老後に家を売ってはいけないのはなぜ?その理由や売却のメリット・デメリットを徹底解説
「老後に家を売ってはいけない」と言われることがあります。しかし、生活資金の確保や住み替えのために高齢になってから家の売却を検討する人も多いでしょう。家を売却する場合には、リスクや注意点も知って慎重に検討することが大切です。本記事では、老後に家を売るメリットやデメリット、売却する際の注意点を説明します。
神戸大学法学部卒業。鉄鋼メーカー、特許事務所、法律事務所で勤務した後、2012年に行政書士ゆらこ事務所を設立し独立。メインは離婚業務。離婚を考える人に手続きの仕方やお金のことまで幅広いサポートを提供。法律・マネー系サイトでの執筆・監修業務も幅広く担当。
老後に家を売ってはいけないと言われている理由とは?
持ち家や分譲マンションに住んでいる場合、高齢になってから売却を考える人は少なくないでしょう。例えば、「定年後は今の自宅を売って、田舎でセカンドライフを過ごしたい」と考える人もいるかもしれません。
持ち家や分譲マンションを手放すときには、慎重にならなければなりません。高齢になってからの家の売却には、少なからずデメリットがあります。しかし、家を売却するリスクを認識しないまま、家の売却に踏み切る人が多いのも事実です。
「老後に家を売ってはいけない」と言われているのは、デメリットを知らずに売却する人に向けての注意喚起と考えてよいでしょう。
高齢者が老後に家を売却するデメリット
老後に家の売却を考えたときには、知っておかなければならないデメリットがあります。
環境の変化がストレスの要因になる
若い頃は環境が変わっても速やかに適応できますが、年齢を重ねるにつれて環境が変化した場合にストレスを感じやすくなるようになります。老後に引越しをする場合、知らない土地での生活にうまくなじめない可能性もあります。
引越しするときには、転居先で新たな人間関係を築くことになりますが、うまくコミュニティに入れるとは限りません。よその土地から移り住んだ場合、近隣住民に受け入れてもらえず孤立することもあり得えます。
元の家を残していれば、転居先になじめなくても戻ってくることが可能です。しかし、家を売ってしまったら戻る場所もありません。憧れの土地でのんびり暮らすつもりが、逆に日々ストレスを感じながら暮らすことになってしまいます。
賃貸住宅に引っ越すと継続的に家賃が発生する
郊外の持ち家に住んでいる場合、買い物に出かけるときなどに不便と感じることもあるでしょう。家を売って駅近の賃貸マンションに引っ越せば、便利な生活ができます。しかし当然、賃貸住宅を借りると毎月の家賃負担が発生します。
老後は年金生活になり、それまでよりも収入が減ることが多いです。たとえ家を売却しても、想定していたほど高く売れないことや、残ったローンを払ってそれほど手元に残らないこともあります。毎月の収入が少なく、貯蓄も底をついてしまえば、家賃が払えなくなってしまうでしょう。家賃が払えなくなったときのことを考えると、安易に家を売ってはいけないといえます。
賃貸住宅を借りにくい場合がある
高齢者が家を売ってはいけない理由として、賃貸住宅を借りにくいという問題もあります。賃貸住宅に入居するときには、審査に通ることが必要です。賃貸住宅の入居審査では、きちんと家賃を払えるかが重視されます。家の売却代金などを含めいくらかの貯蓄があっても、それ以外に少ない年金収入しかなければ、審査に通らない可能性もあります。
高齢者の場合には、ただでさえ事故や孤独死の不安があります。そのため、家主もあまり貸したがらないのです。仮に賃貸住宅に入れた場合も、その部屋が合わなかったからといって簡単に引越しはできないということを押さえておきましょう。
あまり家が高く売れない場合がある
老後に家を売却する人は、売却代金を生活費に充てたいと考えている場合も多いでしょう。しかし、築年数が経過している家や分譲マンションは、思ったより高く売れないこともあります。売却代金で住み替えを考えていても、実現しないかもしれません。
そこで、自宅を売って住み替えを考えるときには、どれくらいの利益が出るのかをしっかり見積もっておきましょう。家を売る場合、資金計画を立てて実行することが大切です。
老後に家を売却することにはメリットもある
老後に家を売るデメリットを説明しましたが、当然メリットもあります。ここからは、老後に家を売却するメリットについてみてみましょう。
売却代金を生活資金に充てられる
定年退職後は、年金生活になる人が多いでしょう。年金の金額は決して多くないため、生活費が不足することが考えられます。十分な貯蓄がない場合には、生活費に充てるお金を工面しなければなりません。
家が高く売れれば、売却代金を生活費に充てられます。老後に家を売却する場合、住宅ローンも完済しているか残り少ないことが多いでしょう。家を売れば、売却代金として手元に残る金額も大きくなります。
ローンや維持費の負担がなくなる
住宅ローンは、完済時の年齢が70~80歳でも組めます。会社を退職後、ローンの支払いが続く人も珍しくないでしょう。家を売却すれば、売却代金でローンを完済できます。毎月の返済の負担がなくなるのは大きなメリットです。
