介護認定を受けるメリット5つ。申請方法から利用できるサービス、注意点まで解説
介護認定を受けるメリットは、介護サービスが利用できるようになることだけではありません。本記事では、介護認定を受けるメリットや注意点を紹介します。申請方法や利用できるサービスについても解説しますのでぜひ参考にしてください。
東北公益文科大学卒業。その後、介護保険や障害者総合支援法に関する様々な在宅サービスや資格講座の講師を担当した。現在は社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームの生活相談員として、入居に関する相談に対応している。在宅・施設双方の業務に加えて実際に家族を介護した経験もある。高齢者介護分野のみならず、障がい者支援に関する制度にも明るい。
要介護(要支援)認定とは
要介護(要支援)認定は、介護保険制度利用のために必要な手続きで、住民票のある市区町村で受け付けています。まずは要介護(要支援)認定の概要について説明します。
認定を受けると介護保険制度が利用可能になる
要介護認定を受けると、介護保険制度の利用が可能になります。介護保険は40歳から加入し、介護が必要な人に費用を給付する公的な社会保険です。認定レベルによって利用できるサービスの種類・料金・利用上限が決まります。
要介護認定の要介護度は全7段階ある
要介護認定は、その心身状態によって要支援1〜2、要介護1~5までの全7段階に分けられています。それぞれの介護度の状態の目安は以下の通りです。
要介護度別の状態像 | |||
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要介護度 |
心身状態 |
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要支援1 |
日常生活の動作は自分でできるが、体をかがめるなど一部の動作ができない。 |
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要支援2 |
日常生活の動作はほぼ自分でできるが、一部補助が必要になる。 |
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要介護1 |
日常生活において一部介助が必要。 |
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要介護2 |
立ち上がりや歩行などに支えが必要。軽度の認知症状がみられる。 |
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要介護3 |
日常生活の動作全般に介助が必要。認知症による行動障害や理解力の低下が目立つ。 |
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要介護4 |
日常生活の動作の多くが全介助。認知症の行動障害が複数発生し、暴言や暴力などの周辺症状がでてくることもある。 |
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要介護5 |
日常生活上の動作すべてに全介助が必要。認知症も重症となり、会話が困難なこともある。 |
要介護認定を受けるメリット
介護認定には、以下のメリットがあります。
介護認定のメリット
- 介護保険サービスを受けられる
- 行政の福祉サービスを利用できる
- 民間介護保険と併用できる
- 勤務先の福利厚生制度を活用できる
それぞれのメリットを紹介します。
介護保険サービスを受けられる
最大のメリットは、1~3割の自己負担額で介護保険サービスを利用できることです。利用者本人の支援だけではなく、介護者の経済的負担や身体的負担も軽減されます。
行政の福祉サービスを受けられる
介護認定を受けると、各市区町村で整備された各種福祉サービスや福祉事業を利用できるようになることもメリットです。
介護認定で受けられる福祉サービスの例
- 障害者控除
- 訪問理美容サービス
- 寝具乾燥消毒サービス
- 紙おむつ助成
市区町村によって内容は異なりますが、上記のような行政サービスを利用できることも大きなメリットです。
民間介護保険と併用できる
公的介護保険事業は、民間介護保険と併用できます。民間の介護保険は、所定の条件を満たすことで保険金を受給できる点がメリットです。民間介護保険によって資金を確保しつつ、公的介護保険で安くサービスを利用するという使い方がおすすめです。
勤務先の福利厚生制度を活用できる
