【ひとたび編集部が選ぶシニアが活躍する映画10選08】ロボジー〜頼られることの重要性〜
ひとたびの「シニアが活躍する映画10選」では、シニア世代が主役として活躍する映画を紹介します。今回紹介するのは、家族と疎遠だったおじいさんがロボットになる映画です。おじいさんがロボットを通して人に求められることにより成長していき、家族との絆も少し取り戻すというコメディタッチのヒューマンドラマながら、いつ真相が判明してしまうのかというスリルを交えたジャンルの壁を超えたハートフルな老人活劇です。
第8回は「ロボジー」という映画を紹介します。
こちらは2012年に公開された日本映画で、興行収入11億円を突破したスマッシュヒット作です。
主演は当時74歳のミッキー・カーチスですが、本作では五十嵐信次郎という別名でクレジットされています。そんな彼がロボットになるのも見どころです。そのロボットに恋してしまうオタク学生を吉高由里子が演じ、天性のコメディエンヌぶりを発揮します。そして、ロボットになることをお願いする木村電器の開発部で働く凸凹トリオを、濱田岳と川島潤哉、お笑いコンビWエンジンのチャン・カワイこと川合正悟が演じており、本作に笑いをプラスしています。
監督は「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」といった日本のコメディ映画のトップを牽引する矢口史靖です。他の代表作のようなゆるい空気感が癖になりつつ、笑えるところは笑わせ、感動できるところはしっかり感動させるメリハリの付いた演出は今回も健在です。
あり得ない設定ながら、あり得そうな妙な説得力のあるコメディ映画。曲者ぞろいのキャストとスタッフによって作られた極上のゆるさがたまらない、そんな作品を今回は紹介したいと思います。
あらすじ
木村電器の社長である木村は、会社の宣伝の為に二足歩行ロボット「ニュー潮風」の開発を開発部の小林、長井、太田の3名に命じていました。しかし、博覧会の1週間前、暴走によってロボットはバックアップもろとも壊れてしまいました。
社長にバレてはいけないと思った3名は、ロボットの中に人を入れて動かすことでなんとか当日を乗り越えようと画策します。
着ぐるみショーのオーディションという体で面接を開始したところ、多くの若者の中に鈴木という老人が1人混じっていました。一度は落選したものの、鈴木がロボット役に決まります。鈴木は自分が何を演じるかは教えられず、イヤホンで指示されたことだけ動く様にと強く小林達に念を押されました。
最初は指示通り動いていたのですが、子供の「つまらない」というヤジに反発し、鈴木は指示以外の行動までして、会場を大いに沸かせます。さらに、ニュー潮風は、来場していたロボットオタクで大学生の佐々木が倒れてきた柱に潰されそうになったところを助け出します。
この行動がロボットの先進的な動きだったと話題になり、ニュー潮風は一気に人気者になってしまったのです。小林達は1日だけのつもりが収拾がつかなくなってしまったため、鈴木に真実を話して引き続きニュー潮風として協力するようにお願いしました。
鈴木は最初は不満に思い断りましたが、3人の落胆ぶりを見かねて助けてあげることにします。しかし、立場が上になったことで鈴木は図に乗り、レストランやホテルで最上級のおもてなしを求めます。とはいえ、会社に経費を申請することもできず、3人は精神的にも経済的にも窮地に立たされてしまいます。
あるイベントで、鈴木がロボットの姿のまま行方不明になってしまいました。実は鈴木の娘と孫娘に勝手に会いに行き、祖父としての威厳をあげようとしていたのです。巷で人気のロボットが家に来たことで、娘家族は大満足。鈴木は顔をさらけ出すことはありませんでしたが、自分が褒められたような気分のまま宿泊施設に戻りました。3人は必死に鈴木を探していただけに怒り狂いましたが、無事だったことに安堵するのでした。
ニュー潮風に助けてもらったことですっかりファンになってしまった佐々木は、3人に大学の講義依頼を申し入れます。最初は小遣い稼ぎ程度に思っていましたが、大学生の熱量にいつしかやる気をもらい、本気で3人はロボットづくりに専念するようになりました。
そして佐々木は、就職活動で木村電器を受けに行きました。しかし、あまりの優秀さにニュー潮風が偽物であることがバレてしまうと思った太田が、「君はロボットづくりに向いていない」と冷たく突き放します。佐々木はショックを受けるも、自暴自棄になっている中で偶然「ニュー潮風の中に人が入っているのでは?」ということに気づき、テレビ局の友人である伊丹にスクープとして持ち込みます。
