木魚の由来や歴史とは?魚の形の意味や叩く理由もまとめて解説
「木魚」とは、法要で念仏を唱えるときにポクポクと打ち鳴らす木製の仏具のことです。木魚の存在は知っていても、法要のときに叩く意味やその歴史、由来についてはあまり知られていません。本記事では、木魚について詳しく解説します。
木魚とは
「木魚」とは「杢魚(もくぎょ)」ともいい、葬儀や法要のときに唱えるお経と一緒に打ち鳴らす木製の仏具のことです。魚に由来した形をしているため、木魚と呼ばれています。鈴のような丸みのある形で中が空洞になっており、魚のうろこの模様が彫られているのが特徴です。
先端を布や革で包んだ専用のバチ(倍(ばい))で叩くことで、ポクポクと響きます。また木魚はお寺で僧侶が使用するだけでなく、家庭の仏壇の前に置かれて供養に使われることも多い仏具です。
木魚の歴史
木魚は中国の仏教法具が日本に伝わったものだといわれています。ここでは、木魚の歴史について解説します。
歴史①木魚の歴史は室町時代から
木魚の歴史は大変古く、室町時代に始まるといわれています。山梨県の「雲光寺」にある広葉樹で作られた木魚が、日本の木魚の元祖であるというのが一説です。この木魚には「応永4年」と刻銘されていたため、木魚は室町時代からあったことが推測できます。
また室町時代には禅宗寺院の中で、大衆を集めるため木製の鳴り物が使われていたことも、木魚の由来の一つとされています。
歴史②木魚を叩く習慣は江戸時代から
室町時代から歴史のある木魚ですが、仏教法具として叩く習慣は江戸時代からといわれています。江戸時代に中国から渡来した高僧の隠元隆琦(いんげんりゅうき)が、明朝の禅を行なったときに木魚を叩いて使ったことで、本格的に仏事に木魚が使われ始めたといわれています。
歴史③楽器としても使われてきた
木魚は仏具としてだけでなく、昔から打楽器としても使われてきました。仏教法具である木魚を楽器にすると、罰当たりだと思う人も少なくありません。
しかし木魚は中国で、古くから楽器としても使用されています。歌舞伎の下座音楽などでも使用されており、実は昔から打楽器として使われていたのです。現代では「テンプルブロック」と形を変え、クラシック音楽などでも親しまれています。
木魚は仏具でありながらも、楽器という側面も持っている道具であるといえるでしょう。
木魚が「魚」の形である由来
木魚の形は、その名の通り「魚」が模されています。なぜ木魚は魚の形をしているのか、疑問に思う方もいるでしょう。ここでは、木魚が魚の形である由来をいくつか紹介します。
由来①元々は平らな「魚板」
木魚は「魚板」と呼ばれる長魚の形をした木製の板だったことが、一つの由来とされています。木魚といえば、多くが鈴のような丸い形をしていますが、元々は「魚板」と呼ばれる木製の魚形をしているものでした。「魚板」の珠をくわえた長魚の形は、「魚鼓(ぎょく)」と呼ばれることもあります。魚板は禅宗の寺院などで吊るし、時刻を知らせたり人を集めたりするときに叩いて鳴らされていました。
由来②隠元禅師が伝えた「開梆(かいぱん)」が原型
木魚が魚の形をしている由来の一つは、中国から渡来した隠元隆琦が伝えた「開梆(かいぱん)」です。開梆は、珠をくわえた魚の形をしています。魚の腹をバチで叩くことで、くわえている珠(煩悩)を吐き出させるという意味があるのです。
由来③目を閉じない魚は「不眠不休」の象徴
魚板・開梆が魚の形をしている由来の一つは、「不眠不休」の象徴であることです。魚にはまぶたがないため、眠っている間も目を開けたままです。そのため、四六時中目を閉じることのない魚は寝ない生き物だと考えられていました。
一日中眠らない魚、つまり木魚には怠けずに修行に励むようにという意味が込められているのです。
お寺で木魚を叩く理由・意味は?
木魚には歴史や由来があり、現代でも仏具や楽器として使われています。ここでは、お寺でお経を唱えるときに木魚を叩く理由や、意味について解説します。
儀式的効果を高めるため
お経を唱えるときに木魚を叩くのには、儀式的な雰囲気を高めるという理由があります。木魚の音を聞くと、仏教の葬儀や供養を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。木魚を叩くことで、仏教の宗教的な雰囲気を高めるといわれています。
煩悩を振り払うため
木魚を叩くのには、お経を唱えるときに煩悩を振り払い自身を清めるという意味があります。中国に由来する開梆は、魚が珠(煩悩)をくわえた形をしており、叩くことで煩悩を振り払うとされていました。現代の木魚は珠をくわえてはいないものの、叩くことで煩悩を振り払うという由来は色濃く残されているのです。
またお坊さんだけでなく、お経と木魚の音を聞いている人々も、煩悩が振り払われて悟りの境地に近づくといわれています。
お経のリズムを整えるため
木魚を叩く理由は、お経のリズムを整え滞りなく読み上げるためでもあります。木魚は楽器として使われてきた歴史もあり、お経のテンポやリズムをつかむために叩くといわれています。
木魚を叩く音のリズムに乗れば、複数人でも綺麗に揃ってお経を唱えられるでしょう。
眠気を覚ますため
お経を唱えるときの眠気を覚ますためというのも、木魚を叩く理由の一つです。長い時間同じ姿勢であまり抑揚のないお経を唱えていると、眠気に襲われることもあるでしょう。聞いている側も、ずっと同じ状態が続けば、眠くなってしまうものです。木魚を叩く動作や音は、お坊さんだけでなく聞いている側にとっても、眠気を覚ますために効果的に働いているといえるでしょう。
木魚を使う宗派は?
