糖尿病の食事での注意点は?予防に適した食べ物や献立例も紹介
糖尿病の人にとって、食事の管理は健康を維持するためにとても重要です。今回は、糖尿病の人が注意しなければならない点を解説します。簡単なメニュー例やおすすめの食品も紹介しますのでぜひ参考にしてください。
武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科卒業。
管理栄養士として病院に勤務し、患者様の栄養管理及び栄養指導に従事。
糖尿病患者や腎臓病患者を中心に、病状の進行を防ぐための食事指導を行う。食事と健康、美容に関する記事を中心に管理栄養士ライターとして活動中。
糖尿病とはどんな病気?
糖尿病とは、インスリンの働きに問題が起き、慢性的に血糖値が上昇した状態が続く病気のことで、成因によって1型と2型に分類されます。ここでは、食事を大きな要因とする2型糖尿病とはどのような病気なのか解説します。
インスリンが十分に作用せず血糖値が上昇する
2型糖尿病ではインスリンが十分に作用せず、血糖値が上昇するのが特徴です。
通常、食事で摂取した糖が腸から体内に吸収されて血液中に入ると、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによって血液中から細胞へと取り込まれます。取り込まれた糖は、活動のエネルギー源として使われるものです。通常であれば血液中に糖がため込まれることはなく血糖値は正常に保たれます。しかし、インスリンが働かないと血液中の糖をうまく細胞内へ取り込むことができません。結果、糖が血液中にたまっていってしまうのです。
このようにインスリンが作用せず血糖値が上昇した状態を「高血糖」と呼びます。高血糖状態が続くことで体にさまざまな悪影響を及ぼすのが糖尿病です。
糖尿病の人は食事に注意する必要がある
2型糖尿病の治療には、薬物療法や運動療法などがあります。その中でも、糖尿病の人にとって重要なのが食事療法です。糖尿病では食事の内容によって血糖値の上昇を抑え、血糖をコントロールをすることが大切です。
薬物療法や運動療法がうまくいっても、食事に注意しなければ全ての効果を台無しにしてしまいかねません。そのため食事に気をつけて、血糖値をコントロールする必要があります。
糖尿病の人が食事で注意すべきポイント
糖尿病だからといって、特別な食事を摂らねばならないわけではありません。糖尿病になった場合は、食べ過ぎに注意して規則正しく食べることが大切です。ここでは、糖尿病の人が食事で注意すべきポイントを説明します。
栄養バランスの整った食事を摂る
栄養バランスの整った食事とは、主食・主菜・副菜の揃った食事のことを指します。主食から炭水化物、主菜からたんぱく質や脂質、副菜から食物繊維やミネラルをバランスよく摂ることができます。これらは5大栄養素といわれ、体にとって必要不可欠です。
栄養バランスの整った食事を摂ることで食事の偏りを防ぎ、血糖値を良好に保つことができます。
規則正しく食べる
糖尿病の人の食事は1日3回、できる限り決まった時間に食べましょう。食事と食事の時間が長く開いてしまうと、体は軽い飢餓状態に陥ります。その状態で食べ物が入ってくると、体はできる限り糖質などの栄養素を蓄えようとしてしまうのです。
とはいえ、仕事の都合などで難しい場合は「分食」がおすすめです。分食とは、1回の食事を何回か回数を分けて食べることで、夜遅い時間の食べ過ぎ防止にも役立ちます。
適正なエネルギー量を摂取する
糖尿病になった場合、食べ過ぎたり過度なダイエットなどもせず、適正なエネルギー量を摂取することが重要です。
食べ過ぎは肥満だけでなく、インスリンの働きが悪くなる原因の一つでもあります。また肥満によって、血糖値のコントロールが難しくなる場合もあります。一方、食事を制限し過ぎる過度なダイエットもまた、血糖値のコントロールを乱す原因となるため注意が必要です。
糖尿病では適正な体重を維持し、血糖コントロールを上手く続けることが大切です。食事は自分に合った適正なエネルギー量の食事を摂取するようにしましょう。適正なエネルギー量は、年齢や体重、活動量などによって変わります。自分の適正エネルギー量を知っておきましょう。
適正エネルギー量の算出方法
- 適正エネルギー量(kcal)=*標準体重(kg)×身体活動量(kcal)
