箸渡しの由来や意味とは?作法や流れ、食事の際に避けるべき理由も解説
「箸渡し」とは、火葬後に故人のご遺骨を骨壷に収骨する際の作法です。箸渡しは昔からの慣習ですが、どういった由来や意味があるのでしょうか。本記事では、葬儀における箸渡しの基本的な流れや、食事の際のマナーについて、詳しく解説します。
「箸渡し」とは
「箸渡し」とは、故人が火葬されたあと遺族や縁の深い人たちが集まり、ご遺骨を骨壷に収骨する際の作法のことです。竹製と木製の箸を1本ずつ合わせた長さの違う箸を用いて、二人一組になってご遺骨を骨壷の中に収めます。
箸渡しには決まったやり方があります。なお葬儀のときにはご遺骨を収める大切な行為である箸渡しですが、食事のときに使う箸で食べ物を箸渡しのように扱うのは、縁起が悪いこととされているため控えましょう。
箸渡しの意味・由来
箸渡しは、葬儀の際に昔から行われている行為です。火葬後の収骨において、なぜ古くから箸渡しが行われてきたのでしょうか。ここでは、箸渡しの由来や意味について解説します。
三途の川への「橋渡し」のお手伝い
箸渡しには「箸」と「橋」を掛けて、故人が橋の架かってない三途の川を無事に渡ることができますようにという由来があります。箸渡しには、遺族の故人を思う気持ちが込められているのです。
日本では同音異義の言葉に、思いを込めることが多く存在しています。例えば、おせち料理には「黒豆=マメに働く」「昆布=よろこぶ」という意味があります。
橋渡しも同様に、三途の川から極楽浄土への「橋渡し」のお手伝いをするといった意味が込められているのです。
悲しみを分かちあう
箸渡しには、故人を悼み悲しみを分かちあうという意味があります。葬儀の箸渡しの作法は、二人一組でご遺骨を箸で挟み収骨するのが一般的です。ひとりで葬儀や収骨を行い悲しむのではなく、他の遺族とともに悲しみを分かちあうのです。
葬儀での箸渡しのやり方・流れ
箸渡しには、基本的な手順があります。箸渡しの手順は、火葬が終わったあとに火葬場や葬儀社のスタッフが教えてくれますが、予め流れや作法を把握しておくとよいでしょう。
①遺骨の周りに集まる
箸渡しを始めるに当たって、まずは参列者がご遺骨の周りに集まります。火葬中、参列者は控え室などで待機している状態です。この時間、参列者は故人について語り合ったり、食事をしたりして過ごします。火葬を終え箸渡しの準備が整ったら、火葬場のスタッフから案内があります。声をかけられたら、参列者は遺骨の周りに集まってください。収骨専用の台で箸渡しを行うこともあれば、棺を火葬した台の上で箸渡しを行う場合もあります。
②二人一組になる
箸渡しは、一般的に近親者が二人一組で行います。喪主が遺骨の頭側に立ち、参列者全員で遺骨を囲むように立ちます。収骨台または棺の台を挟んだ反対側にいる相手とペアになります。
地域によっては男女一組で行うものとされる場合もあります。不安な場合は、火葬場や葬儀社のスタッフに確認しましょう。
③二人一組で遺骨を骨壷へ収める
二人一組のペアになったら遺骨を骨壷に収めます。箸渡しによる収骨には、地域によって異なる2種類の方法があります。ひとつはひとりが遺骨を拾い、もうひとりが受け取って骨壷に収めるやり方です。二人でいっしょに遺骨を拾い、骨壷に収めるやり方もあります。
また参列者は箸渡しをせず、火葬場のスタッフに任せる場合もあります。箸渡しのやり方は地域や宗派によって異なる場合があるため、分からないときはスタッフに確認しましょう。
④故人と関係が深い順に遺骨を収める
箸渡しは一般的に、故人と関係の深い遺族から順に行います。箸渡しは故人の足側の遺骨から頭に向かって拾っていってください。これは、骨壷の中でできるだけ生前と同じ姿で収めてあげるためといわれています。
箸渡しは一般的に、故人と関係の深い遺族から順に行います。箸渡しは故人の足側の遺骨から頭に向かって拾っていってください。これは、骨壷の中でできるだけ生前と同じ姿で収めてあげるためといわれています。
収骨が終わると、スタッフが骨壷の蓋を閉めて布で包んでくれます。その際、納骨に必要な「埋葬許可証」を忘れずにもらうようにしましょう。その後骨壷を自宅に持ち帰り、四十九日まで後飾り祭壇などに安置します。
葬儀の箸渡しの作法・マナー
葬儀における箸渡しの一般的な手順の次は、マナーや注意点について解説します。箸渡し中に分からないことやトラブルがあっても焦ってしまわないよう、事前に知識を身につけておきましょう。
箸渡しする遺骨は重要な部分のみ
参列者が行う箸渡しでは、すべての遺骨を骨壷に収骨するわけではありません。遺骨を全部箸渡しすると、非常に時間がかかってしまうからです。そのため、参列者が箸渡しするのは、遺骨の重要な部分のみになります。重要な部分の遺骨は、火葬場のスタッフがトレーなどに移してから部位について説明してくれる場合もあります。関東では、遺骨の全てを骨壺に収める「全収骨」が一般的なため、残った遺骨は火葬場のスタッフが収骨してくれます。
