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相続における特別受益とは?主張の流れや金額の計算方法を解説

相続における特別受益とは?主張の流れや金額の計算方法を解説

相続における「特別受益」とは何かご存知でしょうか。特別受益がある場合の遺産分割の流れは、通常の相続と異なります。本記事では特別受益の意味や具体的な内容について、わかりやすく説明します。注意点や相続トラブルを予防する対策についても、知っておきましょう。

監修者 SUPERVISOR
AFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士 森本 由紀

神戸大学法学部卒業。鉄鋼メーカー、特許事務所、法律事務所で勤務した後、2012年に行政書士ゆらこ事務所を設立し独立。メインは離婚業務。離婚を考える人に手続きの仕方やお金のことまで幅広いサポートを提供。法律・マネー系サイトでの執筆・監修業務も幅広く担当。

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特別受益とは

相続における特別受益とは、一部の相続人が遺贈や生前贈与などによって被相続人から受けた特別な利益のことを指します。被相続人とはすなわち亡くなった人です。相続人とは被相続人の財産を相続する人です。

まずは特別受益について、目的や基本的な仕組みを説明します。

特別受益の目的

特別受益が存在する目的は、相続財産の額に生前もらった財産を計算に含め、遺産分割の際に各相続人間の不公平を調整することです。

相続の場面において相続人は一人とは限らず、複数人いる場合があります。相続は、法定相続分に基づいて財産を分配するのが一般的です。なお、法定相続分とは、民法に定められている相続割合のことを指します。

ただ、相続人の中に、相続開始前に被相続人から財産上の利益を得ている人がいることもあります。生前に財産をもらった人が、相続時にも法定相続分の財産をもらえるとすると、不満を持つ人がいるかもしれません。

その際に、特別受益を主張することで不公平の調整が可能になります。

特別受益となるのは相続人への遺贈と生前贈与と死因贈与

相続人に対する遺贈や生前贈与などは、特別受益になります。遺贈とは遺言によって財産を譲ることで、生前贈与とは生きている間に財産を譲ることです。遺贈についてはすべて特別受益の対象になります。一方、生前贈与は遺贈とは違い、特別受益になるものが限られています。特別受益に該当する生前贈与については後の章で解説します。

遺贈と似たものに、死因贈与があります。死因贈与とは死亡を原因として効力が生じる贈与のことです。遺贈は遺言者の一方的な意思でできますが、死因贈与は贈与者と受贈者の合意が必要です。

なお、特別受益の対象となる生前贈与や遺贈は相続人に対するものです。相続人以外へ生前贈与や遺贈をしても、特別受益にはあたりません。

特別受益の持ち戻しとは

特別受益があった場合には、相続の際に持ち戻しをします。特別受益の持ち戻しとは、特別受益として受けた財産額を相続財産に加算することを指します。計算の過程で特別受益分を考慮するもので、もらった財産そのものを返すわけではありません。

特別受益の計算方法

通常の相続では、相続財産に法定相続分をかけて各相続人の相続額を計算します。一方、特別受益がある場合には「みなし相続財産」を基準にします。みなし相続財産とは、相続財産に特別受益に該当する生前贈与財産を加えたものです。遺贈は生前贈与と違い相続財産に含まれているため、加算する必要はありません。

みなし相続財産=相続財産+特別受益に該当する生前贈与財産

各相続人が相続する財産額は「みなし相続財産×法定相続分」で計算します。特別受益者については、特別受益分(生前贈与、遺贈、死因贈与)を差し引きする必要があります。各相続人の相続財産額を計算する方法は、以下の通りです。

特別受益者以外 みなし相続財産×法定相続分
特別受益者   みなし相続財産×法定相続分-特別受益分

なお、各相続人には遺留分があります。遺留分とは最低限相続できる財産の割合です。特別受益により遺留分も相続できなくなっている場合には、特別受益者に対し、遺留分の取り戻しを請求できます。

特別受益に該当する生前贈与4つ

相続人が被相続人から受けた生前贈与は、すべてが特別受益に該当するわけではありません。民法では「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」として受けた生前贈与が特別受益に該当するとされています(第903条第1項)。特別受益の対象となる生前贈与は、結婚・養子縁組費用や生計の基礎として役立つ財産です。

特別受益に該当するか否かは判断が難しい場合が多く、過去の裁判例を参考に考えなければなりません。遺産の前渡しと言えるような贈与の場合には、特別受益とされるのが一般的です。ここでは、特別受益に該当する生前贈与とは何か、代表的な4つの場合について説明します。

結婚資金の贈与

結婚資金の贈与は、一般的に特別受益に該当します。特別受益に該当する結婚資金とはどのようなものかは、被相続人の資産や収入、家庭の事情なども考慮して判断します。結婚に際して親から子へ渡す支度金や持参金は、金額が大きければ特別受益になり得ます。支度金・持参金とは、結婚の準備資金のことです。

結婚の際に、結納金を用意する場合もあるでしょう。しかし、結納金は子供本人ではなく結婚相手への贈与のため、特別受益には該当しません。また挙式費用については、結婚式には親や親族も参加するため、特別受益に該当しないと考えるのが一般的です。

不動産の贈与

特別受益に該当する不動産の贈与とは、生計の資本に該当するものです。被相続人から特定の相続人に土地や建物など居住用の不動産を贈与されている場合、生計の資本と言えるため、特別受益に該当する可能性が高くなります。

