【ひとたび編集部が選ぶシニアが活躍する映画10選07】幸せなひとりぼっち〜自分らしさの積み重ね〜
ひとたびの「シニアが活躍する映画10選」では、シニア世代が主役として活躍する映画を紹介します。今回は、妻を亡くしてひとりで生活する偏屈なおじさんが、隣に引っ越してきた夫婦と交流するなかで、実は愛すべきおじさんだったことが分かっていく映画をご紹介。正義感溢れる若者時代と自分なりの正しさを振りかざす老人時代の2軸で描かれる、自分らしさについて考えさせてくれる名作です。
第7回は「幸せなひとりぼっち」です。
こちらは2016年に公開された作品で、スウェーデンで制作されました。主演のロルフ・ラッスゴードは本当にいけすかない老人になりきっています。その演技は高く評価され、スウェーデンのアカデミー賞と呼ばれるゴールデンビートル賞で主演男優賞を受賞しました。作品自体も非常に評判が高くスウェーデンでは5ヶ月に及ぶロングランヒット、アメリカでも2016年の外国語映画としてはNo. 1の興行収入を記録しています。
その勢いは衰えることなく、ハリウッドでリメイクも製作され、名優トム・ハンクスが主演で「オットーという男」として2023年に公開され、こちらも評判高くヒットを記録しました。
この映画では大きな出来事は起きませんが、小さな幸せ、感動の積み重ねで見終わった後はとても気分がよくなります。ふと「人生を振り返るとはこういうことか」と思える本作は、人生の岐路に立たれている方々の支えになってくれるでしょう。そんな作品を今回は紹介したいと思います。
あらすじ
スウェーデンのとある町に住むオーヴェは半年前に妻のソーニャを亡くし、今は一人暮らしをしています。町内会の見回りを日課にしており違反があればすぐに叱りつけ、周りは規則に厳しい彼を変人扱いしていました。
オーヴェは長く働いていた鉄道会社をクビになり、生き甲斐をなくした彼は自殺を考えます。しかし、ペルシャ人家族が向かいに引っ越してきたことで、二度も自殺に失敗してしまいます。
三度目でロープを首に括ると、オーヴェは昔を思い出しました。
オーヴェは幼少期に母を亡くし、厳格で車好きな父に育てられ、憧れている父と同じ鉄道会社に入社が決まりました。その知らせに喜んだ父親は、車庫に戻ってきた電車に気づかず轢かれて亡くなりました。
我に返ると、首に括ったロープが切れました。
次にオーヴェは、車庫の車の中で、一酸化炭素中毒を起こして死のうと考えました。息苦しさを感じながら、また昔を思い出します。
父が死んだ後、家が火事で全焼し、寝る場所がなく鉄道の車庫で寝ました。目が覚めると電車は動いており、目の前に女性が座っていました。それが若きソーニャでした。オーヴェは一目惚れし、実直な彼にソーニャも惹かれて無事に結婚することに。
ここでペルシャ人家族の母親バルヴァネが、また自殺を知らずに邪魔してきました。旦那のパトリックが怪我をしたため、病院までの運転をお願いしたいというのです。さらに病院の待ち時間に姉妹の世話を頼まれ、姉妹はすっかりオーヴェに懐いてしまったのです。
死ぬに死ねないオーヴェは、駅のホームから電車に飛び込もうとしました。しかし、隣の男性が気を失い線路に倒れ込んでしまったため、救助することに。そんなオーヴェに地元紙の記者が訪ねてきましたが、オーヴェはインタビューを断ってしまいます。
またオーヴェはバルヴァネをソーニャのお気に入りの店に連れて行き、親友のルネについて語ります。もともとルネとは地区会長と副会長という立場で仲良くしていましたが、車の趣味の違いから疎遠になりました。今では車椅子に乗って話すことのできないルネを、たまに見舞いに行っています。
町内会の通行禁止の道を、介護施設の男が車で走っていました。その男はオーヴェの人に知られたくないことも含め、いろいろと調べていました。それに嫌気がさしたオーヴェは、拳銃自殺を試みます。しかし、またチャイムが鳴り、ソーニャの教え子が「泊まる場所がないから泊めてほしい」とやってきました。また自殺は失敗です。
翌日、近所の青年からルネが施設に入れられそうになっていることを聞きます。何かしようと動くものの人を頼りにしないオーヴェを見て、バルヴァネは説教をしました。するとオーヴェは、ソーニャとのことを話し始めます。
結婚後、妊娠が分かった夫婦は、スペイン旅行に行きました。そこで事故に遭い、ソーニャはなんとか一命を取り留めましたが子供を失い、車椅子生活を余儀なくされたのです。車椅子でもできる仕事として教師の資格を取得しましたがどこも採用してくれず、オーヴェは役所に掛け合うものの相手にされませんでした。オーヴェの献身的な支えもあり、特別支援学校の教師として採用されたソーニャは多くの子供達に愛され、半年前にガンで亡くなりました。
