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特集

【世界の葬祭文化16】安心と絆を紡ぐドイツのシニアWG~人生最終章の共同生活~

【世界の葬祭文化16】安心と絆を紡ぐドイツのシニアWG~人生最終章の共同生活~

終活への意識が高まるドイツで注目されているのが、高齢者向けの共同住宅「シニアWG」です。若者のルームシェア文化を発展させたこのスタイルは、「自立」と「支え合い」を両立し、住人同士が互いに助け合いながら日々の生活を楽しむ住まい方です。 シニアWGは心の健康にもつながるとして、政府や福祉機関も普及を後押ししています。シニアWGがもたらす価値は、日本の終活をも変えていくかもしれません。

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ルームシェア文化の高齢者版「シニアWG」

高齢者ルームシェアのイメージ画像

急速な高齢化が進む中、ドイツでも終活への意識が高まっており、家族に頼るのではなく、高齢者自身が自立した生活を送るための住まい方が注目されています。「シニアWG(Wohngemeinschaft、共同住宅)」はその最たるものと言えるでしょう。

WGは学生や若者たちの間で普及していたルームシェアの文化ですが、近年は高齢者版WGも進化。「自立」と「共同生活」を両立し、個々の価値観やライフスタイルの多様化に対応できるため、自宅で家族との同居、また、介護施設への入居をためらう高齢者から支持されています。

高齢者が共同生活を選ぶ理由

シニアWGは単なる住まいではなく、住人同士の「コミュニティ」を重視した生活スタイルです。リビングやキッチンを共有しながら、プライバシーはそれぞれの個室で守られるので、孤立を防ぎ、日常的に誰かとコミュニケーションを取れる環境が整います。いつも誰かが近くにいるため、住宅内で転倒した、脳や心臓の異常で倒れたといった緊急時にも迅速に対応でき、安心感が得られます。

また、WGにはさまざまな形態があり、一般的な共同生活のほか、介護スタッフが常駐する「介護付きWG」や、認知症患者向けの「認知症WG」もあります。住人同士が食事や家事を分担し、時にはいっしょにイベントを企画したり、各種教室やカフェの活動に参加したりすることで、日々の生活に張り合いが生まれるため、社会的なつながりと自立した生活を両立できるところも高く評価されています。

成功のカギはプライバシーとコミュニケーション

リビングやキッチンなどの共有スペースで、住人同士が自然な形で会話を楽しんだり、一緒に食事をしたりできる——シニアWGのような共同体では、例えば、料理上手な人が食事を準備し、他の人が買い物や清掃を担当するといった役割分担が生まれます。こうした日常的な協力関係が、「自分は必要とされている」という充実感をもたらし、心身の健康維持にもつながります。プライバシーの尊重と住人同士の良好なコミュニケーションのバランスが、シニアWGの成功のカギになっていると言えるでしょう。

それぞれが互いの生活リズムや価値観を理解し合いながら、必要に応じてルールを見直すことで、WG全体の雰囲気を温かく保ち、住人の満足度を高めています。

政府や福祉機関も後押し

高齢者自立支援のための助成金イメージ画像

ドイツ政府は高齢者の自立支援を目的とした政策の一環として、シニアWGの設立や運営に対して介護保険からの助成金を提供しています。例えば、グループ設立時には一人あたり2,500ユーロ(約40万円)の補助が受けられ、複数人が暮らす場合、最大1万ユーロ(約160万円)まで支援される仕組みができています。

さらには、「多世代住宅」(Mehrgenerationenhaus)という取り組みも進んでおり、シニアWGと同様に異なる世代が共存するコミュニティが地域福祉の柱となっています。この多世代住宅は、高齢者だけでなく、子育て世代や障がい者も含む多様な人々が互いに助け合う場として機能しています。

また、シニアWGがドイツで支持される理由の一つは、早い段階からの政策支援と、官民が連携して高齢者の生活の質の向上を目指している点でしょう。自立と支援のバランスを保つことが重視され、住人の自律性を尊重しながらも、必要なサポートが常に受けられる体制の整備は、日本の高齢化社会にも示唆を与え、今後の福祉政策の参考となると思われます。

日本への導入の可能性は?

