一人っ子で親の介護が不安な人必見!介護サービスや公的制度を紹介
一人っ子の場合、親の介護が必要になった際の不安が尽きないでしょう。一人っ子の介護では頼れる人がおらず、負担が集中しがちです。本記事では、一人っ子が自分自身の日常生活と介護の両立を図るための方法や、公的な介護保険制度について紹介します。
東北公益文科大学卒業。その後、介護保険や障害者総合支援法に関する様々な在宅サービスや資格講座の講師を担当した。現在は社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームの生活相談員として、入居に関する相談に対応している。在宅・施設双方の業務に加えて実際に家族を介護した経験もある。高齢者介護分野のみならず、障がい者支援に関する制度にも明るい。
一人っ子の割合が増加している日本
親の介護が必要になった場合、家族で役割分担しながら行いたいと考える人は多いでしょう。しかし日本では現在、少子化と共に一人っ子の割合が増加しています。
国立社会保障・人口問題研究所が2023年に発表した「2021年社会保障・人口問題基本調査」による一人っ子の割合は2002年が8.9%だったのに対し、2021年では19.7%でした。2002年までは多子化傾向だったのにも関わらず、2002年以降は一人っ子の世帯の割合が年々上昇を続けています。
心身共に負担がかかる介護は、家族で協力して行うのが一般的です。しかし一人っ子の世帯が多くなってきているため、必然的に介護を負担に感じる介護者が増加しています。
一人っ子が親の介護をするときの課題
介護にはさまざまな負担がともないます。特に一人っ子が親の介護を迫られると、以下のような負担が子供自身の日常生活に悪影響を与えることになります。
身体的負担
一人っ子が親の介護をする場合、身体的負担の問題があります。介護は肉体労働です。身体的な負担が蓄積すると、常に疲労を感じているような状態となります。
また、一人っ子の場合は介護を交代できる兄弟がいません。さらに独身の場合は、自分だけで親を介護する必要に迫られます。このような状況が続くと腰痛や体調を崩す原因となるでしょう。
精神的負担
一人っ子による親の介護は、精神的な負担にもなります。例えば、両親に冷たく当たってしまって親子間の関係が悪化したり、認知症状の対応に困ったりすることが挙げられます。一人っ子だと相談できる相手が限られます。うまくストレスを解消できないと「介護うつ」などの精神疾患を発症してしまうリスクもあるでしょう。
経済的負担
親の介護をする一人っ子には、経済面での負担もかかります。本来親の介護費用は親のお金で捻出するのが一般的です。しかし介護施設に入所したり介護依存度が高くなると、親のお金だけでは足りなくなることもあるでしょう。
さらに親の介護が長引けば、子供自身の生活もひっ迫する恐れがあります。
虐待や共倒れ
一人っ子の場合、虐待や共倒れのリスクが高くなります。介護が思い通りにいかず親に手を上げてしまったり、介護に嫌気がさして介護放棄してしまったりすると、高齢者虐待に該当します。また介護者自身が体調を崩したり経済的に破綻したりすれば、親子共倒れになることも懸念されるでしょう。
自身の生活への負担
介護は時間と手間がかかります。親の体調が悪くなったら仕事を休んで受診に連れて行かなければならなかったり、親の介護で自分が自由に使える時間がなくなったりするでしょう。
兄弟姉妹がいる場合は日によって介護を代わってもらうことが可能ですが、一人っ子の場合はそうはいきません。趣味や仕事・友人との付き合いなどの、自身の生活に必要な時間が削られ、結果的に社会的孤立につながってしまう点も問題です。
一人っ子による親の介護と自身の生活の両立方法
一人っ子が親の介護と自身の生活を両立するためのポイントを、5つ紹介します。
自身の生活を第一に考える
家族も大切ですが、自分自身の生活を大切にすることも重要です。一人っ子は介護の負担が集中しやすいため、無理をするといつか体調を崩してしまいます。独身であるなら協力を求められる人も少ないため、なおさらです。自宅で過ごす高齢者向けサービスに頼り、大変な部分はプロに任せるなどの工夫が求められます。
専門家に相談する
一人っ子でも在宅介護を無理なく続けられるよう、さまざまな知識や経験を持つ専門家に相談するとよいでしょう。自宅での介護をしていると不安を感じることも増えてきます。しかし、専門家ならば知識を活かして不安を解決するためのアドバイスやサービスを提案してくれるでしょう。
主な相談窓口は、以下の通りです。
専門的な相談窓口と機能
- 市区町村の介護保険担当窓口:介護保険制度の申請や情報提供
