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特集

【福田充さん特別インタビュー】葬儀には「ありがとう」を呼び起こす力がある

【福田充さん特別インタビュー】葬儀には「ありがとう」を呼び起こす力がある

葬祭文化の専門家である福田充さんに、コロナが葬儀に与えた影響や、アフターコロナでの「お別れ」の在り方にスポットを当ててお話を伺いました。

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時代の反省としての弔い

―コロナ禍を経て、葬儀の形は変化したと感じますか?

振り返ると、病院で面会ができないとか、故人との最期の別れがかなわないとか、ご遺体と接することができないとか、コロナ禍による変化はあったと思います。しかし、葬儀全体の流れを見たとき、家族葬が話題になった2000年頃から、すでに葬儀は家や地域、会社など社会的儀礼から故人や遺族を中心としたプライベートな時間・空間へと移行してきました。コロナ禍はその大きな自然な流れを促進させたきっかけに過ぎません。

また私たちは2011年に東日本大震災という非常に大きな災害を経験しました。その経験は葬儀に対する価値観を変化させ、人々に故人の悼み方について考えさせるようになったと感じています。

―昭和の葬儀にどのような印象を持っていますか?

私は昭和30年代の生まれで、ちょうどバブルの頃に社会人になりました。その頃の東京の葬儀は単に社会的儀礼であり、会社の義理で形成されたものでした。

たとえば取引先の関係者の訃報があれば知らない人でも通夜に参加する。そこに亡くなった方を悼むという気持ちはほとんど感じられませんでした。社会的儀礼で参列して、遺影に写った面識のない方に線香をあげて一礼をする。「控え室へどうぞ」と言われたら、寿司や煮物が並んだ席でビールを一杯と料理を一口つまみ、10分くらいでさっさと帰る。これが、私が社会人になった頃の葬儀でした。

バブルという時代もあったと思いますが、どうしても社会的儀礼が優先されて、故人を悼むことよりも、祭壇の大きさや参列者の人数などに目が向けられていました。それが昭和の葬儀の形だったと思います。

―なぜ昭和の葬儀はそのような形になったのでしょうか?

日本は大きな戦争を経験しました。その時代はお墓や葬儀で故人を弔うこと、悼むことが難しい環境だったはずです。その反動から葬儀やお墓を立派にしたいという想いが生まれたのだと思います。その悲しい歴史の反動で昭和の葬儀はより大きく、より派手になったと考えられます。

これが20世紀の葬儀の大きな流れです。その時代の反省として、中身のある葬儀はどのようなものなのかを、21世紀では考えるようになりました。そして業界だけでなく一般の方も、亡くなった人をどのように弔うべきか、通夜振る舞いなどの行事を減らしていきながら、自主的な弔いの形を追求してきました。

―昭和の葬儀の形が弔いができなかった反動によるものだとすると、お別れの場を奪われてしまったコロナ禍の3年間も、葬儀の形が変わるきっかけになるでしょうか?

昭和の葬儀の形は、日本社会の成長があまりにも大きく影響していたと思います。経済的にも社会的にも生活が豊かになり、人口も増加していた。それがベースにあったからこそ、より立派な葬儀が評価されたのではないでしょうか。

今の若い世代には感覚もないと思いますが、当時は時間が経てば豊かになる、幸せになるという共通認識がありました。すべての衣食住が足りて、家族も生活も安定している。その環境の先に弔い事があったのです。そういう意味では、やはり社会の成長があったからこそ、昭和の葬儀の形があったのだと思います。

もちろんコロナ禍による葬儀の変化も理解はできるし、何か手がかりがあるかもしれません。しかし、大きな流れで言うと、葬儀の形を変化させるまでには至らないような気がします。むしろコロナ禍によって、家族葬や直葬など、「こんなに簡単に葬儀は済ませられる」という実感を得たのではないでしょうか。だからこそ、葬儀業界にいる私たちは改めて葬儀について考えなければならないと思います。

火葬場のある街

―葬儀は心を落ち着かせる場所でもあると思います。そうした葬儀の「儀」の部分にはどのような効果や機能があると思いますか?

現代の葬儀には、昭和の葬儀のように、広く皆さんにお伝えして弔いに集まるという機能はなくなりました。それは著名人に限らず、一般の方においても、「親族で済ませました」という報告だけで、社会が供養される時代になったということです。

改めて葬儀の本質を考えると、葬儀では亡くなった人と残された人の関係の中に何かを見出すことが大切だと思います。亡くなった人は思い残すこともあるだろうし、「もういいよ」と思う人もいるでしょう。逆に残された人は亡くなった人に対して、血縁関係になくても家族で一緒に過ごした時間や空間、その人との関係性の中で得られたものがたくさんあったはずです。たとえ何も得られなかったとしても、去りゆく人に「お疲れさま」「ありがとう」という気持ちで見送る。葬儀にはその気持ちを呼び起こす力があると思います。

―葬儀場や火葬場など、その空間に求められていることは何だと思いますか?

現代の葬儀業界はサービス業として、かなり高度化したと思います。葬祭ディレクター制度の導入やセレモニーホールや火葬場の安全・衛生管理などは近代化しました。個々のスタッフにおいても、故人や遺族と向き合って、自分に何ができるかを真剣に考えています。それは、私も業界の中にいるからこそ、実感しています。

しかし、その姿は一般の方にはなかなか伝わっていないというのが実情です。たとえば、一般の方が火葬場に来たとき、火葬場を「縁起の悪い場所」「不吉な場所」などと、今でも感じていらっしゃる方は多いと思います。この偏見を少しでも埋めなければなりません。私たちは、より一般の方に親しみを持っていただけるように、火葬場のある街として、自らがはたらきかけていく必要があると思います。

プロフィール

福田充(ふくだみつる)葬送ビジネス研究家・日本葬送文化学会前会長
群馬県出身、立教大卒、共立女子大大学院人間生活学専攻 博士後期課程満期退学、博士(学術、Ph.D)。
ビジネス系出版社にてスポーツレジャー、高齢者ケア、葬儀ビジネス雑誌の記者・編集活動に従事し、葬祭専門学校教員などを歴任。2018年から日本葬送文化学会会長(現顧問・理事)を務めるとともに、「エンディング産業展」セミナー企画実行委員長を務める。
葬祭文化の専門家として葬儀社、葬祭組合、火葬場会社等の経営アドバイザーとして活動。

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