フレイルとは?高齢者が注意したい症状やその原因、予防方法をご紹介
「フレイル」という言葉を聞いたことはありますか?フレイルというのは年を取るにつれて、次第に体が弱ってきて、体にさまざまな悪影響が出てくることを言います。そして高齢化が進行する我が国においては、フレイルが大きな問題になっています。本記事ではその原因や症状、合併症、予防方法について紹介します。
フレイルとは?
フレイルというのは、「虚弱」を意味する英単語である「frailty」を略した言葉です。加齢によって体のさまざまな機能が低下することで活動量が減り、病気になりやすい状態や介護が必要になりやすい状態になっていることを指します。
つまり、フレイルであること自体は病気ではありません。しかしフレイルをそのまま放置すると、病気になってしまったり、介護が必要になったりする可能性が高いのです。
そのため、早いうちから対策をすることでフレイルを予防したり、フレイルを脱したりすることで、病気や介護を予防しようということが提唱されています。
この概念は、2014年に日本老年医学界が提唱した比較的新しい概念です。これは、日本が超高齢化社会に突入し、フレイルが足がかりとなって病気になったり、介護が必要になったりする人が急激に増えたことから、喫緊の課題として提唱されたという背景があります。
では、実際にどのようなことが原因でフレイルは起こるのでしょうか。
人の体はどのように機能を保っている?
フレイルについて解説する前に、まずは人の体がどのようにして健康な状態を保っているかについて簡単に説明しましょう。
人の体は食物から栄養を摂取し、それらを代謝させてエネルギーにすることで、さまざまな活動を行っています。この活動というのは、単に体を動かす、思考するといったものだけではなく、体の機能を維持する活動も含まれます。
体の機能を維持するためのエネルギーの消費を基礎代謝と言い、安静にしている時に体が消費しているエネルギーのことを言います。基礎代謝によって心臓を動かし血液を循環させる、呼吸をする、消化する、脳を動かすといった生きていく上で必要不可欠な活動を支えています。
そして、普通の人の場合は、全ての消費エネルギーのうち約60%を基礎代謝に使用していると言われています。
このように、人は体を保つために生きるために必要なエネルギーを消費し続けているのです。
フレイルの原因
では、フレイルになってしまう原因とは何でしょうか。フレイルの原因は主に三つあると言われています。
フレイルの3つの原因
- 加齢に伴う活動量の低下
- 心の変化
- 社会的・環境的な変化
フレイルの原因は一つではなく、それぞれが影響し合うことでフレイルが進行していくのです。
原因①加齢に伴う活動量の低下
まずもっとも大きな原因とされているのが、加齢に伴う活動量の低下です。活動量が減ると筋肉が衰えます。
筋肉が衰えると、基礎代謝が下がり体全体の活動量も低下してしまいます。体を動かすことが減るだけではなく、内臓機能の低下ももたらしてしまうのです。
また、筋力の衰えは転倒リスクを増加させます。打撲や骨折をすることよってさらに活動量が減って、食欲が低下し、食事の摂取量が減少して低栄養となるという悪循環も生じます。
原因②心の変化
加齢によって体の活動性が低下してしまうと、筋肉の衰えを自覚し、動きたいと思わなくなっていきます。これが、心のフレイルと呼ばれる変化です。外出意欲の低下だけにとどまらず、家庭内でも移動がおっくうになり、食事を作るのも面倒と感じるようになってしまいます。
原因③社会的・環境的な変化
身体的な変化や心理的な変化から外出をする機会が低下してくると、他者との交流や社会とのつながりが減少し、社会的に孤立していきます。こうなると、さらに活動量が低下し、フレイルの悪化を助長してしまいます。
このように、フレイルは最初は身体の機能の低下から始まることが多いです。さらに心理的、社会的・環境的な変化を伴うようになり、身体的な機能低下にもつながるという悪循環に入ってしまいます。これがフレイルの恐ろしいところなのです。
フレイルの代表的な症状
では、フレイルになるとどのような症状がみられるのでしょうか。実際にみられる症状について紹介しましょう。
フレイルにみられる5つの兆候
フレイルを提唱した日本老年医学界は、フレイルの兆候を5つ挙げています。
フレイルの5つの兆候
- 歩行速度の低下
- 疲れやすい
- 活動量の低下
- 筋力の低下
- 体重減少
この5つの兆候のうち3つ以上該当すると「フレイル」と診断します。一つ~二つの該当で「プレフレイル(フレイルの前段階)」、いずれも該当しない場合は「ロバスト(健常者、頑強者)」と診断します。具体的にみていきましょう。
歩行速度の低下
フレイルを起こしたときにみられる歩行の特徴として、歩く速度の低下があります。
この歩行速度の低下は単に筋力の低下から起こるだけではなく、心肺機能の低下や、貧血、神経系の病気など、さまざまな原因により起こります。そのため、歩行速度が低下しているという事は、さまざまな身体的な活動力が低下していることを示していると考えられます。
疲れやすい