全てを語ると、バルヴァネはオーヴェのこれまでの人生と本当の人柄を理解してくれました。
ルネを連れ去ろうとしていた役所の職員が再び訪れましたが、以前訪れた地元紙の記者が職員の不正な所得隠しを暴き退散させます。しかし、職員を無事に追い払って皆が浮かれている間に、オーヴェは倒れ込みました。そして命に別状はないことにバルヴァネは安堵し、3人目の子供を出産しました。
元気になったオーヴェは、自分の子供用に買っていたゆりかごをプレゼントします。
そしてある朝、オーヴェがルーティンをしていないことを不審に思い、バルヴァネはオーヴェの家を訪ねました。彼はベッドで安らかに息を引き取っていたのです。
彼の葬儀はたくさんの人で溢れており、嫌われものだった彼はいませんでした。オーヴェは天国でソーニャと再会でき、見たことのない笑顔で彼女を見つめていました。
みどころ
偏屈おじさんは本当に偏屈なのか
近所に偏屈な人はいませんか?オーヴェは自分のルールと違ったことがあると、ホームセンターだろうと町内会だろうと例外なく対決姿勢になります。相手に反抗的な態度をとられると、怒鳴り散らします。
最初の数分では、オーヴェによい印象を持てないでしょう。しかし、話が進むにつれて彼が何故そうなったのかが紐解かれていくと、オーヴェは不器用で大真面目なだけだと分かります。
何かしてあげようと思うものの、何もできなかった過去があったり、父親からの教えに忠実なだけだったりするのです。近所の人々は彼の態度に嫌気がさしているものの、不器用なだけということを理解しており、さまざまな機会で接しています。
もしあなたの近所に偏屈な人がいたら、オーヴェと同じように不器用なだけかもしれません。人を理解できるのは、その人となりを知ってからです。傍から見ればただの不機嫌な人かもしれませんが、その人の本質を理解できる機会があれば、きっと相手を好きになれるでしょう。
人生とは自分らしさの積み重ね
オーヴェは大真面目で、自分の信念を曲げるのが苦手です。自分の気持ちを口にするのが得意ではないため、相手に誤解させたりもします。
彼の人生を振り返ると悲しく傷つく出来事ばかりですが、ソーニャがいつも側にいたことで乗り越えられてきました。そして、ソーニャは彼のことを理解していたため、オーヴェはずっとオーヴェらしくいられたのです。
映画の回想シーンでは常にオーヴェが今も昔も変わっていないことが描かれており、彼の人生はオーヴェらしさが詰まったものでした。その積み重ねが、最期の葬儀で多くの人に慕われて見送られた結果となったのです。
当たり前かもしれませんが、人生とは自分らしさの積み重ねであると思い知らされました。人間は1日に3万5,000回も判断をしているといわれており、その判断の積み重ねが人生です。そのままの自分でよいんだと思えれば、きっと人生も楽しく生きていけるのではないでしょうか。
高齢者を地域でどう見守るか
本作は高齢化社会の日本にとって、他人事ではないテーマも描いています。高齢者が孤独をできるだけ避けるためには、地域のコミュニティと普段から交流を図っておくのが大事であることがわかります。
本作でも、バルヴァネ夫婦が気にかけてくれて、もともとの町内会でも顔を合わせれば挨拶する程度の交流をオーヴェは持っていました。バルヴァネは遠慮せずにズカズカとオーヴェのプライベートに入ってきましたが、日本人は映画のような空気を読まない接触は難しいかと思います。しかし、普段から地域の方々と交流を図ることで、自然と仲良くなり気に掛け合えるようになるかもしれません。
今後の自分のため、地域を守るためにも、近所を出歩くときは携帯ではなく前を向いて歩いてみてください。自然と目に入る人々が顔見知りになっていくことでしょう。
まとめ
偏屈おじさんの映画なんて退屈だろうと思っている方もいるでしょう。しかし、これはあなたの近所で起こり得る話です。相手の本質を知ることで相手との接し方が変わり、それが人生の重要なピースとなるかもしれません。一つひとつの出来事が人生の積み重ねとなるため、ぜひこの映画もその積み重ねの一つとして見てみてください。
公開年 |
2016年 |
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監督 |
ハンネス・ホルム |
キャスト |
ロルフ・ラッスゴード イーダ・エングボル バハー・パール フィリップ・バーグ |