同じ頃、ロボットが偽物ではないかという噂が出回り、木村電器は記者会見することになりました。伊丹は事前に鈴木がロボットの中に入っていると気付き、直接会って記者会見で正体を明かすように説得しました。
会見当日、伊丹は執拗に嘘を暴こうとして追いかけ回すも、バランスを崩したニュー潮風は窓から落ちてバラバラに壊れてしまいました。しかし、本物のニュー潮風は物陰に隠れ、タイミングを見計らってダミーを窓から投げていたのです。これでニュー潮風は本物だったと思わせて、木村電器に損失を与えることのないまま嘘を終わらせたのです。
1年半後、佐々木は無事に木村電器へ入社し、太田たちと開発部で活躍していました。今回もロボット発表会の前に開発中のロボットが壊れてしまい、4人は鈴木に助けを求めました。鈴木は仕方なさそうに笑みを浮かべて映画が終わります。
みどころ
頼られて人は変わる
妻に先立たれて家族からも疎遠となり、やる気の起きない毎日を過ごしていた平凡な鈴木でしたが、太田たち3人に必要とされ、徐々に生き生きとしていきます。そして、自分の演じるニュー潮風が世間から注目されることに喜びを覚えた鈴木は、家族への接し方にも変化がありました。
誰からも必要とされていなかった老人が必要とされたため、生きることへの活力を取り戻したのです。これは我々も大きく共感できるのではないでしょうか。
「仕事で上司から期待されたい」「家族の期待に応えたい」「友人に頼られたい」といった自己肯定感を高めることが、人生において大切なやる気だと思います。そのやる気を活力に、日々精進できるのでしょう。
これを読んで、頼ってくれる人がいないという人もいるかもしれませんが、落ち込むことはありません。そんな人は鈴木と同じで、今まで機会がなかっただけなのです。いつかその機会がくることを信じて、前向きに生きていくことが日々を楽しむコツといえるでしょう。頼られることで人は大きく成長できることを、この映画では謳っています。
ユニークな設定とキャラクター
この映画の魅力の一つは、そのユニークな設定と愛すべき個性的なキャラクターたちです。
鈴木は年老いた普通の男性でありながら、その純朴さと頑固さに親しみを感じさせます。彼がロボットとしての役割を果たす中でさまざまなトラブルや誤解が生じ、その都度笑いや感動が生まれます。
ロボットの中が鈴木と知っている観客は「頑張れ!」と心のなかで応援しながら、途中の失敗でクスリと笑えたり、人間味あふれる一面を垣間見て心が暖かくなったりするでしょう。
オタク学生の佐々木や太田たち開発部の凸凹トリオなど、誰もが好きになってしまう非常に魅力的なキャラクター達ばかりで、この映画が愛おしくなること間違いなしです。
矢口監督の巧みな演出
矢口監督は、今回も巧みな演出で説得力ある作品に仕上げてきました。矢口監督は「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」などのヒット作を手がけており、コメディ映画の手腕に定評があります。本作でも、その手腕を遺憾なく発揮してくれました。
登場人物の描写が本作でも細かく描かれており、観客が思わず納得するようなキャラクターに仕上げています。突拍子もない設定ながらキャラの行動や言動にはどれもリアリティがあり、映画の舞台がとても身近に感じられるでしょう。また、ロボットの中に人間が入るということが笑いにもスリルにもなるなど、ユニークな設定を生かした見せ場による監督の演出力が映画のクオリティを一層高めています。
まとめ
ロボジーは、ユニークな設定や個性的なキャラクター、ゆるさもありつつスリルも味わえるストーリーと矢口監督の演出が随所に冴えわたるハートフルコメディの名作です。
この映画は設定が笑えるだけでなく、人間の温かさや絆を描いた作品として、見終わったあとに心を暖かくしてくれるでしょう。そして、人に頼られることの大切さも同時に描いており、見てくれた人全員をポジティブにしてくれる作品でもあります。
まだ見ていない方は、ぜひ鑑賞してみてください。
公開年 |
2012年 |
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監督 |
矢口史靖 |
キャスト |
五十嵐信次郎 |