遠距離介護とは?遠距離介護を行う際のポイントや活用したいサービスをご紹介
高齢の家族が遠くに住んでいる場合に、遠距離介護に対する不安はありませんか?さまざまな制度の活用や周囲に協力をしてもらうこと、また民間のサービスを有効活用することで遠距離介護は可能です。今回は、遠距離介護を行う際のポイントや、活用したいサービスなどをご紹介します。
介護職員として介護老人保健施設に勤務。
ケアマネジャー取得後は、在宅で生活する高齢者や家族をサポートする。
現在はWebライターとして、介護分野に関する記事を中心に執筆している。
遠距離介護とは
「遠距離介護」とは、ケガや病気で要介護状態になった家族を離れた場所から介護することです。
厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査の概況」によると、別居の家族を介護しているのは13.6%で、2016年の12.2%から増加しています。このデータからは、要介護の家族が遠距離なのか近距離なのかは不明ですが、介護を通いで行っている方が増えていることが分かります。
核家族化が進行して両親と別居している家庭が増えたことや、介護者が現役で働いているために同居での介護ができないなどの事情が考えられるでしょう。
遠距離介護の帰省頻度
遠距離介護の帰省頻度は、親の身体状況や病気、生活環境によりさまざまです。山口大学の「遠距離介護を可能にする地域ケアシステム(下)」では、別居している親の元に帰省した回数を調査しています。
遠距離介護の帰省頻度として年に1回が30.3%、2回が23.5%と、1〜2回が過半数を占めていますが、5.2%の方は年に10回以上の帰省をしています。親の年齢が上がるにつれ、帰省頻度も多くなっているようです。
要介護度別では、問題無し〜要介護2までは年に1回が多くなっていますが、要介護3以上の高い介護度の場合、0回が30%を占めます。これは、要介護度が高くなると自宅での生活が難しくなり、施設で生活をするなど第三者が介入していることが考えられます。
自宅での生活が困難な状況や施設入所を考える段階にあるときに、遠距離介護の帰省頻度が高くなっているのでしょう。
遠距離介護のメリット
近年増えている遠距離介護にはさまざまなメリットがあります。まずは遠距離介護の利点について紹介しますので、検討している方は目を通してみてください。
転居しなくてよい
遠距離介護のメリットとは、介護のために転居しなくてよいことにあります。
親も介護する側もそれぞれ、住み慣れた家でこれからも暮らしていきたいでしょう。転居となると、その土地や環境に慣れるため時間がかかります。親を子供の家に呼び寄せた場合、環境の変化に慣れず精神的にまいってしまうこともあります。
遠距離介護は、介護者側も自分の仕事や子供の教育、配偶者の仕事など生活環境を変えなくてすみます。このように、遠距離介護はお互いに自分の家で生活できることがメリットです。
適度な距離感で精神的にゆとりができる
遠距離介護は同居しているわけではないため、適度な距離感が保てるため、身体的かつ精神的負担を軽減できるでしょう。在宅介護で毎日顔を合わせていると、親の行動や言動に悩み、イライラしてしまうこともあるでしょう。一方、遠距離介護であれば、ストレスがたまっても自宅に戻ったときには、気持ちを切り替えられるのではないでしょうか。
介護保険サービスが利用しやすい
遠距離介護をしていると、介護保険サービスが受けやすくなります。
訪問介護サービスの中に生活援助という支援があります。これは、食事の準備や洗濯、掃除など日常生活の支援をしてくれる介護保険のサービスです。要介護認定を受けていても、家族と同居していると利用に制限がかかってしまいますが、家族に健康状態などのやむを得ない事情がある場合や高齢者だけの世帯は支援を受けることが可能です。
また、自宅で生活ができなくなり特別養護老人ホームに入所の申し込みをした場合にも、家族にやむを得ない事情がある場合や高齢世帯の場合は入所の優先順位が高くなる傾向にあります。
遠距離介護のデメリット
