食事介護の手順と注意点とは?食べさせ方のコツや準備するものも紹介

食事介助は、食事を支援する重要なケアのひとつです。要介護者にとって、毎日の食事を楽しむことは健康の維持や生活の質の向上につながります。本記事では、食事介助の目的や注意点、介助のコツなどを解説します。安全で楽しい食事の時間をサポートするポイントが分かるため、ぜひ参考にしてください。

介護職員として介護老人保健施設に勤務。
ケアマネジャー取得後は、在宅で生活する高齢者や家族をサポートする。
現在はWebライターとして、介護分野に関する記事を中心に執筆している。
食事介助とは

食事介助とは、食事の準備から食事中のサポートを通じて、高齢者が安全に栄養を摂取できるよう支援する行為です。食べ物を提供したり飲み込むサポートをおこなったりすることで、誤嚥や窒息のリスクを減らし、安心して食事を楽しんでもらうことが目的です。
介助者には、単に食事を運ぶだけでなく、要介護者の健康状態に合わせて食事の形態を調整する配慮が求められます。
食事介助の目的

食事介助の目的は、高齢者が安心して栄養を摂取できる環境の提供です。具体的には、以下のような目的が挙げられます。
食事介助の目的
- 姿勢や食べる速度を調整し、誤嚥や窒息を防ぐためのサポートをする
- 自力で十分に栄養を摂取できない要介護者に対し、バランスのよい食事を提供する
- 食事は栄養を補うだけでなく生活の楽しみでもあるため、会話を交えたり食事内容の工夫を行い、食べること自体を楽しんでもらう
- 要介護者の自立心を尊重し、自分でできることは自分でおこなってもらうことで、食事への意欲を引き出す
食事介助の前にすること

食事介助を円滑に進めるためには、事前の準備が重要です。高齢者がリラックスして食事を楽しめるように、以下の準備をおこないましょう。
①食卓上を整頓し、必要な物を準備する
食事介助を始める前に、食卓を整えて必要な物品を準備することが重要です。テーブル上に置く物品は要介護者がとりやすい位置や、介助者がスムーズにサポートしやすい場所に配置しましょう。
食器類(お皿、箸、スプーン、フォークなど)や飲み物、ティッシュペーパー、ナプキンなどをあらかじめ準備します。必要なものが手に届く範囲にあると、食事が途切れずにすみます。
②トイレをすませておく
食事の途中でトイレにいく必要が出てくると、介助者も要介護者も負担が増えてしまいます。事前にトイレをすませておくと、食事中に席を立つ必要がなくなり、食事に集中できる環境が整います。
高齢者や要介護者の場合、食事中に尿意を感じてしまうと、それだけで落ち着かないこともあるでしょう。トイレをすませておくことで、安心して食事に臨んでもらえます。
③手や口腔内を清潔にする
食事前に手や口を清潔に保つことは、要介護者の健康管理には欠かせません。食事前には必ず手を洗うことが大切です。口腔内は、うがいや歯磨きを行うことで清潔になります。
手が動かしにくい方には、介助者が温かいおしぼりやウェットティッシュを使って丁寧に手を拭いてあげるとよいでしょう。手の汚れが食器や食べ物に触れてしまうことを防ぎ、衛生的な食事ができます。
④適切な姿勢に整える
要介護者が背筋を伸ばし、椅子や車椅子の背もたれに寄りかからず、バランスよく真っすぐな姿勢を保てるように調整します。適切な姿勢を整えることで、気管への食べ物の入り込みを防ぎ、誤嚥を避けることにつながります。ベッド上で食事をする場合は、枕を使って45〜80度の角度を保ち、できるだけ垂直に近い姿勢を保つようにしましょう。
食事介助で準備するもの

