【ひとたび編集部が選ぶシニアが活躍する映画10選03】最強のふたり〜平等に接するためのヒント〜
ひとたびの「シニアが活躍する映画10選」では、シニア世代が主役として活躍する映画を紹介します。今回は、誰もが見たあとにポジティブな気持ちになれる名作です。車椅子の大富豪と失業保険目当てで近づいたお調子者の2人の友情をユーモアを織り交ぜながら描く本作を観れば、何事も前向きにとらえて人生を歩んでいく姿に明るい気持ちになれるでしょう。
第三回はフランス映画「最強のふたり」です。
2011年に公開された作品であり、日本では口コミの高さから小規模公開ながらロングランヒットし、16億円を超える興行収入を記録しました。この興行収入はフランス映画で歴代1位の記録です。また、アメリカでは興行収入が外国語映画での最高額となり、リメイク版も製作されました。
本国フランスでは歴代観客動員数で3位を記録しており、世界中で大ヒットしました。フランスのアカデミー賞と言われるセザール賞では8部門にノミネートされ、オマール・シーが主演男優賞を受賞しています。
オマール・シーはこの映画で大ブレイクし、「ジュラシック・ワールド」シリーズで主人公の同僚役を演じ、Netflixの人気シリーズ「Lupin/ルパン」では主役のアルセーヌ・ルパンを演じています。
もう一人の主演、フランソワ・クリュゼは日本ではあまり知名度は高くないでしょう。しかし、フランスではセザール賞に9回ノミネートされている名優です。本作でも主演男優賞にノミネートされました。
本作は公開から13年経っても今なお愛され続けている映画です。観客にも評論家にも評価されており、見た人全員が大好きになる映画といっても過言ではないでしょう。
今回はそんな誰もが愛してやまない映画を紹介します。
あらすじ
※本記事にはネタバレ内容を含みます。あらかじめご了承の上、お読みください。
夜のパリで高級車がスピード違反で捕まりました。運転していたのは若い黒人のドリスです。隣には障害を抱えた初老のフィリップが座っていました。フィリップは「障害の影響で緊急を要していたためスピードを出していた」と警察に訴えます。
警察は病院までパトカーで先導してくれました。病院に到着し警察が去ったあと、2人は病院へ入ることなく高笑いでその場を後にしました。2人は元々猛スピードを出して遊んでいただけだったのです。
時は遡り、フィリップは事故により首から下が動かなくなり電動車椅子での生活を強いられ、新しい介護人を募集していました。応募者は皆ありきたりなことしか言わない中、唯一失業保険をもらうために就職活動をしているので、その証明だけ欲しいと正直に話した人物がいたのです。それがドリスでした。
他の応募者と違ってドリスだけはフィリップを障害者として見ていなかったのです。その姿勢を気に入ったフィリップは、ドリスを採用することを決めました。また、フィリップの秘書のマガリーを気に入ったドリスも、採用に応じることにしたのです。
ドリスはしばらくぶりにアパートに戻りました。長く留守にしていたことに母親は激怒します。弟は地元の不良グループに入っていました。結局家から締め出されたドリスは、フィリップの家で住み込みとして働くことになります。
色々と介護方法を学ぶ中、フィリップのことを障害者ではなく1人の人間として扱うドリス。周りはドリスで大丈夫かと不安を抱える中、フィリップだけは彼を障害者として扱わないドリスをとても気に入っていました。そして、フィリップは自身がなぜ障害を負ったのかなど、過去についてもドリスに打ち明けます。
フィリップには、半年前からエレノアという文通相手がいました。彼女には自分が障害を負っていることを伏せていました。しかしドリスは回りくどい文通に痺れを切らし、フィリップのためにエレノアに電話をかけます。それがきっかけでフィリップとエレノアは長電話をする仲となり、写真を送り合うことになりました。障害を隠したいフィリップは、事故に遭う前の写真を送ります。
フィリップの誕生日パーティーが開かれ、クラシックばかり流れ退屈になったドリスは、ダンスミュージックをかけて踊っていました。「皆も踊れ!」と煽ると使用人たちも踊り出し、自然と笑いに溢れる場になり、その景色を見たフィリップも心の底から楽しみます。
その晩、エレノアが「パリに来る予定があるので会えないか?」とフィリップを誘いました。カフェで待ち合わせすることになったものの、エレノアは来ません。来ないことに焦りを感じたフィリップは、先に帰ってしまいました。しかし、そのすぐ後にエレノアはカフェを訪れていたのです。