- 地域包括支援センター:高齢者の総合相談窓口
- かかりつけ医:病状管理や認知症対応への助言
- 居宅介護支援事業所:ケアプランの作成やサービス調整
- 民生委員:地域での見守りや声がけ
- 認知症カフェや各種相談会等:介護者同士の交流や介護に関する知識の向上
一人っ子が親の介護を無理なく行うためには、専門家を頼るのが大切です。相談先だけで解決できない場合は、他の機関を紹介してくれるでしょう。相談だけならお金がかからないところも多いので、まずは市区町村や地域包括支援センターを訪れてみてください。
近親者や地域の知人に協力を求める
一人っ子の場合、自分だけで親の介護をしようとせず、近親者や地域の知人に協力を求めることも大切です。例えば仕事を休めないときは、親の兄弟姉妹や知人に受診に連れて行ってもらうように相談しましょう。
また、仕事の合間に様子を見に行くのが難しければ、代わりに近所の人に安否確認してもらうなどの方法も有効です。自分一人で抱え込まず、他者の協力を積極的に求めることが、自分の負担を軽くするのにつながります。
介護保険サービスを利用する
介護保険サービスには、以下のような機能があります。
介護保険サービスの機能
- 介護と仕事の両立支援
- 介護者一人きりの介護予防
- 安価で適切なサービスの提供
介護保険サービスは一人っ子が親の介護をする際に欠かせない制度です。在宅介護が難しくなれば施設入所もできるため、積極的に活用しましょう。
費用の減免制度を活用する
一人っ子が介護をする上で懸念されるのは、お金です。一人っ子の場合、金銭面で頼れる近親者が少ない場合があります。また、一人で介護をしなくてはいけないと、介護離職が脳裏をよぎります。しかし介護のために仕事を辞めると収入が断たれてしまうので、得策ではありません。
各市区町村では、家族の経済状況に応じて利用できる各種減免制度があります。対象のものがあれば、介護サービスにかかるお金の不安も少しは解消できるでしょう。詳しくは下記の「一人っ子が親の介護の費用負担を軽減できる公的制度」で紹介していますので、あわせてご覧ください。
一人っ子が親の介護をする場合に利用したい介護保険サービス
一人っ子が親の介護をするときは、介護保険サービスの利用がおすすめです。サービスの概要や特徴を解説します。
訪問系サービス
在宅で介護を受けている方向けのサービスです。自宅に訪問し、介護・医療ケア・在宅療養上の指導などを行います。一人っ子で介護の手が回らないときに役立ちます。
訪問系サービス
- 居宅介護支援(ケアプラン作成)
- 訪問介護
- 訪問入浴
- 訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 夜間対応型訪問介護
- 居宅療養管理指導
通所系サービス
施設に通ってもらい、日常生活上の介護や他者との交流支援などを実施します。日中長時間利用できるので、一人っ子で仕事をしている人に特におすすめです。
通所系サービス
- 通所介護
- 通所リハビリテーション
- 地域密着型通所介護(療養通所介護を含む)
- 認知症対応型通所介護
短期入所サービス
一定期間施設に入所し、日常生活上の支援を実施します。一人っ子の介護では心身共に負担がかかるので、介護者自身の休息や息抜きにも活用できます。
短期入所サービス
- 短期入所生活介護
- 短期入所療養介護
複合型サービス
訪問・通所・短期入所の機能を併せ持った事業所で、状況に応じた臨機応変な対応が可能です。定額制なので料金も分かりやすく、住み慣れた自宅や地域の中で介護したいという要望にも応えてくれるでしょう。
複合型サービス
- 小規模多機能型居宅介護
- 看護小規模対応型居宅介護
環境整備に関するサービス
日常動作の自立による介護負担軽減を目的に、道具や住宅改修によって環境を整えるサービスです。なるべく負担を増やしたくない場合に有効なので、一人っ子や独身の方による介護にもおすすめです。
環境整備に関するサービス
- 福祉用具貸与
- 特定福祉用具販売
- 住宅改修
入所系サービス
一人っ子の方が一人で介護をしている場合、親の在宅介護に限界を感じる前に施設入所も検討しましょう。極力在宅時の環境に近いところを選ぶなど、本人に合う施設を選ぶのがおすすめです。
入所系サービス
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
- 特定施設入居者生活介護(介護付有料老人ホームなど)
- グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
