高齢者の食事で気をつけたい5つのポイント|食材の選び方から調理方法まで紹介
高齢者は加齢による身体機能の変化に伴い、食事の嗜好や食べやすい食材も変化してきます。高齢者の食事では、一人ひとりの栄養状態や嚥下(えんげ)機能に合った食事を摂ることが重要です。本記事では、高齢者の食事で特に気を付けるべきポイントや食材の選び方、調理方法について詳しく解説します。
武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科卒業。
管理栄養士として病院に勤務し、患者様の栄養管理及び栄養指導に従事。
糖尿病患者や腎臓病患者を中心に、病状の進行を防ぐための食事指導を行う。食事と健康、美容に関する記事を中心に管理栄養士ライターとして活動中。
高齢者の食事5つのポイント
加齢とともに、食事を摂るのに必要な能力も衰えてきます。食事がうまく摂れなくなり食べる量が減ることで、日常生活にも支障が出てくる場合があります。食事は高齢者にとって毎日の楽しみでもあるため、食べる能力に合った食事を用意することが大切です。まずは、高齢者の食事で大切な5つのポイントを紹介します。
ポイント①バランスよく必要な量をしっかり摂る
高齢者に限らず、バランスのよい食事で必要な栄養素を摂ることは重要です。食事のバランスが悪いと偏った栄養素ばかり摂り過ぎたり、必要な栄養素が不足することもあります。食事は、必要な量をバランスよく摂ることが大切なのです。
1日に必要なエネルギー量の目安は、活動量や体格によっても異なりますが65~74歳の男性で2,050~2,400kcal、女性では1,550~1,850kcalです。75歳以上では男性1,800~2,100kcal、女性1,400~1,650kcalとされています。
また、たんぱく質の1日の推奨量は男性が60g、女性が50gで不足しないように摂る必要があります。主食・主菜・副菜を揃えて、バランスの整った食事を心がけましょう。
食事の偏りによる低栄養
高齢者の場合、食べ過ぎよりも食事量の減少による栄養素の不足の方が健康リスクは高くなります。食事の偏りや不足によって、身体を動かすために必要なエネルギーや筋肉、皮膚、内臓などをつくるたんぱく質が足りない状態を「低栄養」といいます。
低栄養になると筋肉量が減り、立つ・歩くといった日常生活に必要な運動機能が低下します。活動量が減ることで食欲も低下し、さらに栄養状態が悪化していくという負の連鎖に陥る可能性もあります。低栄養は骨折や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)などのリスクもあるため、食事の偏りによる栄養不足にならないよう食事内容に配慮しましょう。
ポイント②不足しがちな栄養素を意識して摂る
食事の量が少なくなると、摂取できる栄養素も減少します。食事の内容によっても不足する栄養素は異なってきますが、ここでは多くの高齢者において不足する傾向にある栄養素を解説します。意識して摂れるよう参考にしてみてください。
高齢者が不足しがちな栄養素
高齢者は、たんぱく質・ビタミン・ミネラル・食物繊維などの栄養素が不足しがちです。たんぱく質は肉や魚、卵や大豆製品などに多く含まれる栄養素で、筋肉の材料にもなり身体を構成する成分です。不足すると筋力が低下し、日常生活にも支障が出てきます。
ビタミン・ミネラル・食物繊維は、身体のさまざまな機能の調整に役立つ栄養素で、主に野菜類や海藻類に含まれています。高齢者でこれらの栄養素が不足すると、骨が弱くなり骨折しやすくなったり、腸の働きが弱くなり便秘を引き起こすこともあります。先述の通り、栄養素の不足は低栄養につながるため注意が必要です。
ポイント③塩分の摂り過ぎに注意する