ある日、ドリスの弟が怪我を負った状態でフィリップ邸を訪れました。ドリスの家庭環境を見かねたフィリップは、ドリスに「一生ものの仕事に就きなさい」と諭して契約を解除したのです。
しかし、ドリスの次に雇った介護人は使い物にならず、発作を起こしたフィリップは再度ドリスに連絡を取ってしまいました。これが冒頭のシーンにつながります。
そのまま車を走らせ海岸の町に着いた2人は、レストランで食事を取ろうとします。すると、そこにエレノアが現れました。ドリスがエレノアを呼んでいたのです。そしてドリスはその場を後にしました。エレノアと楽しそうに会話するフィリップの笑顔で、映画は幕を閉じます。
なお、エンドロールでは、この話が実話であることが述べられ、今なお親友である実際の2人の写真が映し出されます。
みどころ
ありのままでいることこそ平等
ドリスは誰に対しても特別扱いのない対等な態度で、障害者であるフィリップに対してもそのスタンスは変わりません。はたから見れば、ブラックジョークでしかない障害者を小馬鹿にしたようなセリフも、ドリスが言うと嫌味のない笑いに変換されるのです。彼は誰にも壁を作らず、常に対等だからこそフィリップも気に入りました。
私達も普段生活する中で、おのずと車椅子の方や障害を抱えている方に対し、特別扱いをしてしまうことがあるのではないでしょうか。それは、障害者の方々から見たら、とても辛い反応なのかもしれません。
平等とは、一見簡単でもとても難しいことでしょう。しかしドリスは、フィリップに障害があることをしばし忘れていることもあれば、足の感覚がないならお湯をかけてもいいよね?と悪ふざけをしようとすることもあります。こういった配慮のなさが、むしろ平等な態度なのかもしれません。
周りにジョークを言う人は障害者にだってジョークを言えばよいですし、寡黙な人は障害者の前でも寡黙を貫けばよいのでしょう。本作は障害者や健常者の壁をなくして、誰といようとありのままの自分でいることが大切だと気付かされる映画ともいえます。
ギャップを受け入れる
彼らは元々、雇用主と被雇用者の立場でした。そして障害者と健常者、富裕層と貧困層、趣味はクラシックとパーティーミュージック、さらには生きてきた環境や好みも全く違います。それでも彼らは互いに影響を受け合っていました。
フィリップは絵画やオペラをドリスに見せ、実際にドリスは絵画に興味を持ち、絵を描くことが趣味になっていきます。また、ドリスはタバコをフィリップに教えました。
お互いに自分の知らない世界とのギャップを楽しんでおり、そのギャップを楽しめたことが友情につながっています。自分の知らない世界を、フィリップは歳を重ねても楽しめる柔軟さがありました。
ギャップを感じるとどうしても人は避けたくなるものです。今まで受け入れられなかったものを受け入れたら、私達も違う世界が見えてくるのかもしれません。
影の主役である音楽
この映画は、主役2人の魅力やストーリーはもちろんおすすめですが、音楽のセンスが抜群にいいのも魅力の一つです。
冒頭ではEarth,Wind&Fireの「September」が流れてきます。この曲が流れた瞬間、映画の世界観に魅了されてしまうのです。開始5分でこの映画に魅せられるのは、BGMと2人の会話が映画の世界観にとてもマッチしているからでしょう。
また、誕生日パーティーでドリスがオススメとして流すのもまたEarth, Wind&Fireの「Boogie Wonderland」です。本作のダンスシーンは、誰もが笑顔になれるだけでなく、映画史に残る名シーンだと言っても過言ではありません。
音楽が流れる中、周りの人達が楽しそうにダンスをし、それを見てフィリップが微笑みます。画面越しでも観客が思わず一緒に踊りたくなり、観客も微笑んでしまうはずです。まさに「映画っていいな」と思える体験ができるでしょう。
まとめ
見た人全てを魅了する映画とは、まさにこの映画のためにある言葉でしょう。113分間ずっと楽しく笑いながらも、人生に大切な多くのことを学べる作品です。
昨今は、常に平等や対等を求められることが多いものです。本作はそのような現代社会において「どのようにすれば生きづらさを感じなくなるか」といった問いに対してのヒントとなりうる映画と言えるでしょう。
「最強のふたり」は、最強のストーリーだけでなく音楽も最強な作品です。多くの人に一度は見てほしい素敵な映画ですので、楽しく笑顔になれる作品を見たくなった際には、ぜひ鑑賞してみてください。
公開年 |
2011年 |
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監督 |
エリック・トレダノ |
キャスト |
フランソワ・クリュゼ |