一人っ子が親の介護の費用負担を軽減できる公的制度
親の介護費用の大半を子供の収入から補填していると、自分自身の生活も成り立たなくなる恐れがあります。一人っ子による親の介護では、公的な負担軽減制度を積極的に活用しましょう。
高額介護サービス費
高額介護サービス費とは、一か月間で支払った介護サービス費の合計が上限額を超えた場合に、差額が返金される制度のことです。上限額は利用者本人の年金収入などの年間所得額によって決まります。課税所得380万円(年収約770万円)の場合、一か月の負担上限額は44,400円です。
高額介護合算療養費制度
高額介護合算療養費制度は医療・介護の一年間の負担額が高額となった場合に、負担限度額との差額を還付する制度です。介護保険制度の利用額に関する部分は「高額医療合算介護サービス費」として、医療保険の利用額に関する部分は「高額介護合算療養費」として支給されます。
この制度を利用するためには申請が必要です。制度内容や上限額などの計算方法が複雑なので、自身が対象か気になる方は、市区町村の介護保険や利用保険の担当窓口に問い合わせてみましょう。
特定施設入居者介護サービス費(負担限度額認定)制度
特定施設入居者介護サービス費(負担限度額認定)制度は、一定の条件を満たした場合に、施設利用時の食事代や滞在費の減免を受けることができる制度です。条件には収入や貯蓄に関する要件があります。この制度を利用する際は、まず市区町村の担当窓口に申請し、さらにサービス利用の前に証明書を提示する必要があります。
対象となる介護保険サービスは以下の通りです。
特定施設入居者介護サービス費の対象となるサービス
- 短期入所生活介護
- 短期入所療養介護
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
介護保険適用の施設でも「グループホーム」や「介護付き有料老人ホーム」は対象外なので注意が必要です。
医療費控除
医療費控除は、本人と家族が1年間のうちに支払った医療費が一定額を超えた場合に確定申告すると、所得控除を受けられる制度です。他の各種減免制度や福祉施策は「住民税非課税」が条件となっていることが多いです。そのため所得控除で「住民税非課税」となれば、さまざまな助成を受けられる可能性があります。
なお、一定の条件はありますが、介護保険施設の費用や一部の在宅サービス、オムツ代なども医療費控除の対象となります。
障害者控除
障害者控除は、主に同居家族が所得税法上の障害者に当てはまる場合に、一定額の所得控除を受けられる仕組みです。市区町村により条件が異なる場合があるものの、要介護認定を受けることで障害者控除の対象となる自治体が多くなっています。医療費控除と同様に「住民税非課税」になる可能性があるというメリットもあります。
社会福祉法人等による利用者負担軽減制度
社会福祉法人等による利用者負担軽減制度は、低所得で特に生計が困難な場合に、各種介護保険サービス利用料の一部を減免する制度です。対象となるのは主に社会福祉法人が実施する介護保険サービスで、市区町村が定めた事業所以外を利用した場合は対象外になります。利用するためには申請が必要なので、注意しましょう。
生活保護
生活保護は憲法第25条に規定された「生存権」を守るための制度で、「最後の砦」とも呼ばれます。医療保険や介護保険の現物支給(自己負担免除)や保護費の支給をはじめ、被保護者の生活状況に応じた支援を受けることができます。
一人っ子による親の介護で経済的に困窮した場合には、生活保護の受給も視野に入れましょう。
一人っ子による親の介護は負担が大きいため、専門家に相談して対策しましょう
この記事のまとめ
- 一人っ子の割合増加により、必然的に親の介護に負担を感じている人が多くなっている
- 一人っ子による一人きりでの介護は、身体的、心理的、経済面などさまざまな負担がかかる
- 一人っ子が親を介護する場合は、専門家に相談して介護負担を軽減する
- 介護保険サービスの利用で、一人っ子による親の介護負担を軽減できる
- 一人っ子が親の介護をする場合、積極的に公的減免制度の活用をする
一人っ子が親の介護をする場合、親の世話が生活の中心となることで、自分自身の生活にも悪影響を及ぼしかねません。一人っ子だからこそ、早めに専門家に相談して対策を検討しましょう。
介護離職を検討したくなるところですが、特に一人っ子の場合は仕事を辞めてしまうと収入が激減してしまうためおすすめできません。親の介護を日常の中心に置くのではなく「親の介護は親のお金で」を原則に、親の介護と自身の生活を両立するという視点を忘れないようにしましょう。