とろみ食とは?作り方や介護上のメリット、作る際の注意点も解説
とろみ食とは何かご存知ですか?サラサラの液体や口の中でまとまらないものは高齢者や嚥下障害のある方にとって食べにくい食事ですが、とろみをつけることで食べやすく変えられます。本記事では、とろみ食のメリット・デメリットや作り方、注意点を解説します。
武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科卒業。
管理栄養士として病院に勤務し、患者様の栄養管理及び栄養指導に従事。
糖尿病患者や腎臓病患者を中心に、病状の進行を防ぐための食事指導を行う。食事と健康、美容に関する記事を中心に管理栄養士ライターとして活動中。
とろみ食とは
とろみ食とは、食材にとろみ剤を加えて飲み込みやすい形態にした食事のことです。私たちの体は口から食べ物が入ってくると、のどを通り食道へと運ばれます。のどのすぐ隣には気管があり、呼吸をしているときには開いていますが、食べ物を飲み込むときには気管の入り口が閉まるようになっています。
ところが、噛む力や飲み込む力などの嚥下機能が低下すると、通常であれば食道に入るはずの食べ物が気管の方に入ってしまいます。これが、「誤嚥(ごえん)」です。とろみ食は、食材にとろみをつけることで口の中でまとまりやすくし、のどの通過をゆっくりにすることで、誤嚥のリスクを下げる食事として役立っています。
とろみ食のメリット・デメリット
先述の通り、嚥下機能が低下した人でも比較的負担が少なく食べられるとろみ食ですが、メリットだけでなくデメリットもあります。ここでは、とろみ食のメリットとデメリットを詳しく解説します。
メリット①噛む力が低下しても食べられる
とろみ食の大きなメリットは、噛む力が低下しても食べられることです。とろみ食を作る際には、食材を食べやすい大きさに潰したり、ミキサーにかけてペースト状にしてからとろみをつけます。よって、あまり噛まなくても飲み込むことができ、噛むのが難しい方でも食べられるため、高齢者でも食べやすい食事です。
「口から食べる」という行為は、生活の質を維持する上でもとても重要です。そのため、噛めなくても口から食べることを可能にするとろみ食は、嚙む力が低下した方にとても有効です。
メリット②消化吸収の負担が少ない
とろみ食は消化吸収しやすく、胃腸への負担が少ない点もメリットといえます。
とろみ食は、調理の工程で食材をミキサーにかけたり潰したりして作ります。また、硬い食材や弾力のある食材などはとろみ食には不向きであるため、できる限り使用しません。高齢者や要介護の方の多くは、消化機能が低下しています。とろみ食は形態だけでなく胃腸への負担も少ないため、安心して食べられます。
メリット③口当たりがよい
口当たりがよく食べやすいのも、とろみ食のメリットです。また、温かい食事だけでなく、冷たい食事もとろみ食で美味しく食べることができます。食欲が低下したときでも、とろみ食であれば口当たりがよく食べやすいため、食事が進みやすいという点もメリットです。
デメリット①誤嚥の可能性はゼロではない
誤嚥しにくくなる効果のあるとろみ食ですが、誤嚥の可能性はゼロではありません。とろみの調整が不十分な場合、サラサラ過ぎたり逆に粘度が強くなりすぎて食べにくくなってしまいます。とろみ食を作る場合には、食べる人に合ったとろみ具合にすることが重要です。
デメリット②見た目で食欲がわかない
とろみ食は液状でもともとの食材の形を留めていないため、見た目で食欲が低下してしまうデメリットもあります。
とろみ食の作り方には、先述の通り食べ物をミキサーにかけたり潰したりする工程が含まれます。そのため、食材の形が分からなくなり、「何を食べているのかが分からない」「色が混じりあって美味しそうに見えない」など、見た目で食欲が低下してしまうこともあるでしょう。
見た目での食欲低下を防ぐためには、盛り付けを工夫したり、何を食べているのかが分かるようにお品書きを添えることがおすすめです。
デメリット③必要な栄養素が不足しやすい
とろみ食は、ミキサーにかけたり潰したものをなめらかにするために、料理の多くを水分が占めています。また、とろみ食に不向きな食材もあるため、通常の食事に比べて栄養素が不足しやすくなります。1日3回の食事では必要な栄養素を満たすことができない分、間食などで補う必要があるでしょう。
とろみ食の種類
とろみ食は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調節食学会分類2021」によると、3種類に分かれており、種類によって特徴が異なります。どの種類のとろみが合うかは食べる人の状態によって違うため、食事を考える際には医師や管理栄養士に相談してみましょう。
ここでは、3種類のとろみについてそれぞれ解説します。
薄いとろみ
薄いとろみは、『口に入れると口腔内に広がり、飲み込む際に大きな力を必要としない状態のとろみ具合。ストローでも簡単に吸うことができる。スプーンを傾けると、スッと流れ落ちる』と定義されています。ほとんど液体に近い状態なため、飲み込むスピードが遅い高齢者は誤嚥のリスクは高いといえます。
中間のとろみ
中間のとろみは、『口の中ですぐには広がらず、舌の上でまとめやすい。ストローで吸うには抵抗がある状態。スプーンを傾けるととろとろ流れ落ちる』と定義されています。噛む力や飲み込む力が低下した高齢者や介護が必要な方にとって、最も安全で食べやすいとろみ具合といえます。
濃いとろみ