介護認定を受けると、勤務先の福利厚生が利用しやすくなることもメリットです。介護休業や勤務調整が必要になった際、介護認定がないと勤務先に向けて介護の必要性を具体的に説明できません。しかし、認定を受けると客観的な証明になるため、手続きがスムーズに進められるでしょう。
要介護認定を申請する際の注意点
介護認定はメリットが多いですが、一方で以下のような注意すべき点もあります。
介護認定を申請する際の注意点
- 認定結果が出るまで時間がかかる
- 本人が落ち込む可能性がある
- 想定外の認定結果になる場合もある
それぞれについて詳しく解説します。
認定結果が出るまで時間がかかる
介護申請から結果通知までは原則30日以内と定められていますが、地域によっては1.5〜2ヶ月程度の時間を要することがあります。認定結果が出る前からサービス利用はできますが、想定よりも認定された介護度が低かったり、申請が通らなかったりする場合は差額分を後日支払うことになります。
認定結果が出てからサービスを利用する場合、結果が出るまで時間がかかることを覚えておきましょう。
本人が落ち込む可能性がある
介護認定を受けることによって、「要介護の高齢者」というネガティブなレッテルを貼られたように感じる人もいます。介護認定は確かにメリットが大きいですが、気分の落ち込みは生活意欲の低下につながります。介護認定を受けるときは、精神面のフォローも忘れないようにしましょう。
想定外の認定結果になる場合もある
周囲の認定済みの人と比較して「〇〇さんが要介護3だから、自分の親も要介護2くらいになるだろう」と考える方もいます。しかし、実際には予想とかけ離れた結果になる可能性があることも押さえておきましょう。
仮に近所の高齢者と同じような状態像に見えても、認定調査は独自の評価基準で専門的、多面的かつ客観的に評価するため、想定した結果通りになることは少ないと思っておいた方がよいでしょう。
要介護認定の流れと申請方法
要介護認定を申請してから通知されるまでは、大きく六つの手順に分かれています。介護認定のメリットを最大化するためには、実情にあった認定結果を得ることが重要です。正しい認定を受けるためにも、介護認定の申請方法や手順を理解しておきましょう。
①要介護認定の申請
要介護認定の申請は、住民票のある市区町村の窓口で行います。最寄りの地域包括支援センター等で代行申請してもらうこともできます。郵送または電子申請が可能なところもあるため、申請方法が分からない場合は市区町村のWEBサイトや窓口で確認しましょう。
②訪問調査
正式名称は「認定調査」といいます。市区町村から派遣された調査員が全国一律の基準に沿って調査します。原則自宅で行う必要があり、全74項目の質問事項があります。おおむね直近一ヶ月以内の状況について、普段介護している様子や心身状況などを確認されます。
調査の具体的な内容や基準については、下記のサイトで確認できます。基準を理解しておけば介護の必要性をしっかりと調査員に伝えることができるため、一度目を通しておくとよいでしょう。
③主治医意見書の作成
主治医意見書とは、医学的側面から医師が介護の必要性について意見を記載する書類です。介護認定の最終結果に関わる重要な書類で、申請書の主治医の欄に記載された医師に対して市区町村が作成を依頼します。
正しい要介護認定を受けるために、介護を必要とする原因が主に認知症である場合は認知症専門医を、疾病によって要介護状態となっている場合は定期的に受診している医師を主治医に指定しましょう。
④一次判定(コンピューター判定)
認定調査の結果と主治医意見書を元に、専用のコンピューターによって一次判定結果が算出されます。「要介護認定等基準時間」という尺度で数値化し、機械的に要介護度を判定します。一次判定は次の二次判定の重要な資料になりますが、最終決定ではありません。
⑤二次判定(審査会による判定)
二次判定で要介護認定が最終決定されます。判定は市区町村が設置する、保険・医療・福祉の学識経験者によって構成された介護認定審査会が担当します。認定調査の特記事項や主治医意見書の内容を踏まえて総合的に判断され、一次判定の結果を修正・確定させることで要介護認定の最終決定となります。
⑥結果の通知
要介護認定が決定したら、市区町村は結果を速やかに申請者に通知します。審査会の翌日には認定結果が発送され、郵送で自宅に届きます。
介護認定を受けると利用できる介護保険サービス
最後に、全26種類の介護保険サービスについて紹介します。それぞれ種類ごとにメリットがあるため、担当となるケアマネジャーと相談しながら、状況に合わせてサービスを選びましょう。
居宅サービス
居宅サービスは、在宅で暮らす方向けのサービスです。多種多様なサービスを組み合わせて利用できます。居宅サービスは、主に訪問系・通所系・短期入所系・環境整備・その他に分類されます。
訪問系
訪問系サービスは、ヘルパーや看護師等が利用者の自宅を訪問するサービスです。外出が困難な人でも利用できます。