高齢者同士の支え合いイメージ

内閣府の調査によると、日本では単身高齢者の増加が続いており、家族からも地域からも孤立するケースが増えています。こうした状況を踏まえ、高齢者同士が支え合う「シニアWG(共同生活)」は、日本における新しい終活の選択肢として有望視されています。

すでに日本国内でも「多世代住宅」や「シニア共同体」といった形態の住まいが徐々に増えています。例えば、東京都内の一部の地域では、子どもや若者、高齢者が共に暮らしながら交流する施設が誕生。自治体主導の「多世代共生型住宅」も展開中です。このような取り組みは、ドイツのシニアWGと共通する部分が多く、相互支援を通じてコミュニティを活性化しています。とは言え、こうした取り組みは一部の地域に限られており、全国規模での広がりはまだまだ、というのが現状です。

たとえば、ドイツでは、政府や福祉団体がWGの設立を支援する助成金を用意し、法制度を整えることで、住人の経済的負担を軽減しています。一方で、日本ではこうした法整備が十分に進んでおらず、高齢者同士の共同生活に対する社会的な理解も不足しています。多くの日本人にとっては、プライバシーが守られない生活への抵抗感が根強いので、共同生活の魅力・メリットを伝える工夫が必要です。

さらにドイツのように介護スタッフが常駐するWGの導入には、人材確保とコストの問題が伴います。これらの課題を解決するためには、住人自身が関わる運営モデルや、地域コミュニティとの連携が必要です。そして、テクノロジーを活用した見守りシステムや、自治体のサポート体制を強化することで、高齢者が安心して暮らせる環境を整えることも求められるでしょう。

新しい終活の形としてのシニアWG

人生の最終章を豊かに過ごすイメージ画像

ドイツのシニアWGは、高齢者が「主体的に生きる」ことを支援するライフスタイルの提案です。シニアWGの生活は、従来の介護施設とは異なり、自分の価値観やライフスタイルを大切にしながら、人生の最終章を豊かに過ごせる点が大きな魅力です。

終活において重要なのは、選択肢の多様化です。人生の最後のステージをどこでどう過ごすか——シニアWGのような共同生活を選ぶ人もいれば、家族といっしょに暮らす人、施設に入居する人もいます。多様なニーズに応じた住まいの形を提供することが、これから不可欠になるでしょう。

終活が「死の準備」だけでなく、「残された時間をどう生きるか」を問い直すプロセスと考えれば、ドイツにおけるシニアWGというモデルケースは、高齢者が他者とつながりながら自分の生活を主体的に営むための新しい形として、終活における新たな選択肢として、今後さらに注目されていくはずです。

終活映画紹介『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』

終活映画のイメージ

1997年製作のドイツ映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』は、死期を迎えた二人の男が「最後の願い」を叶えるために旅に出る物語。余命を宣告されたマーチンとルディが、病室を抜け出し「人生で一度も見たことがない海」を目指して奔走する姿は、本国ドイツで大ヒットを記録しました。彼らが盗んだベンツでギャングや警察に追われながらも、恐れを忘れた最後の旅を共にする姿は、死と向き合いながらも「自分らしく生き切る」ことの大切さを教えてくれます。

この映画の精神は、シニアWGにも通じるものがあります。それは他者との関係の中で生きることを重視し、限られた時間を充実させる姿勢を貫くこと。マーチンとルディが旅を通じて絆を深めたように、シニアWGでは住人同士が支え合い、日々を楽しむことが生活の柱となっています。死を目前にした時だからこそ、「一人ではない」という安心感が人生を豊かにするのです。シニアWGもまた、高齢者が最期まで自分の価値観を大切にして生き、心の海を見つけるための場所と言えるでしょう。

参考サイト

ドイツ・ニュースダイジェスト「ドイツのセカンドライフ&終活事情」

ドイツ・ニュースダイジェスト「高齢者の共同生活 シニア版WGで安心&健康な生活!?」

ドイツ・ニュースダイジェスト「シニアWGの1日 “リンゴの皮を剥くか剥かないか”も大事なこと」

内閣府:平成30年度版高齢者白書「トピックス2 ドイツ「多世代の家」の取組」

『ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア』

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