遺骨の中で最も重要な部分といわれているのが「喉仏」です。箸渡しにおける喉仏とは、喉にある軟骨ではなく、背骨の第二頚椎を指し、仏様が座禅を組み合掌している姿に形が似ていることから、火葬後に綺麗に残っていると極楽浄土へ行けるといわれています。
なお、喉仏の遺骨を箸渡しするのは喪主の役割です。
遺骨を収める順番を守る
箸渡しの際は、遺骨を収める順番を守りましょう。箸渡しは、故人と関係の深い順に行うのがマナーとされています。まずは喪主が箸渡しをします。続いて遺族、親戚、知人の順番で、箸渡しを行いましょう。
自分よりも関係の深い方が優先のため、親族でない場合は後ろの方に並ぶのがマナーです。万が一箸渡しの順番が回ってきて箸を渡されたとしても、自分よりも関係の深い方より先にならないよう譲ってください。
遺骨を落としたらスタッフに任せる
箸渡しの際に遺骨を落としてしまったときは、火葬場のスタッフに任せてください。箸渡しはペアになって不揃いの箸で遺骨を骨壷に入れるため、慣れていないと落としてしまうことがあります。遺骨を落としてしまったときには、慌てずスタッフに声をかけ指示を仰ぎましょう。
火葬場では遺骨を落としてしまうことも想定しているため、すぐに対応してくれます。なお、遺骨を落としてしまったとしても、決して罰当たりなことではありません。
宗派や地域のマナーにあわせる
箸渡しには一般的な作法や手順がありますが、宗派や地域によっても異なるため、その場に応じてやり方をあわせましょう。例えば東日本では、故人の遺骨をすべて骨壷に収骨します。しかし西日本では、遺骨の一部のみを収骨する「部分収骨」が一般的です。
自分が知っているマナーや流れと違っていたとしても、宗派や地域にならってやり方をあわせましょう。
食事の席で箸渡しがマナー違反な理由
葬儀では、故人の遺骨を箸渡しで収骨するのが一般的な慣習です。しかし、食事においての箸渡しはタブーとされています。ここでは、食事の際の箸渡しがマナー違反な理由について解説します。
葬儀の箸渡しを想像させる
箸渡しは、古くから葬儀で行われている収骨のやり方です。そのため、食事のときに料理を箸から箸へ受け渡すと葬儀の箸渡しを連想させることから、縁起が悪いとされています。普段の食事では箸渡しをしないよう気を付けましょう。
葬儀で行われる箸の作法は「逆さ事」のため
箸渡しで素材と長さの違う不揃いの箸を使う行為は、普段とは違う非日常的な作法です。これは「逆さ事」に由来するといわれています。逆さ事とは、現世とあの世の世界を区別するため、あえて普段のやり方と変えたり順番を逆さにするという習慣です。箸渡しは「逆さ事」になるため、食事のときにはマナー違反とされています。
また逆さ事には、死者に関わることのないようあの世とこの世を分ける魔除けの意味も込められています。つまり普段の食事における箸渡しは、あの世とこの世を混同することになってしまうためマナー違反とされているのです。
「仏箸」など箸に関するタブーは多い
食事での箸の使い方では、箸葬儀や死をイメージさせる「嫌い箸」「忌み箸」は、縁起が悪いといわれています。例えば「仏箸」(「立て箸」とも言う)は葬儀のときにに故人の枕元に供えるご飯に箸を突き立てた枕飯のことで、てんこ盛りにしたご飯に箸を突き刺して立てることはこれに似ていて亡くなった方を連想させるためタブーとされています。
縁起の悪いことを避けて死を身近なものにしないようにという、古くからの考え方がうかがえます。
箸渡しを行う前に意味や正しいマナーを理解しておきましょう
この記事のまとめ
- 「箸渡し」とは、葬儀の際に故人の遺骨を骨壷に収骨する作法のこと
- 箸渡しは、故人が無事に三途の川を渡れるようにという思いが込められている
- 箸渡しの一般的な流れは①遺骨の周りに集まる②二人一組になる③二人一組で遺骨を骨壷へ収める④故人と血縁の濃い順に遺骨を収める
- 食事のときの箸渡しは、葬儀を連想させるためタブーとされている
箸渡しは、故人が無事に三途の川を渡ることができるようにと願いを込めた、古くからの収骨の行為です。箸渡しは非日常的な作法で行うため、不慣れな動作に戸惑うことも多いでしょう。その一方で、日常的な食事においてはタブーとされています。
この機会に本記事を参考にして、箸渡しのやり方や注意点をしっかりと理解しておきましょう。たとえ知らないことがあったり間違ってしまったりしても、火葬場のスタッフが近くにいるため安心してください。心を込めて箸渡しを行い、故人の冥福を祈りながら見送ることが大切です。