閉じる メニュー
特集

【世界の葬祭文化06】「キノコ葬」と「フリーズドライ葬」は失速!? “SDGs葬”の最新事情を探る

【世界の葬祭文化06】「キノコ葬」と「フリーズドライ葬」は失速!? “SDGs葬”の最新事情を探る

遺体を堆肥化し土と緑に還元する堆肥葬は欧米のスタートアップ企業が進めていますが、これらより早い段階で公開されたのがニューヨーク発のキノコ葬と、スウェーデン発のフリーズドライ葬です。どちらもSDGsの視点から見れば優れたアイデアの葬法ですが、道徳観や人の感情が重視される葬祭の分野では、人々の理解を得られず苦戦しています。今回はそんなキノコ葬とフリーズドライ葬のあらましと最新事情を探っていきましょう。

東京博善のお葬式 0120-506-044 24時間365日・通話無料 お気軽にお問い合わせください 事前相談・お急ぎの方もこちらから!

前回の記事はこちらからご覧いただけます。ぜひ合わせてご一読ください。

遺体をキノコに“食べさせる”キノコ葬

2008年に発表されたTHE INFINITY BURIAL SUIT(インフィニティ・ベリアル・スーツ)。「無限の埋葬着」という意味だが、通称は「キノコの死装束」。これを開発したニューヨークのCOEIO社は、このスーツを使った「キノコ葬」の普及を唱えてきました。

このスーツにはキノコの胞子を植え付けた糸で刺繍が縫われており、埋葬後に発芽。キノコは腐敗する遺体を餌として成長していきます。

人と地球が再び結びつきを取り戻せる埋葬方法を考えていた開発者は、遺体を”食べる” キノコのアイデアを着想。検証のために自分の髪の毛、皮膚、爪などを様々なキノコに”餌”として与え、その中から分解能力の高い種類のものを選別。そうした地道な作業を繰り返してアイデアを実現させました。

環境意識の高い有名人もキノコ葬を選択

アメリカで地球環境への関心が高い人々は、「遺体の防腐処理に有害物質を使用したり、火葬にエネルギーを費やしたりすることは異常で冒涜的なこと」と捉えているようです。体内に蓄積された汚染物質を分解し、それらが環境中に放出されることを防いでくれるというキノコ葬は、そうした人たちの間で支持を受けていました。

緑を愛し、地球環境の循環のイメージを頭に思い描ける人にとって、この葬法は理想的なものと映り、一時、キノコ葬スーツの予約は数百を超えていたと言われています。

2015年には死期が近い病気の男性からの申し出があり、同社ではプロモーション活動の一環として、この男性がキノコ葬スーツを着るまでの短編ドキュメンタリー映画を製作。また、2019年3月には急死した有名俳優が自身の希望によって、キノコ葬スーツを着用して埋葬されたというニュースが全米を駆け巡りました。

消えたキノコ葬?

開発から10年あまり。有名人が選択したことによって、いよいよキノコ葬が広く世の中に認められる時が来たかと思われましたが、この報道が出てからしばらく後、COEIO社のSNSは更新されなくなり、2019年前半で止まったままになっています。

ホームページも削除されてしまったらしく、以前、YouTubeで公開されていた先述の短編ドキュメンタリー映画も試聴できません。

何か深刻なトラブルがあったのか、理由はわかりませんが、キノコ葬の施行も普及活動も2023年8月現在では完全に休止してしまっているようです。

スウェーデンのプロメッション(フリーズドライ葬)

20世紀の終盤からエコ葬について、世界中の研究者や先進的な葬儀社が議論を重ねる中、1999年に発表され、大きな注目を集めたのが、北欧スウェーデンの生物学者が発明した「プロメッション」という方法です。これは日本語にすると、「冷凍葬」、あるいは「フリーズドライ葬」ということになるでしょうか。遺体を急速凍結して細かく崩し、乾燥させて粉末にし、大地に返すという斬新な方法です。