食事介助をおこなう際には、便利で清潔な道具を用意するとスムーズに進められます。以下に、用意しておきたいものを挙げます。
介助用エプロン
食事中の汚れから衣服を守るため、要介護者に介助用のエプロンを着用してもらいます。介助用エプロンは、通常の布製エプロンだけでなく、防水加工が施されているものが便利です。食べこぼしや飲み物がこぼれた場合でも衣服が濡れるのを防ぎ、介助後の片付けも簡単になります。
エプロンは肩からかけるタイプや、胸元でしっかり固定できるタイプなど、さまざまなデザインがあります。特に、動きが制限されやすい方は、固定しやすく着脱が楽なタイプを選ぶとよいでしょう。
介助用の食器
要介護者が使いやすい介助用の食器を選ぶと、食事の負担が軽減され、介助者のサポートもスムーズになります。介助用食器には、滑り止めがついているものや、持ちやすい形状になっているもの、深さがあるお皿などさまざまな種類があります。
例えば、滑りにくい底面や持ちやすい取っ手がついたコップは、握力が弱い方や手の動きが不自由な方でも持ちやすいです。深めのお皿や、すくいやすさを工夫したカーブのあるお皿もおすすめです。
トロミ剤
トロミ剤は、液体にとろみをつけて飲み込みやすくするために使用します。とろみがつくと、液体が気管に入りにくくなり、誤嚥のリスクが軽減されます。飲み込む力が低下している方や、誤嚥しやすい方にとっては必須のアイテムです。
水分補給の際にもトロミ剤を加えることで、無理なく水分を摂取できます。
おしぼりやティッシュペーパー
おしぼりやティッシュペーパーは、食事介助中にこまめに手や口元を拭くために必要です。食事中に食べ物が口元にこぼれたり、飲み物がこぼれたりする場合があるため、汚れをすぐに拭き取れるように準備しておくとよいでしょう。
また、唾液が出てきた場合も要介護者は自分で手や口を拭くことが難しい場合があるため、介護者がこまめに気を配り、口元を清潔に保つことが大切です。
食事介助の手順

実際に食事介助をおこなう際の手順を以下に説明します。
①エプロンを着ける
食事中、要介護者の衣服が汚れないよう、エプロンの着用は必須です。エプロンには、要介護者の動きを妨げないものがおすすめです。エプロンは汚れてしまうことが多いため、数枚準備しておくとよいでしょう。
②介護者は適切な位置に座る
介護者は要介護者と向かい合うか、隣に座ってサポートしやすい位置をとります。向かい合うと要介護者との目線を合わせやすく、コミュニケーションが円滑になります。隣に座る場合は、介護者がスムーズに手を伸ばせる位置を意識することで、無理のない姿勢でサポートが可能です。
③食事を見せながら献立を説明する
食事を始める前に、献立を見せながら説明すると、視覚や聴覚を通して食事への関心を高められます。どのような食材が使われているか、味の特徴や食感、香りなどを話すと食欲を引き出せます。
例えば、「今日は柔らかいお肉が入ったスープがあるため、口に入れやすいですよ」などです。食事の内容に関する情報を伝えると、食べる意欲が湧きやすくなります。
▶食材の選び方や調理方法など高齢者の食事で気をつけることはこちら
④本人が食べたいものからバランスよく介助する
食べさせ方として、要介護者が食事を楽しめるようにするには、まず本人の意思を尊重し、食べたいものから順番にバランスよく提供しましょう。最初に好きな料理を口にすることで、リラックスして食事を楽しめ、食事全体の満足感も向上します。
⑤食べた量を記録する
食事の介助が終わったら、要介護者がどれだけ食べたかを記録しておくと、健康管理に役立ちます。摂取した食べ物の種類や量、飲んだ水分の量を把握することで、要介護者の栄養バランスや水分摂取の状態が分かりやすくなります。
⑥口腔ケアをする
食事後には口腔ケアをおこない、口の中を清潔に保つことが大切です。口腔内に食べ物の残りがあると、細菌が繁殖しやすくなり、口臭や感染症の原因となるため、食事後にしっかりとケアをおこないましょう。特に高齢者や嚥下機能が低下している方には、口腔ケアが誤嚥性肺炎の予防にもつながります。
食事介助の注意点