仏教の法要で使われることの多い木魚ですが、使われ方は宗派によってさまざまです。ここでは、宗派によって異なる木魚の使い方や考え方について解説します。
木魚を使う主な宗派
木魚を使う主な宗派は、禅宗や浄土宗、天台宗です。お寺や地域によって異なる場合もありますが、どの宗派も木魚の由来にある「煩悩を払い自身を清める」という意味や、「リズムを整える」といった意味で木魚を使用しています。
木魚を使う主な宗派
- 禅宗
- 天台宗
- 浄土宗
- 真言宗
- 曹洞宗
- 臨済宗
- 黄檗宗 など
宗派によって叩き方が違う
木魚の叩き方は、宗派によって異なります。お経の発声と同時に叩く「頭打ち」の宗派が多いですが、浄土宗では「裏打ち」で木魚を叩きます。
裏打ちとは、僧侶の唱えるお経の邪魔をしないよう、発声する文字と文字の合間に木魚を叩く方法です。聞き慣れていないと、独特のリズムに感じることもあるでしょう。
木魚を使わない宗派もある
仏具として歴史ある木魚ですが、すべての宗派において使われているわけではありません。例えば浄土真宗では、「他力本願(自分の力ではなく、阿弥陀仏の力によって救われる)」という教えがあります。阿弥陀仏ではない人間は、眠気を抑えてまで修行するのは難しいと考えられているのです。
木魚は不眠不休の象徴でもあるため、浄土真宗の教えには合いません。
一方、日蓮宗や法華宗では、木魚ではなく「木柾(もくしょう)」を使用します。木魚と同じ木製の仏具ですが、形は丸く、魚のうろこの模様は彫られていません。ポクポクと鳴る木魚に対し、木柾はカンカンという高い音がします。
木魚を使わない宗派
- 浄土真宗
- 日蓮宗
- 法華宗 など
木魚の使い方
木魚はお寺だけでなく、家庭でも使用することのある仏具です。木魚の使い方に厳密な決まりはありませんが、供養に使うときには丁寧に扱いたいものです。ここでは、木魚の使い方について解説します。
座布団に乗せる
木魚は直接床や畳に置くことはせず、小さな座布団の上に置きましょう。座布団を置かないと叩くときに動いてしまったり、床を傷付けてしまう恐れがあるからです。木魚専用の小さくて厚みのある座布団は、仏具店や通販などで購入できます。
木魚の口は反対に向ける
木魚の口は、一般的に叩く人の反対側に向けるのが正しいです。反対側に木魚の穴が向くように配置してください。
専用のバチで叩く
木魚は、「倍(ばい)」「木魚撥(もくぎょばち)」と呼ばれる専用のバチを使って叩きます。バチの大きさや形によって、木魚の音が異なります。また座布団の柔らかさや置く位置、叩く場所や強さなどによっても音や響き方が変化します。
木魚用のバチが購入できるのは、仏具店や通販などです。木魚が破損する恐れがあるため、専用のバチ以外を使って叩くことは避けましょう。
木魚の取り扱い
木魚は乾燥に弱くひび割れしやすいため、取り扱いには十分注意してください。エアコンが効いた部屋や直射日光が当たる場所に、長時間置かないようにしましょう。長期間使わない場合は、布をかぶせたり箱に入れたりして、温度変化の少ない場所へ保管するとよいでしょう。
木魚の歴史や叩く理由を知って理解を深めよう
この記事のまとめ
- 木魚とはお経と一緒に打ち鳴らす木製の仏具のこと。
- 木魚の歴史は室町時代からあり、楽器としても使われてきた。
- 魚の形の由来は「不眠不休」。修行を怠けないようにという意味が込められている。
- 木魚を叩く理由は①儀式的効果を高める②煩悩を振り払う③お経のリズムを整える④眠気を振り払うため
- 木魚は宗派によって叩き方が異なり、木魚を使わない宗派もある。
- 木魚は小さな座布団に乗せて木魚の口は反対に向け、専用のバチで叩く。
木魚を叩く理由には、儀式的な効果を高める意味合いや眠気覚ましなどがあります。木魚の歴史や由来など、さまざまな事柄を理解して木魚が奏でる音を聞いてみると、また違った発見があるかもしれません。木魚は、僧侶だけでなく誰でも使える仏具です。歴史・由来などを知って、自宅での供養の際に、木魚を叩いてみてはいかがでしょうか。