濃いとろみは、『まとまりがよく、のどの奥に送り込むのに力を要し、ストローの使用も適さない。スプーンを傾けても流れにくい状態』と定義されています。送り込むのにある程度の力が必要であるため、飲み込む力が著しく低下した高齢者や要介護者には不向きといえます。
とろみ食の作り方と注意点
とろみ食は、嚥下機能が低下した高齢者や要介護の方にとって食べやすい食事ですが、通常の食事とは作り方が異なります。また、調理の際には注意しなければならない点もあります。ここでは、とろみ食の作り方や注意点を詳しく解説しますので、とろみ食を作る際の参考にしてください。
市販のとろみ調整剤を使う場合
とろみ食を簡単に作れる「とろみ調整剤」は薬局などでも購入でき、簡単に調理できる便利な商品です。しかし、正しい使用方法を用いることがとても大切です。使用方法を誤ると危険な場合もあるため、説明書をよく読んでから調理しましょう。
注意点①適量を使う
市販のとろみ調整剤は、少量でも強いとろみがつきます。そのため、指示された適量は必ず守りましょう。とろみ調整剤を加えた直後は、とろみがついたように感じにくいため、ついつい多く入れてしまうことがあります。しかし、粘度は時間が経つにつれて増していくため、想像以上に粘度の強い仕上がりになってしまうのです。
とろみ調整剤を使うときにはゆっくり焦らずに、粘度を見ながら加えることが大切です。使い過ぎには注意し、必ず適量を守って使いましょう。
注意点②ダマにならないようしっかり混ぜる
とろみ調整剤を加えたら、最初は素早く混ぜます。ダマにならないようにしっかり混ぜることが大切です。ダマになってしまうと、ダマの粒が原因で誤嚥することもあります。食感も変わってしまうため、よく混ぜて粘度を均一にしましょう。
片栗粉を使う場合
自宅にある片栗粉でも、とろみをつけることが可能です。ミキサーにかけた煮物やあんかけ料理などに使うと、料理の味を変えずにとろみがつきます。手軽で値段も安価なため、最も取り入れやすい方法です。作り方は簡単ですが、調理の仕方によっては誤嚥のリスクを上げてしまう場合もあるため、以下の注意点を把握しておきましょう。
注意点①水に溶いてから使う
片栗粉でとろみをつける場合には、必ず水に溶いてから使うようにしてください。片栗粉をそのまま食材に加えてしまうと、片栗粉がダマになったり、粉が残ってしまう場合があります。とろみをつける少し前に片栗粉:水が1:1~1:2程度の分量でよく溶かし、馴染ませてから加えると適度なとろみをつけることができます。
注意点②ダマにならないよう注意が必要
水溶き片栗粉でとろみをつける際も、ダマにならないよう注意しなければなりません。加える前にしっかり水に溶いておくことに加え、加えた後も素早く混ぜるようにしましょう。しばらく混ぜていると均一なとろみの状態になってくるため、適当な粘度になればとろみ付けの完成です。
注意点③唾液と混ざることに配慮する
片栗粉でとろみをつける場合、唾液と混ざらないように注意が必要です。現在市販されている片栗粉の多くは、馬鈴薯(じゃがいも)でんぷんを原料としています。そのため、唾液に含まれるアミラーゼという消化酵素が、片栗粉のでんぷんを分解してしまうのです。
口に入れたスプーンをそのまま料理に戻すと、それだけでも唾液が入ります。それにより料理のとろみが緩くなる場合もありますので、手間はかかりますが、一口ごとにスプーンを変えたり拭くようにしましょう。
ホワイトソースを使う場合
バターと小麦粉、牛乳で作るホワイトソースも、とろみ付けに活用できます。ホワイトソースを使ったクリームシチューは、とろみ食と同程度の粘度があるため食べやすい料理です。具だけは別でミキサーにかけてから、ホワイトソースに混ぜ込むことで味は変わらず楽しめます。
シチューの他にも、魚料理のソースにしたり、ご飯と混ぜてドリア風にするなどいろいろな使い方ができます。バターの風味でコクのある料理に仕上がり、カロリーアップにも役立つでしょう。ただし材料の性質上、冷たくなると固まってしまうため、様子を見て温めなおしたり、スープや牛乳を使って伸ばしたりする必要があります。
マヨネーズを使う場合
マヨネーズでも、手軽にとろみをつけることができます。マヨネーズを使ったとろみ食の作り方は、すり潰した食材に混ぜたり、食材をミキサーにかける際にマヨネーズを加えるだけです。量の調整も簡単なので、手軽に始めやすくおすすめです。
ただし、マヨネーズばかりだと味が同じになってしまうため、味に変化を持たせるよう工夫しましょう。例えば、梅肉、すりごま、味噌、ケチャップなどを混ぜて使うと違う味を楽しむことができます。
嚥下機能が低下したら、とろみ食を取り入れて安全に食事を楽しみましょう
この記事のまとめ
- とろみ食とは、とろみ剤を加えて飲み込みやすい状態に調整した食事のこと
- とろみ食は噛む力や飲み込む力が低下しても食べやすい食事であり、高齢者や介護が必要な方に適している
- とろみ食は消化吸収の負担も少なく、口当たりがよく食べやすい
- とろみ食には誤嚥のリスクや栄養素の不足といったデメリットもある
- とろみ食には薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの3種類があり、食べる人の状態に合わせて選ぶ必要がある
- とろみ食を作る際には、注意点を守って安全に食べられる食事を作るよう心がける
噛む力や飲み込む力が低下しても、とろみ食であれば口から食べる食事を楽しめます。本記事で紹介した作る際の注意点も参考にしながら、食事に取り入れてみてください。