介護サービスを拒否する親の心境は?原因や対策方法、悩みの相談先を解説
親の介護が必要になったときに利用したい介護保険サービス。しかし親から利用を拒否されてしまうと、家族の負担が増えて悩みのタネとなります。本記事では、親が介護サービス利用を拒否してしまうときに考えられる原因とその対策、困ったときの相談先について紹介します。
東北公益文科大学卒業。その後、介護保険や障害者総合支援法に関する様々な在宅サービスや資格講座の講師を担当した。現在は社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームの生活相談員として、入居に関する相談に対応している。在宅・施設双方の業務に加えて実際に家族を介護した経験もある。高齢者介護分野のみならず、障がい者支援に関する制度にも明るい。
親が介護サービスを拒否する心理的理由
親が介護サービスを拒否する理由として、以下に挙げる要因が心理的障壁となっていることが考えられます。
親が介護サービスを拒否する心理的理由
- 自尊心・羞恥心
- 家族への配慮
- 「親の介護は家族がするもの」という思い込み
- 怯えや不安
親に介護サービスを勧めても拒否されてしまう場合は、親自身の目線に立って拒否する理由を探ることが対策のポイントです。
自尊心・羞恥心
いくら歳を重ねても、親には親自身のプライドや羞恥心があります。いくつになっても「他人に世話をされるようにはなりたくない」と感じるのは自然なことです。特に排泄や入浴に関する介助は裸を他人に晒すことになるため、抵抗を感じる人が多いでしょう。
介護が必要になったことを理解はしていても、サービス利用が必要になったことに対する悔しさや恥ずかしさが、拒否につながってしまうのです。
家族への遠慮
「介護者となる家族に心配(迷惑)をかけたくない」
「貯金が少ないから、サービスを利用したら費用面で迷惑をかけてしまう」
このような家族への遠慮で介護サービスの拒否に至る親も少なくありません。
介護サービス利用にあたっては、基本的に家族が利用者本人の代理人や緊急連絡先の役割を担うことになります。親自身の財産だけでは利用料を支払えない場合、家族が補填することもあるでしょう。
このような家族の負担への遠慮から迷惑をかけられないと考えて、拒否に至ることがあります。
「親の介護は家族がするもの」という思い込み
生活環境が多様化する中、社会全体で介護を支える「介護の社会化」という考え方の下で成立したのが介護保険制度です。しかし、未だに「親の介護は家族がするものだ」と考えている人たちがいます。
このような考えの場合「家族がいるのに、なぜお金を払ってまで介護サービスを使うのか」との発想に至り、介護サービスの拒否につながります。
怯えや不安
他人が自宅に訪問することに対する漠然とした怯えと不安が、介護サービスの拒否につながっている場合もあります。介護サービスを利用すると、今までの生活パターンが大きく変わる可能性があるからです。日々訪問してくる事業所スタッフの都合に、自身の生活を合わせなければならなくなることに不安を感じているのです。
また、近頃は介護サービスを担当するスタッフが認知症高齢者の自宅で犯罪を犯した報道を目にすることもあります。ただでさえ他人を自宅に入れることには抵抗感があるのに、普段からこのような事例を見聞きしていれば、他人に対する強い警戒心を感じる方もいるでしょう。
認知症やうつ病等が原因の場合もある
認知症を発症しているにもかかわらず、親自身が症状を自覚していない場合や、うつ病等で新しいことを受け入れることが心理的に難しい場合も、サービス拒否につながります。
また認知症やうつ病は、同居していても変化に気付かないことがあるものです。逆に、久しぶりに訪問したときの生活環境の異常さから、変化に気付く場合もあります。認知症やうつ病の疑いがある場合は、介護サービス利用と同時に専門医の治療を受けることが重要です。
親の介護サービス拒否を放置すると起こること
親の介護サービス拒否を放置すると、さまざまな問題が生じたり、体調が悪化したりするおそれがあります。特に注意したいのは、以下の四つです。