家を所有していれば、経年劣化による修繕費用もかかります。毎年固定資産税も払わなければなりません。家を売ってしまえば、こうした維持費もかからなくなります。
ライフスタイルに合った住まいに転居できる
高齢になるとライフスタイルも変わります。子供が自立して家族が減ると、使わない部屋が増えて広い家に住む理由もなくなるでしょう。家を売却すれば、今のライフスタイルに合った住まいに住み替えができます。
また持ち家や分譲マンションの場合、高齢化に合わせてバリアフリーにするにはリフォームが必要ですが、高額な費用がかかります。自宅を売却して高齢者向けの賃貸住宅に転居すれば、費用を抑えられるでしょう。高齢者向けのマンションならビル一棟丸ごとバリアフリーであることが多いため、安全に住むことができます。
相続トラブルを予防できる
相続の際には、相続人の間で財産を分ける遺産分割の手続きが必要です。不動産は簡単に分けられないため、家を売らずに残していると相続トラブルになる可能性があります。家のほかに財産がない場合などは、ひとりが家を相続すると他の相続人が相続できる財産がありません。家を相続した人が他の相続人に代償金を払って遺産分割する方法もありますが、代償金が出せなければ分割が困難になってしまいます。
このような場合、家を売却して売却代金を相続人で分ける方法があります。家を売ってお金にしてしまえば、そのお金を相続人同士で分けるのは簡単です。公平な遺産分割ができるため、相続トラブルを防げるでしょう。
老後に家を売却する際の注意点
ここからは、老後に家を売却する際の注意点を説明します。
判断能力のあるうちに売却手続きをする
高齢になると、認知症になるリスクが上がります。家の売買などの契約を締結するには意思能力が必要なため、認知症になってからでは家の売却はできません。認知症で意思能力がないとされると、契約は無効になります。
家をどうするか迷っている間に、認知症になってしまう可能性もあるでしょう。健康で判断能力があるうちに、できるだけ早く売却の手続きをするのがおすすめです。
家族にも相談する
持ち家や分譲マンションを売却するときには、家族に相談することが大切です。子供にとって実家がなくなるのは寂しいことでしょう。また子供が家を相続できると思い込んでいる場合もあります。
子供や配偶者がいる場合、家を売りたい理由を説明して全員の承諾を得るのが安全です。一部の子供だけと相談して決めた場合、相続時のトラブルにもつながります。
小さい家に住み替えるときには、家財を処分しなければならないこともあります。家族に家財の処分を手伝ってもらえるとスムーズです。
売却せずに賃貸する選択肢も検討する
家を売ってしまうと、転居先が合わなかった場合に戻る場所がなくなります。転居するときにも、家は手放さず、賃貸に出すことを考えてみましょう。家を賃貸すれば、家賃収入も入ってきます。
一定期間賃貸に出すだけなら、将来的に家に戻って来ることもできるでしょう。もし家を賃貸したまま亡くなっても、子供に家と家賃収入を残すことができるため安心です。
今の家に住みながら資金を確保する方法も検討する
老後の生活資金を確保するために家の売却を考える方には、リースバックやリバースモーゲージという選択肢もあります。
リースバックとは、持ち家や分譲マンションなどを不動産会社に買い取ってもらい、不動産会社から賃貸で借りる方法です。リースバックでは、不動産は売却することになるため、まとまった資金が得られます。売却後も家財を動かす必要もなく、住み慣れた家に住み続けられるメリットがあります。
リバースモーゲージは、自宅を担保にして金融機関から融資を受ける方法です。リバースモーゲージでは、融資金は一括または定期的に受け取ることができます。生存中は利息のみの返済でよく、死亡後に家を売却して残金を返済する仕組みです。リバースモーゲージを利用すれば、家を手放さず生活資金を確保できます。
リースバックでもリバースモーゲージでも、亡くなった後に家は残りません。そのため、家族への影響も大きくなってしまいます。メリット、デメリットをよく考えて実行しましょう。
売却のデメリットも知った上で、老後の住まいを検討しましょう
この記事のまとめ
- 老後に家を売ってはいけないと言われるのは、デメリットを認識しないまま売却に踏み切る人が多いため
- 老後に家を売って住み替えすると、環境の変化がストレスになることがある
- 老後に家を売って賃貸に住む場合、住宅を借りにくく借りられても毎月の家賃負担が発生してしまう
- 老後に家を売ると、売却代金が得られるほか、ローンや維持費の負担がなくなるメリットがある
- 老後の生活資金を確保するためには、家を売る以外に、リースバックやリバースモーゲージという方法がある
- 家を売却するときには、家族に相談して実行する
老後に家を売って転居すると、環境の変化に慣れず心身に負担がかかることがあります。また思ったより家が高く売れないことも考えられます。高齢になると賃貸住宅も借りにくくなるため、自宅は残しておくのが安心です。
今の家に住みながら生活資金を確保する方法や、家を賃貸に出す方法もあります。さまざまな選択肢を知っておき、老後の住まいをどうするかを考えましょう。