生活環境を整えましょう。
具体的には、以下のような行政サービスがあります。
介護保険以外で一人暮らしの認知症高齢者に適した行政サービスの例
- 徘徊の恐れがある人の顔写真や特徴を事前登録することで、早期発見につなげるサービス(見守りSOS)
- 認知症による支援拒否により受診やサービス利用に繋がらないケースに対応する専門職チーム(認知症初期集中支援チーム)
- 民間事業者と連携して、地域で認知症患者を見守る事業(高齢者等見守りネットワーク)
特に一人暮らしの認知症高齢者の場合は、介護保険サービスのみでは限界を感じることもあります。それ以外の行政サービスやボランティア団体、町内会や近所の人に協力を依頼するなど、地域全体で支える工夫が大切です。
一人暮らしの認知症対応で困ったときは専門家に相談しよう
この記事のまとめ
- 認知症は、脳の異変によって生じる機能障害で、老化により発症リスクが上がっていく
- 認知症はアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が大半を占め、症状が異なる
- 一人暮らしの認知症高齢者に起こりやすいトラブルの中には熱中症・低体温症、事故・転倒・行方不明、火事などのさまざまな危険があるため、しっかりと対策をする
- 利用できる主な介護保険サービスには、訪問介護、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所、小規模多機能型居宅介護がある
- 介護保険サービス以外に一人暮らしの認知症高齢者向けの行政サービスもあるため、併用するのもおすすめ
一人暮らしの家族が認知症になったら、誰でも不安になってしまうものです。大切なのは、困ったときは抱え込まず専門家に相談することです。困りごとを放置せず対策をすれば、認知症になっても一人暮らしの生活を続けられます。
まずは専門医を受診し、認知症の原因となる疾患を確認しましょう。原因疾患が分かれば、特徴に合わせた対策も取りやすくなります。市区町村に申請して要介護認定を受けたら、一人暮らしにありがちなトラブルの予防策や介護保険サービスを組み合わせたケアプランを作ってもらい、サービス利用につなげましょう。