食事介助を安全かつ効果的におこなうために、以下の注意点を守りましょう。
本人の噛む力・飲み込む力に応じた食形態にする
要介護者が安全に食べられるよう、噛む力や飲み込む力に合わせた食形態の工夫が重要です。噛む力が弱い場合や嚥下機能が低下している方には、食べやすく消化しやすい形に調理して提供する必要があります。
硬い食べ物は噛みにくく誤嚥のリスクがあるため、刻み食やペースト食、ムース食など、柔らかく加工するのが望ましいです。肉や野菜は細かく刻んだり、ペースト状にして提供することで、噛む力が弱くてもスムーズに食べられるようになります。
食事介助は水分・食べ物を交互に提供する
水分補給と食べ物を交互にバランスよく提供すると、食べ物が口から喉へスムーズに運ばれるようになります。水分は口内の食べ物を流しやすくするため、誤嚥のリスクを軽減します。
数口食べた後に少量の水やお茶を飲んでもらうとよいでしょう。水分を摂取することで、食べ物の残りが喉に引っかかりにくくなります。乾燥しやすい料理(パンやクッキーなど)の後に水分を摂ることで、口内が潤い、飲み込みやすくなります。
一口ずつ飲み込んだか確認する
食事介助では、一口ごとにしっかりと飲み込んだかを確認し、急いで次の食べ物を口に運ばないようにすることが大切です。特に、嚥下機能が低下している方の場合、口に入れるタイミングが早すぎると、誤嚥のリスクが高まります。
食べさせ方のコツとして、食べ物が喉を通るまで少し間を置き、要介護者が飲み込む様子を確認してから次の一口を提供します。
本人のできることを活かして介助する
食事介助をする際は、要介護者が自分でできることはなるべく自分でおこなってもらうようにし、できる部分をサポートしすぎないように配慮しましょう。
スプーンやフォークを使い、自分で口に運べる方であれば食器の角度や位置を調整するだけにとどめ、自分で食べる動作をできる限り尊重します。要介護者の自立心を育み、食べる意欲が高まる効果を期待できます。
食事介助の所要時間は30分程度にする
食事介助の時間は一般的に30分程度を目安にすると、要介護者が無理なく食事を続けられます。長時間にわたって食事を続けると、要介護者が疲れてしまい、食べる意欲が低下したり、集中力が切れて誤嚥のリスクが高まる可能性があるためです。短い時間であれば、無理なく食事を楽しみやすくなります。
うまく食事介助をするコツ

食事介助をよりスムーズにおこなうためのコツをいくつか紹介します。
要介護者の心身状況に合った食器を選択する
滑りにくい底面をもつ食器や、持ち手がついたコップなどは、安定感があるため、食器が滑るリスクを減らせます。スプーンやフォークも手にフィットしやすい太めの持ち手がついたものや、軽量で負担の少ないものを選ぶと、要介護者が自分で食べ物を口に運びやすくなります。
一口の量は少なめにする
食事介助では一口ずつ少量を口に運ぶことが誤嚥を防ぎ、安全に食事を楽しむための重要なポイントになります。食べさせ方は要介護者の飲み込み能力に合わせて、一口の量を調整することが大切です。
食べ物を口に運ぶ時の角度に注意する
食べ物を口に運ぶ際は、口の中へまっすぐにスプーンを運ぶと飲み込みやすく、安心感を持って食事ができるようになります。要介護者の姿勢に合わせて、スプーンやフォークを持つ手の角度を調整し、喉に無理なく食べ物が通るように配慮することが大切です。
コミュニケーションを取りながら、要介護者のペースに合わせる
食事介助の際は、要介護者としっかりコミュニケーションを取りながら、本人のペースに合わせることが大切です。話しかけながら食事を進めることで、要介護者の不安を和らげ、リラックスした雰囲気で食事を楽しめるようになります。
要介護者のペースに合わせ、食事を楽しんもらうことを意識しましょう

この記事のまとめ
- 食事介助は高齢者が安全に栄養を摂取し、食事を楽しめるようにサポートする役割がある
- 円滑に食事介助をおこなうためには、事前の準備が重要になる
- 食事介助は、介助用エプロンや滑り止め付きの食器などがあるとやりやすい
- 食事介助前には献立を見せて興味を引き、適切な位置に座って本人のペースに合わせながら少量ずつ介助する
- 食事は、本人の噛む力や飲み込む力に合わせた調理の工夫が必要になる
食事介助では要介護者のペースを尊重することが重要です。食事は日々の生活の大切な時間であり、本人が楽しめるように配慮することで、食べる喜びが増します。焦らずに、できるだけリラックスした雰囲気を提供することで、食事がより豊かで満足感のある時間となるでしょう。