高齢者は味覚が鈍くなるため、濃い味付けを好むようになります。特に、しょうゆや味噌などの調味料を多量に使うと塩分の摂り過ぎになるため、注意しましょう。味付けは薄味でだしの味をしっかり効かせたり、香辛料を利用するなどの工夫で減塩しながら満足感を得られるためおすすめです。
味覚の変化による影響
高齢者に生じる味覚の変化は、塩分だけではありません。甘味も感じにくくなることがあり、より強い甘味を求めて調理に砂糖を多く使うようになります。塩分や糖分の摂り過ぎは、高血圧や糖尿病など生活習慣病の原因となるため注意しましょう。高齢者では味覚が変化することを把握し、味付けを工夫することが大切です。
ポイント④食べる能力に合わせた食事内容にする
高齢者の食事では、食べる能力を考慮した食事内容にすることも大切です。加齢とともに食べものを飲み込む能力(嚥下機能)が低下し、今まで食べていたものでも食べることが困難になる場合があります。噛む力と飲み込む力を把握し、それに合わせた調理が必要になります。
嚥下機能のチェック一覧
- 食欲が低下し、食べる量が減る
- 口の中に食べ物がとどまり、なかなか飲み込めない
- よくむせる
- 口からよくこぼれる
- 痰が絡みやすい
- 声がかすれる
- 喉の力が弱い
当てはまる項目が多い場合、嚥下機能が衰えている可能性があります。
噛む力の低下
噛む力とは、食べ物を嚙み砕き、すり潰し、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすくする能力です。高齢者で噛む力が低下する原因は、口周りの筋肉や筋力の衰え、歯の欠損や口内環境の悪化による影響などさまざまです。噛む力が低下すると、食べやすい物ばかりを好んで食べるようになり、食事内容の偏りを助長することもあります。
飲み込む力の低下
口から食道に食べ物を送り込む力を、飲み込む力といいます。飲み込む力は嚥下ともいわれ、加齢に伴いその能力は徐々に衰えていきます。加齢によって唾液の分泌が少なくなることでうまく飲み込めなかったり、喉まわりの筋肉が衰えることで飲み込みにくくなることがあります。
ポイント⑤楽しく食べる環境を整える
高齢者には食事の環境を整えることも大切です。楽しい環境では自然と食べる意欲も湧いてきます。しかし、ひとり暮らしの高齢者では楽しい環境で食事を摂る機会が減り、孤食が増える傾向にあります。
高齢者の孤食が健康に与える影響
高齢者の孤食は、食事の簡素化や食欲低下の原因になります。自分ひとりの食事であれば食事の準備が面倒になり、手軽なカップラーメンやパンだけで食事をすませたり、欠食の回数も多くなる傾向にあります。同じメニューが続き、摂れる栄養素が偏るなども問題です。
このように、高齢者の孤食は栄養不足を招きます。高齢者は栄養不足によって筋肉量や骨密度が減少し、生活の質を低下させてしまう可能性もあるのです。そのため、たまには家族や友人と外食したり、一緒に食事を摂る機会をつくるなど楽しい環境での食事を心がけましょう。
高齢者の食事に適切な食材の選び方
食材には、嚥下機能が低下しても食べやすいものと誤嚥しやすいものがあります。高齢者の食事では、嚥下機能に合わせて食材を選ぶ必要があります。個人によって食べる能力はさまざまであるため、その人に合った食材選びが重要です。
ここからは、高齢者の食事で食べやすい食材と食べにくい食材をそれぞれ解説します。
食べやすい食品
柔らかくて口の中でまとまりやすいものは、高齢者にとって食べやすい食品です。あっさりしていて口当たりのよい食品などは、嚥下機能が低下した高齢者でも食べやすいため参考にしてみてください。
高齢者が食べやすい食品
- なめらかなもの:お粥、ヨーグルト、アイスクリーム