- *標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
身体活動量の目安は、座っていることが多い人で25~30kcal、立ち仕事が多い人で30~35kcal、力仕事が多い人で30~35kcalです。
食物繊維を積極的に摂る
糖尿病の人は食物繊維を積極的に摂るようにしましょう。野菜やきのこ、海藻類などに多く含まれる食物繊維には、血糖値の急上昇を抑制する効果があります。また食物繊維を多く含む食品は腹持ちが良く、食欲を抑制する効果も期待できます。
脂質の摂り過ぎに注意する
脂質は、糖尿病の人にとって摂り過ぎに注意が必要な栄養素です。血糖値を上昇させるのは糖質で、脂質が血糖値を上昇させることはありません。しかし、脂質を摂り過ぎることによって内臓脂肪が増え過ぎてしまう点には注意が必要です。
内臓脂肪には、インスリンの働きを妨げるTNF-αという物質が含まれています。内臓脂肪が増えることで大量のTNF‐αがインスリンの働きを悪くし、間接的に血糖値を上昇させます。脂質は適正量を摂取し、摂り過ぎないようにしましょう。
間食を控える
糖尿病の方は、できる限り間食を控えましょう。甘い飲み物も要注意です。血糖値は食べ物や飲み物を摂ることで上昇し、食後2時間ほどで正常に戻りますが、間食をしてしまうとこのサイクルを乱しかねません。結果、血糖値が下がらない高血糖の状態がいつまでも続くことになってしまうのです。
甘いものやお菓子がどうしても食べたいときには、食事の一部として食べましょう。1日の適正エネルギー量の範囲内で、朝食や昼食後のデザートとして食べるようにしてください。夕食後は活動量が減り血糖値が下がりにくくなるため、甘いものやお菓子は控えましょう。
ゆっくりよく噛んで食べる
ゆっくりよく噛んで食べることで、早食いを防ぐことができます。急いで食べると体に入った糖質は急激に吸収され、血糖値が急上昇してしまいかねません。ゆっくり食べることで血糖値の急上昇を抑えられます。
また、よく噛んで食べることで満腹感が得られるため、食べ過ぎ防止にも効果的といえます。
糖尿病の人が食べる食事の調理のポイント
食事を作る際、少しの工夫をすることで、食べ過ぎや血糖値の上昇を防ぐことができます。ここでは、糖尿病の人が食べる食事の調理のポイントを紹介します。
調味料の使い過ぎに注意する
普段、何気なく使っている調味料ですが、種類によっては高カロリーであったり血糖値を上昇させやすかったりするものもあります。特に砂糖やみりんのような糖分が多く含まれている調味料は、使い過ぎに注意しましょう。
また、しょうゆや味噌などは使用量が多いと味が濃くなり、ご飯などの食べ過ぎにつながります。植物油やバターなどは、少量でも高カロリーです。調味料は量を計るようにして、使い過ぎを防ぎましょう。
薄味を心がける
味付けが濃いとご飯が進み、食べ過ぎにつながります。そのため、糖尿病の食事では薄味を心がけるのが理想的です。しかし薄味では味気なく、食事を楽しめないと感じてしまうこともあるでしょう。
そのような場合には出汁を効かせたり、香辛料やレモンを使ったりしてください。少しの工夫で、満足感を得られるようになります。
蒸す、茹でるなど低カロリーの調理を心掛ける
調理方法によって、料理のカロリーは大きく変わります。油を使った「揚げる」「炒める」などの調理方法では、高カロリーになりやすいです。
一方、油を使わない「蒸す」「茹でる」などの調理方法は素材に含まれる余分な脂を落とすことができるため、低カロリーの食事を作ることができます。糖尿病の食事を作る際には、調理方法も工夫してみてください。
糖尿病の予防に適した食べ物
食べるだけで糖尿病を治す食べ物はありません。しかし、血糖値の急上昇を抑える食べ物を摂れば、糖尿病の悪化を防ぐことは可能です。ここでは、糖尿病治療に重要な指標や血糖値の急上昇を防ぐのに効果的な食べ物を紹介します。
GI(グライセラミック・インデックス)とは
GI(グライセラミック・インデックス)とは、食後の血糖値の上昇を示す指標です。GI値が高い食品ほど食後に血糖値が急上昇するため、糖尿病の人は注意が必要です。
糖(グルコース)をGI値100として、GI値70以上の食品を高GI食品、GI値56~69を中GI食品、GI値55以下の食品を低GI食品と分類されています。
低GI食品で血糖値の上昇を抑える