体が疲れやすくなるというのもフレイルの特徴です。筋力の低下、心肺機能の低下に加え、内服薬によっても体の機能が低下して疲れやすくなります。それだけではなく、心のフレイルが起こっている場合にも、疲れを感じやすくなると言われています。
活動量の低下
心のフレイルが強くなってくると、体を動かすのが面倒になり、社会活動を避けるようになることがあります。また、定年を迎えて仕事で外出する機会がなくなり、活動機会が少なくなると家から出ることを避けるようになってしまいます。このような症状が出てきた場合にはフレイルが進行している可能性があります。
筋力の低下
筋力の低下は加齢によって必然的におこってきます。筋肉を使わないことでも衰えてきますし、栄養が不足したり、消化器官の働きが低下したりすることによっても、筋力は低下していきます。
前述のように、筋力が低下している状態はフレイルの中核的症状とされています。
体重の減少
筋力の低下は、体重の減少につながります。つまり、体重が減っているという事は筋力低下の一つの兆候といえます。一方で、高齢者の場合は何らかの病気によって体重が減少することがあります。特に悪性腫瘍が存在する場合には体重が急激に減少する場合がありますので、注意深く調べる必要が出てきます。
フレイルの症状は互いに影響を及ぼしあう
前述のように、フレイルの原因は一つではなく、いくつかの原因が作用し合って悪化していきます。
これをフレイルサイクルといい、フレイルがどんどん進行してしまう原因となります。フレイルの症状一つひとつに注意して、早期に発見して対処していく必要があるのです。
フレイルを予防するには
このように、フレイルは一度起こってしまうと悪化しやすく、身体活動が低下してしまいます。これにより健康寿命が短くなり、生活の質を大きく下げてしまうため、早期からしっかり対策してフレイルにならないようにする事が重要です。
さて、フレイルが進行する原因には、エネルギーの産生量が減り、活動量が低下することがあります。
フレイルを引き起こさないようにするために、次の対策が有効と言われています。それぞれの効果についてみていきましょう。
フレイルを予防する3つの対策
- 適度な運動
- 栄養バランスの取れた食事
- 社会活動への参加
対策①適度な運動
適度な運動は、筋力の維持だけではなく、心肺機能の向上や休んでいる内臓機能の向上が期待できます。
日常生活での活動範囲を少しずつ広げていくことで、身体機能が向上し屋外にも活動の範囲を広げることができます。
これは、心のフレイルや社会的・環境的な変化によるフレイルの予防にも効果的です。
対策②栄養バランスの取れた食事
活動するためにはエネルギーが必要です。そしてエネルギーを産生するためには栄養が必要不可欠です。単に栄養を取るのではなく、バランスよく栄養を取ることも重要となります。
まず確認すべきは総カロリー量です。消費される分と同じだけのカロリーを摂取しなければ、痩せてしまうため、しっかりとした分量を取る必要があります。
ただし、高齢になるにつれて食事量が減少する傾向があります。何回かに分けて食事をするなど、食事方法を工夫することで必要なカロリーを摂取できます。
摂るべき栄養は、糖質、脂質、タンパク質、ビタミンです。直接的にエネルギー源になるのは糖質ですが、筋力をつけるためにはタンパク質が必要です。
また内臓機能を維持するためには脂質も必要ですし、これらの栄養素の代謝や利用にはビタミンなどの栄養素が必要となります。しっかりとバランス良く食事をするようにしましょう。
対策③社会活動への参加
適度な運動や栄養バランスのよい食事も重要ですが、フレイルの予防のためにもっとも重要なのが社会活動への参加と言われています。
体が動くようになっても、目的がなければすぐに体を動かすことをやめてしまいます。最初は自宅で家事をするだけでもよいのですが、フレイルの予防には徐々に活動範囲を広げていくことが効果的です。
家事に加えて地元のコミュニティの活動などをすると、生活に目的が生まれ活動量が増加します。それに伴い、筋力や消費カロリーの増加、栄養摂取量の増加が期待できます。
このように、フレイルの予防も一つだけやればよいということではなく、組み合わせて行うことでより効果的なものとなります。 元気で健康的な日々を長く送るために、フレイルになる前から対策を進めていきましょう。
フレイルを予防して健康的に過ごしましょう
この記事のまとめ
- フレイルとは、加齢に伴って体のさまざまな機能が低下し病気になりやすい状態や介護が必要な状態になっていること
- フレイルの原因は、加齢に伴う活動量の低下 、心の変化 、社会的・環境的な変化など
- フレイルにみられる兆候は、歩行速度の低下 、 疲れやすい 、活動量の低下 、筋力の低下 、体重の減少
- フレイルの予防には、適度な運動 、栄養バランスの取れた食事 、 社会活動への参加が効果的
フレイルは早めの対策をすることで予防することができます。一方で、対策をせず、フレイルの状態を放置し続けると、病気になりやすく介護が必要な状態になってしまいます。元気で健康的な日々を長く送れるように、フレイルになる前から対策を進めていきましょう。