具体的には、まずマイナス18度で保った遺体を木製の棺に納め、マイナス196度の液体窒素に浸して凍結します。これによって遺体は崩れやすくなっているので、棺ごと数秒間、振動させて粉状にし、フリーズドライ機にかけて水分を抜き去ります。この一連の作業によって、遺体はもとの体重の約30%の粉末になります。その粉末化した遺体を、両手で持てるほどのサイズの生分解性の棺に入れ、深さ30~50㎝の土中に埋めておくと、微生物やバクテリアの働きによって、約1年ほどで腐植土になるそうです。

世界の「プロメッサフレンド」

この生物学者スーザン・ウィーグ-メサク氏は、発表後、「プロメッサ・オーガニック社」を設立。同じく生物学者である夫や仲間たちと啓発活動に力を入れてきました。同社の活動に対する反響は大きく、世界92か国から問い合わせが寄せられていると言います。

大きな展開としては、2016年秋、オランダとスペインで公式のパートナー会社が作られ、葬儀関連業者や病院などを中心に、プロメッションについての詳しい情報提供を開始しています。

メサク氏は、各国のテレビやインターネットのサイトなど、メディアを通して「タブー視されてきた死のあり方、本当に望ましい形の葬儀とはどういうものかをプロメッションという方法を通して、みんなでじっくり考えてほしい」と、繰り返しメッセージを発信。

その甲斐あって、2017年5月下旬には「プロメッサフレンド」と呼ばれる賛同者(無記名登録)は世界中で3,300人を超えました。アジア地域では韓国が積極的な興味を示しており、ヨーロッパにおける普及状況を見ながら大規模な導入も計画していると報じられました。

創業者の他界と啓蒙活動の継続

このフリーズドライ葬は、ほかの堆肥葬、キノコ葬、水火葬などと比べてイメージ的に悪くないこと、科学的な根拠がしっかりしていること、SDGsの思想が広がったこともあって、プロメッションが本国スウェーデンで法的に認められるのは時間の問題であり、認められれば一気に世界に広がるだろうと思われていました。

しかし、アメリカやドイツで堆肥葬がスタートしたのに対して、2023年8月現在、このフリーズドライ葬は依然として施設のオープンとサービス化が実現できていません。

そんな中、考案者・創業者で、普及活動に務めてきたメサク氏は2020年9月、ガンのために志なかばで他界。以降はコロナ禍もあり、同社は積極的な活動が出来なかったようです。

それでもネットにおける情報発信は継続されています。ホームページにはメサク氏への追悼ページが設けられており、世界中から彼女を悼むメッセージが寄せられています。プロメッサ・オーガニック社は諦めることなく、このフリーズドライ方式の堆肥葬について啓蒙活動を続けていく姿勢を見せており、その波はいずれ日本にも及んでくるでしょう。

近い将来に「SDGs葬」が日本でも実現する?

どんな分野でも新しい試みは厳しい批判にさらされます。批判は論理的に正しい場合もあれば、単に感情的なだけの場合もあります。特に人の死・最期の別れに関わる葬儀の分野においては、合理性よりも感情面が優先される傾向が強く、長年の習慣を覆すのは並大抵なことではありません。

しかし、いったん変化の歯車が回り始めると、瞬く間に新しい常識や新しい習慣が根付くこともまた、歴史が証明しています。これまでに紹介したような「SDGs葬」が世界各国、そして日本で認められ、普及していくことは十分に考えられるでしょう。近い将来、自分の、あるいは大切な人のために、火葬か、それとも堆肥葬やフリーズドライ葬かを選べる時代がくるかもしれません。そのとき、あなたはどうしますか?

参考資料・サイト

Death Care Industry「The Coeio Infinity Mushroom Burial Suit」

HEAPS「エコ時代、最後の選択は〈キノコ葬〉」

JBpress「究極のエコ葬儀!? フリーズドライで大地に還る」

PROMESSA「Ecological burial」

SHARE この記事をSNSでシェアする