親の介護サービス拒否を放置すると生じる問題
- 身体機能の悪化
- 認知機能の悪化
- 家族の介護負担の増加
- 虐待の疑いの発生
親に介護サービス拒否によるリスクを伝えれば、サービス利用に応じてくれる可能性もあります。事前に介護サービス拒否を放置すると起こる問題点について確認しておきましょう。
身体機能の悪化
自宅に閉じこもりがちになると体を動かす機会が失われてしまうため、筋力や心肺機能といった身体機能が衰えてしまいます。俗に「生活不活発病」や「廃用症候群」と呼ばれる状態です。転びやすさや疲れやすさを感じるようになると、さらに外出意欲が低下します。この悪循環に陥ることを防ぐ対策が必要です。
認知機能の悪化
認知症は脳に障害を与える病気です。ただ、脳が刺激を受けなくなると症状が悪化するといわれています。特に生活にメリハリがなくなったり、外部との関わりが薄れたりすると、悪化のスピードが早まりかねません。さらに親の症状が悪化すれば、徘徊や失火などによって近隣住民に迷惑をかける可能性も高まります。
家族の介護負担の増加
仕事中でも頻繁に親のことで電話が来たり、自分の時間を削って親の元に行くとなると、介護者自身が追い詰められていきます。
在宅介護には限界があり、生活環境によってはできることも限られるものです。仕事をしながら実家に行くのも大変でしょう。お互いの生活を維持するためにも、介護者としては介護サービスを活用したいところです。
虐待の疑いの発生
実態として親に介護サービスが必要なのに本人が拒否するからと放置していると、虐待を疑われてしまう恐れがあります。虐待の累計の一つに「介護放棄(ネグレクト)」という項目があるためです。また、民法でも「親と子供は相互に扶養する義務がある」と定められていることから、子供は親の介護を放棄できないとも考えられます。
地域住民からも「あそこの子供は親に介護が必要なのに何もしない」などと噂され、悪い印象を持たれる場合もあります。
親が介護サービスを拒否するときの対処方法
親が介護サービスの利用を拒否する場合は、以下の方法を試してみましょう。
親のサービス拒否に有効な対策
- 親の気持ちに寄り添う
- 時間を置いてみる
- 近親者や知人の協力を得て説得する
- 専門機関に相談する
サービスを拒否するときは、親の心が凝り固まっている場合があります。その気持ちをほぐしてあげれば、拒否する気持ちも和らいでいくでしょう。
親の気持ちに寄り添う
子供が親に対して「あんなにしっかりしていたのに」と落ち込むのと同様に、親自身も衰えてしまった自分に対して複雑な想いを抱えているはずです。自分の子供は何歳になっても子供です。親のプライドから、弱いところを見せたくないと思うこともあるでしょう。
まずは親の心理に配慮して無理強いせず、実際に困っている状況に対してどのような方法で解決したらよいかを一緒に考えていってください。親の気持ちに寄り添いながら相談していくという姿勢を忘れないようにしましょう。
時間を置いてみる
サービスを拒否する頑なな姿勢は、時間を置くことで和らぐことがあります。親自身がサービスの必要性を自覚するまで待つという姿勢や、気持ちを整理する時間を作ることで介護が必要になった現状を受け入れるのを待つことも有効です。サービスを拒否できない理由に気が付けば、自然と心を開いてくれるでしょう。
近親者や知人から協力を得て説得する
子供からの説得には応じなくても、客観的に見てくれる親の兄弟姉妹や友人、地域の知人などからも声をかけてもらうことで、話を聞いてくれる場合があります。複数の人から同様のことを言われれば「やっぱりそうなのかな」という気持ちにもなりやすいです。
どうしても自分の子供から指摘されることに関しては、私的な感情が混じってしまいます。時には介護者である子供だけでなく、周囲の人間に協力を求めるのも有効な対策になるでしょう。
専門機関に相談する
手をかえ品をかえ親を説得してみてもサービス拒否が続く場合は、介護の専門機関に相談しましょう。専門機関に赴くことが難しい場合は、自宅での訪問相談に応じてもらうことも可能です。専門家の話を聞けば親の気持ちも変わるかもしれません。