- とろみのあるもの:ポタージュスープ、シチュー、あんかけ
- ゼリー状のもの:ゼリー、煮こごり
- プリン状のもの:プリン、ムース、卵豆腐、茶碗蒸し
食べにくい食品
高齢者が食べにくい食品は、嚙みにくいものや飲み込みにくいものです。パサパサ、バラバラなどの形態は、食事を作る際に注意しましょう。食べにくい食品でも、工夫次第で食べることができます。栄養の偏りを防ぐには食事に多くの食材を取り入れるのが理想的ですので、調理を工夫してみましょう。
食べにくい食品
- パサパサしたもの:パン、いも類
- スポンジ状のもの:はんぺん、高野豆腐
- 繊維の残る野菜:ごぼう、たけのこ、セロリ、水菜、もやし、レタス
- 酸味のあるもの:酢の物、レモン
- のどに張り付くもの:わかめ、海苔、きな粉
- のどに詰まりやすいもの:もち、こんにゃく
- 硬くて噛みにくいもの:厚みのある肉、かまぼこ
高齢者の嚥下機能に合わせた調理方法の工夫
高齢者の食事では、食材選びに加えて調理方法にも配慮する必要があります。硬くて食べにくい食材は柔らかくしたり、飲み込みにくい食材は飲み込みやすく調理するなど、安全で食べやすい食事内容にすることが可能です。
噛む力をサポートする調理方法
噛む力が低下し、上手く噛むことができずに食事量が減っている高齢者の場合、調理の工夫で噛みやすくなります。大きさや硬さを調理によって変えたり、食材によっては食べにくい部分を取り除くと、噛む力が弱い高齢者でも食べられるようになります。
噛む力に配慮した調理の工夫
- 食材の大きさは一口大にする
- 肉は叩いて繊維を壊したり、皮や脂身を取り除く
- 野菜は皮を取り除き、歯茎で潰せるくらいの硬さに加熱する
- 葉もの野菜は柔らかい部分のみを使う
- ごぼうなど繊維の多い野菜は、繊維を断ち切る
飲み込む力をサポートする調理方法
飲み込む力の低下も、高齢者の食事で問題となります。口の中でまとまりにくかったり、パサパサして水分が少ないなどの食材は飲み込みにくく、誤嚥の原因にもなります。高齢者にとって誤嚥は命に関わる危険もあるため、特に気を付けなければなりません。
飲み込みやすくする調理の工夫
- 食材をミキサーにかけたり裏ごしして、舌と上あごで潰せるようにする
- 片栗粉やとろみ調整食品を使って、水分にとろみをつける
宅配食の利用
食事の用意が難しい高齢者や、嚥下機能に合った食事を作ることが困難な場合は、宅配食を利用するのもおすすめです。最近では、普通食を高齢者向けに柔らかくしたものや、刻み食・ムース食などさまざまな宅配食があります。嚥下機能に合った食事を自宅に届けてくれるので、非常に便利なサービスです。
ひとり暮らしの高齢者は野菜を多く摂ることが難しいかもしれませんが、宅配食を利用すれば手軽に野菜を摂ることができます。管理栄養士が献立を作成していたり、食事の相談にのってくれるサービスがある宅配食もありますので、使いやすいものを試してみてください。
高齢者の食事では適切な食事で低栄養を防ぎ、心身ともに健康な生活を送りましょう
この記事のまとめ
- 高齢者の食事では不足しがちな栄養素に配慮し、バランスよく必要量を摂ることが重要
- 高齢者は食事量の低下によって身体の栄養状態が悪化する可能性もあるため、注意が必要
- 加齢による味覚の変化や噛む力、飲み込む力に配慮した食事内容にする
- 高齢者の食事は食べやすい食品や食べにくい食品を把握し、嚥下機能に合わせて調理も工夫する
高齢者の食事は嚥下機能に配慮し、個々の状態に適した食事を選択する必要があります。その上で、栄養バランスを考えて必要な栄養素を摂取できるよう心がけましょう。本記事を参考に食材の選び方や調理方法を押さえて、できることから取り入れてみてください。