上述では遠距離介護のメリットについて紹介しましたが、デメリットに関してもあらかじめ押さえておくことが大切です。ここからは遠距離介護のデメリットについて紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
費用負担が大きい
遠距離介護は、移動距離が長いとそれだけ交通費がかかります。遠距離で帰省回数が多いと、交通費もかさみます。航空会社によっては介護割引があり、航空券代が割引になるサービスも。交通費にかけるお金がないという場合は、親に負担してもらうのも一つの方法でしょう。
また、遠距離介護は、親やケアマネジャーと連絡を取るための電話代やインターネット料金など通信費もかかります。これは、電話会社の料金プランを見直すことや、無料通話サービスなどを利用することで費用を抑えられます。
緊急対応ができない
遠距離介護は親と離れて暮らしているため緊急対応ができません。そのため、普段からケアマネジャーや近隣の方、地域の自治会などと関係を作っておくことが大切です。
緊急対応の方法として、介護保険が利用できる場合、日常的に訪問看護サービスを利用しておくとよいでしょう。急な体調不良にも365日24時間対応してくれます。また、民間の警備会社と契約をしておけば緊急の際に駆けつけてくれます。自治体によっては補助が出る場合もあるため、調べてみましょう。
遠距離介護を行う際のポイント
遠距離介護を成功させるためには、自分一人で抱え込まず、周りの協力を得ることが必要です。ここでは、遠距離介護をする際のポイントをご紹介します。
金銭の把握をする
遠距離介護をする際は、まずは親の資産を把握しましょう。
年金額や支出額を大まかでも把握し、毎月いくらくらい介護費用に使えるか確認します。事前に金銭管理をしておくことで、心配事が減ったり、親族間のトラブルを避けられるでしょう。
介護にかかわる方や相続に関係のある方を交えて話し合っておくとよいでしょう。
職場に伝える
遠距離介護をしていることを、職場の上司や同僚に伝えておきましょう。介護をしていると、土日以外の平日にも仕事を休むことになります。周囲に事情を話しておくだけで、理解度が変わってきます。
まとまった日数の休暇が必要な場合、介護休暇や介護休業の利用が可能です。
介護休暇は、介護が必要な家族1名につき1年に5日まで取得でき、時間単位でも使用が可能です。介護休業は、介護が必要な家族1名につき通算93日まで取得できます。最大3回まで分割して利用が可能なため、上手に活用しましょう。
勤務先によって取得方法や条件が変わるため、あらかじめ勤務先に確認しておくことをおすすめします。
地域包括支援センターやケアマネジャーに相談する
「地域包括支援センター」とは、市町村が設置主体となり、介護や医療、福祉などの分野から高齢者を支える窓口です。また、保健師・社会福祉士・ケアマネジャーが配置されているため、チーム単位での支援や相談ができる機関です。
介護保険サービスを利用していない場合、地域包括支援センターに連絡をしておきましょう。このときに、以下のことがらを伝えておきます。
地域包括支援センターに伝えるべきこと
- 遠距離介護をしていること
- 現在介護で困っていること
- 親の健康状態や生活の様子
- 帰省に要する所要時間
遠距離介護を行っている親の存在を把握してもらい、生活状況を伝えておくことは重要です。事前に基本的な情報を知っていれば、何かあったときに地域包括支援センターもサポートしやすくなります。
そして、介護保険サービスを利用している場合は、担当のケアマネジャーがいます。
「ケアマネジャー」とは、介護を必要としている方が介護保険サービスを受けられるように、ケアプラン(サービス計画書)の作成や費用の計算、サービス事業所の調整をする担当者です。
ケアマネジャーは1ヶ月に1回自宅へ訪問することが義務づけられているため、日頃から親の様子や生活環境の変化などを伝えておけば連携もスムーズにいくでしょう。また、施設入所を考える段階になっても、近隣の情報に詳しいケアマネジャーは心強い味方になってくれます。
ご近所や地域住民、親戚に協力してもらう
遠距離介護のコツは、ご近所や地域住民、親戚にもサポートしてもらうことが大切です。