親が介護サービスを拒否するときの相談窓口
親が介護サービスを拒否するときの相談窓口には、以下のようなところがあります。
親から介護サービスを拒否された時の相談窓口
- 市区町村の窓口
- 地域包括支援センター
- 居宅介護支援事業所
- 医療機関
相談先を把握しておくと、困ったときにスムーズに対策を練ることができます。ひとりで抱え込まず、専門家に相談しましょう。
市区町村の窓口
市区町村の高齢者福祉担当窓口では、自治体が実施している多様な福祉サービスや介護保険サービスの概要について教えてもらえる場所です。中には認知症でサービス利用を拒否している方に対し、チームを組んで利用を支援する制度もあります。より詳しい相談先を紹介してくれることもあります。
介護サービスを利用する場合は介護認定を申請する必要がありますが、申請受付や要介護度を決定するのも市区町村の役割です。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、在宅高齢者の総合相談窓口としての役割を担っています。中学校区を一つの圏域として市区町村が設置していることが多いです。保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員などが、さまざまな課題で地域での暮らしに大変さを感じている高齢者や家族の相談に対応してくれます。
介護の大変さを感じたり親のサービス拒否で困ったりした場合に、気軽に相談してみるとよいでしょう。要介護認定申請の代行や行政福祉サービスの申請窓口も兼ねており、相談と一緒に各種申請もできます。
居宅介護支援事業所
居宅介護支援事業所は、主に要介護認定を受けた人の相談に乗ってケアプランを作成したり、要介護認定の認定調査を行ったりする施設です。医療・福祉系の国家資格に基づく実務経験を持つ介護支援専門員が在籍しています。介護を必要とする高齢者の相談窓口として機能しています。
地域包括支援センターと連携して対応することも多いです。いざ介護サービスを利用することになった場合は利用契約を結ぶことになるため、早めに相談しておくと安心できます。
医療機関
「白衣の力」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。医療機関では、主に医学的側面から介護の必要性を説明してもらうことでサービス拒否を解消できる可能性があります。どんなに頑固な親でも医療従事者から説得されることで「医師や看護師が言うなら」と、サービス拒否が収まることがあります。
定期的に通院して信頼関係があるかかりつけ医や認知症の専門医に相談すれば、親の説得に協力してくれるでしょう。他にもリハビリの必要性がある場合は、整形外科医や在籍する理学療法士・作業療法士等の専門職から声をかけてもらう方法も有効です。
親が介護サービスを拒否するときは、専門家や周囲の人に相談しましょう
この記事のまとめ
- 親が介護サービスを拒否するのには、自尊心・羞恥心、家族への配慮、「親の介護は家族がするもの」という思い込み、怯えや不安などのさまざまな心理的理由がある
- 介護サービス拒否の放置は、身体・認知機能の低下や介護負担が増えるなどのリスクがある
- サービス拒否の解決には、本人への配慮や第三者の協力がポイントになる
- 拒否が続く場合は、各種専門機関に相談して連携対応してもらう
親の介護と自身の生活維持の両立のためには、介護サービス利用が欠かせません。介護サービスの利用を親から拒否されてしまうと、お互いの生活が破綻してしまう恐れがあります。しかし、拒否する心理的理由を無視して強行するのは適切ではありません。
介護サービス利用の拒否で困ったときは、地域包括支援センターやかかりつけ医・専門医等に相談して連携対応してもらうとよいでしょう。親が介護サービスの利用を拒否してしまうときは、決してひとりで抱え込まず、周囲の協力を得ながら対応方法を一緒に考えてもらいましょう。