低GI食品は血中への糖の取り込みが穏やかなため、血糖値の上昇も緩やかです。つまり、低GI食品を選んで摂ることで血糖値の上昇を抑え、糖尿病予防につながります。下に低GI食品をまとめていますので参考にしてください。
低GI食品の例(GI値)
- 大豆(20)
- 玄米(55)
- そば(47)
- さつまいも(51)
- 肉類(45~49)
- 魚介類(40前後)
- 卵(30)
- 牛乳(27)
- バナナ(51)
- オレンジ(39)
- りんご(37)
- 野菜、海藻類、きのこ類のほとんど
高GI食品を避ける
血糖値を急上昇させる高GI食品をできる限り控えることも、糖尿病予防につながります。ただし、食べることが悪いわけではありません。高GI食品の中には、体に必要な栄養素を含む食品もあります。食べる量や回数を減らしたり、食物繊維の多い食品と一緒に食べたりなど、血糖値が急激に上がらない工夫をしましょう。
高GI食品の例(GI値)
- 砂糖(100)
- 白米(77)
- 白パン(74)
- じゃがいも(90)
- うどん(80)
- かぼちゃ(75)
- チョコレート(91)
- キャンディー(74)
糖尿病の人のための献立例
最後に、糖尿病の人におすすめの献立例を紹介します。食物繊維の多い食材を積極的に取り入れたり、さまざまな食品をバランスよく食べたりすることで糖尿病予防に役立てましょう。
なお、ここで紹介する献立は、1日あたりの摂取目安量が1,600kcalの方を想定しています。必要量に応じて、主食や主菜の量を調整してください。
①サバの塩焼きがメインの献立
サバは良質な脂質を含み、健康維持に役立つ食べ物です。魚の中では比較的高カロリーの食品ですが、塩焼きにすることで脂を落とし、摂取カロリーを抑えられます。
サバの塩焼きがメインの献立例
- 主食:玄米ご飯 150g
- 主菜:サバの塩焼き 大根おろし添え
- 副菜:豚肉とごぼうのきんぴら
- 汁物:かぼちゃと玉ねぎの味噌汁
②鮭のホイル焼きがメインの献立
ホイル焼きは、余分な味付けをしなくても素材の味でおいしく食べられます。食物繊維の豊富な野菜やきのこ類を入れることで簡単にたくさん食べることもできるため、糖尿病の方だけでなく糖尿病の予防にもおすすめの献立です。
鮭のホイル焼きがメインの献立例
- 主食:玄米ご飯 150g
- 主菜:鮭のホイル焼き
- 副菜:茄子とピーマンの味噌炒め
- 汁物:根菜たっぷり清汁
③野菜たっぷり牛肉炒めがメインの献立
肉料理は高カロリーなイメージですが、脂の少ない赤身肉を使用すれば問題ありません。牛肉に野菜をたくさん加えて食べることで、満足感を得られる献立になります。肉は良質なたんぱく質源となる食べ物です。糖尿病でも積極的に食べましょう。ただし、脂質の多いバラ肉や鶏皮は高カロリーのため注意が必要です。
野菜たっぷり牛肉炒めがメインの献立例
- 主食:玄米ご飯 150g
- 主菜:野菜たっぷり牛肉炒め
- 副菜:にんじんと切り干し大根の塩昆布和え
- 汁物:チンゲン菜とトマトの中華スープ
④豆腐入りシュウマイがメインの献立
シュウマイは蒸す調理のため、カロリーを抑えることができます。低GI食品である豆腐でかさ増しすれば、満足感を得られるでしょう。食事量が少なく満足感が得られにくい糖尿病の食事は、低GI食品を上手く利用してボリュームを出すのがおすすめです。
豆腐入りシュウマイがメインの献立例
- 主食:玄米ご飯 150g
- 主菜:豆腐入りシュウマイ
- 副菜:ごぼうのしそマヨネーズ和え
- 汁物:たっぷりきのこのコンソメスープ
食品選びや食事の工夫で、糖尿病予防し悪化を防ぎましょう
この記事のまとめ
- 糖尿病は血糖値が高い状態が慢性的に続く病気
- 糖尿病の悪化を予防するためには食事に気をつける必要がある
- バランスの整った食事を規則正しい時間に摂るのがポイント
- 糖尿病で食べてはいけない食べ物はないが、食べ過ぎや偏った食事は避ける
- 糖尿病予防には血糖値を上げにくい低GI食品を取り入れた食事がおすすめ
糖尿病は血糖値が高い状態が続いてしまう病気です。糖尿病の人は治療だけでなく、食べ過ぎにも注意しなければなりません。
血糖値を上げにくい食品を積極的に取り入れて、調味料をあまり使用せず出汁を効かせた薄味にすれば、量を減らさずに満足感が得られるでしょう。栄養バランスの良い食事は糖尿病の悪化だけでなく予防にもつながります。ぜひ毎日の食事を気にかけてみてください。