事業用資金・資産の贈与

事業を始めるときに開業資金を出してもらっている場合や、事業に使う不動産の贈与を受けている場合なども、生計の資本としての贈与といえます。事業用資金や事業用資産の贈与は、特別受益の対象となるのが一般的です。

大学等の学費や留学資金の贈与

特別受益の対象となる学費は、扶養義務の範囲を超えるものです。子供の学費を親が出している場合、扶養義務の範囲内なら特別受益にはなりません。扶養義務の範囲内かどうかは、各家庭の収入や教育水準、他の子供との違いなどから考えます。

高校までの学費や一般的な大学の学費は通常、特別受益にはなりません。私立大学の学費や海外留学の費用など、特に金額が高くなる場合に特別受益とされる可能性があります。

特別受益を主張する遺産分割の流れ

相続人の中に特別受益を得ている人がいる場合、公平な遺産分割をするために、特別受益を主張することが可能です。ここでは、特別受益がある遺産分割の流れについて解説します。

①特別受益の証拠を集める

特別受益の証拠とは、被相続人から特別受益を受けた相続人に、いつ、どのような形で財産が移転したかを確認できる資料のことを指します。被相続人の通帳や贈与契約書が残っていないか、探してみてください。

贈与の対象が不動産の場合には、不動産の登記事項証明書を取っておきましょう。登記事項証明書とは、不動産の物理的現況や所有者、権利関係などを示した書類で、法務局で取得できます。集めた証拠資料は、家庭裁判所に提出します。

②特別受益を主張

遺産分割協議を行うときに、特別受益がある旨を主張しましょう。合意が得られれば、特別受益を考慮して遺産分割協議を行います。合意が得られない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停や遺産分割審判で解決することも可能です。

なお2023年4月の民法改正により、相続開始から10年経過した場合には、特別受益が主張できないことが定められました。相続開始後遺産分割をしないまま10年経ってしまうと、特別受益がないものとして遺産分割をしなければなりません。

③特別受益を持ち戻して法定相続分を計算

特別受益があることが明確になった場合には、特別受益を持ち戻して遺産分割を行います。遺産を分けるときは、みなし相続財産を基準にしましょう。みなし相続財産とは、相続財産に特別受益に該当する生前贈与財産を加算した金額です。

みなし相続財産を法定相続分で分け、特別受益者については特別受益分を差し引きして相続する金額を決めます。

特別受益の持ち戻し免除とは

相続時に相続人の誰かが他の相続人の特別受益を主張した場合、特別受益を持ち戻して遺産分割をせざるを得ません。しかし、もし被相続人自らが特定の相続人を優遇したいと思っている場合は、被相続人の意思を尊重すべきでしょう。

被相続人は特別受益の持ち戻しをせず遺産分割をするよう、生前に意思表示ができます。持ち戻し免除とは、持ち戻しをしないようにという被相続人による意思表示のことです。特定の相続人に財産を譲るときには、持ち戻し免除の意思表示をしておけば、相続トラブル対策になります。

遺言書等で特別受益の持ち戻しを免除できる

特別受益の持ち戻しを免除したい場合には、書面に明記して対策しておくのが確実です。生前贈与する場合には贈与契約書に、遺贈する場合には遺言書に書いておきましょう。遺言書に生前贈与した財産の持ち戻しを免除する旨を書くこともできます。

また被相続人が特別受益の持ち戻し免除を明示していない場合でも、黙示の意思表示があったとされ、持ち戻しが免除されるケースはあります。しかし相続人らは裁判などで争わなければなりません。被相続人は持ち戻しの免除を遺言書等に明記して相続トラブルの対策をしておきましょう。

婚姻20年以上の配偶者への自宅の贈与は持ち戻し免除

2019年施行の改正民法により、婚姻期間20年以上の配偶者に居住用不動産を贈与した場合には、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定する規定が設けられました。居住用不動産とは自宅のことです。

婚姻期間20年以上の配偶者への贈与とは「おしどり贈与」とも呼ばれ、税制優遇も設けられています。不動産の金額のうち2000万円までは贈与税が非課税になります。おしどり贈与は、老後の配偶者の生活基盤の確保のために有効です。

以前はおしどり贈与があった場合でも、原則的に特別受益の持ち戻しをしなければなりませんでした。持ち戻し免除の意思表示をして対策していない場合、配偶者が相続できる財産が少なくなっていたのです。民法改正により配偶者の権利の保護が強化され現在は特別な対策は不要になっています。

相続に備えて特別受益の意味や主張する流れを知っておきましょう

この記事のまとめ

  • 特別受益とは一部の相続人が被相続人から生前に受けた経済的な利益
  • 特別受益がある場合、相続財産への持ち戻しを行って遺産分割をする
  • 特別受益に該当する生前贈与とは結婚や生計の資本
  • 特別受益に該当する場合は生前に対策しておくのがおすすめ
  • 被相続人は特別受益の持ち戻し免除の意思表示ができる
  • 婚姻期間20年以上の夫婦間の自宅贈与は持ち戻しが免除になる

特別受益とは、各相続人間の不公平をなくすために設けられている制度です。被相続人から生前贈与などで財産をもらっている相続人については、特別受益分を相続財産に持ち戻し、相続できる金額を計算してください。特別受益とは何か、通常の相続との違いを理解するとともに、遺産分割のときに必要な主張をする方法も知って事前に対策しておきましょう。

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