特に、ご自身しか動けない状態だと、身体的や精神的にも苦しくなります。介護をひとりで抱え込んでしまうと精神的にも限界が来て、介護うつなど健康に影響を及ぼすこともあります。遠距離介護は、帰省したときなどご近所や親の友人などにあいさつに行き、日頃から関係を作っておくことが必要です。
また、親戚の方にも親の体調や生活の状況を話し「緊急のときには様子を見に行ってほしい」など相談をして支援を求めましょう。
遠距離介護で活用したいサービス
「遠距離介護にしたいけれど、遠距離だと体調の管理や毎日の様子を確認できなくて不安」と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこでここからは、遠距離介護の際におすすめなサービスを紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
配食サービス
遠距離介護を続けるには、健康維持のため食事管理も重要です。自治体には食事を届けてくれるサービスがあります。指定した民間業者に委託をして、朝食・昼食・夕食を配達してくれます。調理の手間も省け、栄養バランスの整った食事ができるでしょう。その際に、安否確認も一緒に行ってくれるため、安心です。
地域によって配達の回数や利用条件などが変わるため、地域包括支援センターやケアマネジャーに確認しましょう。
介護支援サービス
遠距離で生活している場合は、現状より身体の状況が悪化せず維持できるように、要介護状態になる前から予防をすることも重要です。
地域包括支援センターには、地域の情報が集まっています。ストレッチや体操教室、認知症予防教室などさまざまな講座が開催されています。このような催し物に参加することで、変化のある日常が送れ、身体的・精神的にも刺激になるでしょう。
また、要介護認定を受けている場合は介護保険サービスを利用しましょう。段差の多い台所や寝室をバリアフリーにしたり、手すりのない玄関などは手すりをつけたり、介護保険を利用した住宅改修が可能です。住みやすく移動しやすい住環境を作り、転倒の危険性を少なくできます。
見守りカメラや民間警備会社の介護サービス
現在はさまざまな通信機器が開発されており、上手に利用すると遠距離介護も安心してできます。親のいる部屋に見守りカメラを設置すると、介護者のスマートフォンから様子を見られます。これは遠距離介護だけでなく、同居介護している場合にも有効です。
日中、介護者が働いており親が自宅にいる場合、親の姿や様子が見られれば安心できるでしょう。
また、民間警備会社と契約をする方法もあります。
ドアや窓に取り付けたセンサーが一定期間動きを感知しないと、異常信号が警備会社に自動的に送信されます。首から下げるペンダント型の緊急通報ボタンは、急病やケガなどで動けなくなったときにも、握るだけで警備会社に緊急信号が送られます。
費用はかかりますが、24時間365日駆けつけてくれるため、遠距離介護には安心できるでしょう。
遠距離介護を行う場合は、周りの支援や便利なサービスを活用しよう
この記事のまとめ
- 核家族化が進行して両親と別居している家庭が増えた関係もあり、別居の家族を介護している割合は増加傾向にある
- 遠距離介護は、転居しなくてよい、精神的にゆとりができる、介護保険サービスの利用がしやすいというメリットがある
- 費用負担が大きい、緊急対応できないといったデメリットもある
- 遠距離介護のポイントとして、事前に親の金銭管理をしておくこと、職場に伝えて理解を得ること、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談すること、地域住民や親戚に協力してもらうとよい
- 遠距離介護で活用できるサービスには配食サービスや介護支援サービスなどがある
遠距離介護は「遠くてすぐに駆けつけられず大変」「実家に行くたび、費用や交通費がかかる」などネガティブなイメージがあります。しかし、さまざまな介護サービスを利用することにより、すぐに施設入所を考えなくても遠距離介護を続けられるでしょう。
遠距離介護はひとりで抱え込まず、周りのサポートや便利なサービスを利用しましょう。