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【世界の葬祭文化13】世界初の孤独担当相のレガシーとは?~イギリスの終活はどこへ向かうのか~

【世界の葬祭文化13】世界初の孤独担当相のレガシーとは?~イギリスの終活はどこへ向かうのか~

イギリス政府の閣僚ポストに「孤独担当相」が設けられたのは2018年1月のこと。「孤独」を「1日15本の喫煙に匹敵する」といった“健康被害データ”として見える化し、社会全体の問題として真っ向から取り組んだのです。この世界初の試みには以前から高齢者の孤独に目を向け、対策を講じてきた同国の福祉政策の歴史があります。孤独担当相が残した成果を今後どう活用していくのか、イギリス社会はいま再び問われています。

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孤独担当大臣の設置とその具体的取り組み

イギリスが社会全体で高齢者の孤独について深い関心を抱く背景には、過去80年におよぶ福祉政策の実績があります。有名な「ゆりかごから墓場まで」という言葉は1945年に制定された総合的な福祉政策を象徴するスローガンでした。第二次世界大戦後の労働党政府が導入したこの政策は、ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)や社会保険、無料教育、住宅政策などを含む支援システムによって、国民全体に広範な社会保障を提供することを目指していました。

しかしイギリスの経済力が衰え、人口の高齢化が進むとともに、これらの政策には繰り返し、改定や削減が行われてきました。NHSは依然として無償で提供されていますが、予算削減やサービス需要の増加によって財政的圧力が高まり、待機時間の延長や医療サービスの質の低下が懸念されています。また、低所得者や障害者向けの福祉給付が削減されたことに対する抗議や批判も続いています。

欧州連合(EU)からの離脱で終活支援に変化も

EUからの離脱=ブレグジット(Brexit)もイギリスの福祉政策・終活支援活動にダメージを与えました。特に首都ロンドンに多い移民や外国人向けのサービスには深刻な影響が出ています。たとえば、ブレグジット後、EUからの移民に対する法的・行政的な手続きが変わり、ビザの取得や居住許可に関する支援が強化されました。特に高齢の移民が終活を計画する際に、自分の法的なステータスを確認し、安心して生活できるためのサポートが重視されるようになりました。

一方で、財政難は深刻です。EUからの補助金がなくなったことで、支援プログラムの多くは資金調達の方法を見直す必要に迫られました。これは一部の終活支援サービスやコミュニティ支援プログラムを圧迫し、政府や地方自治体、慈善団体などは代替資金源を確保するための努力を強いられています。

孤独担当相の廃止が意味すること

こうした状況のなか、2021年、当時のボリス・ジョンソン首相によって、孤独担当相のポストは他の部門に統合される形で廃止されました。政府の効率性の向上を目指した結果、わずか3年ほどで姿を消した孤独担当相でしたが、この活動には一定の成果が認められています。

その最大のものは、孤独問題、さらに終活問題に関する国民全体の意識の向上・共有でしょう。孤独を減らし、充実した終活を支援するためのコミュニティ活動やサポートプロジェクトに政府の資金が投じられたことは意義深いという認識が広まったのです。それに加えて、孤独と終活に関する研究が進められ、データ収集が強化されたことも今後に向けた大きな収穫と言えるでしょう。

これらの研究データによって、それまで漠然としていた高齢者の孤独問題・終活問題の実態が鮮明になり、より具体的・効果的な対策が講じられるようになりました。孤独担当相のポストが廃止された後も、イギリス社会における孤独・終活に対する関心は高く、各地域やコミュニティレベルでの取り組みが続けられています。

今年(2024年)7月、14年ぶりに実現した保守党から労働党への政権交代によって孤独や終活の問題がどうなっていくのか、再び注目が集まっています。

終活映画『君を思い、バスに乗る』

EUからの離脱やコロナ禍以上に、近年のイギリス社会が深く向き合ってきた高齢者の孤独問題。それを集約したかのような終活映画の佳作が、2022年公開の『君を思い、バスに乗る』です。原題は『The Last Bus』。まさしく人生最後のバスの旅を描く映画です。

妻を失った80代の老人が、路線バスを乗り継いでスコットランドの端からイングランドの果てまで、さまざまな人と出会い、トラブルに巻き込まれながらも、妻と交わした一つの“約束”を胸に旅を続ける――。

齢を取ること、人を愛すること、愛した人、そして愛した時間を失うこと。どの国の人にも共通するテーマのもと、高齢者がどのように孤独と向き合い、生きる希望を見つけることができるかを、この作品は実に見事に描いています。誰もが終活によって心を整理し、希望を見出せるというメッセージは、観る人の胸に静かで深い感動を刻み込むことでしょう。

参考資料・サイト

A Connected Society: A Strategy for Tackling Loneliness

世界初「孤独担当大臣」置いた英国 孤立を社会問題と見る国の取り組み

「孤独」に社会で向き合う英国、その背景とは

映画『君を思い、バスに乗る』

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