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特集

【世界の葬祭文化07】進むエンディングのDX テクノロジーを活用するイギリス企業の挑戦

【世界の葬祭文化07】進むエンディングのDX テクノロジーを活用するイギリス企業の挑戦

著しく進歩したデジタル技術を活用することで、社会で求められる商品・サービスが以前より便利に低コストで提供されるようになりました。お葬式などのエンディングサービスも例外ではありません。 今、各国の葬儀業界ではテクノロジーをいかにうまく使うかが課題で、特にコロナ禍以降は世界的にDXの流れが加速しました。今回は、利用者側のメリットを追求し徹底したDXで成功をつかんだイギリスの会社の取り組みを紹介します。

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デジタル技術を駆使してエンディングの不満を解決

DXというと会社側の生産性向上の文脈で語られることが多いのですが、イギリスで2016年にスタートアップした会社「Farewill(フェアウィル)」は、利用者の満足度向上に焦点を絞り、人生のエンディングにまつわる様々な手間をデジタル化して簡潔にする流れを作りました。具体的に言うとオンライン遺言書の作成、火葬の申し込み・手続き・施行、そして相続税などの整理をすべて同社がワンストップで行います。

日本や他国でも同様ですが、社会活動一般にデジタル技術が浸透したことによって、他の生活シーンの多くでは物事の処理が簡素化・スピード化される傾向にあるのに対し、死に関する手続きが依然として面倒で、かつ時間が掛かることに人々はかなりのストレスを抱いています。同社はそうした不満を解消しようとサービスをスタートさせました。

オンライン遺言サービスからスタート

同社の出発点は、オンライン遺言サービスです。弁護士や税理士による社内の専門家チームが指導・監修を行い、本人がオンラインで遺言を作成。さらに検認サービス(相続人等に対して遺言の存在を通知。さらに遺言書の形状や内容等を明確にし、後日の偽造・変造・隠匿・滅失等を防止して遺言書を確実に保存するための手続き)を手軽に行えます。

この革新的な事業が高く評価され、開始早々の2016年には「British Wills & Probate Awards(英国遺言・検認賞)」で第1位に選ばれました。

直葬に特化した葬儀サービス

Farewillはこの遺言書サポートでの実績をもとに事業をエンディング全般に拡大。2020年にはオンラインの効力を最大限に利用し、葬儀をせずにそのまま火葬する「direct cremation 」(直葬)に特化した(直葬しか扱わない)葬儀サービスに進出しました。

英国の葬儀は伝統的に土葬でしたが、この20年あまりの間に火葬が急増し、その比率は2021年の時点でヨーロッパ諸国の中でトップクラスとなる79%に上ります。同社ではコロナ禍を逆にチャンスと捉え、直葬専門のサービスにすることで、拠点のあるロンドンに限らず、イングランド・ウェールズ全土(=英国南部全域)にわたる広域でのサービスを実現。リモートワークやジョブ型雇用を駆使して、ご遺体の搬送をはじめとするサポート業務を行っている点もユニークで、まさにDX葬儀サービスと言えるでしょう。

シンプルでオリジナルなDX葬儀

遺言から葬送・相続まで幅広く横断するサービスのコンセプトは「死をデザインする」というものです。良い意味で葬儀社らしくない、黄色のカラーリングとポップでシンプルなイラストが印象的なホームページには、「(私たちは)スマートテクノロジーと卓越した顧客サービスを融合することで、死に関わるあらゆることをより簡単、より迅速、そして公平なものにしています。」と明記しています。加えて「遺言書の作成、検認の申請、火葬の手配など、私たちは人々が自宅で快適かつプライバシーを保ったまますべてを処理できるようお手伝いします。」と訴求します。

これは伝統の名のもとに利用者に押しつけの形式、高額の費用を要求する葬儀を、DXによってシンプルかつわかりやすいもの、そして本人・遺族のオリジナリティを尊重したものに変えていくという改革の試みとも取れます。

また、ホームページにあるように、「昔ながらのやり方は、もはやこの国の何百万人もの人々にとって適切ではない」という考え方は、すでに多民族・多宗教国家になりつつあるイギリスの中には(まだ主流とは言えないとしても)、歓迎する人々が少なくないようです。

平均価格の5分の1

話題を葬儀に絞ると、同社は「人々が自分のやり方で、自分らしく生きることをサポートする直葬サービスを行う」と謳い、次のように専門家によるサポート業務を要約して紹介しています。特長は何といっても、必要なものがすべて£800(約15万円)から揃うこと。この金額は平均的なイギリスの葬儀社の5分1の費用だそうです。

具体的な中身を見てみると

①火葬の手配:イングランドとウェールズのどこにいても、あなたの愛する人を私たちの安息の礼拝堂にお連れします。その後、必要な書類をすべて揃えて火葬の準備をします。(書類もデジタルデータとして送信する)

②当日:地元の火葬場へ搬送し、立ち会わない火葬を執り行います。チャットが必要な場合はいつでも対応いたします。(スタッフは現場には立ち会わず、必要があればチャットで対応する)

③火葬後:私たちが遺灰を散骨することも、火葬場から収集することもできます。また、イギリス国内のどこにでも£50(約9,000円)の追加費用で遺灰を手渡しできます。

また、ホームページには書かれていませんが、当然、このプロセスで発生する費用の支払いはすべて電子決済になっていると思われます。

DX葬儀はセルフ葬?

こうした提案がわずかな期間で広く受け入れられ、同社はイギリスにおける2022年のベストダイレクト火葬プロバイダー、および2年連続で年間最優秀低コスト葬儀プロバイダーを受賞しました。この成功をフォローして、イギリスのみならず世界各国で新しいDX葬儀社が次々と現れてくるかもしれません。

ご遺体の搬送以外はスタッフが現場に関わらないFarewillのDX葬儀は、「セルフ葬儀」とも表現できるかもしれません。こうした葬儀の在り方に対して違和感・抵抗感を覚える人は、もちろんイギリスにも日本にも大勢いるでしょう。しかし、人口減少によって今後生じる人材不足という観点から見ても、同社のDX葬儀の在り方は一考の価値がありそうです。

故人・家族が自由に決める葬儀へ

「セルフ葬」とは揶揄な響きがありますが、日本においても、かつて葬儀は自宅、もしくは地域のお寺において、家族と近隣の人たちが主催して行うものでした。葬儀社は式のための道具や衣装を貸し出すといった、あくまでお手伝い的な仕事に従事していたのです。それが現在のようなビジネスモデルになったのは昭和の高度経済成長期以降、わずかこの半世紀余りのことです。

もしかしたら今後、原点回帰的な現象が起こり、葬儀は葬儀社スタッフの主導ではなく、家族や友人などが協力して行うもの、そして、決まった形にとらわれず、その故人・その家族がみずから自由にスタイルを決めるものになっていくのかもしれません。死化粧や死装束を遺族が施す、納棺も遺族で行うといった事例も登場している中で、イギリスのDX葬儀は、いっそう、その流れを助長していく可能性を秘めていると言えるでしょう。

世界的に死者が増えていく今後20年、テクノロジーの発達と相まって、若い世代を中心に新しい葬儀の在り方が次々と提案されていくでしょう。次回もまた違った角度で、耳目を集める海外のDX葬儀について紹介したいと思います。

参考資料・サイト

お葬式もDX Farewillにみる海外事情/GB Tech Trend

フェアウィル公式ホームページ

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