訪問系サービス
- 訪問介護
- 訪問入浴
- 訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 居宅療養管理指導
通所系
通所系サービスは、在宅の利用者が施設に通って介護やリハビリを受けるサービスです。設備が整った施設に通うことで充実したサービスを受けることができます。
通所系サービス
- 通所介護
- 通所リハビリテーション
短期入所系
短期入所系の居宅サービスでは、短期間施設に宿泊して支援を受けます。「短期入所生活介護」「短期入所療養介護」の2種類があり、宿泊を伴うため介護者のリフレッシュを目的としても利用できます。
環境整備
環境整備サービスでは、福祉用具のレンタルや購入及び工事の補助を受けられるサービスです。このサービスを利用すれば、自宅の介護環境を低予算で整えることができます。自宅を介護しやすい生活環境にしたい人におすすめです。
環境整備
- 福祉用具貸与
- 特定福祉用具の販売(年間10万円以内)
- 住宅改修(原則20万円以内)
その他
上記以外に、ケアマネジャーを派遣する「居宅介護支援」と、老人ホームを介護施設として認める「特定施設入居者生活介護」の二つがあります。居宅サービスの内容は多種多様ですので、状況に合わせて選ぶとよいでしょう。
施設サービス
施設サービスは、在宅介護が困難となった方向けのサービスです。入所して日常生活全般を支援してもらえるのが特徴です。施設サービスには、特徴の異なる3種類の施設があります。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは看取りケアに対応し、「終の棲家」としても利用できます。原則要介護3以上の方が対象で、比較的安価で利用できるため非常に人気です。
介護老人保健施設
介護老人保健施設は集中的にリハビリをし、在宅復帰することを目指す入所施設です。要介護1以上の方が対象で、近年では結果的に在宅復帰が困難となった方の看取りまで行う施設もあります。
介護医療院(介護療養型医療施設)
介護医療院(介護療養型医療施設)は医療機関に併設され、重度の認知症や専門的な医療ケアにも対応している入所施設です。要介護1以上の方が対象ですが、全国的に数が少ない点が課題です。
地域密着型サービス
地域密着型サービスは、対象を同一市区町村に住民票がある方に限定しているサービスです。小規模かつアットホームで、状況に応じて柔軟にサービス提供できるのが特徴です。
訪問系
訪問系の地域密着型サービスには、定時訪問や臨時的な要請に応じて訪問する「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」と、夜間に特化して同様のサービスを提供する「夜間対応型訪問介護」の2種類があります。定額制で、柔軟に利用できることがメリットです。
通所系
通所系の地域密着型サービスには、小規模でアットホームな雰囲気が特徴の「地域密着型通所介護」と、認知症に特化した「認知症対応型通所介護」の2種類があります。特定の利用者に特化しており、より専門的なサービスが受けられます。
複合系
複合系の地域密着型サービスには、訪問・通所・宿泊の三つを同一事業所が定額で実施する「小規模多機能型居宅介護」と、訪問看護も利用できる「看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)」の2種類があります。その時々に合わせて臨機応変なサービスを受けられる点がメリットです。
入所系
入所系の地域密着型サービスには、定員が29名以下で地域住民の受け入れに特化した「地域密着型特別養護老人ホーム」や「地域密着型特定施設入居者生活介護」と、認知症患者がアットホームな雰囲気の中で共同生活をする「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」の3種類があります。小規模な施設で安心して過ごすことができます。
家族の介護に困ったら、要介護認定を受けて介護保険サービスを利用しましょう
この記事のまとめ
- 介護サービスを受けるためには、要介護(要支援)認定が必要
- 要介護認定は介護サービスの利用以外にも多くのメリットがある
- 要介護認定の流れは、申請・訪問調査・主治医意見書の作成・一次判定・二次判定・結果の通知
- 要介護認定は、認定結果が出るまで1.5~2ヶ月程度かかることがある
- 要介護認定によって受けられる介護保険サービスは全部で26種類ある
介護認定は利用者だけでなく、介護者に対しても大きなメリットがあります。無理をしすぎて共倒れにならないよう、介護認定を受けて積極的に介護保険サービスを利用していきましょう。